第33話
細長く伸びる深紅の絨毯の先には王座が、純金の装飾を煌びやかに光らせながら、そこに確かな存在感を醸し出していた。
「どうやら……ついに動き出したな『心許ない爪元』が」
「ハッ、自分の隊が彼奴等の下っ端の第一発見者であります!」
「はぁ……また貴方は。手柄の報告よりも先に為べきことがあるのではなくて?」
ステンドグラスから差し込む日光の光が、彼女のクリーム色のロングヘアを煌々とさせる。白く細い手つきでさらりと線の細い髪を流すと、長い睫毛を瞬かせた。
「ハッ、申し訳ありません! 現在――『心許すまじ何奴』の下っ端は独房に捕らえております、自分の部下めがしっかりと警護しております故、ご安心を! 我ながら埃高き部下でございます!」
「また貴方は――」
苛立った表情で、白い肩を露出させた見目麗しい女騎士は、逆三角形型の体格をした男騎士を睨み付け、やがて溜息をついた。
「ヴァレンティーナよ、構わん。コイツはいつもこうだ。自分の部下の功績を称えたいのだろう。それは構わん――やはり気になるのは『心許ない爪元』の存在だ」
王座に座りながら、黒い口ひげを触る精悍な顔つきの男は、サンドライト第一六代国王であるジェード・ルステン・サンドライトである。ジェードは考えるような顔つきで、顔を満遍なく撫でつけた後、息を吸った。
「ヴァレンティーナ・ローズ、デイドラ・シルドリアンの両名に、これから命を与える……心して聞け」
「「ハッ!!」」
二人の騎士は片膝を付けて、身も心も忠誠を捧げる王座へと向けた。
「『心許ない爪元』が入手したとの噂の《飛竜の火炎薬》の奪取が今回のお前たちの命だ。独房に捕らえている下っ端から取れるだけの情報を絞り出し、必ずや入手しろ。無論Sランクアイテムだ。爆薬であるとの情報もある。おそらく途轍もない威力を秘めた危険物だ。お前たちの剣は信頼しているが……決して油断してはならない、心してかかるのだぞ」
「「ハッ――、サンドライトの血潮となって忠誠を誓い、王のご命を必ずや全うしてご覧にいれます!!」」
二人の騎士は誓いの言葉を揃って吐き出すと、腰に差した剣を抜き取り、互いの剣へと叩きつけた。サンドライト王国に伝わる騎士団隊長間における作戦開始の合図である。
一連の動作が終わると二人の騎士は王へ一礼し、王座の間を後にする。
「くっ……何故だか嫌な胸騒ぎがする……まるであいつの――お、おい、そこの者」
「ハッ――何でございましょう、王」
ジェードの言葉に耳を傾けた使用人は、目を伏せながらに答える。
「パールのやつは……最近どうなっている。幾日か前に駄々を散々とこねていたと思うが、また脱走などしていないだろうな……」
「最近のお嬢様はとても大人しいですわ……まるで――」
使用人が全てを告げ終わる前に王座の間に一人の兵隊が息を切らしながら入ってきた。
「ご無礼を承知で申し上げさせて頂きます! パール姫が脱走しております! お部屋にも城内にもおりません! おそらく数日前に脱走したものと思われます! かなり高度な脱走計画を練っておられたようです! 我々も従者も今まで気が付きませんでしたッ!」
「……ぐぅっ……ま、またか……それもこんなときに、さ、最悪だ……」
ジェードは王座で崩れ落ちるようにして、冷や汗を垂らす。
「い、いかんな……あいつのせせら笑う顔がどうしても頭から離れない……いやまさかな……だが、もしあいつが関与しているんだとしたら……とてもマズいことになる――」
ジェードは青ざめた顔で艶やかな髭を気にしつつも、やはり大きな溜息をついた。
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