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79.1軒の家があった


 「あれです。」

 リリーサが指さす先に1軒の家があった。お店の広さは前の建物と変わらないだろう。けど、その建物は平屋で、奥に幾ばくかのスペースはありそうだけれども、寝泊りできそうには見えない。

 「ここで暮らすの?」

 「まさか。狭すぎます。住む所は他に買いました。」

 家2軒買いましたとか、さすがパープルウルフ成金。

 「そんなに褒めなくても・・・」

 「どちらかというと、呆れられてますよ、お姉様。」

 「というか、引っ越す意味がわからないんだけど。」

 「前にヒメさんに言われました。お客様が待っていて、家に帰れないなら別のところに住めばいいと。そうです。お店と家が同じ場所である必要はないんです。なぜなら、わたしには<あちこち扉>があるのですから。」

 確かにどこに住んでても、お店まで一瞬で来れるよね。

 「住む所を分ければ、毎日家でゆっくりできます。お客様はお店の前にいるのですから。」

 「あれ、でも毎日お店開けることにするなら、引っ越す必要ないんじゃないの?」

 「お店は毎日開けますけど、先ほど言ったように、わたしとリルフィーナは商品確保の旅を続けます。家を分けておけば、人目を気にせず帰ってきてゆっくりできます。さらに、普段私たちはいないので、店番を雇うことにしました。そうすると、強盗などが心配です。よって、領主様に便利な土地を譲ってもらいました。そう、お店の隣をご覧ください。」

 言われた通りに目をやると。隣には、警吏が在中する派出所があった。

 「24時間、隣に警吏さんです。しかも領主様から、お店を注意するよう言われています。」

 「待って、何その公私混同は?」

 「公僕がいたいけな領民を守るのは義務です。」

 開いた口がふさがらない。


 「ただいまです。戻りました。」

 「「店主様、おかえりなさい。」」

 返事がハモッてる。

 「お客さんですよ。」

 「「え?お客様?」」

 奥から10歳をすぎたくらいの同じ顔した幼女が2人飛び出してくる。双子だよね。同じ形の色違いのフリルバリバリの服に、服と同じ色のリボンを1人は頭の右、もう1人は左につけている。


 「いらっしゃいませ。わたしはミロだよ。」

 「いらっしゃいませ。わたしはロミだよ。」

 「「2人合わせてミロロミだよ。」」

 くるくると踊るようにポーズをつけて、決め台詞。何この,あざといの。

 「「うぅー、恥ずかしいです・・・」」

 2人は言い終わると、その場に膝から崩れる。

 「我慢だよ、ロミ。これもお仕事なの。」

 「うん、がんばる、ミロ。お仕事だもの。」

 目を涙で潤ませている。


 「リリーサ、まさかこれ強制的にやらせてるわけじゃないよね。」

 「え?双子の様式美ですよね。これをやらない双子に生きる意味がありますか?」

 「虐待だからね。」

 「え?えぇー?」

 驚きを隠せないリリーサ。驚いてるのはこっちです。


 「ごめんなさい。双子は絶対毎日やってるものだと思っていたから。嫌だったなんて思いもつかなくて。」

 「い、いえ。お仕事ならやります。」

 「やめなさい。これやって喜ぶ客なんてロクなのじゃないから。リリーサ、あなたここを大人のお店にするつもりなの?」

 ファリナが厳しい。ファリナは女の子が男に媚びを売るのが大嫌いなんだよね。

 「そんなつもりはないです。うぅー、思ったより評判が悪かったです。」

 「さすがにミヤも呆れた」

 「それほど!?」

 ミヤにまで呆れられたと聞いて、さらにビックリのリリーサ。

 「って、リルフィーナ、何で止めなかったの。」

 「お姉様がわたしを捨てて、この娘たちをそばに置くと思って、もうどうでもいいと思っていました。反省です。」

 「わたしがあなたを・・・いえ、いいです。」

 リルフィーナを少し悲しげに見たあと、口をつぐむリリーサ。はっきり言うべきことは言った方がいいよ。


 「ミロロミ、わたしの認識不足でした。これはやめましょう。というか、ほぼオヤジであるヒメさんにこれほど不評だと、世間一般的には受け入れられないこと間違いないです。変なお客のたまり場になっても困ります。ここは健全なお店なのですから。」

 正直、前から思っていたけど、よほど健全からは程遠いよ、リリーサのお店。って、誰がオヤジなのよ!

 「ありがとうございます。ミロの労働意欲が25パーセントアップしました。」

 「ありがとうございます。ロミの労働意欲が25パーセントアップしました。」

 手を取り合って喜ぶ双子。何だ、今の表現は・・・

 「リリーサが見つけただけあって世間的良識から逸脱してるかもしれない。」

 ミヤが冷めた目で状況を眺めている。

 「はっきり、頭おかしいんじゃないって言ってやりなさい。」

 ファリナは、自分には縁遠い、キャピキャピ系にはとても厳しい。

 「わたしだってやってみたかったわよ!でもね、10歳からもう半分母親だったの。キャピキャピしてられなかったの!後悔はしてない。ヒメのためだもの。でも、イラつくぐらい大目に見てよ!」

 「ごめんなさい。でも、これはミロのアイデンティティだから。」

 「ごめんなさい。でも、これはロミのアイデンティティだから。」

 「「やめられないの。」」

 2人で手を取り合って踊る。

 「あんたたち、ほんとは嫌がってないでしょ。」

 「「え?」」

 あぁ、もういいや。今度来るときには、おかしな癖の人が集まる異常なお店になってるんだろうなぁ。

 「言いがかりはやめてください。」

 リリーサが怒るけど、あなたのせいだと思うよ。


 「言われた通り、商品を並べました。」

 「言われた通り、お掃除しました。」

 まずい、ファリナじゃないけど、段々鼻についてきた。けど、さすがに幼女は燃やせない。

 「幼女ではないです。ミロは13歳だよ。」

 「幼女ではないです。ロミは13歳だよ。」

 「「成人だよ。」」

 「待て!成人がそれでいいの!?」

 13歳って言ったら、黒の森に行って人魔と戦ってもいい年齢だよね。

 「それはヒメだけだから。普通はようやくFクラスハンターになれるくらいだから。正直、わたしたちが一般的におかしいから。」


 「仕方ないの。だってミロは可愛いから。」

 「仕方ないの。だってロミは可愛いから。」

 「「だから、わたしたちはこれでいいの。」」

 「リリーサ、燃やすけどいいよね。」

 「だから、最初から言ってる通り、双子ってこういうものじゃないんですか?」

 リリーサ、世間の一般的な双子に謝れ。


 「色物が多すぎる。これ以上の交友は打ち切るべきとミヤは進言する。」

 「ミロは色物じゃないよ。」

 「ロミは色物じゃないよ。」

 「「色物は店主様かな。」」

 「この世から消しますよ。」

 意外と遠慮がないな、この双子。


 「今日は開店準備はこれくらいにしましょう。ミロロミ、ご苦労様でした。今日の分の給金です。また明日お願いします。」

 銀貨を数枚渡す。

 「ありがとうございます。店主様。」

 「ありがとうございます。店主様。」

 「「それでは、また明日。」」

 だから、動き回らないでしゃべることができないのか、この双子。酷い時は踊る。最低でも、手足をユラユラ動かしながらしゃべられると、聞いてて落ち着かないんですけど。

 「かわいいですよね。」

 成人してない幼女ならね。

 「では、お店を閉めて、わたしたちのねぐらに行ってみましょうか。」

 ねぐらってね・・・

 「朝夕の食事と寝るだけですので。」

 「昼はお店にいるか、どこかをさまよっているかですからね。」

 話だけ聞くと、雑な生活だよね、ハンターって。


 お店からさほど遠くない、村はずれに近い1軒の平屋。

 「キッチン兼居間とわたしたち2人にそれぞれの個室。それに物置代わりの予備の部屋があれば十分ですから。お風呂もヒメさんの家みたいに大きい必要がありませんし、というか、大きいとリルフィーナが一緒に入ろうとするのでいろいろ危険です。」

 「お湯とかもったいないです。一緒なら無駄になりません。」

 「火と水の魔法が使える今、少しくらいなら無駄にしてもかまいません。」

 「うぅ、ヒメさんが魔法を教えなければ・・・一生恨んでやる・・・」

 鬱陶しい。間近で恨み言を言うのはやめなさい。

 「ちなみにあちらのお宅が村はずれのエミールさんの家です。」

 「あれを燃やせば戯言につきあわずに済むのね。」

 「情報に疎いだけなら、隣町にカシムさんもいらっしゃいますよ。」

 「何?そのカシムとかいうのが知っていれば、やっぱり世界中のみんなが知っていることになるの?」

 嫌な汗が流れる。

 「カシムさんは四天王の中じゃ最弱。この国のみんながせいぜいでしょうか。」

 「待って!今四天王って言った?何?4人いるの?4人も常識はずれなのがいるの?」

 「やめて!これ以上聞いたら、怖くてガルムザフトに来れなくなるから、もう聞かせないで!」

 ファリナが耳をふさぐ。いや、それほど大騒ぎのものでもないでしょ。


 「お茶を淹れます。座っててください。」

 家に入るなり靴を脱ぐ。わたしたちの家は入ってすぐの居間で、わたしたちはスリッパに履き替え、お客さんは靴のまま。それより中に入る時はスリッパに履き替えてもらう。

 この家は、居間がフワフワの絨毯を敷きつめていて、スリッパを出されたけど素足でもいいくらい。

 ソファーも足がなく、高さもないため、床に座るかのよう。

 「ヒメさんの家での、床でゴロゴロが快適すぎました。ここに帰ってきたら、素足でゴロゴロしてます。寝室もわたしのところはこの状態です。リルフィーナは布団を床に敷くと片付けないのでベッドです。」

 「え?リリーサ、毎朝布団片付けてるの?」

 わたしでもできないのに。

 「<なんでもボックス>に叩き込んでます。」

 「その手があったー!ベッドいらないじゃん!」

 目から鱗だよ。

 「よけいな事教えないで。部屋が汚れたら全部収納に入れちゃうから。ヒメは。」

 「え?わたしはそうしてますよ。」

 リリーサ、いい事教えてくれてありがとう。

 「女としてダメダメの見本です。やはり、わたしがお姉様の面倒を一生見て差し上げないと。」

 「大丈夫。ヒメ様の老後はミヤが見る。」

 お願い、しみじみ言わないで。わかってるの。今のままじゃダメだって・・・

 「ま、人生、なるようにしかなりませんよ。」

 リリーサだけが妙に明るい。


 「今日のところは帰るよ。リリーサの新しい家もわかった事だし。」

 「わたしたちも、新しいお店の片付けにしばらくかかります。そしたら、また魔獣狩りに行きましょう。」

 「いや、別々でいいんじゃない。」

 「1人占めする気ですね。なんにせよ、珍しい魔獣をゲットしたら、わたしに一報ください。ギルドに売るより高く売って見せます。7:3でいいですよ。もちろん、わたしが3です。ギルドに売らなければ、実績になりませんから、勇者になれって言われませんよ。一石二鳥です。石が1つじゃ鳥が2羽とも逃げられちゃうってことですよね。」

 「違います。石を1つ投げたら、鳥が2羽とれちゃうくらい楽な人生を送りたいっていう引きこもりの現実逃避のお話です。」

 「2人とも、今からでも学校行く?」

 ファリナ、どういう意味よ。少なくとも私は間違ってないはず。


 「じゃぁね。」

 <ゲート>をわたしたちの町マイム近くの森に開く。

 「それでは。」

 リリーサが手を振ってくれる。


 わたしたちは、エルリオーラ王国マイムの町へ。

そして、また明日も同じような日々が続くのだろう。

 今は、それでいいかな。





「白聖女 編」終了です。

次回から新章です。全然展開に変化はないですけど・・・あくまで作者の頭の中の話ですので、気になさらずに。


これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

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