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52.いっぱい狩る時手伝ってもらいます


 「今度、何かをいっぱい狩る時手伝ってもらいます。数が多いと、リルフィーナだけじゃ刺すのが大変です。」

 言い方少し考えてください。刺すのが大変って。

 「あれ、さっきはお金がどうとかいってなかったっけ。てっきりお店を手伝えって言われると思ってたのに。」

 「そう考えていたのですが、ファリナさんはいざ知らず、ヒメさんじゃお客様を燃やしかねないし、ミヤさんは・・・接客無理ですよね。」

 「それは失礼。ミヤだってお客を捌くことくらいできる。何枚に捌けばいい?」

 いや、ダメだからそれ。鉤爪しまえ。

 「なので、できることで信用を取り戻していきましょう。」

 勝手にお友達認定されて、勝手に嘘ついたと言われて、納得できないはずなのに、ごまかそうとした罪悪感が間違いなくある。なんでだろう。

 「恋、でしょうか。ポッ。」

 「鯉なら捌ける。」

 「いいわね、切り刻んじゃいなさい、ミヤ。」

 会話がつながってないはずなのに、微妙につながってるように見えるのはなぜ?


 「切り刻まれたら治すのが大変なので、帰りましょうか。マイムの町近くの森まででいいんですよね。」

 「お願い。」

 リリーサに<あちこち扉>を開いてもらう。

 あっという間にわたしたちの町に帰ってきた。その足で、ロイドさんの屋敷に向かう。


 「だったらロクローサの町って言ってください。最初から向こうに行きましたものを。」

 「だって、リリーサはロクローサの町の場所知ってるの?」

 「昨日言いましたよね。旅の宿の関係で、この国の領地や町はけっこう詳しいって。」

 「覚えてないよ。うちにもリルフィーナが1台必要かな。」

 「あげますよ。これも昨日から言ってますよね。」

 「昨日は、結局あげませんっていわれたよ。」

 「いらないことだけ覚えてるんですね。プンプン。」

 「わたしの売買は、わたし込みでやってください。そして、ヒメさん。わたしは高いですよ。」

 わたしとリリーサの会話にリルフィーナが割り込んでくる。

 「3食昼寝付き。」

 「考えさせてください。」

 考えるのかい。

 「わたしが行きます。」

 リリーサが来るのかい。

 そうこうしてるうちに、ロイドさんの屋敷に着いた。


 「待て。とりあえず待て。あといっぺんに話すな。」

 ロイドさんが頭を抱える。

 行って帰ってきた経緯を、わたしとリリーサが2人で一気にまくしたてたところに、さらにリルフィーナが、リリーサがいかに凄いかをさらにまくしたてる。ロイドさんの理解の許容範囲を大きく逸脱したようで、わたしは少しだけ溜飲を下げた。間接的にパーソンズ家への恨みの一部を返してスッキリだよ。


 「その、何とか扉というのを使うとどこでも行けるのか?」

 「<あちこち扉>です。一度行ったことのある場所に限られますけど。」

 「それで、バイエルフェルン王国まで行って、灰色狼を狩って、さらに、その魔法で帰ってきたと。」

 微かな笑みを浮かべてこちらを見るロイドさん。バカにされてると思ってるのかな。

 「正直、ハンターの能力に関しては、たとえ国王様に対してであっても説明責任はないはずです。ですから、出発時は言いませんでした。今は、ヒメさんの顔をたてて説明しております。なので、質問は受け付けませんし、わたしどもに対して不当な言動がありましたら、我が国のギルドを通して、それ相応の対応がなされるとお考え下さい。」

 「ガルムザフトの白聖女に手を出すほど私も愚かではない。ただ、何でもありだな、と思っただけだ。それに、私が欲してる灰色狼を手に入れてきてくれたんだ。礼こそあれ、不満などないよ。」

 ロイドさんが降参とばかりに両手を上げ、首を左右に振る。

 「で、ヒメさんの分23匹。この屋敷に置いておけばいいのですか。」

 「解体して、必要な部位を分けなければいけない。ギルドの解体場に頼むしかないか。」

 「ギルドですか。あのお姉さんがまた絡んでこなければいいけど。」

 「あぁ、ノエルさんは、マイムの町のハンターギルドの受付だから。ここ、ロクローサの町のギルドに行けば会わないよ。」

 「そう言えば町が違うんでしたね。勘違いしてました。」


 「ファリナお姉様が戻られてるんですか?今朝出発したばかりですよね。わたしに会いたくて急いで帰ってきたんでしょうか。これはもう、愛ですよね。」

 廊下の方から声がする。ファリナの顔色が一瞬で変わる。

 「いなくてラッキーと思ってたのに。」

 悔しそうに手を握りしめるファリナ。

 「早く行きましょう。3秒以内に出発します。1秒でも遅れたら、ヒメに言って灰色狼を燃やしてもらいます。」

 「わ、わかった。すぐ行こう。」

 「あ、ファリナお姉様。」

 部屋を出たわたしたちに声をかけるフレイラ。

 「ごめんね、フレイラ。今急ぐから、また後で。」

 「わたしも・・・」

 「燃やす。」

 「フレイラ、仕事なんだ。留守番してなさい。」

 ファリナのロイドさんにだけ聞こえただろう一言で、ロイドさんが慌ててフレイラを止める。

 「むー!」

 むくれるフレイラを残し廊下を進んでいく。

 「馬車の用意をします。」

 廊下の角からエミリアが現れる。

 いや、あんた、サラッと今出てきた風だけど、さっきまでわたしたちがいた部屋の前で立ち聞きしてたよね。これ以上場を荒らしたくないから言わないけど。


 馬車でハンターギルドに向かう。

 いつもの、わたしたち3人と、ロイドさん、エミリアに加えリリーサとリルフィーナもいるため、そこそこ大きい馬車でも、席がギリギリだ。

 「わたし、こちらでいいですよ。」

 リルフィーナは、表に出て、御者さんの隣に座らせてもらっている。

 「白聖女様はわたしの隣に。」

 エミリアが、仕方ないみたいな顔で、ロイドさんの隣にピッタリくっついてスペースを開ける。

 「申し訳ございません、旦那様。」

 「かまわんよ。さぁ、どうぞ、白聖女様。」

 (いかがわしい策略に利用されている気もしますけど、まぁ、客分の身。贅沢は言えないでしょう。)

 エミリアの隣に座りながら、小声で呟くリリーサ。

 (刺しますよ。)

 (この世から消しますよ。)

 にこやかに見つめ合う2人。あぁ、鬱陶しい。


 「そう言えば、領主様、わたしとヒメさんで半分ずつにしたので、23匹ずつですけど、わたしの分、もう5匹ならお譲りできますけど、いかがですか?」

 「本当か。なら、それで28匹。私がギルドから売りに出される前におさえたものが1匹、ヒメから譲ってもらったものが1匹。全部で30匹になる。すまないが売ってくれないか。代金はどのくらいあればいい?」

 「入手にはヒメさんにも手伝ってもらいましたから、そうですね、相場の1.5倍でいかがでしょう。それならガルムザフトで売るのと大差ないですから。」

 「いいのか、2、3倍くらいと言われる覚悟もしてたのだが。」

 「今回は、いろいろと得るものもありましたし、なによりヒメさんというお友達もできました。そのお祝いも含めまして大サービスです。」

 「そうか、ヒメたちには世話になってばかりだな。助かる。」

 作りたくない貸し借りがあちこちで発生してる。おかげで、溜まっていくばかりのストレスはどこで発散したらいいものか。

 「やっぱり、猿には滅んでもらうしかないかな。」

 「不穏当な発言はやめなさい。」

 「やるならミヤもやる。」

 「何の事だ?」

 「何でも、この国の岩投げ猿が絶滅の危機に瀕してるというお話らしいですよ。」

 ロイドさんの質問に大変ですねーと答えるリリーサ。

 「岩投げ猿は縄張りを争わない限り戦いませんし、何と戦って滅びるというんですか。」

 エミリアがバカバカしいと言わんばかりだ。

 「ヒメさんが縄張りを主張してるらしいですよ。」

 「してないよ!」

 人を動物かなにかみたいに言わないで貰いたい。

 「あぁ。」

 なんで、なるほどみたいな顔してるかな?エミリア。

 「なら、仕方ないか。」

 ロイドさん、何納得してるかな?

 くそー、燃やすべきかな、ここは。


 ロクローサの町のハンターギルドで解体を依頼する。肉などはロイドさんが受け取り、ギルド経由で市場に売るわけではないので、今回は解体料が発生する。もちろん、ロイドさん払いだ。

 「28匹となると結構な時間がかかる。ギルドにまかせておいて、私たちは家に戻ろう。みんなに依頼料を払わなければな。」

 ファリナが一瞬嫌な顔をするけど、行かなければお金は貰えない。フレイラとお金を天秤にかけて、あきらめてパーソンズ邸へ行くことにする。


 「わたしも・・・」

 「依頼料など細かい話になる。終わるまで待っていなさい。」

 お金の話をするために、いつもの応接室に集まっていたところに入ってこようとしたフレイラを、一旦追い出し。わたしたちは依頼料を受け取る。

 こういう展開なので、わたしを抜きでとはいかず、ちょっと困った風のファリナだったけど、今回はあきらめたのかわたし込みで話をすることになる。


 「では、白聖女様には、灰色狼5匹の代金とバイエルフェルン王国に払った税金分を合わせて、これを。」

 金貨30枚前後かな。人のお金なので、しげしげと見るのもあれなんでなるべく見ないようにする。

 「リリーサです。呼び捨てで結構です。白聖女と呼ぶのはおやめください。もう聖女ではありませんので。」

 さっきからの聖女呼びが癇に障ったのか、ちょっとぶっきらぼうに言うリリーサ。

 ロイドさんの後ろに控えるエミリアが、文句を言うかと思ったけど、大人しく聞き流す。

 「わかった。で、こちらがヒメたちの分。」

 皮の袋に入ったお金をファリナに渡す。

 貨幣が数十枚だと思うけど、袋に入ってるからよくわからない。

 ファリナが、中を確認して頷く。こういう手があったか。さっき、ファリナがロイドさんになんか話しかけてるとは思ったけど、そうきたか。まぁ、いいんだけどね。いくら貰ったかなんて。

 「後で報告するね。」

 袋を隠すようにして、わたしに告げる。

 「一息つくか。エミリア、ライラに言ってお茶の用意を。フレイラも入ってくるだろうから、エミリアの分と合わせて頼んでくれ。」

 「ご一緒してよろしいのでしょうか。」

 「今は私とマリアの護衛だからな。今日のところはかまわない。」

 「はい。」

 嬉しそうに部屋を出るエミリア。すぐに戻ってくる。フレイラを連れて。


 「お隣の国にいくと言ってませんでしたか。早かったですね。わたしに会いたくて早く戻られたんですか。嬉しいです。」

 ファリナの返事を待たず、矢継ぎ早に言葉を連射するフレイラ。

 「今日は泊まっていかれますか。わたしの部屋でかまいませんよね。一緒に寝ましょうか。きまり・・・」

 「あぁ、それは無理かな。これからまた出かけなくちゃいけないから。」

 最後まで押し切られる寸前になんとか妨害に成功する。危なかった。

 「チッ。」

 お嬢様が舌打ちするんじゃありません。


 「どこかへ行くのか?」

 ロイドさんがわたしを見る。

 「ちょっと、ガルムザフトに剣を見に。」

 まぁ隠すことでもないしね。一応言っておかないと、後から文句でも言われたらたまらない。

 「剣?エルリオーラのものではダメなのか。」

 「なんでも、腕のいい人格最低の鍛冶屋がいるんだって。」

 「なんだ、それは。」

 「ズールスっていうんですけどね、わたしのショートソードも打ってもらったんですよ。」

 リルフィーナが椅子の横に立てかけてあった剣を持ち上げる。

 「ズールス?ズールス様が戻られてるんですか?」

 なぜか声をあげたのは、エミリアだった。





申し訳ありません。

暑さとお盆込みで、次回投稿は 8月18日(日)を予定しています。


ここしばらく夜も暑くて、作業がまったくはかどっていません。体調もいろいろアレです。

皆様方も体調にはお気をつけください。またお盆明けにお会いしましょう。


それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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