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62.休憩を取りながら作業することにした


 結局、5人もいても役に立たないということがわかり、わたしたちは2組、ハンターパーティーごとに分かれて休憩を取りながら作業をすることにした。

 バラバラにされた肉は袋に、内臓は瓶に詰め、とりあえず保冷庫へ。

 毛皮は風通しのいい網戸を入れた大きな窓がいっぱいある部屋に干す。


 灰色狼解体の作業は夕方遅くまでかかった。

 ずっと作業していたゴルグさんは、未だにピンピンしてるのに対し、休みながら荷を運ぶだけしかしていないわたしたちの方がグッタリしてるのは情けない。歳だって若いのに。


 「もう少しだな。パープルウルフの解体をやってしまうか。」

 ゴルグさんの言葉に、リリーサは猛禽類のような目でわたしを見る。わたしは、あえて目を合わせない。

 (大丈夫、大丈夫。目を合わさなきゃ襲ってこないから・・・)

 心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。

 「けっこう失礼ですね。わたしは魔獣か何かですか?」

 リリーサが、必死に目を逸らし続けるわたしににじり寄ってくる。

 「魔獣の方がマシ。燃やせるもん。」

 「ほんと、失礼ですね。まぁ、いいです。ねぇ、ヒメさん。パープルウルフは何かで必要ですか?」

 しまった。つい目を見てしまった。獲物を狩る肉食獣の目。そして、わたしは、それから逃げる小さくてかわいい草食動物。

 「どっちも肉食の大型獣。隙を狙いあってる。」

 ミヤ、うっさい。

 「わたしに譲ってください。今なら・・・」

 急に目つきが熱っぽくなる。

 「・・・わたしのスカート、捲ってもいいですよ。」

 「ウガーーーーー!!!」

 わたし、大暴れ。


 「おかしいです。スカート捲らせれば何しても、何言ってもOKのはず。」

 「お姉様の色気が足りないのでは。あ、でも、わたしは今のお姉様で十分ですよ。」

 「色気が足りない・・・色気ってなんでしょう。赤か青色でも顔に塗っておくべきだったでしょうか。」

 「緑もいいのでは。」

 「緑・・・難しいです。」


 「頭がおかしいやつで助かった。あのまま無理に迫られたら・・・」

 「押し倒されちゃった、とか言うんじゃないでしょうね。」

 ファリナがきつい目つきでわたしを見る。

 「・・・<爆炎>かますとこだった。」

 「この距離とこの人数で<爆炎>は、ミヤも防御壁張り切れないから勘弁してほしい。」

 うん、人死にがでるとこだったね。

 「町一つ消滅だからね。人死にがどうこうじゃないから。」

 「大丈夫ミヤがいる。町の10分の1くらいはギリギリ守れる。」

 うん、あまり大丈夫じゃないかな。


 「普通に頼みます。ヒメさん、パープルウルフ譲ってください。」

 わたしの前に来て、頭を下げるリリーサ。

 「久々の超高額商品です。なんとかなりませんか。」

 「わたしの持ってるパープルウルフは頭がほぼ無いし胴体は傷だらけだよ。」

 ミヤが切り裂いちゃったから。

 「パープルウルフの毛皮なら、頭がなくても、傷が多少あっても高く売れます。」

 「魔石は欲しいんだ。」

 「うっ、それは・・・わかりました。わたしの持ってる分1個で我慢します。」

 さんざん悩んだ結果、妥協したようだ。

 「ミヤ、1食で我慢できる?」

 「食べられるのなら構わない。」

 ミヤもリリーサの必死さに打たれたよう。

 「魔石と肉3人前、1食分。あと、肝臓と膵臓を薬にして。それ以外は、いいよ。リリーサにあげる。」

 「いいんですか?あ、代金は払います。そんなには出せないけど。」

 「いいよ。リリーサにはそれなりに、お世話になった・・・なったよね・・・あれ?」

 「なぜ、疑問形になりますか。ダメです。お友達だからこそ、一方的な供与は受けられません。それとも・・・あれですか?お金じゃなく、スカート捲り以上の行為をわたしにお望みですか?ヒメさんのエッチ。」

 「ウーガーァーーーーー!!!」

 「<爆炎>はやめて!」

 「とりあえず、ファリナはミヤの後ろに。後はもう知らない。」

 大騒ぎだった。


 「では、魔石と肉と肝の薬をヒメさんに。それ以外を金貨2枚でわたしが譲り受けます。」

 ただではもらえないと、リリーサが頑ななので、その値段になった。

 もっと少なくてもいいと言ったのだけど、頭の無い毛皮、肉の残り、牙や爪などで金貨何十枚にもなるそうで、金貨2枚でも、かなり安く仕入れた事になるそうだ。まぁ、そうか。狩ったのはわたしたちで、リリーサにすれば、仕入れの費用はかかってないんだもんね。

 「話はついたか?なら解体するぞ。待ち時間が長すぎる。」

 ゴルグさんがムッとしてる。待たせっぱなしだもんね。

 慌てて、わたしとリリーサは、作業場にパープルウルフを出す。

 「ヒメも、収納持ちか。」

 驚いたようにわたしを見る。

 「まぁ、それぐらいでないと、リリーサとはつきあえんか。こいつの性能はおかしいからな。」

 「つきあってませんよ。お姉様とラブラブなのは、わたし、リルフィーナですよ。お忘れなく。」

 何のアピールなのよ。そういう事は、父親のズールスさんの前でやりなさい。

 「ヒメのパープルウルフ、切り口がきれいだから、裏から縫ってやれば頭もつけたまま毛皮にできるぞ。胴体もそれほど傷が目立たない様にできそうだ。」

 「本当ですか。お願いします、ゴルグさん。」

 リリーサが嬉しそう。

 「さすが、ミヤだね。」

 頭を撫でてやる。

 「てれてれ。」

 嬉しそうにわたしに抱きついてくる。

 「ミヤさんでも喜ぶんですね。褒めても、『それが何か?』みたいな顔で、全然無視されてたから驚きです。」

 リリーサがミヤを意外そうに見る。

 「ヒメから褒められたらね。」

 ファリナが微妙な表情でこちらを見てる。

 「ファリナから褒められてもうれしい。」

 「はいはい。」

 ミヤは、わたしたちには正直な感想を言ってくる。ただ、良いことも悪いことも全て正直に言ってくるのが玉に瑕なんだけど。


 「それで、肝の薬ってのはどうやって作るんだ?ここじゃ無理ならできるところを探さにゃならん。」

 「あ、ごめん、ファリナお願い。」

 そういう専門的な話はファリナじゃなきゃ無理。ファリナがゴルグさんに説明する。

 「ファリナさん、すごいですね。頭のいい女性って感じで憧れます。」

 「うちの頭脳担当だからね。」

 「一家に一台ファリナさんでしょうか。これは、あれですね。こちらのリルフィーナと、そちらのミヤ・ファリナを交換しましょう。わたしのパーティー完璧です。」

 「わたしのパーティー壊滅じゃん。」

 そのくらいの自覚はある。わたしが一番いらない子なのかもってね。

 「ヒメ様がいないならミヤがここにいる意味はない。」

 「どちらかというと、わたしが、一番、いらない・・・」

 ゴルグさんに説明が終わったファリナが寂しそうにして、視線を合わせようとしない。

 「違うよ。ハンターパーティーとしてなら、別に3人でいる必要はないよ。けど、わたしたちはそうじゃない。生きていくうえで3人一緒じゃなきゃいけないの。1人でも欠けたら、生きていけない。」

 「そう、だったね。うん。」

 「3人一緒。」

 わたしたちは、集まって抱き合う。


 「何気にこの3人、人目もはばからず、暇なし抱き合ってますよね。ハレンチです。」

 「う、うっさい!」

 わたしとファリナが、顔を真っ赤にしてリルフィーナを睨む。ミヤはそれが何か?とばかりだ。

 いい感じだったのに。

 「わたしたちも負けてはいられません。さぁ、お姉様、カモンです。」

 両手を広げてリリーサを待つ。

 「ヒメさんほど羞恥心を欠如していません。無理です。というか、なぜリルフィーナと抱き合いますか。」

 「あれ?場の流れで抱き合うところですよね、ここ。」

 おバカな会話の後ろで、ゴルグさんが黙々と作業する。

 「ごめんなさい。ゴルグさん。やります、手伝います。」

 慌てて、全員配置につく。何も言われないのが一番こたえます。

 「肝の薬は、ここでも作れそうだ。今日はもう時間無いから、臓器の管を焼いて塞いで体液が出ないようにして瓶詰にしておく。肉と毛皮も今すぐ必要なわけじゃないのだろう。今日のところは保冷庫と部屋に干しておいて、明日作業しよう。魔石だけは渡しておく。」

 白い魔石。中央に氷の魔法陣を複雑にしたような文様が見える。

 「魔獣の魔石って始めて見たよ。それに、ゴルグさん、薬作れるの?そういうのって病院か薬局の専門知識のある人じゃないと無理だと思ってた。」

 「思ったより簡単なようだからな。煎じ薬よりは難しいが。」

 「この辺は、大きな病院ないからね。薬でもなんでも、必要な物は作れる人が作ってきたのよ。」

 リャリャさんがお茶を人数分持ってきてくれた。

 「それより、リリーサと同じレベルのハンターなら魔石くらい見たことあるものだろう。」

 「魔獣はそのまま渡してたからね。解体してるとこ見たこともないよ。」

 ウソです。昔のわたしたちに回ってくる仕事は、ほとんどが魔獣以上の存在の殲滅なんで、狩った事すらありません。ほぼ全部燃やしました。

 「貴族に騙されてますわ、それ。ちゃんと依頼を受ける時に契約書に明記させないとだめですよ。向こうに渡すにしても。」

 「うん、今度から気をつけるよ。」

 そう言いつつも、わたしとしては、魔石を持つような高位の魔獣とは今後戦うつもりはない。向こうからケンカを売ってこない限りは。今のわたしたちには、そんなの必要ないからね。


 「遅くなったけど食事の支度ができてるよ。食べておゆき。若い人の口にはあわないかもしれないけど。」

 リャリャさんが作業場から居住部分へと案内してくれる。

 もう、夜も結構更けている。そういえば、晩ご飯抜きで作業してたんだね。

 晩ご飯をご馳走になって、エルリオーラ王国のわたしの家に戻ることにする。

 「どうせ明日も来るんだ、泊まっていってもいいんだよ。」

 「ありがとうございます。リャリャさん。でも、そこまで面倒かけるわけにはいきません。大丈夫です。わたしなら一瞬ですから。」

 空間移動魔法をオープンにしてると、説明が楽でいいなぁ。わたしはオープンにする気はないけどね。


 「朝の物置から帰るの?正直狭いんだけど。」

 「もう、夜遅いですし、見てる人もいないでしょう。裏庭から<あちこち扉>開きます。ヒメさんの<げーと>にしますか?」

 「行きはリリーサに頼んだから、帰りはわたしがやるか。あっちだったね。」

 エルリオーラ王国の方角を向く。<ゲート>を開いたことのある場所がいくつか思い浮かぶ。マイムの町近くの森は・・・これだな。

 「よし、じゃ行くよ。」

 「はい。じゃ帰りますか。わたしたちの家へ。」

 ・・・サラッと言ったけど、リリーサの家じゃないからね。




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