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94.ヒメ ファリナ、ミヤと思い出す


 「じゃんけんはどうでしょうか。」

 リリーサが拳を握る。

 とりあえず、パーソンズ邸にいると細かい打ち合わせができないので、わたしの家に帰ってきた。なぜロイドさんはあれほど国王暗殺に反対なのだろう。

 「うーん、こういった場合、運任せなのは性に合わないな。」

 どうも乗り気にならない。

 リリーサが国王に会うことはほぼ決まった。後はお供をどうするか。

 「お友達からの頼み事です。わたしが行くのはやむを得ないでしょう。しかし、わたし1人ではその場にいる全員を消し去るのには時間がかかります。ましてやお城全部となると・・・」

 いや、もうそのネタいいから。

 「とりあえず、猿、犬、雉、ロバが必要です。」

 「何のおとぎ話だったっけ、そのお供は・・・」

 あぁ、聞いた事あるような・・・

 「猿。」

 リリーサがわたしを指す。

 「犬。」

 ファリナ。

 「雉。」

 ミヤ。猫じゃなくてよかった。いらない血が流れるところだった。

 「ロバ。」

 リルフィーナ。

 「何で、わたしが猿なのよ?」

 「岩投げ猿と縄張りを争うような人は猿で十分です。」

 争ってないからね!

 「雉が必要ならミヤより向いてるやつを知っている。呼ぶか?」

 「呼ばなくていい!呼ばなくていいから!」

 ミヤの知り合いって・・・

 ミヤ(虎)の他に龍と鳥と亀がいるって言ってたよね。

 こいつ、鳥を呼ぶ気だな。異世界の神様が2柱もこの世界でばっこされるなんて冗談ではない。

 「つまり、全員ついてこいってことかしら。」

 「5人いれば1人あたり100人も相手すればいいかなーと。」

 「みんなで行くなら、問題が起こったらわたしが全部燃やすから。勝手に逃げてね。」

 「障壁役。」

 ミヤが手をあげる。

 「じゃ、わたしは、死ななければなんとかします。」

 リリーサが手をあげる。

 「わたしとリルフィーナはミヤの後ろに隠れてましょうね。」

 「結局、戦うことに決まったのですか。」

 向こうの出方次第だよ。まぁ、もめることなんて、2,3パーセントありえないはずだから。

 「97,8パーセントありえるんですよね。ない確率が低すぎませんか?」

 リルフィーナ、細かい。


 「問題は日程ですね。連絡が来るまで、わたしたちはここに泊まればいいのでしょうか、それとも、毎日朝から来て、ここにいればいいのでしょうか。」

 待って、結構究極の2択だよね、それ。

 「決まったら、教えに行くから、自分の家で大人しくしていて。」

 ファリナ、笑顔が引きつっている。

 「悪いんだけど、お願い。ただ、わたしたちが国王に会うかどうかは、これから最終調整するからもう少し待って。今は暫定的に行く方向で。」

 「ヒメさんが行かないのなら、わたしはお断りしますよ。わたし1人じゃ戦力不足です。」

 「だから、国王の話聞くだけでいいから。」

 そうは言うけど、ファリナ。臨戦態勢は必要だよ。

 「まぁ、これから国王様に連絡して、返事を待ってという流れでしょうから時間はあります。それまでにどうするかはっきり決めましょう。誰も行きたくないなら、面会日前にお城ごとこの世から消しちゃいましょう。」

 「そうか、無理に会う必要ないんだ。」

 いい案だよ、リリーサ。希望が湧いてきた。

 「方向性は決まってきました。とりあえず・・・」

 「何?リリーサ。」

 「・・・お茶にしませんか。」

 あぁ、ごめん。お茶も出さないで。


 「至福です。悪だくみの後のお茶は最高です。」

 いや、誰も悪だくんでないからね。正当な権利の話だから。

 「それでは帰ります。ヒメさんたちは話し合いが必要なようですから。」

 「え?」

 「何ですか?」

 「いや、気づかいするなんて熱でもあるのかな、って。」

 「失礼です。そこまで言うなら泊まっていきます。」

 「ごめん、今日のところはそうしてもらえると助かる。」

 急に気を利かせるようなこと言うから、調子が狂う。これも貸しだとか言われるんだろうか。

 「言いません。わたしを何だと思ってるんですか。」

 突然言い出すリリーサの貸し借りの理屈がわからないから対応がしかねるんだよ。

 「そんなだからファリナさんを怒らせるんですよ。それでは、また。」

 意味が分からない。って、リリーサ、家の中で空間魔法の門を開くのやめて!言い忘れてたけど、魔法で家の中に入ってこないで・・・行っちゃった・・・

 「空間魔法の障壁の封印もこの家にかける。後で魔法陣を壁に彫っておく。」

 お願い、ミヤ。


 「さて、全員の頭脳をフル稼働してもらいます。」

 居間にわたしたち3人が真剣な顔で座っている。これほど真剣になったのはいつ以来だろう。

 「今までに会ったことのある王族、貴族を思い出してください。」

 わたしの宣言で全員目を閉じ、眉間にしわを寄せうーん、うーんとうなり出す。


 偉い人、偉い人かぁ。5歳までは村の中で自由に遊ばせてもらえたから、結構人とは会ってるんだよな。あー、でもみんな村に住んでるハンターか農家やお店の人ばっかりだよね。

 5歳で魔法の訓練施設の丘1つ燃やし尽くしてからは、じいちゃん、ばあちゃんと離れて、家で1人でお留守番だったしなぁ。村長と魔法の先生、ご飯持ってきてくれたおばちゃん、駄菓子屋のおじちゃんとお姉さん。ファリナが来てからは、さらに剣技の先生くらいしか会ってないよね。ハンターになってからだと、村のハンターにも会わせてもらえなくなったし・・・あれ・・・

 「なんか、涙出てきた・・・」

 「え?ヒメ、ちょっと、大丈夫?」

 寂しい人生だったなぁ・・・こうなった責任者の村長はもういない・・・

 「つまり、やっぱり国王に責任とってもらうしかないよね。」

 「うんうん、よくわからないけど、ヒメが泣くのが国王のせいなら、うん、やっぱりヤってしまいましょう。特別に<爆炎>の使用を許可するから。」

 「賛成。禍根は排除すべき。」

 ご、ごめん。なんか気をつかわせちゃったね。わたしは大丈夫。<爆炎>はお城だけでなく城下町も燃やしちゃうから、今回はいいよ。


 「思い浮かばないわ。」

 ファリナが渋い顔。

 「ミヤにはどれが偉いのか判別不能。」

 せめて誰って言ってあげて。

 ファリナにしてもわたしと同じで、子どもの頃は村人以外に会ったことないし、勇者の研修施設にいた頃も、他の領地から訓練に来ていたハンターはいたけど、彼らが王族や貴族だったり、偉くなりそうとは思えないとのこと。ファリナは男性に厳しいからなぁ。

 ミヤに至っては、しばらくの間は、わたしたち2人以外の人間の見分けがつかなかったというし、まぁ、ずっとわたしたちといて離れた事なかったから会ってないよね。

 「気になるのは、わたしがハンター登録して間もなくの頃に会った・・・」

 ファリナが眉間にしわを寄せる。

 「・・・リズ。あれ誰だったんだろう。村の子じゃなかったよね。」

 さっき急に思い出した、薄い紫の髪の女の子。歳の頃はわたしかファリナくらい。

 「わたしたちと同じくらいの歳みたいだったし、偉ぶった様子もなかったから、いいとこ領主だったサムザスの娘だと思うんだけど。」

 「でも、サムザスには会ったことないんだよね。そう言えば、サムザスって今どうしてるの?」

 勇者の村があったサムザス領の領主、なんとかサムザス。

 「ハンソン・サムザス。まぁ覚える価値もないけど。」

 だったらファリナ、よけいな補足はしないで。いらない情報覚えちゃったじゃない。

 「夕ご飯までには忘れてる。」

 それもそうか。

 「まだ領主をやってるでしょ。サムザス領を出てからは興味ないから知らないけど。」

 「パーソンズの領地に入る前に、サムザスが戦争の責任をどっかの町領主に押し付けて死罪にしたとかなんとかあったよね。」

 町領主というのは、この国の制度で、領地に町がいっぱいあるところは、領主1人で運営するのが大変だから、中央は領主が、地方のいくつかの町を他の貴族が、その名前で見てもらう制度で、もちろん領主の方が偉い。

 サムザス領には確か、町領主が3人いたはず。ここパーソンズはどうなんだろ。

 「あれは違うわよ。魔人族との戦争は、こちらから仕掛けることはないから戦争責任は問わないの。あれは、戦争中にどこだかの町領主が、サムザスの命令を無視した行動をとったために、被害が拡大した責任で貴族の称号はく奪の上、死罪になったはずよ。」

 でも、あの戦争を仕掛けたのは・・・

 「まぁ、サムザスにすれば戦争を仕掛けようなんて思っていなかったんでしょうけど、魔人族の領地に入り込むなんて馬鹿なまねしたものよね。」

 まぁ、言っても今更だよね。


 「現状を鑑みるに、リリーサの後ろで黙っていれば問題ないよね。」

 「灰色狼にパープルウルフ。さすがにもうロイドさんも、どこかの知らないハンターじゃごまかしきれないでしょ。」

 「うん、ロイドさんはどうでもいいけど、マリアさんやフレイラ、リーアが国王の不興をかって何かの責任取らされでもしたら大変だからね。リリーサがわたしたちと一緒なら代理を引き受けてくれるというならお願いするしかないと思う。で、マリアさんもよくなってきたことだし、フレイラがたまに遊びに来る以外はパーソンズ家とは関係を切る方向で行こうとも思ってる。」

 「それが妥当かな。できればフレイラも切ってほしい。」

 「斬るのはファリナが得意でしょ。」

 「斬っていいなら斬るけど・・・悪い娘じゃないのよね。素直すぎるだけで。」

 「ファリナは頭のおかしい奴に好かれやすい。」

 「それにわたし入ってないよね、ミヤ。」

 視線を逸らすな。

 「まぁ、問題が起きたら、本気でヤっちゃうだけだし。後は、ガルムザフトかバイエルフェルン王国でやり直しかな。」

 「ギャラルーナ帝国の向こうのドルミント王国もいいみたいよ。北だから少し寒いけど、景色はいいみたい。」

 「寒いのはなぁ・・・」

 暑いのも嫌いだけど。

 「わたし、雪って数えるくらいしか見た事ないのよね。それも、ほとんど積りもしないさらっと降った雪だけ。辺り一面積もった雪って見てみたいなぁ。きれいなんでしょうね。」

 ファリナがなんか乙女みたいなこと言い出した。

 「エルリオーラでも積もるでしょ。あの山に積もってるやつは?」

 「遠すぎてわからないわよ。黒の山脈の山頂の雪なんて。」

 エルリオーラ王国でも年に数回は平地でも雪が降るはずなんだけど、わたしたちはことごとく見逃している。しかも、滅多に積もらない。道端に小さく汚くなって残ってるやつくらいしか見た事ない。


 「もう秋なんだね。季節感全然ないけど。」

 秋、秋か。

 「山菜と果物。後、魚。」

 「何で秋の話になって、しかも食べ物なのよ。」

 もうすぐ冬か。じゃ、今は秋か。秋といえば食べ物美味しいよね。うん、流れは間違ってないよ、ファリナ。





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