サモエドの心情
「このぐらいのものしか見つかりませんでした。」
そう言ってコーテッドが出した書類は、サモエド王子直筆の日付けとサインが入っている。全て王子がニャータにいたとされる期間のものだ。
だがその日に書いたものだと立証するのは難しいだろう。
「やはり私とサモエドがあちらに出向いてを説得するしかなさそうだな・・」
王配は覚悟を決めたように言った。
「でしたら私も勿論ご一緒します。リサも一緒に行ってくれるそうです。」
当たり前のようにコーテッドは言う。
えっ?わたしも・・?
詳しく内容は聞いてないが、勝手に予定を組み込まれているようだ。
「空からの使者であるリサが行ってくれるなら、それは心強いわ!」
女王はリサの手を取り、よろしくお願いしますと丁寧に頼んできた。
コーテッドとリサはそのままサモエド王子のところへ行く。
「リサ!!帰ってきてくれたんだね!!」
サモエド王子はリサが姿を消したとき、あの場にいなかったので事後報告で聞かされたのだ。
本当に居なくなったのだと、実感するまでかなりの時間を要した。
コーテッドは皆でニャータに行くことになったことを報告する。
とっくに覚悟を決めていたサモエド王子は、わかったとだけ答えた。
コーテッドは父に呼び出されていたので、その場を離れる。
サモエド王子とリサは二人っきりになった。
「いつこちらに戻ったの?」
「数日前です。コーテッド様の第一声が『サモエド王子を助けてくれ』でした。」
王子は「コーテッドらしいな・・・」と力なく笑った。
リサはサモエド王子が急に大人っぽく憂いていることにドキッとする。
「こんなことになっていて驚いたでしょう!」
「正直、よくわからないまま連れてこられたって感じです。」
リサの言葉でコーテッドに無理矢理に頼み込まれたのだろうなと思う。
「君まで巻き込んでしまってすまない・・・」
王子はかなり憔悴しているようだった。
「サモエド様こそ、あらぬ疑いをかけられて、大丈夫なんですか?」
「本当言うと、とても怖いんだ。」
王子は思わずリサにだけ本音を話し出した。
母にも父にもコーテッドにさえ、ずっと弱音を言えなかった。
「僕はずっとビタワンでいつも通りに過ごしていただけなのに・・・暗殺なんて・・そんなことをする理由もない。
ニャータに行っても無実が証明されるわけでもない。命の保証もない。
だけど母上が妹のプードル様を助けたい気持ちもよくわかるんだ・・・
だから行かなくちゃいけないんだ。」
そう言って俯く王子は、以前のような少年らしさが顔を見せた。
リサの母性本能が疼き、何とかしてあげたいとサモエド王子を優しく包み込んだ。
「大丈夫ですよ。『空からの使者』の私が来たんですよ。
大船に乗ったつもりでいて下さい。きっときっと上手くいきます!」
サモエド王子を安心させたいと、口から出まかせを言ってしまう。
「ありがとう、リサ」
王子はか細い声でそう言い、リサの腕の中で自身を落ち着かせるのだった。
コーテッドは夕方に集まるいうことをリサに伝えるためにサモエド王子の部屋へ戻っていた。
後ろから走り寄ってきたのはチワワだった。
彼女はさっきサモエド王子とリサが抱き合っているのをこの目で目撃したのだ!
「コーテッド様、私、見てはいけないものを見てしまったのです!」
「チワワ様、今は忙しいので後にしていただけませんか?」
彼女の話は要領を得ないので時間がかかるのだ。
「コーテッド様も気になる話だと思いますわよ。だってサモエド王子のことですもの!」
その言葉にコーテッドの足はピタッと止まった。
「では手短にお願いします。」
「私見ちゃったんです・・・でもこんなことが知れたら大問題になるかもしれません・・・コーテッド様のお耳にいれていいのやら・・」
わざわざ人を呼び止めておいて、言うのか言わないのかどっちなんだ!とコーテッドはイライラする。
「構いません。どうぞ、おっしゃってください!」
「サモエド王子と使者が抱き合っているのを見ちゃったんです。
使者のほうから積極的に抱きつきにいってましたわ!・・・あんなことをするなんてはしたないわ!」
それを聞いてコーテッドは走り出した。
「ちょっとー、ま、待って! あんなはしたない女性が・・・・空からの使者だ・・・な・・ん・・て・・ぜーぜー・・おかしいと思い・・ません?」
チワワも言いたいこと言いながら付いていく。
サモエド王子の部屋に着くと、そこには謝っているリサと「気にしないで」と笑っている王子がいた。
コーテッドを見つけると、リサは謝り出した。
「ごめん、コーテッド様。特性が消えることを忘れて王子に抱きついてしまったんです。」
後から入ってきたチワワは『そら、みたことか!』とドヤ顔でコーテッドを見た。
コーテッドもどうせチワワの見間違いだろうと思っていたので、リサの言葉に何と返すべきか思いつかない。
そのとき、サモエド王子の顔に涙の跡が見えたのだ。それで全てがわかってしまった。
王子はリサの前では、感情を素直にぶつけたのだ。
一連のことで気丈にふるまわれていたが、本当は不安だったのだろう。
王子の無実を証明することで、頭がいっぱいだったコーテッドは、王子のメンタル面まで、配慮できていなかったのだ。
これでは従者失格だ!!
「『特性』は時間が経てば戻るのだから構わない。」
本当はリサにお礼を言いたかったが王子が側にいるので結びを使った。
『サモエド様はどうなんだ?』
『気持ちを吐露したら落ち着いたようですよ』
『そうか・・・リサありがとう・・助かったよ』
『コーテッド様に、王子の特性を消してどーしてくれるんだ!と怒られると思ってましたよ』
いつもの自分ならそんなことを言ってたかもしれないな・・・とコーテッドは反省する。
チワワはケンカ騒ぎにならなかったので『あれー?思ってたのと違う!!』と首をひねるのだった。




