第32話
やがて辿り着いた場所は――沢山のツタや植物に囲まれてはいるが、薄気味が悪く、肌の突起物が少しずつ立ち上がるような、何とも怪しげな場所だった。これは――ジッパも幾千と感じてきたもので、謂わば危険な香り――つまりダンジョンの匂いである。
天然の石で囲われた洞窟の入り口上部には、刻を知らせる様々な長さの針と、沢山の歯車が装飾品のように飾られていて、その場にはそぐわないとても異質な物に感じられた。
入り口へ続く石畳の上で胡坐をかく頭皮に傷の入った眼光の鋭い男が、こちらを睨む。
「よう。四人パーティーか。良くここを見つけ出したな、俺は冒険家試験の二次試験管だ。お前らの目の前のダンジョン――そいつは【王国のダンジョン】だ。そいつに潜ればすぐにでも三次試験が始まるぜ。名は【機械仕掛けのダンジョン】。精々精進するんだな」
それだけ言うと男は黙り込み、目を閉じた。
「【王国のダンジョン】……? 衛兵が居ないけど」
ジッパは辺りを見回す。【王国のダンジョン】には衛兵が居るはずであり、なにより王国に事前の申請を通さないと出入りも出来ない場所のはずである。
「試験に関する質問には悪いが答えられない。中に居る奴にでも聞くんだな、無申請で潜行する事実は変わらないが、おそらく影響はないだろう」
「機械仕掛け……? 少しだけ怖いけど……でも、それでも行くしかないよね!」
コーラルは表情を少し硬くしながら、その腰に差してある刺突剣の握り部分をぐっと掴んだ。その青い瞳には、恐れに対する恐怖心と、未知なるものに立ち向かっていく覚悟と決意が感じられる。
それを見ていてジッパは思う。自分は今まで幾つものダンジョンをクリムと一緒に淡々と攻略してきたが、今ほど――緊張したことはない。
第三次試験の内容も、パール姫からの世界の命運を賭けた大きな依頼も――そしてなにより、自信が一番楽しいと思うダンジョン潜行と“不思議アイテム”探索の時間を共有できる仲間が増えたことが、なにより青年の志気を高める火種となっているのだった。
(コーラルに……色々教えてあげないとなぁ、きっと彼女驚くだろうな)
いざダンジョンに潜行したときのコーラルを思うと、不思議と笑みが零れてしまう。
いつしか、“ダンジョン処女”であるコーラルに自分が知っているダンジョンに関する手ほどきをしてあげたいとジッパは思うようになっていた。
「よし、じゃあ行こうか、みんな」
「おっー!!」
コーラルの闇夜を切り裂くような明るい声が天に響いた。
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