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アイテム士ジッパの不思議なダンジョン  作者: 織星伊吹
◆第七章 冒険家の掌で

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第55話

「いいの? 本当の事教えてあげなくて」


 そう口火を切ったのはファスナルのパーティーメンバーであり、行動を共にする『流浪の冒険家』キャスラ・クレイサーである。腰に下げた凄まじい切れ味の曲刀を匠に扱う、異国の戦闘民族、『侍』のジョブを掲げる女である。


「いいんだよ、ひよっこどもに真相を語ったところでどうにかなるもんでもねえ、あいつらはまだ歩き始めたばかりだ。好き勝手に冒険してりゃ、それでいい」

「ジッパくんがもし真相に辿り着いたら?」

「……そんときゃ、そんときだ」

「……ほんと、ファスナルって不器用な人ね」

「知るか。キャスラ、お前最近一言多いぞ」


 木々の隙間から差し込んでくる陽の光を浴びながら、二人は歩みを進める。すると、前方から体格の良い赤毛の男が仁王立ちしているのがファスナルの眼界に入った。


「よう、ゴウゼル」

「……息子さんの試験結果はどうだったんだ」

「合格だ」


 ゴウゼルは真紅色の顎髭をごつい手で乱暴にかき撫でながらにたりと笑み浮かべる。


「ガハハ、そうかそうか、そいつは良かったな。まったく……お前の破天荒さかげんには目を見張るものがあるぞ。協会の上層部を脅した挙げ句に古代サンドライト王国付近にダンジョンを作り上げさせるなんて」

「しゃあねえだろうが、それが一番現実的だったんだ。いかにあいつらに悟られないように自然に舞台を作り上げるか……そこが今回のキモだったな。まあ特に感づいてもないようだから、上出来だろ。このぎりぎりの綱渡りが最高なんだが、なんで誰も同意してくれねえんだ。最高

にスリルあんだろ?」

「生粋の冒険家と言っちまえばそれまでだが、理解は出来るが真似をしようとは思わんな」

「つまんねー。お前それでも『風来の冒険家』かよ、でけえ身体してる癖にストイックなやつだよな、お前って。あ、でも役者としての演技はなかなかのもんだったぜ」

「ふん。お前と何かしでかすのを止められないのは一体何故だろうな、きっと……飽きもせずガキのようなことをしでかすお前に、皆引っ張られていくんだろうな。また何かあれば呼んでくれ。ではな」


 ゴウゼルは満足そうな笑みを浮かべてサンドライト付近の森林の中へと消えていった。


「おぉ……これは珍しい。今日は来客者が多くて困りもんだな」

「相変わらずだな、お前は」


 ファスナルの前で赤いマント姿の一国の王は黒光りする口ひげに触れながら告げる。


「今より二十年前……本当にお前の言うとおりになってしまったな」

「久しぶりだな、ジェード。様になってんじゃねえか、王様」

「……微塵も思ってないだろう、そんなこと」


 ジェードとファスナルが昔話に花を咲かせようとしたとき、背後から白い巨体が出現。

 武器店主を営む元冒険家、虎人である。不安そうな表情を押し隠して、言葉を紡ぐ。


「……ファスナル、ラーナは」

「うわっ、突然出てくんなよ、デカブツが! ビビんだろうが。昔なじみのパーティーが揃いやがって。何だ、これからパーティーでも始まるのか?」

「するか! ラーナはどうなったって聞いてるんだよ!」

「……安心しろよ、復讐は止めたたしいぜラーナ。後はジッパに任した」

「そ、そうか……」


 ほっと胸をなで下ろして、白い巨躯に似合わないか細い溜息をつく。


「もう……あれから二十年か……」


 ファスナルは曇りのない空を見上げ、呟く。


 数千年前に存在したとされ、今日では古代サンドライト王国と呼ばれる由縁となった存在さえおぼろげな古の王国は、現在のローグライグリムに伝わっている伝説と、その真実とが大きく異なっている。


 ファスナル率いる冒険家パーティーは、約二十年前にその真相に辿り着いたのだった――。

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