エピローグ
辺り一面暗闇の中、青白い月だけがぽつんとおぼろげな光を発していた。
ラーナとクリムは既に寝息を立てて、《電光蟲の篝火》の前でごろりと寝転んでいる。
食べ終えた食器の片付けをするジッパと、コーラルは切り株の上で特製のスープを口にしている。
「ねえねえ、これおいしい! ジッパ」
「そう言ってもらえると、こっちも作りがいがあるよ。ありがとう」
「すごく暖かくてね、ぽわってなるような気がする」
「ぽわ…………コーラルってなんだか変な言い回しをすることが多いよね」
「そうかな……」
「そうだよ」
コーラルは木彫りの皿を膝に乗せたまま、じーっとジッパの背を見つめる。
「ジッパ……聞いてもいい?」
「んー?」
「…………前、暗闇でふたりっきりになったとき」
ジッパは音を立てて崩れ落ちる。動揺した表情でコーラルに目を合わせる。
「だ、だいじょぶ?」
「うん……平気……ふう、うん。平気だ、平気。なんともない」
なにやらぶつぶつと余計なことをぼやきながら、ジッパは零した食器を片付ける。
「……あのとき、ジッパ、何か言おうとしてたよ」
「…………」
「なんて……言おうとしたの?」
ごくりと生唾を飲んで、ジッパは声の方へ目を向ける。コーラルは篝火を見つめていて、立ち上がる火柱に火照らされてか、表面は少し赤見える。
「あー……なんだっけ、あはは、わ、忘れちゃったな」
「うそ。その顔は……きっとそういう顔だよ」
コーラルは頬を少し膨らませたように、じっとジッパを見上げる。
「言ってよ……なんか、気になるんだもん」
ジッパは観念したように片付けを辞めにして、真っ直ぐにコーラルに向き直る。
「……き、君が……僕のことを……もしかしたら好きなんじゃないかって、ちょっとだけ、思ったんだよ。ただ……それだけ」
ジッパは頬を少し染めて吐き捨てる。
「…………ふ、ふうん。そっかぁ」
「………………」
沈黙は思ったよりも長く、夜の静けさもあってか、お互いの聞こえるはずのない心臓の音でさえ拾ってくれるような気がした。
「……ジッパは……わたしのこと好きなの?」
「……ド直球だね、君」
「……ふふっ、そうだよ」
コーラルは悪戯な笑みを浮かべて、潤んだ瞳を寄越す。
「好きだよ。女の子としても、一人の人間としても」
ジッパは照れ笑いを浮かべながら、言い切る。
「……わたし、ジッパといるとね、たまに胸のドキドキが止まらないときがあるの」
胸を押さえながら、耳まで赤くした顔でコーラルは上目遣いをする。
「これ……ジッパもおなじ?」
「そうだね」
「ふふっ。じゃあ……好きかもっ」
「かもってなんだよ」
くすりと笑い合って、二人は微笑み合った。
後の結婚相手となる、運命の人を見つめながら――。
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