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83.ヒメ 新人ハンターの訓練をする


 ギルドの裏の空き地を借りて、初歩的な訓練から始める。

 「剣にしろ魔法にしろ、基本レベルまで使えるようにならない限り、白の森どころか草原にだって行かないからね。で、わたしの許可のないまま勝手に行ったら、もう面倒は見ない。死にたい人は勝手に死になさい。他には迷惑はかけないようにね。」

 4人が困ったようにわたしを見る。

 「でも、仕事しないとお金が。遊んでる時間はないの。」

 パーティーリーダーであるルイザが一歩前に出る。

 それなんだよね。わたしたちには、それなりの蓄えがあるから貸すなり多少は融通を利かせてもいいんだけど、他人に頼ってしまったら、多分この娘たちじゃ二度と自分の力で立てなくなるよね。見通しが甘々なんだもの。

 「こうしましょう。午前はここで訓練。午後からは草原に行って薬草を採取します。出会った獣は、わたしたちが倒すけど、それは実地見学として勉強になさい。自分たちが採取した薬草と、狩った獣の半分はあげる。もちろん、それだけじゃたいした稼ぎにならないでしょうけど、ゼロよりいいでしょう。」

 ファリナの提案。それなら、まぁいいか。獣を譲るあたり甘すぎるけど、薬草だけじゃね。草原には高く売れる薬草は生えてないし。

 「そうだね。おいおい何日かやってみて、慣れてきたら、あなたたちにも戦ってもらう。慣れてきて、白の森の獣を狩れるようになれば、後は自分たちでやりなさい。ただし、Dランクになるまでは白の森でも奥には行っちゃダメよ。まれにだけど魔獣が出るから。」

 「いっぺんに言ってもわからなくなるわ。とりあえずは、午前中ここで訓練、午後から草原で獣の狩り方を見学しながら薬草採取。今後数日はこれでいきます。いい?」

 「「「「わかりました。」」」」

 (ファリナさんの方がわかりやすいね。)

 (うん、ファリナさんが先生の方がいいかな。)

 コソコソ話は聞こえない様にやりなさい。元々、ファリナに任せるつもり。剣士と魔術師で分担しようと思っている。ミヤは、教えることに向いてない上に、なにせ生徒がミヤに教えてもらうレベルに達していないので、総監督だ。


 「まず、みんなの職種から教えてもらうかな。」

 「はい。ルイザです。剣士です。」

 「ナターシャです。同じく剣士です。」

 「エーヴです。槍士です。」

 「オトーヌです。剣士です。」

 「・・・全員前衛!?」

 驚きで膝から崩れ落ちる。

 『メンバー全員が、前衛職で直接攻撃ばかりのパーティーはどうですか』、ってお笑い冒険小説のタイトルですか?

 「わたしは槍ですから中間だと思いますけど。」

 エーヴ、女性のリーチの槍はただの前衛です。しいて言うなら・・・

 「中間管理職?」

 「それはなんか嫌!」

 ミヤの言葉にエーヴが首をブルブル振る。

 「ここまで偏ってるとはね。」

 ファリナが頭を抱える。


 「とりあえず、弓でいいから後衛をつくらないと。」

 「わたし、昔、弓触った事ならあります。おじいちゃんの家で。」

 最年少ナターシャが、おずおずと手をあげる。

 「射ったことは?」

 「あります・・・当てちゃいました・・・おじいちゃんに・・・」

 待て。おじいちゃんに当てた?何を言ってるのかな?

 「お、おもちゃの弓です。おじいちゃんがつくってくれたんです。で、離れたおじいちゃんを的にしてみろって言って・・・まさか当たるとは・・・でも、おもちゃですし・・・」

 「じ、じゃあ、ケガはしてないんだ。」

 「2日くらいで治りましたから。大丈夫でした。」

 「大丈夫じゃないから!全然大丈夫じゃないからね、それ!」

 おもちゃって言ったよね。どれだけ精巧なおもちゃにしたんだ、おじいちゃん。それでも、おもちゃとはいえ当てるなんて、素質はありそうだな。後衛職1人ゲット。


 「ここの倉庫にある武器は自由に使っていいって、ノエルさん言ってたよね。弓あるかな。」

 「訓練用の模造剣を使っていいといいましたが、弓の持ち出しは許してませんよ。」

 ギルドの裏口からこちらを覗き見てるノエルさん。

 「暇なの?いいじゃん、弓の1つや5つ6つ。」

 「増えすぎです。大体何で弓なんですか?」

 現状をノエルさんに話す。

 「なるほど。今のままだと、攻撃方法は、全員での特攻しかないわけですか。」

 特攻って何?

 「練習には使って構いませんけど、持ち出しは困ります。マスターがそういうものの管理にうるさいんです。」

 「いつ確認してるのよ。出歩いてるの?それで何で誰も見た事ないのよ?」

 「いやです、ヒメさん。ですから1度会ったことがあると・・・」

 「はい、黙れ!1度しか会ったことがないという段階で問題外です!」

 早めに移籍考えないと。


 「個人の弓だけど、パーティーの必需品だから、みんなで買うように。すこしずつでいいから、共同のお金をつくりなさい。剣でも弓でも防具でも、パーティーで必要な物はそれで買うの。弓は矢だって必要なんだから、個人に買わせてたら弓士なんてお金かかってやってられないわ。武器や防具はみんなの共有財産だって思わなくっちゃやっていけないわよ、パーティーなんて。」

 「うぅ、なんか色々大変です。」

 ルイザが早くもめげそう。


 「後、どんなでもいいから、魔法使える人?」

 回復はポーション使うしかないよね。そうか、薬代もかかるんだ。

 「火なら、少し。」

 おずおずと手をあげたのは、またしてもナターシャ。この娘、意外と器用なんじゃ。

 「どのくらいの威力?家燃やせる?この辺一角は?町ならどう?」

 「何言ってるかわかりません。町って何ですか?」

 え?町もしらないの?最近の若い子は。


 「小火球か。威力は普通だね。」

 ギルドの裏の空き地にギルドが勝手に作った土嚢めがけて、ナターシャに魔法を撃たせてみる。

 「言っておきますけど、ここはれっきとしたギルドの土地ですし、土嚢も練習用にギルドがわざわざ作ったものです。人の土地に勝手に作ったわけじゃありません。」

 ノエルさん細かい。けど、いいこと聞いた。

 「なら、ちょっとくらいなら壊しても大丈夫かな。」

 「ヒメさんはここで魔法を撃つのは禁止です。」

 わたしはやらないよ。ちょっとじゃ済まなくなるから。

 「ナターシャは、最初1時間は、弓の練習。弓と矢、それに的は倉庫からギルドのを借りてきて。その後1時間は、土嚢めがけて火球撃つ練習。自分の魔力は、どのくらいの威力で何発くらい撃てるか確認しながら、目標に正確に当てられるようになる。これが当面の目標。」

 ナターシャは、自分が使ってる魔法陣を直に見えるように描き表せないから、昼休みにでも紙に描かせて。それをナターシャが、使いやすくて威力が上がるように変えられないか、色々やってみよう。今まで魔力の限界なんて考えた事なかったから教えるのが大変だ。

 「ヒメとリリーサが異常なんだからね。大規模魔術を何十発も撃てるなんて普通じゃないから。」

 何万発でも撃てると思うよ。途中で飽きると思うけど。

 で、そっちの剣と槍組はファリナに任せるよ。

 「ミヤは総監督なんだから、空き地の邪魔にならないところでデンと構えて、雲でも数えてなさい。」

 「わかった。」

 さて、始めましょうか。


 午前中教えてみたところ、筋は悪くなかった。本人たちも後が無い事はわかっているんだろう。

 剣の2人はちょっとぎこちなかったけど、槍のエーヴは手慣れたもので、確かに獣くらいなら戦えそうだ。ただ、女の子用の重さの軽い槍だから一撃必殺とはいかず、とどめまでは、チマチマ刺しながらの牽制がメインになりそうだ。

 ナターシャは弓は今一つ。1射した後の2射目に時間がかかりすぎる。それでも、ゆっくり撃てば命中率は半分以上。初心者としてはいい方でしょう。さすが、おじいちゃんを射ったことがあるだけのことはある。

 魔法の方は、魔法陣を紙に描きながらになるので、まどろっこしい。ナターシャが空間に陣を描けるわけもなく、わたしが描く空中で光って見える魔法陣は覚えきれないようで、紙に描いてゆっくり覚えなければいけない。リリーサみたいにはいかないか。

 それでも、わたしが改良してあげた魔法陣で小火球の威力はあがって、小型の獣なら倒せるくらいにはなりそうだ。ただそうなると、獣が焦げるという事態になり、毛皮をあきらめなければいけないから、使いどころが肝心だ。獣が多い時の数減らしとか、倒すのを2の次にして、牽制するときとかかな。

 「後衛はナターシャしかいないんだから、戦局はナターシャが見なきゃダメよ。後ろから前衛のみんなを動かすの。」

 「責任が重すぎます。わたし最年少ですよ。」

 「歳は関係ないからね。パーティーを組む以上、年齢じゃなくてメンバーの配置だから。パーティーのリーダーだからって、最前線で剣を交わしてるルイザが戦局全体を見渡せるのなら、ルイザにやってもらってもいいけど。」

 「無理です。多分目の前の敵を倒すのに精一杯になると思う。」

 「ヒメさんたちは誰が指示してるんですか?」

 「あー、わたしたちは参考にならないから。」

 「3人並んで突入。端から順に切り刻む。」

 ミヤが単刀直入。

 「わたしは燃やすけどね。」


 「うー、おかしすぎます。」

 「異常よ異常。」

 4人が愚痴る。

 「今まで最高何匹くらいの獣と戦ったことあるんですか?」

 「聞かない方がいいよ。」

 「ミヤさん。」

 わたしがごまかしてるのにミヤに聞くんじゃない。


 「3人で78匹も倒せるものなんですか?」

 質問が獣でよかった。ミヤも正直に答えすぎだけど。質問が魔獣だったらもうちょっといくとこだったよ。

 「アリさんを踏みつぶしたって話じゃないですよね。」

 「アリさんならわたしでもできそう。」

 「え?わたしは可哀想でできなーい。」

 「うわ、何ブッてるのよ。」

 キャピキャピと。若いっていいね・・・って、同い歳なんだよね・・・


 午後からは町近くの草原に行く。

 <ゲート>は内緒なので、使えないから歩く。これ、しばらくの間毎日やるの?ギルドにガッツリ請求しなきゃ。


 「薬草ってわかる?」

 「よく使うものなら。」

 「買えないから、よく取りに来ました。」

 みんなそれなりに苦労してるのか。

 「高く売れる薬用は、森の奥に行かなきゃいけないから、おいおい教えるわね。奥っていっても白の森で採れるから、行くとしてもある程度までよ。魔獣が現れるかもしれないところまでは行かない事。」

 ファリナが真剣な顔で言う。

 「まだ先のことですよね。言うの早すぎです。忘れちゃいます。」

 オトーヌがおどける。

 「ちょっと前にこんな何もない平原で魔獣に襲われた人がいるの。野に出る以上、絶対安全はないの。あなたたちにくだらない事で死んでほしくないの。大事な事はしつこく言うわよ。」

 マリアさんは子狼に引っかかれただけだけどね。

 4人が真剣な目でファリナを見る。

 「わかった?」

 「「「「はい!」」」」

 いい感じ・・・なんだけど、わたしとミヤが浮いてる感半端ないんだけど。わたしたち、いらない?


 薬草を採りながら、襲ってきた角ウサギを狩る。といっても、飛び出してきた角ウサギに視線を合わせることもなく切り捨てる。

 「大体こんな感じ。」

 「参考になりません!」

 教えるのって難しいな。





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