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5.相談する少女たち

 「正直困っています。」

 リーア様が切り出す。

 でしょうね。わけのわからないDランクのハンターに妹が騙されてるんじゃないかって思うよね、普通。

 「王都に行った父からも、灰色狼の肝が見つかったという連絡はきていません。今年は特に灰色狼が狩れない年のようで、お手上げ状態です。やむをえず、父も一度帰ってくると先ほど連絡が届きました。」

 あぁ、そっちのほうか。

 「わたしたちの話を信じるんだ。」

 「そちらの心配ですか。あなた方を追い返したら灰色狼の肝を手に入れる可能性が小さくなります。あなた方を信用するというのは大前提なのです。ただし、パーソンズ家は騙されたときの報復はどんなことをしてでも成し遂げますので、心に留めておいてください。」

 「こちらも売られた喧嘩は買うけどね。まぁ、今回はフレイラ様のためにわたしたちができる協力は惜しまないつもりだけどね。」

 「ありがとうございます。ヒメさん。」

 フレイラ様が頬を赤くして言う。


 「ハンターギルドにわたしたち“三重奏の乙女”を指名依頼していただけたら、それを受けます。一度受けたなら、わたしたちだってごまかすことも逃げ出すこともできません。そうしていただいて、わたしたち3人で狩りに行きたいと思いますが。」

 ファリナがそう提案する。危険な狩りにフレイラ様が一緒に来る必要はない。

 「そうしたいのは山々なのですが・・・」

 リーア様が困った顔。

 「父が、王都でいろいろな伝手を頼ってしまいまして、いまさら、地方のハンターが手に入れましたとはとても言いづらいことになっているのです。せめて、身内の者が手に入れたということにしないと、面目が・・・」

 貴族の面目とか面倒くさい。

 「なら、わたしたちが狩ってきたものを、フレイラ様なりリーア様が狩ってきたことにすればいいじゃないですか。」

 「どこからばれるかわかりません。家族の者、誰か1人でも一緒に行ったところを示しませんと。」

 「では、リーア様が行かれるのですか。」

 ファリナが尋ねる。まぁそうなるよね。一応年上なんだから。

 リーア様が俯いて、言いづらそうに答える。

 「お恥ずかしい話ですが、わたしは家督を継ぐ者として主に勉学を教え込まれまして、魔法は水魔法を使えますが、攻撃には使えません。剣も振れません。戦闘にはなんのお役にもたてないのです。」

 「え?じゃ、フレイラ様は?」

 「わたしは、剣は使えませんが、火魔法が使えます。小火球くらいですが。」

 小火球というのは直径10数センチくらいの炎の玉で、使う魔術師の力量でも威力は変わるけど、普通の威力なら小型の獣を倒せるかな程度のもの。

 んー、灰色狼に小火球か。岩ぶつけたほうが効くよね、たぶん。


 助けたいという気持ちだけが先走っちゃって引き受けたけど、この戦力って、もちろんマリシアも入るんだろうけど、やっぱりじゃまかなぁ。わたしたち3人ならさほど大変な仕事でもないんだけど。なんか面倒くさくなってきた・・・

 「では、フレイラ様をお連れするということでよろしいのですか。」

 わたしが面倒になってきたのがわかったのだろう。ファリナが話を進める。

 「そうなりますね。あと、マリシアを付けたいのですが。かまいませんか。」

 「もちろん。フレイラ様のお付きがわたしたちだけでは不安でしょうし。」

 「あ、みなさんを信用してない訳ではないのですよ。本来、わたしがすべきことなのに、フレイラに頼まざるを得ない状態です。少しでもフレイラのために戦力を増やしたいと思いまして。」

 正直、わたしとしてもフレイラ様のお守りは欲しいから、助かるかな。フレイラ様を守りながらじゃちょっときつい。全部燃やしていいのなら別だけど。


 「1つ確認したいのですが。」

 「なに?」

 リーア様の質問にわたしが返事する。あぁ、いかん。面倒くささのあまり、元から雑だった言葉遣いがさらに雑になってきた。

 リーア様がクスリと笑う。

 「普段通りに話して。様もいらないわ。わたしもそうするから。」

 「いいの?後で不躾者め手討ちにしてやるとか言われたら、わたしこの家燃やしちゃうよ。」

 「ヒメ様すでに失礼。」

 いきなり会話に入ってくるな。しかも、立って壁の絵を見たままの恰好で。せめて、こっち向け。

 それにしてもリーア様、大人の対応だね。確か15歳っていってたっけ。同い年かぁ。比べられたくないなぁ。

 「燃やされるのは勘弁してほしいな。正直に言って、この件はもう依頼じゃなくお願いなんです。ギルドには何度も依頼を出してるの。でも、引き受けてくれるハンターがいなかった。だから、お父様が王都まで行かなきゃならなくなった。あなたたちに可能性があるのなら、お願い。わたしたちを助けて。」

 「そうなの?そんな依頼見た?」

 わたしは2人を見る。あ、いや、ミヤはいいや。ファリナは首を左右に振る。

 「このところ、ヒメがあれは嫌これは嫌というから、常時採集ばかりで依頼のボードは見てなかったから。」

 あれ?わたしのせい?いや、見たからといって引き受けたかどうかはわからないし。


 「で、さっきの話に戻るけど、確認したいのは、みんなはDランクなのよね。それにしては、オークを瞬殺したって聞いたけどなにか秘密でもあるの?」

 「うーん・・・聞かなきゃよかったって話が世の中にはあるんだよ。」

 「聞いておけばよかったという情報もね。」

 この場合、わたしの言ってるほうになるんだけど。後悔どころか命にかかわるよ。主にわたしたちが敵になるって意味で。

 「まぁ、言えるのは、人生には全てを捨てて1からやりなおしたいって時があるってことかな。」

 「つまり、本当はもっと高ランクのハンターなんだ。」

 「ごめん。話せるのはここまでかな。これ以上踏み込むのなら・・・」

 わたしは、なるべく笑顔を作りながら、手で首を切る仕草をする。

 絵を見ていたはずのミヤも、いつの間にか読めない表情でリーアとフレイラ(様いらないって言ったよね)の方に向き直っていた。臨戦態勢だ。ファリナは、どっちつかずで様子を見ているが、わたしが動けばファリナも剣を抜くだろう。

 「こっちこそごめん。あなたたちが強いってことがわかればいいの。妹を預ける以上、少しでも安心できる要素が欲しかっただけ。あなたたちの過去を詮索するつもりも踏み入るつもりもないです。」

 リーアは両手を上げ、降参ポーズをとる。

 フレイラは、少し青ざめてこちらを見ながら震えている。

 「ごめんね、フレイラ。んー、昔、嫌なことがあってね。できれば思い出したくないんだ。だから、わたしたちは1からやり直すことにしたわけ。もし、気を悪くしたのなら、この依頼なかったことにしていいよ。」

 フレイラは、俯いてジッと考え込む。やがて、顔をあげる。

 「難しいことはよくわかりません。でも、みなさんはわたしを盗賊から助けてくれました。灰色狼を狩るのも手伝ってくれると言いました。わたしは今のみなさんを信じます。」

 あー、やばいなぁ。この娘かわいすぎるわ。お嫁さんに欲しい。

 「ヒメ様変態。」

 だから、人の考えを読むのはやめて!


 その後、実務的な話、今日の報償や明日以降の報酬金額や行動予定などなどを話し合う。面倒な話なので、ファリナが当然担当する。というか、そういう話のときは、わたしは蚊帳の外だ。ファリナ曰く、わたしがやるとろくなことにならないから黙ってろ、とのことだ。


 ある程度の話がまとまり、リーアがギルドに行き依頼をすることになった。

 馬車を出すというので、わたしたち3人もギルドまで乗せてくれるという。

 馬車には、あたしたち3人とリーア、それにエミリアというメイドがリーアに付き添うことになった。フレイラはお留守番だ。

 馬車は向かい合わせの前後の2列のシートになっていて、前にわたしたち3人。後ろにリーアとエミリア。

 エミリアというメイド、とにかく笑顔を絶やさない。ずっと微笑みながら、表情を変えることなくこちらを見てる。だから、つい言ってみたくなる。

 「ねぇ、エミリア、スカートめくっていい?」

 場が一瞬凍る。

 「申し訳ありません。このような公衆の場での辱めはご容赦ください、ヒメさん。」

 「あ・・・え、と・・・」

 リーアが困ったようにオロオロしだす。

 「無用な藪をつつくようなまねはやめて、ヒメ。」

 ファリナが、額を押さえる。

 「いやー、つい・・・」

 わたしは、笑ってごまかすことにする。

 「気づいていましたか。まだまだ未熟ですね、わたしも。」

 エミリアが、小さなため息をつく。

 「まぁ、3対1だからって気を張りすぎ。」

 「確かに。さすがにこの3人相手では厳しいかなと、ちょっといらない力が入ってしまいました。」

 エミリアの笑顔が失笑になる。よーし、表情変えさせたぞ。

 「ごめんなさい。最初から説明すべきだったわね。エミリアはわたし付きの護衛なの。でも、メイドの恰好させていて気づかれたの初めて。・・・気づいていたのよね。ヒメさん?それとも本当にエミリアの下着が見たかったわけじゃないよね・・・」

 リーアが最初すまなさそうにしてたのが、だんだん疑わしそうに聞いてくる。

 「こっちもごめん。敵意はなかったからスルーしようかとも思ったんだけど、スカートの下になにか仕込んでるのが気になって。でも、見せてくれるなら、エミリアみたいな美人さんの下着なら見たい。もちろんリーアのでもいいよ。」

 「ヒメ様最低。」

 「すいません。うちのリーダーがおバカで・・・」

 ミヤ、その蔑んだ目つきはやめて。ファリナも、すまなさそうにするのやめて。わたしが本気で言ったみたいじゃない。エミリア、冗談だよ。そんな困った風に笑わないで。リーア、赤くなって俯かないで。本気じゃないから。本当だよ。

 

 「で、依頼はこの町で出していいの?あなたがたのマイムの町まで行ってもいいのよ。すぐ近くだし。」

 気を取り直して、リーアが聞いてくる。

 本来は、指名の依頼は、ハンターが登録した町に出す。ハンターは、登録した町を拠点に動くことが多いから他の町で出されると、ギルドの連絡網を通してハンターに伝わるまでにある程度の時間がかかる。それ以前に、他の町のハンターを使うということがめったにないというのも大きな理由だ。

 今回は、わたしたちがこの町にいるのだから問題ない。

 「依頼主様に遠出をさせるわけにはいかないでしょ。それこそ近いのだから、どっちで依頼うけてもどっちで報告してもたいして変わらないし。あ、パーソンズ家としては自分の住んでる町のハンターを使わないでわたしたちに依頼を出すのはまずいかな?ギルドと揉めない?ここで頼むのがまずいなら、マイムまで行ったほうがいいのかな。」

 ファリナがあわてて聞き返す。

 そうだよね。領都のギルドに領主の家族が他の町のハンターの指名依頼を出すなんて、この町のギルドとハンターにすれば失礼なことじゃないのかな。

 「それはかまわないわ。ここもマイムもパーソンズの領地なので、その中なら当家が依頼をどこに出そうと問題なしよ。あなたたちがここでかまわないなら、わたしは助かるけど。」

 「なら、ここでいいわよね、ヒメ。」

 「まかせる。」

 これ以上信用を落とせないから、余計なことは言わない。

 「それじゃ。」

 わたしたちは、ここ領都ロクローサのハンターギルドへ向かうことになった。




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