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66.ハンガーに掛け、壁際に並べる


 お店の中を簡単に掃除した後、灰色狼の毛皮をハンガーに掛け、壁際に並べる。

 正面の会計場所の他に、お店に入って右側にも会計する場所がある。机の上にはガラスケースがあって、そこにリリーサが、香草や香木、薬になる木の枝などを並べている。

 その後、机の引き出しに、不気味な笑みを浮かべながら何かをしまっている。毒草?毒草なの?そこだけ会計が別って言うのはそういう事なの?


 「メインの肉を並べるのは明日ですから、今日並べるものはそんなにないですね。」

 リルフィーナがわたしの横に来る。そういえば、パープルウルフの毛皮は出してないな。

 「パープルウルフの毛皮は、目玉商品だから、隠しておいてアッと言わせるとか?」

 「その予定です。肉もその時に出します。最初から出しておくと、他の商品に目が行きません。灰色狼の毛皮と肉がある程度片付いてから出す予定だそうです。」

 草などを並べ終えたリリーサもやってくる。

 「そして、販売はオークションです。バンバン値を吊り上げます。」

 一般商店でそんな売り方していいの?

 「さっきも言いましたけど、パープルウルフの相場はありません。いくらに値をつけても後悔しそうです。なら、お客さんに値段を決めてもらいます。パープルウルフの肉は、各部位セット売り。1人3パックまで購入可能。肉は24パック。最大分を買ったら8人まで。さぁいくらになるんでしょう。」

 「毛皮は?」

 「毛皮は2匹分しかありません。これもオークションです。」

 あまり高いと買ってもらえないよ。

 「そのためのオークションです。もしも、嫌がらせ目的の値段をつけるようなおバカがいたら出禁です。」

 「魔石は?」

 「魔石は今回出しません。自分で使おうかと思いましたけど、貴族か王族に直に売りつけます。値が上がり放題です。」

 楽しそうだね。わたしとしては早く終わってほしい。

 「明日は何をすればいいの?売り子なんてやったことないよ。」

 「ヒメさんたちは、超ミニのスカートで客引きです。」

 「燃やすよ!」

 「冗談です。大人のお店ではないんで、やりません。残念です。個人的に見てみたかったです。」

 冗談ではない。リリーサがやりなさい。

 「服装はそのままでいいです。エプロンだけはつけてくださいね。我先にやってくるお客をキチンとならべてほしいのです。その際には、半殺しまで・・・は多いので、最大3分の1までならシメちゃって結構です。」

 中途半端な数字が一番困るんだけど。ここは、Dead or Aliveでいきたい。

 「消しちゃうのはダメです。消しちゃうのは最後の手段です。その際は、お店の裏でお願いします。」

 待って、どこまでがギャグでどこまでが本気なの。話を振ったのはわたしだけど、マジにしか聞こえないんだけど。


 2階に戻って焼き物の準備。焼き物と言っても陶器じゃないよ。

 「ここでろくろと土がでてきたら、間違いなくリリーサをヤっちゃうわね。」

 「ヒメさんの言った冗談で、何でわたしがやられなきゃいけないんですか。」

 わたしの出したパープルウルフの肉とリリーサの魚の干物が皿に盛られてやってくる。

 「見た目は普通の肉なんだけどね。」

 「ここ10年くらい、この近くの国では食べられたことないっていうから、話が大袈裟に伝わってるだけかもしれないしね。」

 ファリナも首を右から左へ動かしながら肉を眺める。

 「リルフィーナ、窓を開けて。」

 2階の居間部分の通りに面した窓だけは、カーテンを固定じゃなく、雨戸で外からは見えないようになっている。

 この窓を開けることで、リリーサたちの帰還を外にいる人たちに伝え、明日、開店するという連絡にするそうだ。

 リルフィーナが窓を開け、雨戸を開く。


 おおー。

 白聖女様が戻られた。

 開店は明日だ。


 などなど、表から歓声にも似た声が上がる。


 くそー、あさってだと思ったのに。

 今回の倍率は何倍だ?

 やったー、明日の買い付け資金が増えたぞ。


 ・・・本当に開店日で賭博やってるんだ・・・


 肉が焼き上がる。焼き上がりも普通だ。

 「焼けたら七色に光るようなこともありませんでしたね。」

 いや、リリーサ、それ逆に食べていいものか迷うよ。

 「いただきます。」

 パクリ。

 ・・・・・・んー、何これ。

 「おいしー。え、見た目は普通なのに、何これ、ヤバい。」

 「口の中で溶けます。脂身が絶妙なアクセントになっていて口の中いっぱいに風味が広がります。前に食べた中で最高だと思っていた王室専用の牛さんよりおいしいです。」

 「確かに。あれ以上があるなんて、すごいわね。」

 リリーサの感想にファリナが同意。え?あんた、王室の牛なんか食べたことあるの?

 「ヒメもミヤも食べました。村長が討伐の褒美にってくれたんだから。わたし、最高級の肉だって言って食べさせたよ。反応薄かったけど、まさかわかってなかったなんて。」

 あったかな、そういうことも。わたし、基本食事にはこだわりないからなぁ。

 「ファリナが作ってくれたものはなんでもおいしかったから、食材の質なんて気にもならなかったよ。」

 「うまいです。さすが、ジゴロの名をほしいままにしてきた女。勉強になります。」

 リルフィーナ、あんたも肉と一緒に燃やすよ。

 ファリナが喜ぶべきか怒るべきか困っている。

 「事実なんだから喜んでいいよ。」

 「ん、そうする。」

 頬を赤らめ微笑むファリナ。


 「おいしすぎて、試食分じゃ足りません。商品持ってきましょうか。」

 「ダメだよ。けじめはつけないと、売り物にどんどん手をつけるようになるからね。」

 わたしが怒るのを見て、不思議がるリルフィーナ。

 「ヒメさんって、もっと本能の人で、食べ物と女の子には、後先考えないで手を出す人かと思っていました。」

 何かな、その評価は。いいよね、燃やしても。

 「わたしたち、特にヒメは人から離されて暮らしてきて、好きなものを食べることなんて、そんなになかったから食へのこだわりってないのよね。」

 「隔離って、危険物扱いですか?」

 「違うわ!村の中で、特別な巫女みたいな立ち位置だったのよ。」

 聖女の呼び名は、隠しておく。エルリオーラ王国の聖女といえば、『爆炎の聖女』だと知っているかもしれない。

 「なるほど。わたしたちってどこまでもそっくりなんですね。」

 はぁ?どこが?と言ってやりたいけど、生い立ちが似てるのは自覚してるから、よけいなことは言わない。

 「おバカなところはそっくり。つきあわされる身としては、勘弁してほしいけど。」

 「うん、おバカ。」

 ファリナとミヤがしみじみと言う。え?リリーサと同率のおバカ?それは人としてどうなの、と思うし、断じて似てない。あいつの方がおバカだ。

 「おバカさ加減で比べるのは難しいですね。どっちもどっちですし。まさか、お姉様と並びうるおバカがこの世界に存在するなんて、ビックリです。」

 「リルフィーナ、あなた、わたしを敬う気が全くないですよね。」

 というか、わたしも込みでディスってるよね。

 「じゃ、魚焼きますね。」

 誤魔化す気だ。


 久々のお魚は美味しかったけど、それを霞ませるほどのパープルウルフの肉の味、恐るべし。

 「リリーサの話じゃレッドウルフでもいけるって言ってたよね。剣出来たら、試し切りついでにウルフ目当てで山越えてみようかな。」

 「さすがに、ウルフで戦争は嫌だな。」

 「バレなきゃいいのよ。」

 「ほんと、リリーサそっくりよね。」

 ファリナ、言ってはいけないことを。

 「言ってくれれば手伝いますよ。こんなおいしいものが食べられるなら、多少魔人族と揉めてもかまいません。」

 「わたしはかまうからね。」

 リリーサが乗り気だ。やるのはいいけど、揉めるのは勘弁してほしい。

 「やるなら証拠を残さず皆殺す。後腐れはなしで。」

 ミヤもやる気だ。やるならそうなるよね。

 「やらないからね。」 

 ファリナは冷静だ。わたしも本気で言ってるわけじゃないよ。

 「優柔不断ですね。どっちなんですか?ウルフを狩りに行きたいんですか?行きたくないんですか?」

 「行かないよ。こっちから魔人族の領地なんか行きたくないよ。あいつら鬱陶しいし。」

 「でも、ヒメさんの父上の一族なんですよね。」

 「リルフィーナ!」

 リリーサの厳しい声が響く。

 「ご、ごめんなさい。」

 リルフィーナが小さくなる。

 「いいよ、別に。わたしは魔人族が身内だなんて思ったことない。あいつらだって混血のわたしを一族だなんて認めないだろうし。第一、父親が魔人族って言ったって、見たことも会ったこともないのよ。それに・・・」

 言い訳してるなとは思う。

 「・・・今まで散々ヤっちゃってるしね。」

 笑ってるつもりだったけど、みんなの顔色を見ると笑えてないかな。

 みんな無言。

 「ところで、これって窓から表に会話が聞こえてるってことないでしょうね。」

 「え?あ!」

 リリーサが青ざめる。え?まじ?

 「心配ない。内容が不穏になってきたから、遮音魔法で音が表に出ない様にしてある。」

 「そんな魔法あるんですか?」

 ミヤの説明にリリーサが驚きの表情。

 「表の奴ら皆殺すのとどちらにしようかと思ったけど、食事中に席を立つのはマナー違反。遮音魔法の方にした。」

 「マナーって大事なんだね。」

 無駄な血が流れないですんだよ。

 「そういう意味なのかしら?」

 ファリナが半ばあきれ顔。

 「ミヤはヒメ様のつがい。ヒメ様の妨げになりそうなものを作らせない。できてしまったなら全力で排除する。最優先事項。」

 「うん、ありがと。ミヤ。」

 頭を撫でてやる。

 「てれてれ。」

 「それより、遮音ってどうやってやるんですか?」

 リリーサが興味津々だ。

 「リリーサとヒメ様は、教えたらできそうだから教えない。この世の理を破壊しかねない。」

 「え?そんなにまずい魔法なの?」

 「これは、大したことない。けど、見知らぬ魔法を覚え続けると、いつか理にあだなす領域に至る。身の程というものがある。」

 ミヤがいつになく真剣な目でわたしを見る。

 「わかったよ。気をつける。」

 今だって、町1つ壊せる魔法を使えるんだ。気をつけないと。

 「ヒメ様が覚えたいなら教えるのはやぶさかではない。理でも世界でもヒメ様が壊したいなら壊せばいい。ミヤは止めないし、協力もする。リリーサはダメ。世界を壊していいのはヒメ様だけ。」

 「ズルいです。ズルいです。というか、わたし、世界壊したいなんて考えません。」

 ジタバタするリリーサ。

 「いいです。後でヒメさんに教えてもらいます。」

 「え?わたしは覚えなくてもいいかな。ミヤがいればいいんだし。」

 「ズルいです。ズルいです。やっぱり一家に一台ミヤさんです。」

 そんなにいないから。

 「でも、ミヤさんっておかしなとこあるから、半分に切ったら2つに増えないですかね。」

 リルフィーナ、いくらなんでもそれはないと思うよ。

 「2つ言うな。2人言え。」

 そこかい!

 「やってみましょうか?ダメだったら<モトドーリ>で何とかするから、いいですよね・・・」

 リリーサ、やめなさい。返り討ちにあうから。ていうか、その前に2つに切っちゃったら、再生できないんじゃないの。死んじゃうよね、いくらミヤでも。

 「そういえばさ・・・」

 急に思い出したからどうしようと思ったけど、ここは無理にでも話を変える。

 「ブラッドメタルベアって今回売らないのよね。」

 「次回の目玉です。あまり目玉商品を出すと1つ1つが軽く見られます。今回はパープルウルフでいきます。」

 「あれってゴルグさん解体できるの?かなり大きいよね。」

 「肉も食べられないくらい固いですから、1人じゃ無理かもしれません。仲間を集めて何人かがかりになるでしょうね。」

 よし、リリーサの意識がこちらに向いた。

 「でも、それだと、売れる商品が毛皮2枚だけになっちゃうよね。他に何か用意しないといけないんじゃないの。」

 「そうですね。ただ、灰色狼はそろそろ種の保存的意味合いで狩るのをやめないといけないかもしれません。まぁ、今回の遠征で、バイエルフェルン王国までは<あちこち扉>で行けるようになりましたから、他の目玉商品を探すのもいいでしょう。」

 わたしの質問にリリーサが考え込む。

 「それは、今回の商品売り終わってから考えましょう。ヒメさんたちも、お客さんにさり気なく、次回にでも欲しいものを聞いてみてくださいね。」

 リリーサがまるで、将来を見据えているよう。リリーサのくせに。


 そして、明日の不安を胸に、わたしたちは眠りにつく。リリーサの意向により、居間に布団を敷いてみんなで雑魚寝。

 逃げ出すなら今のうちかな・・・





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