嫌疑
案の定ニャータに着くなり、サモエド王子は牢屋に入れられた。
弁明する機会も与えられなかったのだ。
これには王配もプードルも激怒した。
シャムはとりあえず二人から詳しい経緯を聞いた後、サモエド本人とも面会した。
そして、ここに来ていた人物とは別人だとの判断を下したのだった。
翌日には、国王以外が出席する会議が行われた。
二人には同じ説明を繰り返してもらった。
ワンダで起こった出来事には、さすがにニャータの者たちも驚いたようだ。
だがその犯人が、ニャータの者だと聞くと態度は変わる。
「それこそワンダが、自作自演でそんなことをしているのではないか。」
「そちらは全て未然に防げていて、実害は出ていないではないか!
だが、こちらは政権の要を殺されているのだぞ。」
これにはさすがにワンダの王配も怒り出した。
「今回のことで捕まえたニャータの者たちは全て連行してきている。
取り調べればわかることだ。
大体そちらが先にワンダにあのような偽物を送りこんで来たのではないのか?」
「我々がそのような卑怯な手段を用いるわけがない。力ではこちらのほうが勝っているのだぞ!」
どちらも引くに引けなくなり、一発触発といったところだ。
その最悪な空気のなかで、登場したのはサモエド王子だった。
「皆さん、初めまして!ワンダ王国の第三王子のサモエドです。」
印象を悪くしてはいけないと、大きな声で言うつもりであったが、場の雰囲気に飲み込まれ、思ったよりも声が出なかった。
「そら見ろ!どこが偽物なんだ!」
「ここに来ていたサモエドではないか!」
文句を言う者がいる中、彼と長く時間を過ごしていた者たちは、その違和感にすぐに気がついた。
王子の威厳というか空気感というか、うまく説明できないが別人なのだ。
ここにいる彼には人を惹きつけてやまないような魅力が備わっている。
「いや、あれは・・」「そうかな?」と首をひねり、否定しだす者たちも現れ出した。
今がチャンスだと思ったシャムは、サモエド王子にこの国について尋ねだす。
「サモエド王子、ニャータはどうですか?」
「馬車からの景色しか見てはいませんが、作物を育てるように土はしっかりと手入れされており、実りも多いようで豊かな土壌に恵まれているのだなと思いました。
是非、見てみたいと思っていた大運河には、我が国にはない水門の様式が用いられていて面白かったです。」
サモエド王子の感想に皆は黙った。
一国の王子としてニャータを客観的に見ているのだ。
初めにきた王子の感想は「大きな都市ですね!」だけだった。
それに比べればその差は大きい。
「ここで学んだことを言っているだけだろう!」
「そんなものには騙されないぞ」
それでも認められないものは声を上げた。
「ではここにサモエド王子に署名をしてもらいます。」
シャムが差し出した紙に言われた通り名前を書いた。
「左利きだ!!」
「ここに来ていたサモエド王子は確か右利きだったぞ!」
シャムがサモエド王子が別人だとすぐに気がついたのはこのせいだったのだ。
利き手はそう簡単には変えられない。王子が両利きでないことも確認しておいた。
さすがに会議に出席していた者たちも、全員が黙りこんだのだった。




