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93.ヒメ リリーサに相談する


 「警吏呼んでもいいよね、これ。」

 「取り調べで愛人だって言いまくります。痴情のもつれです。」

 「わたしの評判これ以上落とすのやめて!」

 というか、人の家で何悠長にお茶飲んでやがりますか、この女。

 「落ち着いて。目的を思い出して。」

 目的?リリーサに会う事でしょ。会ったんだから、後は燃やせばいいんだよね。

 「そういえば、ユイさんに会いましたか?」

 それもあった!

 「あんた、勝手に変なの押し付けないでよ。大変だったんだから。」

 「ミヤが大変だった。」

 ま、まぁそうだけど。最近自己主張が激しくない?それに・・・あーん・・・もつきあってやったよね・・・


 「そうですか。ミヤさんが教えることになったんですか。それで、<なんでもボックス>は教えて差し上げたのですか?」

 「収納だけでなく空間移動まで教える羽目になったわよ。」

 「え、教えたのですか?というか、ヒメさんが<あちこち扉>使えることも?」

 「<ゲート>を使える事をね。」

 いきなり涙目になるリリーサ。

 「あれは、ファリナさんとミヤさんとわたしの3人だけの秘密だって言ってたのに、ぽっと出の女に教えるなんて、この浮気者!」

 何を言ってるのかな?リリーサ。

 「わたしも知ってますけどね。」

 さらに荒れるからよけいな事言わないでリルフィーナ。

 「これは貸しですね。」

 「待って!どう考えたって押し付けられたわたしに借りだよね!?」

 おかしい。何かがおかしい。世の中は理不尽しかない。


 「そうだ、理不尽で思い出した。今、最高に理不尽なんだよ。それでリリーサに頼みがあるんだ。」

 「さらに貸しですか。」

 貸し借りで物事考えるのやめて。


 「この国の王様が会いたい?誰に?」

 「パープルウルフを狩ったハンターにだって。」

 「じゃ、ヒメさんでいいじゃないですか。」

 「わたしは会いたくないの!それで、リリーサにお願いできないかなって思って。」

 「ガルムザフトならいざ知らず、この国の国王様如きに会ったところで、わたしに何の得がありますか。いやない、ってやつですね。」

 「ユイの面倒見てあげたじゃない。」

 「浮気者!」

 押し付けてきたのあんただよね。

 「あのね、私とあなたはただのお友達なの。わかってる?」

 「わかってますよ。まさか、ヒメさん、わたしとそれ以上の関係になろうと思っていませんか?」

 「い、いや、思ってないけど・・・あれ、なんで、それで浮気者呼ばわりされなきゃいけないの?」

 「え?わたし以外のお友達をつくるなんて浮気者の所業ですよね。」

 最近じゃ友達ってそんなに重い関係なの?待って、確かに生まれてこのかた友達いなかったからよくわからないけど・・・


 遠い日の記憶の欠片・・・

 『ヒメカー!』

 道の先で手を振る薄い紫色の髪の少女。今思えばパープルウルフみたいな髪の色・・・

 あれは・・・


 「あれは友達じゃない!」

 「え?そんな・・・今更友達じゃないとか・・・」 

 あぁ、泣くな、泣かないで。

 「ごめん、リリーサのことじゃないんだ。ちょっと、昔の知り合いを思い出しちゃって。」

 まだ、ハンターにもなっていない頃の思い出・・・

 「嫌な事思い出しちゃった・・・」

 「わたしとの思い出がそんなに嫌ですか?」

 いや、だからリリーサじゃないって言ってるでしょうが。

 「昔の知り合いだって言ってるでしょ。リリーサとは会って一か月も経ってないでしょう。」

 「ヒメさんが、ファリナさんとミヤさんを除いたら、わたし以外知り合いがいるはずないじゃないですか。」

 地味にディスってくるね。燃やすぞ、こいつ。これでも15年生きてきたんだ。知り合いくらいいるよ。友達はいないけど・・・

 「とにかく、リリーサ、お願い。会うだけでいいの。」 

 「なんでしょう、義理のお見合いみたいな雰囲気なんですけど。」

 そんないいものじゃないから。

 「それで、会ってどうするんですか?この世から消してしまえばいいのですか?」

 「それでもいいや。問題にならないようにその場の全員ヤっちゃってね。」

 「なるほど、暗殺の依頼ってことですね。」

 「違うから。」

 え?ファリナ、違うの?

 「この際、2度とこのような事を言い出さない様ヤってしまった方がいいのではないか?」

 ほら、ミヤも賛成派だよ。

 「お姉様方にかかると一国の国王様の命も軽いものですね。」

 「いい、リルフィーナ。命には2種類あるの。すなわち、わたしの邪魔になる命とならない命。なる方の命は排除されてもしかたないの。だって、邪魔なんですもん。」

 「もんとか言うな。かわいく言ったって、誰も認めてくれないからね。」

 ファリナ細かい。

 「ミヤは認める。」

 「ミヤが甘いから、こんなわがままな子ができるのよ。まぁ、わたしも、どうしてもと言うなら認めないこともないけど。」

 「ファリナさんも甘々です。」

 「わたしはいいと思いますよ、リルフィーナ。面倒事はなかったことにするに限るです。」

 「でもお姉様、別に国王様を暗殺しようって話じゃなかったですよね。」

 リルフィーナ、今更何を言ってるの?

 「暗殺しようって話だったよね。」

 誰も返事できない。

 「ところで、正面から会いに行って、正面から消えてもらった場合、これだけあからさまでも暗殺と言っていいのでしょうか。」

 確かに。陰に隠れてないよね。

 「隠れなくても、いきなり実力行使に出れば、それはもう暗殺なんじゃないかしら。」

 ファリナの意見ももっともだよね。


 「というわけで、会見に行って、公の場でヤっちゃうのは暗殺と呼んでいいものかな?」

 「お前ら、いいかげんにしろよ。事を荒立てるのが嫌いな私でもただでは済まさんぞ。」

 わからなくなったので、見識そうなロイドさんに聞いてみたら怒られた。おかしい。

 「不敬罪の反逆罪だからな。死罪だぞ。」

 「大丈夫だよ。ヤるとなったら、お城全部燃やし尽くすから。わたし以外は誰も残さないよ。」

 「留守番してるからね。わたしたちは。」

 ファリナ冷たい。ていうか、わたしも行かないけどさ。

 「え?じゃ実行部隊はわたしとリルフィーナだけですか?わたし1人でお城全部とそこにいる人全員は結構時間かかりますよ。」

 「え?それ、わたし何か役に立つことありますか?」

 リリーサとリルフィーナが意外と使えない。もうこうなったら、ミヤを投入して瞬殺すべきなのか?

 「国王様の話を聞くだけだ。城を壊すな。人を消すな。」

 何を言ってるかな、この人は。今話してるのは、国王をどうやってヤってしまうかって話だよ。

 「話をするという選択肢はないのか、お前は。」

 あるよ。話が通じる相手となら。

 「何でこうなったんだっけ?」

 「わたしたちに偉い人に会いに行けなんて言うからこうなるのよね。」

 ほら、ファリナでさえこうなんだから、わたしにこの件で理性を求めるのがおかしいのよ。


 「ところでずいぶん早かったな。さっき出ていったばかりだが。」

 「何とわたしの家にいましたー。」

 「あぁ、なるほどな。今度からリリーサに用事がある時はヒメの家に行かせよう。」

 なんで?


 「灰色狼とパープルウルフの件で礼を言われるくらいだと思う。場合によっては幾ばくかの謝礼も出るかもしれない。」

 「もしもお礼が出るならリリーサのものにしていいから。お願い、助けると思って代理で行って。」

 「そこまで言われてはしかたないです。まぁ、会ってお礼を言われて来ればいいのですね。」

 「リリーサならガルムザフトの国民だし、白聖女様だと言えば、いかに国王様とは言え訳のわからないことはしないだろう。」

 それ、わたしたち相手だと何かしかねないってことでしょうか。燃やすぞ。

 「勇者不足だからな。多分、勇者には任命されるんじゃないかな。」

 それはありそう。でもリリーサなら他の国の人間だからその心配はないか。

 「万が一のためにヒメさんも同席してください。」

 リリーサがわけのわからないことを言い出した。

 「何らかの武力行使に出てきた場合に備えて後ろで待機していてください。」

 「だから、わたしたちは国王・・・様とは会いたくないの。」

 「会うくらいならいいじゃありませんか。わたしがリーダーということにすれば、話しかけられることもないでしょうし。」

 会ったら、その場で燃やしかねないんだけどなぁ。つもりにつもった恨みで。

 「本当にごめん。それだけは無理。」

 「国王様に会うと何か不都合な事でもあるのですか?」

 ある・・・かもしれない。わたしたちの素性がばれるかもしれない。まだ半年ちょっとしか羽を伸ばしてないのだ。邪魔する奴は燃やしちゃうよね。

 ただ、実際には、わたしたちは国王には直接会ったことはない・・・はずなんだよなぁ。

 勇者の村の村長は、危機管理だけはしっかりしてたから、わたしたちはどの領地の貴族にも王族にも会ったことはない・・・はずなんだけど、絶対かと言われれば自信がない。

 (ないよね。)

 (ないはず。大体大人の男の人なんて、村長と剣技や魔法の先生役のおじいさんたち、後は駄菓子屋のおじさん以外話したことないわよ。)

 子どもはわたしたちに近づけなかったから、もっとないし。そう考えると、わたしたちって寂しい人生送ってるのね・・・

 (わたしは・・・別に、寂しくなかったわよ・・・)

 何顔赤らめて、こっちチラチラ見てるのよ。

 「ゔっ・・・ゔゔっ・・・」

 何で泣くの?剣から手を離しなさい!

 「ヒメ様超外道。」

 超がつくの?なんかわからないけど悪かったわよ・・・

 「何事ですか?」

 「こそこそ話してましたから、どうせまたヒメさんが女心を傷つけるような事言ったんでしょう。あの人女心が全然わかりませんからね。オヤジですか。」

 リリーサとリルフィーナが根拠のない罵倒をしてくる。


 「ヒメさんが護衛してくれるなら行きます。」

 「リリーサに護衛はいらないでしょう。」

 「国王様と会うとなると、まわりにいろんな人がいっぱいいます。<バラバラ>何回も使うのめんどくさいです。ヒメさんなら一発です。」

 うん、一発でわたし以外を燃やし尽くせるよ。

 「わたしを巻き込まないでください。というか、もうヒメさん1人で行って、会うなり燃やせばすべて解決ではないでしょうか。」

 リルフィーナ冷たいな。でも、それもありかな・・・

 「何度も言うが、燃やすな。殺すな。大人しく話だけしてこい。」

 いや、そのつもりなんだよ。そのつもりなんだけど、考えてるうちに燃やす結末になるんだよね。不思議だね。


 「まだ終わりませんか?早くしてください!」

 応接室のドアがドンドン叩かれる。

 大事な話だからと表に出されたフレイラが痺れを切らせたようだ。

 「何?フレイラ、漏れそうなの?」

 ドアの外に向かって叫ぶ。

 「何の話をしていますか!?失礼です!レディのそのようなことを。」

 ドアがガンガンと打ち鳴らされる。

 「とりあえず、リリーサにはお願いできるのだな。後は5人で話し合って誰が行くのか決めてくれ。決まり次第国王様に面会依頼の手紙を書く。」

 話し合いか。

 「リリーサをヤっちゃえばいいのね。」

 「負けません。この世から跡形もなく消し去ります。」

 「話し合いだ。意味が分かるか?」

 ロイドさんの視線が厳しい。さすがにガマンの限界のようだ。

 「それ以前に、リリーサをヤっちゃったら行く人いなくなるからね。」

 それは盲点だったよ、ファリナ!


 ドアを叩く音がうるさいので、ファリナが諦めて、ドアを開ける。

 「お姉さま。」

 開くなり飛びついてくるフレイラをヒョイと避ける。

 「ファリナさんも何気にヒドイですよね。」

 「あのヒメさんとパーティーが組めるんです。そこそこ外道でしょう。」

 2人を睨むファリナ。リルフィーナ、リリーサ、そのくらいにしておきなさい。ファリナは怒ると怖いから。マジで。

 (まったく。国王様を暗殺?いいですか、旦那様のお立場が悪くなるような行動を取ったらただではすみませんよ。)

 フレイラの後から入ってきたエミリアが、わたしの耳元で囁く。しっかり聞いてたわけね。

 (やるんだったら、後腐れなく、証拠や証人を残さずきっちり燃やし尽くしなさい。旦那様に疑いの目がむかないように。いいですね。)

 燃やすことには反対しないんだ。この国の国王、どれだけ人望ないんだ・・・






ヒメの国王の呼び方は、2種類あります。

地の文の時と、周りにいるのがそれなりに気を許してる仲間の場合 「国王」

あまり気を許していない第3者を前にした場合 「国王様」

ファリナも同。


なので、2種類の呼び方があるのは間違いではありません。

ただし、作者が書き間違えている可能性はあります。

つまり、気にしないでください、ということです・・・すいません。


これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

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