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99.ヒメ リリーサと話し合う


 「朝早くから来たのに、向こうからの手紙待ちで、なおかつ1ヶ月以上待てとか、おかしいです。」

 わたしたちの家に帰ってくるなりリリーサが怒りだす。

 「わたしに言われても。」

 「わかってます。ただの愚痴です。きっとヒメさんなら優しく慰めてくれます。」

 「優しく殴るのだな。任せろ。」

 「まだ続いてました!」

 

 実際みんな似たような感想を抱いてるんだろうな。1ヶ月待ちとか、もうね。

 「こうなったら、リリーサには申し訳ないけどしばらくは連絡が取れる場所にいてもらわないと。いつ王宮に行くことになるかわからないんだから。」

 「え?ファリナさん、それは非常事態ですよ。わたしたちに無期で狩猟の旅厳禁だなんて死活問題です。」

 「次回はブラッドメタルベアとレッドウルフでなんとかなるでしょう。ガマンしてよ。」

 「ブラッドメタルベアの毛皮1匹は、次の国王様の生誕祭用に領主に売ってしまいました。高く売れました。儲かったです。ただ、国王様へのプレゼントになってしまったので、もう1枚の毛皮がガルムザフト王国の中では売れなくなってしまいました。国王様と同じものを持っている臣下がいるなんてばれたら一大事になってしまうので、誰も買ってくれません。生誕祭前に知らん顔で売ることも可能ですけど、後々の信頼関係にゾーミア海溝並みの亀裂が生じること間違いなしです。」

 「それは大変だ。」

 ゾーミア海溝とは、エルリオーラ王国を含む東方諸国に面する海岸の数十キロ沖合にある海溝で、海の獣、海獣が多数ねぐらにしているとされる場所だ。海に出るのも一苦労な今のわたしたちにとって、存在すること以外、長さ、深さなどすべてにおいて未知の地形ではあり、かなり深いだろうと推測されている。

 「それは、修復不可能な深さね。」

 ファリナが困った顔で答える。

 「なので、今現在レッドウルフの肉と毛皮しか売るものがありません。このまま待機しなきゃならないままで、万が一、面会が2ヶ月先なんてことになったら、次の次にはもう売るものがないのです。」

 ガックリとうなだれるリリーサ。

 「売らなければいい。」

 ミヤが空気を読まずにサラッと言う。

 ガバッと顔をあげ、ミヤを睨むリリーサ。あ、怒った?

 「そう言われればそうですね。別に毎月売らなくてもいいのですよね。」

 あっさり答えるリリーサ。

 「いいの?」

 「今の普通の売り物でも、月に数十枚の金貨分の売り上げになるようです。ギルドから仕入れてる分のお金を払っても、金貨十数枚は残ります。ミロロミの給金を払って、諸経費を抜いても、普通に暮らす分には問題ないのです。あるとしたら・・・」

 「したら?」

 「わたしの精神的な部分でしょう。ずっとレア物商売してきたのに、ここに来てやめなきゃいけなくなるなんて、なんか挫けそうです。誰かが優しく慰めてくれないと・・・チラ、チラ。」

 こっち見るな。

 「任せろ。」

 「ミヤさんには頼んでません!かよわい乙女を殴るなんて恥ずかしくないんですか?」

 「邪魔者は小石1つ許さない。」

 「うぅ、小石認定されました・・・」

 「はい、終了。本題に戻るよ。」

 今持ってるパープルウルフ2匹渡せばいいのかな。でも、ないって言ってしまってるからなぁ。今更ありますなんて言ったらどんな目にあわされるか・・・


 「なので、考えました。この国の王宮から連絡が来るまで、わたしたちはガルムザフトのお店にいるか、狩りがしたいときはヒメさんと一緒に行けばいいのではないか、と。ならば、いつも一緒にいられて、いつ連絡が入っても大丈夫です。一石いっぱいの鳥さんです。1つの石で鳥がいっぱい逃げます。」

 まだ言ってたか。だから、あれは・・・

 「違うからね。」

 ファリナ、現実逃避して夢見るくらいいいじゃない。


 「そうするしかないかな。」

 わたしのセリフに、ゲッとした目で見るファリナとミヤ。

 「仕方ないじゃない。こちらもリリーサにお願いしてる身だしさ。」

 ファリナ、震えながら拳を握りしめるのやめて。怖いから。

 「わ、わかりました。1ヶ月くらいの間、狩りに同行するくらいは認めましょう。」

 「じゃ行きましょうか。」

 「え?今すぐ?」

 「例の森に行って例の人魔にウルフ2,30匹よこすよう交渉です。山に隠遁して欲しかったらそのくらい出すものです。これを4,5回繰り返します。」

 悪辣な。

 「それは詐欺だよね。第一、そんなにいっぱいあったら値下がりして高く売れないよ。」

 驚きの表情でわたしを見るリリーサ。

 「盲点でした。どうしましょう。そうです、ウルフ以外の魔獣を要求すればいいんです。」

 ウルフ以外で魔人族が戦闘魔獣に多く使役してるのはドギー、つまり犬なんだけど。あとエイプ、つまり猿。

 「犬さんと猿さんですか?あまり売れる気がしません。猿さんはともかく犬さんって食べられるのでしょうか?」

 燃やしたことしかないからわからないなぁ。

 後、クラブ、カニやスコーピオ、サソリは知恵がないから使役できないけど、数合わせの戦力で最前線に投入されて、人族と魔人族両方を攻撃してたなぁ。今、考えると雑な戦闘だったよね。悲惨になったのは、サムザス事変だけ。戦いに投入された数が洒落にならなかったから。


 「ヒメさんよく知ってますね。私なんか初耳なことだらけです。」

 「昔、知り合いの勇者から聞いたんだ。もういないけどね。」

 パーティー名変えちゃったから。

 「嫌な事思い出させてすいません。優しく慰めますか?」

 「ミヤがいるからいい。」

 ミヤが、わたしとリリーサの間に割り込んでくる。

 「あまりしつこく言われたくないから、あの人魔には会いたくないな。それほど悪い人には思えなかったし。」

 「いい魔人族っているんですか?」

 「そりゃ悪い人族だっていることだし。」

 「とりあえずヒメ様の周りに群がる奴はすべて切り裂く。最終的にミヤとファリナと3人が残ればいい。簡単。」

 「本当にやりそうなんですけど。」

 うん、リルフィーナ。やるね、ミヤなら。

 「でも、わたしの名前も出たなら、きちんとわたしに話をしてもらわないと納得できません。」

 「納得できるの?納得したら山で暮らすの?」

 「無理です。お断りです。」

 なら話するだけ無駄だよね。

 「でも、最低ウルフは貰いたいです。」

 「貰っておいて山にこもらなかったら大問題になりそうなんだけど。」

 「えー、ファリナさんおかしいです。大した問題じゃありません。」

 いや、十分問題でしょ。とは言え、あの人魔なら言えばウルフの10や20くれそうだしな。でも、そう言ったらリリーサが行くって言い出すから黙っていよう。

 「リリーサがおかしなこと言い出すのはいつものこと。」

 「平常運行すぎて返す言葉がありません。」

 「うぅ、ミヤさんとリルフィーナが酷い。」

 泣きまねで抱きついてくるのやめなさい。ほら、ファリナが剣を抜いちゃうから離れて。


 「わかりました。どこかへ行きましょう。」

 わからないよ。いきなり何なの?

 「あの人魔以外ならいいんですよね。今日はまだ時間があります。どこかに狩りに行きましょう。なんかもうフラストレーション溜まりっぱなしでこのままだと寝てしまいます。」

 何で寝るの。

 「お姉様は色々面倒くさくなると睡眠に逃避するのです。そうなると大変です。」

 「どう大変なのよ?」

 ファリナ、ツッコまないほうがいい。

 「三日は起きてきません。」

 「いいんじゃないかな。寝かせておこうよ。気にしてた体重も減るんじゃないの?」

 「食事にだけは起きてきます。」

 つまり、食っちゃ寝状態。そりゃ体重増えるわ。

 「太ったらヒメさんの責任です。一生面倒見てもらいます。」

 「よし、山に行こう。」

 「山?」

 リリーサの表情が曇る。だが、このままふて寝させるわけにはいかない。

 「ダイエットだよ。魔獣もいるかもしれないよ。」

 「確かにこの間はいました。」

 あれをいたと言っていいものなのか。どちらかというと、いたのは人魔だよね。

 「前と話の展開が同じなんだけど。」

 「で、またリリーサが10メートル歩いて終わるのか。」

 それだとまた人魔がいることになるからよけいな事言わないで。


 ガルムザフトの山。前回と同じ場所。

 違うところを希望したわたしだけど、リリーサが同じ場所ならまた人魔がいるかもしれないからそこじゃなきゃ山は登らないと駄々をこねたため、やむなくリリーサに従う。これ以上ジタバタ家で暴れられるのはたまらない。

 そして・・・


 「やっと会えたな。この間は世話になった。」

 案の定、この間の人魔がいた。もう会うことはない予定だったのに執念深い奴。

 「あぁ、めんどくさい。」

 もう帰りたい。山のふもとについたばかり。まだ1メートルも登ってないのにこれだよ。

 「予定通り。」

 いやな笑いを浮かべるリリーサ。

 「座って待ってていいかな。終わったら教えて。」

 わたしにやる気はまったくない。

 「待ってください。この間の人魔2人しかいません。ウルフがいないのです。卑怯です、ズルいです。異議を申し立てます。なので、ヒメさんやっちゃってください。」

 わたしに振るな。

 「安心しろ。俺たちだけなら油断するかと思って罠を仕掛けておいた。」

 わたしたちの後ろに回り込むように、木々の間からさらに人魔が現れる。ウルフを連れている。探査魔法にはいっぱいいたから気をつけてはいたけど、これほどとは。


 現れたのは人魔がさらに4人。連れているのは、レビウルフが6、パープルウルフ4、レッドウルフが4で魔獣のウルフが合計14匹。何、この数。多すぎない?

 「ひ、ヒメさん・・・」

 リリーサの声が震えてる。見ると手も震えていた。

 「う、ウルフが・・・こ、こんなに・・・どうしましょう・・・」

 リリーサの顔を見る。目が涙目になっていた・・・嬉しくて・・・

 「売りたい放題です。金貨の山です。あぁ、どうしましょう。嬉しくて震えが止まりません。」

 わたしはめんどくさくて全部燃やしたいよ。

 「逃げ場はないぞ。この間はよくもふざけたまねをしてくれたな。皆殺しにしてやる!」

 最初に現れた人魔が嫌らしい笑いでわたしたちを見る。

 「先制をかける。ファリナ、ミヤはそれぞれウルフをお願い。リリーサはリルフィーナと一緒にウルフを。人魔はわたしが燃やしてもいいよね。」

 「了解。いいわよ。」

 「わかった。」

 「仕切らないでください。でもわかりました。」

 「お姉様のそばを離れません。」

 相手が複数の場合、いつもミヤと一緒に動くよう言われるファリナが、1人で戦えることが嬉しそうだ。お願いだから無理しないで。


 右手を横に振る。水の塊がわたしの正面に現れる。慣れてきたのでそれを瞬時に氷の錐に変える。最初から氷は無理だけど、水から氷は一瞬で変化できるようになってきた。これも日ごろの訓練の賜物。この頃、暇なし魔獣と戦ってきたからなぁ。

 「いけ!」

 後ろから現れたウルフと人魔の集団に、狙いを定めず撃ちこむ。

 10本の氷がウルフたちを襲う。

 素早く躱すウルフたちだけど、逃げきれず頭に食らって2匹が倒れる。さらに2匹に命中して負傷。4人いた人魔のうち、2人の肩口が貫かれる。

 「行くよ!」

 最初に現れた人魔2人は無視。後ろに現れた人魔とウルフを叩く。

 「<豪炎>!」

 肩を<氷の錐>で貫かれ、地面に跪いた2人の人魔が目標。

 立ち上った炎は2人の人魔を包み込んだ。





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