81.ヒメ 新人ハンターに会う
ギルドの裏道での攻防は続く。
「お待ちください、お嬢様。お嬢様1人を泊まらせては、お嬢様に危険があった場合の対処ができません。」
「危険?ヒメさんの家で危険なんて、何がありますか。あったとしても、泥棒でも入ってきて、ヒメさんが燃やすのに巻き込まれるくらいでしょう。なにせ、ヒメさんは燃やすことに全人生を賭けているようですから。」
おーい、そこまでじゃないぞ?この場で燃やしちゃうよ。
「それでも、万が一ということがあります。万が一ヒメさんが、お嬢様を襲おうとした場合、他の者がヒメさんを諫めることができるでしょうか。」
難しい言葉使うのやめて。
「ヒメがフレイラになんか悪いことをしようとした時に、わたしとミヤが、ヒメに『メッ!』て言えるかどうかだって。」
「メッて言うどころか剣持ち出して切ろうとすると思うよ。わたしとフレイラのどちらを斬るかはわからないけど。」
「ミヤは小娘を切る。」
「わたしは、どうしようかな。ヒメが自分からフレイラを襲おうとしてたら、ヒメを殺してわたしも死ぬかな。」
重いから。
「ヒメ様に危害を加えることはファリナでも許さない。」
「わかったわよ。じゃ、わたしもフレイラを斬ります。」
「わたし、襲われるか斬られるかの2択ですか?」
帰るって選択肢はないのかな。それ以前にわたしが襲う前提なのはなぜ?
「今の話の流れだと、襲われた後に斬られるね。」
「踏んだり蹴ったりです!」
「かと言って、わたしも泊まると、ご実家に連絡できません。ヒメさんたちが行ってくれそうもありませんし。」
マリシアが困ったようにこちらをチラチラ見てるけど。
「うん。行かないよ。」
「マリシアがついているのです。家に連絡しなくても心配しないのではないですか。」
「パープルウルフの一件で、お嬢様の信頼は地中124メートルくらいまで落ちました。連絡がなければ、何かしでかしたかと家中で捜索になるかと。」
マリシア、あんたも表現がおかしな人ですか。
「フレイラを1人で残せないなら、マリシアがここに残って、フレイラが家に連絡に帰ればいいじゃない。」
「なるほど、そうですね。わたしが家に連絡しに帰ります。」
走って大通りに消えるフレイラ・・・
「そんなわけないでしょう!わたしが帰ってどうしますか!」
あ、戻ってきた。意外とノリがいいなぁ。
「お嬢様、今日のところは、ヒメさんたちが帰っていることを確認できただけで十分かと。あまりしつこくしては嫌われますよ。一旦帰りましょう。」
「グッ・・・一理あります。やむを得ません。帰還します。それでは、ファリナお姉様、ごきげんよう。また近々。」
マリシアに急かされるように去るフレイラ。申し訳なさそうに頭を下げるマリシア。あの娘も苦労人だなぁ。
「貴族の専属護衛も大変なんですね。」
あれ、まだいたの?ノエルさん。
「逃げだしたら、フレイラ様に怒られるかもしれません。領主様のお嬢様ですからね。あんな扱いしてるのは、ヒメさんだけです。」
大丈夫。ロイドさんに対してもあんなものだし。
「不敬罪って知ってます?」
「バカにしないでよ、ノエルさん。知ってるよ。意味は知らないけど。」
「うん、聞いた事あるだけでも大したものだわ。」
ファリナ、それ褒めてはいないよね。
「帰るぞ。もう日が暮れる。」
ミヤの言う通り、よけいな時間をとられてしまった。
翌日。帰っているのがばれてるなら、隠れていてもしょうがないので、ギルドに顔を出す。
「あ、ヒメさん。おはようございます。いいところに来てくれました。」
ノエルさんが、わたしたちを見るなり笑顔になる。嫌な予感しかしない。
「帰ろう。今日は出直そう。」
頷き踵を返すファリナとミヤ。
「待ってください!Cランクハンターとしての義務をはたしてください!」
義務?わたしの嫌いな言葉トップ10に入るんだけど、それ。
「義務をはたさないなら、権利の主張を受け付けませんよ。」
「権利って何か主張したことあった?」
「勇者の登録拒否の権利を認めません。」
「えー、それはズルいぞ!」
「どうしますか?ホラホラ、どうしますか?」
「ムー・・・」
わたしが本気で困ってるのに、ファリナとミヤは素知らぬ顔。
「何か言ってやってよ。」
「え?大変だなー。」
「何、それ?ふざけてるの?」
乗り気でないファリナにちょっとわたしプンプン。
「あのね、推薦の拒否は権利じゃなくわたしたちの意志なんだから、ギルドが拒否できるわけないじゃない。」
「軽い挑発に乗せられ過ぎ。」
え?そうなの?
「だったら、なんで黙ってるのよ。」
「ノエルさんが、お願いがあるなら話くらいは聞いてあげてもいいかなって思うのよ。なにせ、いつもヒメが迷惑かけてるし。」
「いつもヒメ様が面倒かけてるし。」
グッ・・・2人に揃って言われると、反論できない。
「わかったわよ。話を聞くだけだからね。お願いを聞くかどうかはそれからよ。」
「ありがとうございます。では、こちらに。」
ギルドマスターの部屋の隣に、会議室というか応接室みたいな部屋がある。
ギルドのホールじゃできない大事な話とか、扱う金額が大きすぎて他のハンターに見せられない時とか、とにかく、内密な話をする時に、主に使われる。
そこに案内される。うわ、これやっぱり面倒事だよ。他のハンターに聞かせられない話なんて。
ドアを開けて中に入ると、女の子が4人ソファーに座っていた。13歳から17歳くらいに見える、なかなか粒ぞろいの可愛い子たち。
「何?この子たちくれるの?」
「あげません!」
「じゃ、買えっていうの?」
「売りません!」
じゃどうしろって言うんだ、ノエルさん。
「捨ててくるのか?」
そうなの?ミヤ。だったら貰ってもいいよね。
「捨てません。なんで、そうなりますか?」
「ヒメ様に色目を使う者は廃棄する。具体的には切り刻む。」
「つ、使ってませ-ん!」
その中の1人が、あまりの展開に涙目になりながら叫ぶ。
「落ち着きなさい。」
ファリナがため息を吐く。
「ちゃんと話を最後まで聞いてから、斬るか切り刻むか決めなさい。」
結局斬るんかい。
「うぅー、どうなるんですか?わたしたち・・・」
4人で泣き出した。
「紹介します。ハンターパーティー『青い天使の調べ』のみなさんです。」
「ルイザです。15歳です。」
「ナターシャです。14歳です。」
「エーヴです。16歳です。」
「オトーヌです。15歳です。」
「なんで歳を言うかな。若いって主張したいのかな?でも残念。わたしだって15だもんね。」
「なに張り合ってるのよ。」
張り合ってないよ、ファリナ。負けられないだけだよ。
「え?15?」
「それにしては・・・胸が・・・」
「・・・燃やしてもいいよね・・・」
「待って!幼子の戯言だから!落ち着いて!ファリナさん、ミヤさん、止めてー!!」
「わたしと同い年前後ばかりで幼子もなにもないでしょうが・・・あぁ、ノエルさんが21歳だから・・・」
「歳の話はお互い利益がないのでやめませんか?」
ちょっとだけ怖かったよ、ノエルさん。わかりました、歳の話はやめよう。
わたしたちも自己紹介。名前だけ。歳は言わない教えない。
「ヒメさんは15歳ですよね。」
クッ、よけいな事言うんじゃなかった。
「で、このパーティーが何だというんです。」
ファリナが冷ややかな目で4人を見る。年下の可愛い娘ばかりで焦ってるのかな?ミヤを見なよ。食い入るように見てる、ってどうした?珍しいな。
「これ以上、ヒメ様の周りに女性キャラはいらない。」
「男もいらないけどね。」
ミヤとファリナの目が冷たい。4人の居心地が悪そう。
「この娘たちの面倒を見てほしいの。」
ノエルさんがとんでもないことを言い始めた。
「面倒って何?この娘たちを引き取れって言うの?」
「あ、そういう事ではないです。そんなヒメさんの毒牙の餌食になるようなまねを、仮にもギルドがするはずないでしょう。」
「餌食って何?」
「この町じゃ、若い女の子は貴族よりヒメさんに気をつけろって有名ですよ。」
よし、燃やそう!この町!
「今日ハンター登録したばかりなの、この娘たち。」
「道理でキャピキャピしてるわけだ。狼のはらわた引きずり出した事なさそうな顔してるもんね。」
「いや、ヒメ。その件に関しては、わたしたち、あまり偉そうなこと言えないから。」
仕方ない。この件に関しては許してやろう。
「ヒメさんたちいつも解体窓口持ち込みですもんね。」
「できるの?ノエルさんはできるの?」
「お魚でしたら。」
「魚ならわたしだってできます!」
「わ、わたしハンターじゃないもん。ギルドの受付だもん。」
なにが、もんだ!
「いいから、話を進めてください!」
ファリナ怒る。おかしい、リリーサがいないのに、なぜ話が横道にそれる。
「3人と1人で登録に来ました。女の子ばかりなので、4人で組んでもらうことにしました。登録したら、後は実力の世界です。活躍するのも野垂れ死ぬのも本人たち次第。次第なのですが、どう見ても今晩でもう帰ってきそうもありません。」
まぁそれが運命だったってことで仕方ないんじゃないかな。
「それで、次に考えたのが、1人か2人ずつに分けて、他のパーティーに加えてもらう事でした。ただ、ここのギルドは男性パーティーばかり。話をしてみたら、どこのパーティーでも引く手あまたでしたけど・・・」
「それって・・」
「はい。野良猫の群れに子ネズミを与えるようなものですよね。明日には全員キズモノになってそう。」
猫発言にミヤのこめかみがピクリと動いた気がしたけど、堪えたよう。
「なってそうじゃなくて、なってるから。」
「うぅ・・・」
4人が体を寄せ合って涙を浮かべる。いや、これでよくハンターになろうって気になったね。
「結局、最初の考え通り4人で組むしかないということになりました。後できる事は、この娘たちを1人前にしてくれる先生がいてくれたら。そう言えば、このギルドには最強の名を欲しいままにする女性ハンターパーティーがいる。あのパーティーに頼めたら。」
ノエルさんがチラチラこちらを見ながら踊るように語り続ける。
「最恐か最凶の間違いではないのか。」
「最狂かもよ。」
あんたたち、自分のことだからね。
「え?ヒメのことでしょ。」
「うん、ヒメ様のことだ。」
「あぁ、お2人、ヒメさんの機嫌が悪くなるのでそのくらいにしてあげてください。あまり、本当のこと言わないで。」
言いたいことはそれだけかな?
「やらないよ。」
「え?今までの話聞いてました?聞いてて断るなんて人間じゃありませんよね。確かにヒメさんに赤い血が流れているのかって言われればまったく自信はないですけど、一応それっぽいんですから、この娘たちを見て可哀想くらいは思いますよね。」
なんだろう、すっごくディスられてる気がするんだけど。
「大丈夫、間違いなくディスられてるから。」
「わたしたちにメリットはあるの?その娘たちの面倒を見るってことは、わたしたちの時間を使うってことだけど。」
「ギルドから謝礼がでます。後、訓練中は偶然を装えば、あちこち触り放題です。」
「「いらない。」」
「あれ?」
わたしだけでなくファリナにまで断られて、首をかしげるノエルさん。
「猫にマタタビ、ヒメに少女って言われてますよね。おかしいなぁ。女の子っていえば入れ食いだって噂だったのに。おかしいなぁ。」
よし、その噂の発言者を出しなさい。そいつ込みでこのギルドごと燃やすから。
あと、そろそろミヤが限界だから猫のネタはやめて。




