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ニャータ事変


「ふー、これでやっと話ができるな。」

静かになった室内で最初に口を開いたのはピンシャーだった。


今から数ヶ月前・・・


「って、ちょっと待って!」

リサが向こうで過ごしていたのは、せいぜい1ヶ月ぐらいだったはず。


「何を言ってるんだ。お前がいなくなってもう1年近く経つぞ!」

「え、そんなになるの・・・」

コーテッドはそうだと頷く。

みんなが熱烈に喜んでいたのはこのせいでもあったのだった。



そうリサが居なくなって半年ほど過ぎたころだった。


ことのはじまりはニャータ国からだった。

ニャータは少し変わった国政で、国王と呼ばれる人はとにかく強い者がなるのだ。

世襲など無縁の超実力社会だ。


だから、腕に自信のある人はいつでも国王になれるチャンスがある。

そこには身分など関係ない。

腕力こそが全てなのだ!

その副産物で血の気の多い王様が上に立つと、周りの国々にちょっかいを出してしまうときがあるのだ。


そして国王は政治に関しては、一切口出ししてはいけないという暗黙の了解があった。

政治を行うのは別機関だ。

平たく言えば矢面に立つのは力だけの王様で、裏のブレーンは貴族ががっちり権力を握っているのだ。

だから国の利益にならないような争いを王が始めたら、すぐに止めさせることになっている。


そこには裏国王と呼ばれる重鎮がいた。

彼は長い間、ニャータの猛者国王達を宥めたり、懐柔してきた正しく強者だ。

国政に口出ししてくるような国王の脅しにも絶対に屈しなかった。


彼がいるからニャータ国は周りにちょっかいをかけても、何とか大事に至らなかったのだ。

その重鎮は友好的な関係にしておきたい筆頭国であるワンダに、息子を若いときから送り込んでワンダ国について学ばせた。


その息子シャム様はそこで女王陛下の妹のプードル様と恋に落ちたらしい。

この結婚は両国にとっては願ってもない良縁だった。


こうして2カ国はここ何十年と小さな諍いはさておき、良好な関係を築いていた。


ところがこの関係を揺るがす大事件が起きたのだ!!


それはニャータ国について勉強したいと、半年ほど前にやってきたサモエド王子が原因だった。

彼は熱心にニャータ国や政治について学んでいた。

皆が気を許した頃を見計らったように、何とその裏国王を暗殺し、そのまま姿を消してしまったのだ!!



血相を変えてワンダにやってきたのはプードル様だ!


「姉さん、な、何てことしてくれたのよ!!!

サモエドはここに帰ってきてるんでしょう!

はやく差し出さないと大挙してニャータが攻めてくるわよ!!」


急にそんなことを言われても、女王も意味がわからない。

「サモエドならビタワンにいるけど、あの子がどうしたの?」

「どーしたもこーしたも、あの義父を暗殺するなんて!

いったい何考えてるのよ!!まさか姉さんの差し金じゃないでしょうね!」


どうにも話が噛み合わない。

そう、サモエド王子は自身が治めるビタワンからは出ていない。

もちろんニャータには行ってないのだ!


説明を受けてもプードルは納得できない。

「どーいうことよ!でも姉さんからの紹介状を持ってやってきたわよ!」

「紹介状・・・」


女王はずっと前にあのパグの親族の頼みだとかで、『ニャータで仕事を紹介してあげて欲しい』的な書状を妹宛てに書いたことを思い出した。

しかも名前のところを空にしておいて欲しいと頼まれたのだ。

今になってこんなことに悪用されていたとは・・・


「それは『親愛なる プードルへ  

シャム様と仲良くしていますか? 

突然で申し訳ないのですが、この書簡を持ってきた〇〇にふさわしい仕事をやらせてあげて欲しいのです。

どこまでやれるかわからないけど、よろしくね』みたいなこと書いてあったもの?」

「相変わらずよーく覚えてるわね。」

女王の特性『記憶』は何でも覚えているので、こういう時は役に立つ。


「それで、その書簡を持ってきた子にふさわしい仕事として、王宮内でニャータのことを学ばせたのね!」

「そうよ、だって隣国の王子なんだから当然でしょ!」

「あなた、サモエドの顔を知ってるの?」


プードルがニャータに嫁いで行ったのは、もう20年ほど前のことだ。

一番下のサモエド王子が生まれた時には、すでにいなかった。


「肖像画で見たことあるわよ! それに姉さんに顔が似てるじゃない!」

確かに女王とサモエド王子はよく似ている。

だが、実際に会ったこともない甥のサモエドのことを、すぐに王子と信じたのだろうか・・・


「だって、ここのことよーく知ってたわよ!

お義兄さんは尻に敷かれてるとか、姉さんはもう老眼だと話してたわよ。

それに昔、私が使っていた部屋のことまで知ってたんだもの。」


プードルはニャータにやってきたサモエド王子がまさか偽物だなどと夢にも思っていなかったのだった。


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