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511.魔王のいる風景


 とりあえず発動するかどうかわからなかったけど、<豪炎>を撃ちこむ準備をして部屋の中に飛び込む。

 中をざっと見回す。わけのわからない機械が並び、その前で人魔がその機械をガチャガチャやっていた。機械なんて工房にあるのを見たくらい。それももっと小さなものを。だからその場所はちょっと異様な感じをおぼえた。

 「お前らは何者だ!?」

 人魔の1人がわたしたちを睨みながら、座っていた椅子から立ち上がった。

 「お前らに名乗る名前などない!」

 ミヤがものすごいスピードで立ち上がった人魔の傍まで移動する……なり人魔を殴り倒す。さらに、人魔がさわっていた機械にいきなり蹴りを入れる。

 ボン!と音を立て、ミヤが蹴った機械から黒い煙が上がる。

 え……と、それって壊していいの?

 「どうせもうじき地面に落ちる。結果は同じだ。」

 落ちるのが早まるということは?

 「なるようにしかならん!」

 多分、城に侵入してわたしたちと別れてから、再会するまでいろいろあったんだろう。ミヤがなんか投げやりだ……まぁそれを言えば、わたしもファリナもいろいろあったんだけどね。特にファリナは……どうしよう、詳しい話を聞くのが怖くなってきた……


 とまぁ、いきり立っているミヤとそれを見て引き気味のわたしたちを、自分たちの席から見てどうすればいいのかとオドオドしているらしい人魔たち。こちらに向かってくればミヤに張り倒されそうだけど逃げ出すわけにもいかない、といった面持ち。その膠着状態を破るかのように部屋に声が響いた。


 「お前たちは何者だ?」

 同じ質問が投げかけられた。今度は頭の上から。

 声の方向を見上げると、部屋の壁の2階か1,5階くらいの高さに壁からせり出すようにテラスのようなものがあり、そこに人形を纏った魔神が1人、こちらを睨みつけていた。

 「あなたが今の魔王かしら?」

 「そうだ。私が魔王ジャザラーグ・リャンダルクだ。」

 逆に放ったわたしの質問に、自分の質問を無視されたことを気にした様子もなく答える魔王。割といい人かも……

 「見たところお前たちは人族のように見えるが?なるほど、一緒に忍び込んだ天人族の使用人といったところか。お前たちだけでは話にならんだろう。上位の者を出せ。それまでは生かしておいてやる。人族の女の、しかも子どもなど相手にならん。」

 ずっと思ってたんだけどさ、どの種族でも偉ぶってるやつってどうして古いというかおかしな言い回しするんだろうね?

 「かっこいいつもりなんでしょ。」

 かっこいいかな……?

 「う、う、うるさいわ、愚か者が!さっさとしろ!人族でもかまわず叩きのめすぞ!」

 図星をさされてムキになったな……


 「この城に来たのはわたしたちだけなの。残念だね。」

 わたしの言葉に魔王が黙り込む。

 「お前たちだけで魔法陣のまわりにいた兵を皆倒したというのか?」

 いや、それは初耳だな。横目でミヤを見る。

 「み、ミヤではない……が、鳥と……いや、鳥が何かやっていたようだが、ミヤは魔法陣をなんとかするのに忙しくて関わってない。」

 そうか、鳥さんいやピヨちゃんがいるんだ……というか、リューちゃんもいたよね?で、なんか言い淀んでたけど、なに?まさかまだいるとか言わないよね?って、こら!視線を逸らすな!こっち見ろ!

 え?なに?4人目も来てるの?

 「え?亀さんだっけ?」

 ファリナが首をかしげる。

 「か、亀は来てない……と思いたい……」

 自分たちの世界放置?いや、まぁいいけど……

 「コソコソ話をするな!はっきり答えろ!」

 あぁ、魔王もいたんだっけ……なんか他の方向で事態が大変すぎてすっかり忘れていたよ。


 「人族が!」

 わたしたちに半ば無視されて、怒りに燃えた魔王が、上階の、魔王の腰までありそうなテラスの手すりを乗り越えてわたしたちの前に落ちてくる……いや、降りてくる。

 「女子どもだから命は助けてやろうと思ったが、その小生意気な態度は度し難い!命でその罪を贖うがいい!」

 そっちこそ、こんなはた迷惑なものつくって人騒がせな!あの世で反省しなさい!


 機械があるけど、そこそこ広いこの部屋で、わたしたちと魔王は正面から対峙した。

 この様子を見て、そこにいた人魔たちが巻き込まれてはたまらないとみんな逃げだす。

 そんな都合はわたしたちには関係ないので、わたしはかまわず魔王に<豪火>を放つ。よし、ちょっと威力が弱いけどイメージに近い炎を撃てた。

 炎は、人形が持つ剣に弾かれて機械にあたる。魔王がやってるんだからここの施設って壊しても大丈夫なのかな?

 「よくはないと思うわよ。」

 「魔王も城が墜落するのは覚悟の上ということか。」

 いや、わたしたちを墜落に巻き込まないでよ。

 「くらえ!<泥針でいしん>!」

 魔王がこちらに手を向ける。

わたしたちの足元の床から、鋭く尖った岩の針が何十本も飛び出してくる。慌てて飛びのくわたしとファリナ。ミヤは両手を振り回して岩を砕いていく。大丈夫なの、あんた……?

 ちょっと状況に驚いていた間に、魔王が人形を纏っているとは思えない速さでわたしたちに近づいてきた。

 「死ねっ!」

 わたしたち3人を薙ぐように剣を横に振りきる。

やばい!ミヤが気になってそっち見てたから、あっさり間合いに入られた!間に合え、物理障壁!剣を障壁でガードしようとしてたら、ミヤに首根っこ掴まれて後ろに引きずり倒された。

 んぎゃ!な、なにすんのよ!?後頭部を床に……痛いぞ、こら!

 ミヤを怒鳴ろうとしたところで、床に寝転んでいたわたしの顔の上をなにかが飛んでいった。今のって風魔法の刃?

 「剣に魔法を纏わせている。普通の防御じゃ剣か魔法に斬られるぞ。」

 え、マジ?あまりに急だったから剣を防御しようとするのが精一杯だった。あぶない、あぶない……ミヤ、ありがとね。

 「ヒメ様とファリナは目の前にいる限りミヤが守る。」

 ありがと。守られているばかりでいるつもりはないけどね。

 「フッフー、わたしだって戦えるからね。」

 ファリナが自信満々。いつもの一歩引いた感じがまったくない。

 やっぱり偽ファリナなんじゃ……

 「もしくはファリナもどきかもしれん。」


 「なにをおしゃべりしているか!今は戦いの最中ということを忘れたか!?」

 魔王が再び剣を振り上げる。今度は上段から振り下ろす気か……よく見たら、確かに剣に魔法を纏わせている。魔力が剣ときっちり重なって、わかりづらくなっている。この魔王、結構緻密な魔法使えるんだ。

 けど!


 <分解>!

 わたしの魔法が魔王の剣を塵にする。

 そう、そこまで緻密な魔法を使えるということは、この場に対する飛行魔法の影響が小さくなったということ。なら、こっちも魔法を使い放題だ。

 「問題は、そうなったということは、この城がいつ真っ逆さまに落ちてもおかしくないってことなんだけどね。」

 言わないで、ファリナ!考えないようにしてたのに!

 魔法が自由に使えるということは、飛行魔法の効力が切れる、ということ。この巨大な城を空中にとどめている力がなくなるってこと。

 魔力という足場がなくなれば、地面に落ちるしかなくなる。


 問題はここが空中何メートルなのかってことよね。1メートルとか2メートルなら衝撃は大したことないだろうけど、10メートルとかあったら、落ちたら痛そうだな。

 「およそ74メー……」

 言わなくていいからね、ミヤ!聞きたくないから!

 窓をチラッと見てなにか言い出したミヤを慌てて止める。あぁ、聞きたくなかった……


 魔方が使えるようになってきたということはじきに飛行魔法の効果は切れる。切れたら城は一気に地面に落ちる。

 「そうなる前に魔王を倒して、ここを脱出しなきゃいけないってことね。」

 そうなるね、ファリナ。


 「愚か者が。我ら魔人族に逆らったことを、あの世で後悔するがいい。」

 そう叫ぶと、魔王は右手の他に左手にも剣を出現させた。両手剣か……めんどくさいな。

 わたしたちは飛びかかるタイミングを計るため、少し下がって距離をあける。

 「ミヤが正面から行く。ヒメ様とファリナは左右から。」

 「わかったわ。」

 了解。


 出会ったばかりだけど魔王、時間もないからこの攻撃で決めさせてもらう!








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