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「ターニャ殿。いずれスライムが放牧地に入ったところからが勝負、と言う事で良いのですね?」

 気を取り直したオリファが、真面目な顔でターニャに尋ねる。

「そうっす。――クリシャ、一応最後にみんなの動き、確認しておこうか」

「うん。……村から見て左は最終的に崖、後ろが山。右側が開けているけど荒れ野。前回襲われた村の資料から見ても、おそらく放牧地一杯に広がって草や虫を食べながら村へと進んでくるはずです」

 クリシャが地図を広げると指を指して説明する。


「多分リーダーの超大型を中心に、いびつな目玉焼きみたいな形で、フルサイズが全面に出て来ます」

 前回、村が襲われた時、広くなったところで隊列を組み直し、最前列にいわゆるフルサイズこと、1.5m級が楯のように並んで村へと進入した。と報告書にはあった。


「だから完全に向こうが展開を終わったところで、私とオリファさんは正面からクロス・ボゥでそのフルサイズを狙います。間違い無く貫通させるなら射程は五十ですが抜かなくても、近所に落とすだけでおっけーです。パウダーをまければそれで良いんです。なので距離七十から弓なりに打ちます」

「相手に飲み込まれませんか?」

「瞬間的にはスピードが出ますが、スライムですから人間が走った方が絶対速い。フルサイズでも最大十mで息切れ、なので三〇m取っておけば大丈夫。……私とオリファさんが主力、村の最終ラインまで後退しつつ正面から。出来る限り数を減らします」


「クリシャさん、わたくしのタイミングはどうなりますの?」

 ルカの問いにクリシャはターニャに視線を送る。彼女は頷いて地図を直接指をさし、答える。

「ルカ、お前の初期の位置はここ。だから距離的には見えるはずだ。――オリファさんがクロス・ボゥを打ち始めたら、後方から奇襲をかけろ。多分後方は最大でもメータークラスのはずだが、ラムダから降りたり止めたりはするな。小型から中型だから最悪襲われても、それならおまえには直接届かねぇ。それにラムダは賢いから、事前に逃げろと言っておけば手綱を放そうが勝手に逃げ回る」


「オオモノを狙えなくて意味はありますの?」

「陣形を崩すのが目的だ。ここまでも隊列を維持するのに相当に気を使っている。なら、後列が乱されれば当然混乱は大きくなるはずだ。おまえがコケるとあたしとロミが動けねぇ。……お前が作戦のキモだ、頼むぜ?」

 ――わかりましたわ。さすがにルカも軽口が無い。


「僕たちは横から、で良いんですね?」

「前後で混乱が始まったら横合いから突っ込む。まずは小さいヤツに直接パウダーを投げつけて隊列を崩しておいてから、状況を見て突撃。さっきの話の通り、メーター越えを最低八十は切り刻む」

「一人頭四〇匹、ですか……」

 真面目な顔でロミが考え込む。

「計算上は、な。あたしが五十つぶせって言われたぞ?」

「なら、超大型は僕が排除ります!」


 ――ほう、競争だな。おまえが超大型をったら給金は来月から倍だ。そう言ってターニャは余裕ありげににやり、と笑うが本当は余裕などありはしない。



 先ほど。誰にも言わずに皇子の元へ飛ばした鳩には、ルカとオリファを巻き込んだ事への謝罪と、失敗した時は、もう人の手には負えないので軍隊を動かして山ごと焼き払ってくれ。と珍しく自分で書いた手紙を付けた。 

 かなり追い込まれている。それは彼女も自覚していた。



「いいかみんな? 開けたところでは超大型は一番真ん中。深いところにいると思うが、そいつさえ潰せば群れはバラバラになるはずだ。連携出来ないなら所詮はデカいスライム。なら、ベニモモだろうとこのメンツならさしたる脅威じゃ無い。それにこっちはあたしが喰われようが、最後まで連携出来んだからな」


 ターニャが死のうと全員目的を目指し、チームが倒れようと軍隊が動く。最終的には勝てるだろうが、ターニャ達が失敗した場合。

 そこまでに一体何人の死者が出るものか。


「何を突然、縁起でも無い事を仰るんですの。この人は!」

「心構えだよお嬢様。みんなで揃って帝都に帰ろうぜ。――そうで無いとおまえに給金を払えない」

「それは困りますわ。まだお部屋も割り振ってもらっておりませんのよ? ターニャが動けなくなろうが、引きずってでも帝都に帰りますわよ」

「所長様引きずるんじゃねぇよ!」


 ――ま、とにかくだ。そう言ってターニャは立ち上がると全員の顔を見渡す。

「明日はルカは、日の出と共に行動開始。夜が明ければ他にもする事はあるんだし。パウダーの加工を早く終わらせて今日は早めに寝てくれ」

「ターニャ? 何処かに行くの?」

「スライサーを磨きつつ、ちょっと外の空気を吸いに。な。みんな、悪いが少しの間、加工を頼む」


「気兼ねせず、むしろ単純作業は配下であるわたくし共に、全面的に任せればいいのですわ。ターニャはリーダーなのですから、なれば考えるべきは他にあるはず」

 ルカから嫌みではなく大真面目な返事が返る。

「お嬢様の仰る通りです。それに、気を張りすぎるのも良くない。ターニャ殿にはいつも通りに威風堂々と構えて頂かないと、こちらも落ち着かないですからね。……今宵は良い月夜、風も心地良いですよ」


 ――流石に馬車に積んであるレイピアを、唯一の皇子との繋がりの証であるそれを。見て、触りたくなった。とは言えないよな。

「一時間したら帰って来てね? 寝る前に私と二人で最終確認しなくちゃだから」

「……わかった」

 ターニャはドアを開けて一人。庭へと出て行った。

 


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