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Ep.36 会議の始まり

週一投稿二週目。

よければ感想・評価等お願いします。

 2027 7/13 17:42

 カルキノス連邦領第11廃棄地区 メインストリート

 北の演習場前



「ご、ごめんなさい! ゆるしてください!!」



 地面に額を擦り付けて、そのDプレイヤーは土下座した。

 

 見たところ、まだ小学校低学年程度の子供だ。こいつは他のDプレイヤー二人と共謀して、3vs2のフリーマッチでのPvP戦を持ちかけてきたのだが、俺と対峙して早々に降参モードに入ったようで。



「お主、どうするのだ此奴(こやつ)は」


「どうするって言ってもなぁ……」



 一度PvPデュエルを始めたからには、いずれかのチームの《戦闘体》がすべて破壊されるまで勝負は終わらない。こいつが一人、降参の意思を示しても仕方がないのだ。


 俺が考えあぐねている間にも、物陰からボウガンの矢が撃ち込まれる。

 が、それは朔夜の霊魂でどうとでもなるものだった。こいつらはまだ善悪の区別もつかない子供のDプレイヤー、俺達にとっては本気を出すのも躊躇われる相手だ。


 防御は朔夜に任せながら、俺は土下座した少年と交渉を試みる。



「……とりあえず、お前は《武装(ソティラス)》を捨てて仲間に攻撃をやめさせてくれ。お前の降参を受け入れるかどうかは、それから決める」

 

「ほ、ほんとですか?!」

 

「ああ、ただし余計なマネしたらすぐにこいつを撃ち込む」



 正直、銃で脅すのすら気が引ける相手だった。

 彼らくらいの年齢層のDプレイヤーは大抵、ゲーム上で知り合った他のプレイヤーから《ディスオーダー》を横流しされているケースだ。わけもわからぬまま、犯罪に加担させられているというのが実情だろう。



(しかし、あのZain戦のあとがこれか……)



 二日前のZainとの戦いから数えると、これが初めてのPvPデュエルだった。ここまで対戦相手の落差が激しいとさすがに調子が狂う。



「銃は、これで全部です……」



 銃口を向けられるなか、少年は足下にレールガンと拳銃二丁を投げ出す。

 


「そうか。他にアイテムは?」

 

「あ。そ、そうだ、手榴弾もあります!」

 

「なら、それも出せ」



 少年はいそいそと上着のポケットをまさぐっている。

 そして例のものを見つけたのか大声を出して、



「あっ、ありました! これでーす!!」



 ピンを抜いた弾頭を、彼は地面に叩きつけた。

 筒型の弾頭――閃光弾(スタングレネード)。手榴弾ではない。



「……!」


 

 頭がそう認識するのも束の間、俺は瞬時にそれを蹴り飛ばした。

 

 

 高く遠くまで飛んでいく弾頭。数秒後、離れた空中で炸裂したそれは、爆音と眩い閃光を辺り一帯に振りまいた。閃光弾を投げ込んだ少年が、棒立ちしたまま口元を歪ませる。



「あ、あれ……おれの閃光弾は……? 作戦は?」

 

「あのしょうもない子供騙しが、お前らの『作戦』だったのか?」



 愕然とする少年の腹に、二発撃ち込んだ。

 たった今、俺たちは手加減する必要性を失ったのだ。



「……警告はしたからな」

 


 こいつらは年齢にしては明らかに()()()()()()。自らの非力さと幼さを理解して、それを逆手に取る術も知っている。それも、小賢しいとしかいいようのないやり方だ。


 こいつらを野放しにしておくわけにはいかない。



「あとの二人、大人しく出てこい」



 そして、なにより……


 

「お前らにはお仕置きが必要だ」


 

 俺が、単純にイラついた。




       ***




「これに懲りたらもう悪さはするなよ。いいな?」

 

「「「はぁ〜い……」」」



 きっちり三人とも倒しきって、地面に正座させた。

 不服そうな表情をしているものの、しっかり反省はしているようだ。

 

 大方、面白半分で俺たちに挑んだのだろう。現に、今こうして負けてもあまり深刻そうな顔をしていない。自分たちの年齢では警察沙汰になるような罰則(ペナルティ)がかからないと知っていたのだろう。コスい奴らだ。



「ちぇ〜、やっぱ本物の【Executor(エグゼキューター)】はつよいなぁ〜」

 

「閃光弾作戦、いけると思ったのにぃ……」



 彼らはぶつくさ言いながら頭を垂れている。

 本当に、ただノリで勝負を挑んできただけのようだ。たしかにまあ、Zainとの一戦を観ておきながら俺たちに真正面から喧嘩を売るような真似は、分別のある奴の行動とは思えない。相手が小学生で逆に納得してしまった。



「お前らの母ちゃんに、みっちり叱ってもらうように言っとくからな」

 

「ひぇぇ……そんなの嫌だよぉ!!」

 

「僕、朔夜たんのパンチラ見たかったよぉっ!!」

 

「なんだこやつら……きも……」

 

「いやお前ら反省してないだろ」



 ここまで清々しくクソガキだと、逆に感心してしまう。

 癪に障る言動には目を瞑って、俺たちは俺たちで彼らに訊かなければいけないことがある。今はそちらを優先させるべきだ。



「お前ら、その《ディスオーダー》どこで手に入れたんだ?」

 

「え、えっと……たしかあの、誰だっけ」

 

「す、『ススガヤ』って人にもらいました!!」


 真ん中の利口そうな眼鏡が答える。

 

「すすがや……?」

 

「はい! 【々々々々(タナトス)】のススガヤだって名乗ってました!」

 

「――! お前、それ本当か!?」

 

「え、あっ、はい……」



 その名を聞いて、心臓が止まるかと思った。

 しばらく言葉が出なかった。焦燥に駆られた俺を見た朔夜が、話しかけてくるまで。



「お主、なんだその『たなとす』とやらは……」

 

「クランの名前だ……『多々羅(たたら)』のな」

 

「たたら?」

 

「え、多々羅って、あの多々羅っすか!?」

 

「ああ……」



 朔夜に代わって食いついてきた少年たちに、ただ緩慢に頷いた。疑問符を浮かべる朔夜に説明するように、俺は呟く。


 

「世界ランク4位『多々羅(たたら)』……【々々々々(タナトス)】は、奴の率いるクランだ」



 



       ◇◇◇




 

 

「あれ? んだよ……誰もいねーじゃん」



 一方、とある煤けた廃工場にて。

 一人シャッターの開いた入口をくぐった少女は、不満げに溜め息をついた。少しクセのある長髪は燃えるように赤く、目つきや露出の多い服装からは男勝りな印象が見受けられる。


 火のついた煙草を咥えたまま、彼女は工場内をうろつき始めた。

 すると、



「一人、ここに()りますよ」



 仄暗い壁際から、低い声音が少女の耳に届いた。

 彼女は怪訝な表情で振り向く。


 暗がりから現れたのは、長身痩躯のスーツ姿の男性だった。

 手足が異様に長く、頭部はカラスを模した被り物のスキンで隠されている。スーツの与える堅苦しさを被り物が和らげているような、妙に均整の取れた容姿であった。



「なーんだ、おどかすなって。えー、西本サン?」

 

酉本(とりもと)。ジャックナイフ酉本です。以後お見知りおきを」

 

「芸人みたいな名前してんのな……ややこしいし」

 

「――そうそう。『カラスちゃん』に改名しなよ〜」



 新たな声が彼らの頭上から割って入った。

 工場内、窓付近に沿った通路の上にいたのは、白髪の少女だ。



「そんな覚えにくい名前じゃなくってぇ、ぜ〜ったいもっとかわいいほうがいいって〜」



 しゃがみ込み、甘ったるい猫撫で声で喋る少女の体は小柄だった。が、肩や背を大胆に露出した衣装や紫のグラデーションの入った白い髪は、見る者に妖艶なイメージを植え付けるようでもあった。


 赤髪の少女は、頭上にいる彼女を好戦的に睨みつける。



「なるほど……テメェがловушка(ラヴーシュカ)だな」

 

「そうだよ〜。『ゔぁるかん』ちゃん♡」

 

「気持ちワリー声で喋んじゃねぇ。そっから降りてこい!」

 

「あれれ、シュカに命令しちゃうの? ランキング下なのにぃ?」

 

「口の利き方がなってねぇなぁ、メンヘラ野郎……!」



 現在世界ランク10位、赤髪のVulcan(ヴァルカン)

 彼女を見下ろすは、世界ランク9位のловушка(ラヴーシュカ)


 二人の間に激しい火花が散り、まさに一触即発の状況となった。

 少女二人の間に挟まれる形となった酉本が肩身の狭い思いをする中、入口の方からまた別の足音が近づいてくる。全員がそこに視線を向け、瞠目した。


 

「よぉ〜、皆さんお揃いってカンジかぁ〜?」


 

 コートに両手を突っ込んだ男が、ふらふらと入ってくる。

 三白眼の中の黒い瞳が、怪しく三人を流し見た。


 

「んじゃあ始めようぜ〜、ツワモノたちの“会議”をよぉ」


 



々々々々がなぜタナトスと読むのかは、この先わかると思います。多分ね

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