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Assault 89〜異世界自衛官幻想奇譚〜  作者: 木天蓼
七章 異世界自衛官サバイバル
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Another Immortal

「また飛んでる。忙しない空だね」


「午後のティータイムはサボっちゃダメですよね? ねっ? イオン様」


 黒みがかかった赤く温かい液体を一口含む。すると口内には確かな深みとコクが口一杯に広がり、鼻腔を抜ける紅茶らしい落ち着いた香りが感情を満たしていく。


「どこの茶葉だっけ。安物だと王国で聞いたけど、充分美味しいんだが?」


「場所は円の山脈南部。雨季に採れたヤツなので香りと味も他に劣るんですよ。他の時期が美味しすぎるってのもありますが」


「なるほど。ナミハくんのお手前が素晴らしいということだね」


「ヌへへへ」


 納得した。では何も考えず味と香りを楽しもう。何事も楽しむ秘訣は没頭することだ。照れ混じりの友人を見るのは良いお茶請けになる。


「っで……のらりくらりと話題逸らしてますけど、ハジメさんをどう思ってるか話してもらってもいいです?」


「ブフゥッ……ッ!」


 口の中の紅茶を噴き出してしまった。さっきから、いや数日前からずっとこの調子だ。僕がポロッと口を滑らしてしまってから、やたらネチネチグチグチと死にかけのスライムのように粘着質に聞いてくる。


「だからぁ〜友達と言ってるじゃないか!」


「大切な〜、もしくは親密な〜、はたまた特別な〜って付いてますよね? な〜な〜な〜っと前提にー!」


 この蜘蛛女、しつこい。蜘蛛人族は勤勉で与えられた仕事を忠実にこなす気質なので人材として重宝されるが、狙った獲物を見つけると執着して徹底的に追い詰める狩人なので、このように一つ弱みを見せれば執念深く問い詰めてくる。特に、この子は他人の色恋沙汰に目敏いのだ。八つ目が好奇心に輝いている。


「そんなことよりっ! 最近の情勢はどうなんだい?」


「なんですかその誤魔化しは。話題変換のボキャブラリー尽きました?」


「うっさい!」


「プンスカしないでくださいよ〜!」


 話題の切り替えを急かすと彼女は八つ目のうちの片側四つを閉じ人間の四倍のウインクをしてくれた。


「まず、情報に出てた異常個体のクマは討伐されましたね」


「倒したのは誰かな?」


「将軍ですね。ほら、お強いと噂の。でも負傷して後送になり今は療養中らしいですよ?」


 噂知っている。局地的な防衛戦ではエルフの猛者や虫人族の大軍勢を相手に何度も勝利を得ている。忠誠心も高く、魔王からの信も厚いという。


「凄かったらしいですよ? 一匹だと思ったら三匹いたらしくて。異常個体は一匹でしたが、周りにも影響及ばすタイプで〜」


 異常個体ということは調査隊のファムみたいなモノか。彼女を確保した時は調査隊の精鋭を動員した筈だ。懐かしい、あの時が僕の()任務だった。無限に蔓が伸び続け、確実に対処するため森一つを潰すハメになったのを今でも覚えている。


「オスメスで子供が一匹だから家族だったんでしょうね? なんか人間形態になったりして凄かったらしいです!」


 興奮するナミハ。彼女も元は第一線で戦っていた魔王軍の戦士だ。血湧き肉躍り心が燃える戦いの光景は好きなのだろう。


「人化の魔法は魔王軍の秘術だぞ。在野のモノが使えるのはおかしくないか?」


「さぁ? でも、ああいう強い魔物達は人化の魔法を血眼になって得ようとする話らしいですよ。もしかしたら今回も〜って」


「ふむ。そのもしかしたらは転生者とかの話かい?」


「無くはないでしょう? 若いとはいえ実力派の将軍と一個中隊が相打ち同然ですよ。アイツら変な能力使うから苦手なんですよねっ! 本当にッ!」


 この話題になると彼女は鼻息を荒くする。詳細は知らないが以前に異世界から来たモノ達に辛酸を舐めさせられたらしい。


「よく分かる、僕だって何人か戦ったことあるし。往々にして未知の魔法を使ったりよく分からない武器を使うからね」


 僕と同じくらいの年頃で、空中に未知の文字を浮かべて戦う者。地形をブロック状に組み替える若い男。鑑定だの何だのと喚き散らす妙なオジさん

 中でも厄介だったのは、龍に変身する海賊風の女だ。僕の性別に気づくなり、ピンク色で振動する十手のような武器で襲いかかってきた。あれは……正直、怖かった。



「人間の、性格悪そうな金持ちお嬢様とも戦ったけど光魔法やら聖属性の魔法ばっか使ってくるんですよ! 私が死霊に見えるのかって! 戦い慣れてない目ん玉節穴さんで助かりましたよー」


 ふふんっと鼻息荒くすると八つ目を全て閉じ紅茶を一口。味と香りを堪能する。


「僕が言えたことじゃないが、ナミハくんは戦歴が豊富そうだな。年齢はそう変わらないのに」


 また一口、喉に流し込む。温度と香りが、張りつめた思考をほどいていった。


「そりゃそうですよ。私みたいな虫人族は成人が早いので。蜘蛛人族は生後一年で大人になるし、蟻人族とかも早くて二、三ヶ月。蝿人族なんて二週間ぐらいですよ!」


 蝿人と聞き、紅茶越しに映る僕の顔は茶色く苦々しい。


「奴らは嫌いだな。その、なんというか食性がな」


「分かります! やつらの国が潰れて良かったですよ!」


「確か、奴らの国もエルフ達が潰したんだっけか?」


 二人で無言で紅茶を飲む。やがて飲み切ると二人で大きく息を吐く。


「知ってるかいナミハくん。王国において、奴らエルフ達のあだ名を」


「なんですか?」


 僕は立ち上がり、新しい紅茶を友人と自分のティーカップへ注ぐ。立ち昇る湯気の香りは上品な趣が感じる。


本を閉じる者(ブック・クローザー)。物語を終わらせる怪物さ」


「オーク、吸血鬼、ラミアのカナリ族、サハギン種、ハーピー種、蝿人族、鰐人族、獅子人族、烏人族、キャンバル人、ノルディアン族のゴストーダ家。大百足に人形族、列挙に暇がないです」


「数多の魔物、幾多の民族を滅ぼしてきてるからね。噂だと、エルフの国も自ら一度滅ぼしてるし、まさしく種族の物語を終わらせる奴らだ」


「龍人族も奴の逆鱗に触れて一族に大打撃を受けたと聞きますしね。当時の族長が一騎討ちの末に両腕と羽を斬り落とされたんでしたよね?」


「知らない。そうなのか?」


 噂も含め、話のネタが尽きない。数百年戦いに明け暮れた種族の話だ。子供に聞かせる夢物語より種類は多岐にわたる。


「奴らとは共存するしか道はないだろうね」


「賢明です。でも、なんで奴らは同盟を結びたがるのでしょうか?」


 確かにそうだ。奪いに奪い、栄えに栄え、向かう所敵なしときてる。この三十年ほどは過去のように大きな戦いを起こしていないが、その気になれば魔王国パーゲタリィとも正面から戦える戦力を有すると噂に聞く。なぜしないのだろうか、思考は紅茶が温くなるほど続いていく。


「あら、怖い顔。可愛い顔が台無しですよ? 眉間にシワが寄っちゃってる」


 長考に浸っていた僕を心配そうに見つめる八つ目。どうやらすごい顔をしてたらしい。


「すまない。ついでにお茶のおかわりをくれないか?」


 温い茶を一気に飲み干す。紅茶を飲むと頭が冴える気がして好きだ。珈琲も良いがあれは貴重な砂糖を入れなければ美味しくないので嗜好品として好みでない。


「怖い顔ねぇ」


 王国にいた頃は常に顔を仮面で隠していたので自分の顔のことなんて無頓着だった。だが、最近は以前と比べて、自分で分かるくらいには顔付きが穏やかになった自覚がある。


「そんなにしかめたお顔じゃ、お相手に嫌われちゃいますよ?」


「なっ! ハジメくんは関係ないだろっ!?」


「えぇ、愛しいハジメクンは本当に関係ないです」


 してやられた。八つ目がニタニタと玩具を見つけた幼子のように笑ってる。たった一回、口を滑らしただけでこの有様だ。居心地の良いこの国で唯一心乱される場となる。


 掴み掛かった僕と笑いながら二本の腕でお腹を抱えるナミハくん。取っ組み合ったその時、部屋の外にナニカの気配を感じる。


 コンッ、コンッ、コンッ……っと控えめな音が鳴り、十の瞳が注目する中、これまたゆっくりと入り口のドアが開く。


「おやおや……予想もしないお相手だね」


 上半身だけコッソリとこちらを見せた相手。長い金髪に翡翠のような眼の色。色白な肌は日光を浴びれてるか心配になる。覗き込んできたのは、まだ若い、それでも決意の色を目に宿した少女だった。

 しかし、その表情とは裏腹に仕草はどこかぎこちない。彼女は恥ずかしそうに姿をすべて現し、人差し指をくねくねと合わせながら、控えめに口を開いた。


「お願いがあります。あの、助けてください……」


 尖った耳がわずかに動き、エルフの少女は声を振り絞った。震えてはいる。だが、臆病者の声ではなかった。

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木天蓼です。 最新話の下方にある各種の感想や評価の項目から読者の声を聞かせていただきますとモチベーションが上がるので是非ともご利用ください。 木天蓼でした。
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