別荘にて3
その頃、別荘ではなかなか帰って来ない二人をラブラは心配していた。
リサ達がサモエド王子の舟を追い抜かしてどんどん進んで行ってしまうと、もう我慢できないとチワワが声を上げた。
「あーもう、見てらんない!!」
チワワは私に貸してみろとばかりに立ち上がるとサモエド王子のほうに歩き出した。
一歩、二歩と進むと、舟は左右のバランスが崩れる。
「バッシャーン!!」
大きな音をたててひっくり返り、二人は湖に投げ出された。
伯爵令嬢のチワワは泳げるわけもなく、パニックになって夢中で手足をバタバタさせている。
水練を受けていたサモエド王子は、チワワの方へ泳いで行って安心させようと声をかけるが、全く耳に入らない様子だ。
そうこうしている間にも、もがき疲れて呼吸ができなくなり意識を失いかけている。
サモエド王子はチワワの上半身を片手でぐいっと引き寄せ、近くまで助けに来ていた舟まで運ぼうとする。
助けようと水に入ってくれたニャータの者たちも手伝ってくれたので、何とか舟の上に戻すことができた。
サモエド王子も舟に引き上げられ、何とか助かったのだった。
だが一度濡れた体は急激に体温を奪う。
二人は震えながら別荘に戻ったのだった。
そんなことがあり、ラブラは岸でサモエド王子とチワワの安否をずっと気遣っていたのだった。
温かいお湯に入り、着替えると二人は血色も良くなったようだった。
その姿にラブラは少し安心する。
「お二人とも大丈夫ですか?念のために医師の手配をしてもらっています。
いらしたら診察してもらうようお願いします。」
「ありがとう、僕が不甲斐ないばかりに心配と迷惑をかけてしまったね。
もっと体を鍛えとかなきゃいけないね。」
サモエド王子はチワワが責任を感じなくて済むようにそんなことを言った。
チワワは黙っていた。
こんな恐ろしい目にあったのは、生まれて初めてだったからだ。
さっきは本当にもう死ぬと思った・・・原因は自分の軽率な行動のせいだ。
舟に乗る前に立ち上がってはいけないと注意されていたのに、頭に血が上ってやってしまったのだった。
もし王子が命を落とすようなことになればどうなっていただろう・・・
無論チワワは責任を問われるだろう。
チワワだけではない、父や母、伯爵家は称号を剥奪されるかも知れない。
第二王子と結婚した姉はどうなってしまうだろう・・・
今回は大事なかったが、やってしまった罪の重さにチワワは押しつぶされそうになっていた。
色んな恐怖が頭をめぐり大粒の涙がとめどなく溢れてくる。
チワワが泣いていることに、サモエド王子は気がついた。
「チワワ殿は舟を漕ぐのが上手らしいんだ。
それで僕にちょっと助言をしようとしただけなんだよ。言葉じゃ上手く伝わらないから『こっちに来て教えて欲しい』と言ったのが悪かったんだ。」
サモエド王子がそれで丸く収めようとしていることがわかったラブラは、それ以上、何も訊かなかったのだった。
ふたりを残して部屋を出たラブラは、リサとコーテッドがまだ別荘に帰ってきてないことにようやく気がついたのだった。
ラブラが慌てて湖に戻ると、湖面には霧が発生していて見通しが悪くなっていた。
執事にそのことを言うと、早速、舟を出して捜しに行くことになった。
「だが、こんな広い湖で二人を捜すことができるのか?行き違いになったりしないだろうか・・・」
「私が湖の浮島に面白い岩があるとお話したら、リサ様がとても興味を持たれていました。先ほどもそちらに向かって舟を進めてたので、多分その島にいるのではないかと思います。方角も把握しているので夜になっても助けに行けます。」
執事がとても冷静に答えたのでラブラは少し安心する。
先ほどチワワが溺れているのを見てラブラは昔、同じ目にあったことを思い出した。
舟に乗るのはそれはとても怖い。
だが、それよりも二人のことが心配だった。




