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505.そして天は騒がしく 2


 「部屋を出て10秒も経っていないだろう?どこへ行ったというんだ?」

 部屋を飛び出していったファリナを追いかけて部屋を出たが、その姿は廊下にはすでになかった。エアの疑問にゴボルは黙ることしかできなかった。

 「今のファリナなら少しくらいの無茶は大丈夫なのだろう?何せ魔人族と天人族の能力を受け継いだはずなんだから。」

 「能力……か……」

 ようやくしゃべりだしたゴボルの口調には苦々しさが含まれていた。

 「いや、待て。そう言ったのはゴボル、お前なんだが……ちなみにファリナの能力はなんなんだ?」

 「わかるわけないだろう。なぜ俺がわかると思うんだ?」

 「いっそ清々しいな、おい!」

 予想だにしなかった答えにエアが驚く。

 「能力は親のものを引き継ぐことが多い。一族の血によるものだな。この場合でいうファリナの親は俺とお前ということになる。不本意だが血を分け与えたのだからそうなるわけだ。」

 「親扱いは確かに不本意だな。ここは父親は不慮の事故で死んだことにしてしまうべきではないのだろうか……」

 「そんな設定はいらん!まぁともかく、俺は分解と再生、属性では土魔法が得意なんだが……お前は?」

 「なるほど。ファリナの能力は、そこから類推するしかないということか。」

 「教える気なしかよ!とにかく突然変異もあり得る。絶対ではない。想像の域での話になる。」

 「やっかいだな。これでは放っておいても大丈夫なのかどうか判断できないではないか。」

 再生魔法が使えそうなら、死なない限り自分の体も治せるのではないか、それならば急いで探すこともないだろう。少なくともそう納得したいエアであった。あっさり逃がしてしまった責任をヒメから追及されることだけは避けたかったのだ。

 それでも魔人族と天人族両族の力が使えるのは、それなりのアドバンテージとなるはず……そう楽観したとしても、それだけでエアを責めることはできないだろう。

 「それでも見捨てるわけにはいかないだろう。が、2人で一緒に探すのも愚策だと思う。」

 ゴボルの提案にエアも頷く。

 「だな。ここは2手に別れて探すとしよう。途中でヒメに会えたなら説明も必要となるだろうが、最優先はファリナの発見だ。とにかくファリナの力が確認できない事には以降の行動の予定が立たない。あぁなってしまったのは、わたしにも責任はあるが、もっぱらお前のせいであることを忘れずにファリナを探せよ。勝手な行動は慎め。」

 「人に責任を押し付けるな!ところで、俺はともかく、お前はどの姿をしていても動きづらいだろう。大丈夫なのか?」

 「目撃者には消えてもらうさ。」

 対応方法を隠す気もないエアにため息しか出ないゴボル。

 「ヒメの邪魔になるような事は避けろよ。」

 「そっくりその言葉を返してやる。」

 「俺は下におりる。」

 「では、わたしは上だな。」

 それ以上はさらなる言い合いになるかもしれない……たがいにそう思ったのだろう。2人はそれ以上言葉を交わすこともなく廊下を左右に別れた。





 痛かった……治るからといってケガをしていいわけでもない。まぁ今のは不可抗力だったんだけど。

 やりきれない思いを抱きつつ立ち上がったわたしの後ろから、岩がいくつか転がる音が聞こえた。振り向いたわたしの目に、黒い岩が起き上がるのが見えた。

 「きさま、落とし穴とは卑怯だろう!」

 生きていたらしい魔神に罵られる。いや、今のは責任の大部分はあんたにあったよね?落とされたのはむしろわたしの方だよね?

 なんかむかっ腹が立ったので、左手に<大火球>右手に<豪火>を用意して、魔神に近づいていく。

 「ほう、卑怯者が怖気ずに向かってくるというのか?やってみろ、うけてやるぞ。」

 うっさいわ、くらえ、炎のワンツーラッシュを!

 「あれ?」

 左フックからボディーに火球を1発、さらにすかさず右の炎で……そう思っていたわたしの作戦は、パンチが相手にふれる直前に炎が消えてしまったことで頓挫を余儀なくされた。

 魔法が消滅した?さすがにちょっと大慌て。魔法が使えないなら<ポケット>から剣を取り出さなきゃだけど、向き合うには間合いが近すぎた。

 これはヤバい……どうする?ちょっとわたし大ピンチ……


 「粉砕キーーックっ!!」

 後ろからなにかが飛んできた……

 ものすごい勢いで飛んできたそれは、勢いのまま魔神にぶつかっていき、どっかーん、という音がして、魔神の人形の右肩口から腰までの右半身を粉々にしていったのだった……いや、粉砕しすぎでしょ、それ……憐れな魔人は人形の中で同じ姿に……って思うと怖くて確認できないんだけど……

 「お前っ!危ないだろうが!!」

 魔神の人形の壊れたところから剣を持った腕がニョキッと出てくる。うまくかわしてたか……残念……

 そして文句を言われたキックをくらわせた方がすっくと振り返る。

 「お前、ヒメ様を殺そうとした。ミヤはお前を許さない。」


 ミヤァっ!よかった無事だった……まぁミヤをどうにかできる人がこちらの世界に存在するとは思えないけど……とにかくよかった。


 ビュンという音がしたような気がした……ら、わたしの腰にミヤが抱きついていた。

 「ヒメ様いた!大変だヒメ様、ファリナが見つからない!」

 最初はうれしそうにしていたミヤだけど、途中から泣きそうな顔になる。

 うん、わかってるよ。一緒に探しに行こう。


 「ちょっと待て!お前、いつの間に動いたんだ?」

 ミヤに人形の胴体を壊された魔神が、ようやくこちらに気がつく。今までミヤがどこに行ったのかわからなかったのか。まぁ、わたしも追いきれないくらい早かったからなぁ。

 「黙れ。お前に用はない。」

 ミヤがけんもほろろに魔神を無視してわたしの手を引っ張る。

 「こっちにはある!生意気な人族め!わたしを誰だと思っている?魔王様直々にサラドリウス地方の北側を任されたドッガリュート家の……」

 「そんな場所知らん!」

 ミヤの蹴りが魔神の顔面に決まる。人形の胸の中央から首、頭が粉々になって破片が宙を舞い、残った胴体がどさりと倒れた。いやミヤ、さすがに中の人を巻き込んでるんじゃないかな……と思ったら、岩の中から男の頭が出てきた。

 「うーん……」

 あ、生きてる。まぁさすがに気を失ってはいるようだけど。っていうか、避けるのうまいなこのオジサン。ミヤの蹴りから本体を2度も守るなんて……


 その後ろで事の顛末にどうしていいのかわからず立ち竦む人魔たち、をミヤがギロリと睨みつける。

 「てっ、撤退!戦術的撤退だ!」

 そう叫ぶと人魔はどこかに走り去っていった。まぁここの責任者であろう魔神のオジサンも気を失ってるようだしいいか。

 「まずこっちへ。」

 ミヤがわたしの手を引っ張って、ミヤが来たと思われる方向にある大きな扉に向かう。


 扉の向こうは広大な空間の2階部分で、普通の通路の半分くらいの幅でその広間を1周できる、俗にキャットウォークと呼ぶのかな?そんな場所だった。通路の片側は壁、もう片側は手すりになっていて、手すりの向こうには階下の景色が見えた。そこに広がるのは岩やモノ・ピューリー鉱で形づくられた巨大な魔法陣……これが飛行魔法の魔法陣か……


 「ファリナを探しに行きたいが、今のままでは無為に時間がかかるだけだ。これをなんとかしたい。」

 「なんとかって……」

 「止める。」

 なるほど、壊すのか。でもミヤ、わたし、今ちゃんと魔方が使えないから手の出しようがないよ。こんなに大きくちゃ……

 「ミヤも力加減がうまくいくか自信がない。」

 失敗したら?

 「魔法陣は壊れるが床もぬける。飛行魔法が消滅するからこの岩の塊は真っ逆さまに地面まで落ちる。」

 そうか……真っ逆さまはいやだなぁ……


 「で、俺の出番というわけだな。」

 階下から声がした。手すりから首を伸ばして下を見たら、黒い服を着た変な男の人がいた。

 「うむ。いるんだ、これが。」

 ミヤがげんなりした顔。

 「こっちだ。」

 表情を戻したミヤがわたしの手を引く。向かう先には階下に降りる階段があった。


 魔法陣の上にはリューちゃんがズボンのポケットに手を突っこんで立っていた。

 「虎が血相を変えて飛び出していったから何事かと思ったら、お前がいたのか……」

 あえて感情を出さないようにした目でわたしを見る。たぶん、言いたいことがいっぱいあるんだけど、それを言ったらミヤに殴られるからこんな顔になってしまってるんだろう。

 まぁわたしが気にしてもしかたないから、気がつかない顔をして……

 「で、リューちゃんの出番って?」

 「虎じゃ加減ができないっていうから、かわりに俺が壊してやると言っている。」

 ミヤが頬を膨らませてぷいっと顔をそむける。できないと言われてご機嫌斜めのようだ。

 「虎ではない。ミヤだ。」

 捨て台詞にも力がない


 つまり、わたしたちがここにいてもしょうがないってことだよね。ここは任せるから、ファリナを探しに行ってもいいかな、リューちゃん。

 「そうだな。いや……」

 なぜそこで底意地の悪そうな顔で笑うのかな、リューちゃん?







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