ゴールデン
あれから数日が過ぎた。
レトリバー家の長兄のゴールデンは、リサにお礼を言いに来ていた。
「この度は、あなたのお陰で助かった。」
「私は何も・・・」
実際、後継者の証は盗まれてしまったので、お礼を言われてもリサは居心地が悪い。
「兄上が頭を下げることなど何もありません。」
コーテッドはたった数日の間に兄が窶れていることに驚きを隠せない。
「そうですよ、向こうのほうが何枚も上手だったんです。」
ラブラもフォローを入れるが、ゴールデンにとってはアッパーが決まったように効いた。
「お前があんなにパグ様のことを警戒してくれていたのに、甘く見すぎていた・・・今回は完全に私の落ち度だ。」
マルチーズ王子はあまりのショックで熱を出して寝込んでいる。
無理もない話だ。
パグ様のことをとても愛しておられたのに、その存在自体が虚構だったようなものだ。
そのうえ裏切りにもあい、踏んだり蹴ったりだと言っていい。
ゴールデンははじめリサのことを恨んでいた。
彼女が現れなければ、お二人はあのまま仲良くやっていけたのにと。
だがよくよく思い返してみると、パグ様にはおかしなことが多々あった。
宝石やドレスなど華美なものには興味がないので、庶民感覚を忘れず慎ましやかだと感心していた。
「私の唯一の楽しみはこれなんです!」
そう言ってやたらお酒を召し上がるなとは思っていた。
嗜む程度ならと、黙認していたが、最近では近くに行くとあまりにも酒臭くて驚いたことも何度かあった。
そしてパグ様付きの侍女やメイドの離職が高いのが、気になって調べたこともあった。
「体を触られた」だの「押し倒された」だのと話が出てきた。
庶民出のパグ様を妬んで、妙な噂話を流して、パグ様の評価を下げているのだろうと放っておいたのだった。
だがパグ様の正体がわかった今なら、あれは事実だったのだろう。
辞めていった者たちには、申し訳ないことをしたと思っている。
『後継者の証』を取られそうになったとコーテッドから連絡が来た時も、パグ様がそれを是非見てみたいと、しつこく王子にねだっていたのも妙に引っかかっていたのだ。
今から思うと盗むために場所の確認だったのかと考えられた。
現にあの夜、パグ様は他の金目のものには一切手を付けずそれだけを盗んでいったのだ。
正体を明かされたから急いで盗み去ったのだろう。
早かれ遅かれ、いずれはこうなっていたのだろうと思う。
しかし問題は山積みだ。
消えた妃は奇病で人前には出られないで押し通すしかないだろう。
現場を目撃した貴族からはあらぬ噂が飛び交っている。
やれ誘拐されたの、男と逃げたの、王子と結婚したいがために捨てた男の亡霊がついたの、もともと皆を騙していただの・・・
ってこれは事実なのだが・・
もともとパグ様は貴族からは嫌がられていたので、言われたい放題だ。
今は標的がパグ様に向いているが、いつそれが王家に向くかわからない。
証を失ったマルチーズ様は次期国王候補から除外されることになる。
スピッツ王子かサモエド王子が次期国王になるのだろう。
子供のときから国王陛下にお仕えするのだと口酸っぱく言われて育ったゴールデンは、自分は今まで何のために頑張ってきたのだろうと呆然とするのだった。
こんなときこそマルチーズ様を支えなくてはいけないとは思うのだが、いままで積み上げてきたものを一気に壊されて、情けない話だが、何から手をつければいいのかわからないのであった。




