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46.この国を出るのがやっとだろう


 「4日じゃこの国を出るのがやっとだろう。無理じゃないのか。」

 リリーサの言葉にロイドさんが疑問を投げかける。普通に考えればロイドさんの言う通りだろう。でも、リリーサは空間移動魔法を使える。あの口に出したくない魔法名の魔法を。でも、あれって他の人、特に貴族なんかに言ってしまって大丈夫なの。

 「黒の森と山脈をショートカットしながら進めば、かなり短縮できます。わたしたちは慣れてますけど、ヒメさんたちはついてこれますかね?」

 言わないか。しかも、あおられちゃったね。これでもけっこう負けず嫌いなんだ。そこまで言われたらこう言うしかないよね。

 「うーん、無理かな。留守番してていい?」

 「ちょっとは意地を見せなさいよ!」

 なんでエミリアが怒るのよ。ファリナとミヤなんか、わざと言ってるのがわかってるから完璧にスルーしてるのに。

 「え?じゃリルフィーナにおぶらせますか?」

 あんたまでマジにとってどうする。

 「じょーだんよ、冗談。」

 「わたしはヒメさんの実力は知らないのですから、真面目に答えてください。」

 そういえば、さっきは真面目にはやらなかったもんね。あまりにリリーサが危険すぎて。

 「つい最近、人魔と戦って生きてるんだから、それなりじゃないの。」

 エミリア、よけいな事言うな。まだ完全に信用できてるわけじゃないんだから、あまり相手に情報は与えたくない。

 「あ、あれは、相手の隙を見て何とか逃げ出しただけだから・・・」

 「人魔くらいなら楽勝じゃないですか。魔神はとっても強い魔法障壁使うので嫌いです。」


 リリーサのセリフを聞いて、場が騒然となる。

 あぁ、あんたの魔法名を言いたくない分解魔法なら、人魔くらいならなんとかなるよね。

 「人魔くらいなら楽勝?」

 「え?何言ってるの?」

 ロイドさんとエミリアが驚きの表情でリリーサを見てる。

 「かーのじょー!」

 カウンターの中に戻っていたノエルさんが飛んでくる。

 「どう、うちに移籍してこない?Cランクって言ってたよね。すぐ勇者になれるよ。そうだ、わたしも友達になっちゃうよ。ほら、今なら領主様もここにいるから、名前もすぐ覚えてもらえるし。いいことずくめだよ。」

 リリーサの両手を握って天使のような悪魔の笑みを浮かべてる。

 「あ、わたし勇者になる気はないんで。」

 一瞬で絶望の表情に変わるノエルさん。

 「なんでよ。え?勇者って人気職よね。なんで、誰もかれもなりたがらないの?お姉さんに説明してよ。」

 「わたし、お店をやるのが夢なんです。でも今のお店買ったら商品仕入れるお金なくて、だから自給自足です。そのためにハンターになったんです。ちゃんと商品を仕入れることができるようになったら。わたしハンターやめます。」

 ふーん。アッパラパーに見えてちゃんと考えてるんだ。あれ?でも・・・

 「それなりに稼いでるんじゃないの?多利薄売とかで。」

 「うーん、まだまだですね。」

 「お姉様の目標は、ガナープラ教会の孤児たちみんなが働ける大きさのお店なのです。だからもっともっとお金がいるのです。」

 わたしの視線に恥ずかしそうに顔をそむけるリリーサ。ちぇ、アッパラパーのくせに・・・


 「ガルムザフトのガナープラ教といえば、白聖女様がいるという?妻を見てほしかったんだよな。もう治るから今更なんだが。」

 「お怪我ですか?」

 「いや、病気だったんだ。かなり良くなってきた。もう少しだ。」

 「なら、無理です。わたし病気は治せません。」

 わたしたち以外驚きの表情。あれ、フレイラも平然としてる。

 「し、白聖女様なのか?」

 「白聖女ってなんですか?」

 あぁ、フレイラは知らないだけか。


 「怪我の治療ができなくなりました。なのでガナープラの教会からも出ました。もう聖女ではありません。」

 「有名人なの?」

 本人の話を聞いただけなので、凄さがわからない。

 「有名も何も、ガルムザフトの白聖女といえば、聖教会の司祭様以上のお力を持つことで国の外からも怪我人が治療に押しかけたというすごい方だぞ。」

 「このポヨポヨが?」

 「このポヨポヨがだ。信じられんが。」

 「意外と皆さん失礼ですよね。消しちゃうべきかしら。あぁ、でもヒメさんはせっかくのお友達ですし、まだがーるずとーくしてませんし、困りました、困りました。」

 うん、ポヨポヨだよね。


 「じゃ、明日の朝出発するから。戻ったらロイドさんのところに灰色狼持っていくけど、もしも5日後までに帰らなかったら、ダラムルさんに連絡お願い。」

 「わかった。無理と無茶はするな。そこまでするようなことではないからな。」

 頼んでおいて心配そうにするのはズルいな。とはいえ、ロイドさんのためなら無理しようとは思わないからそうさせてもらう。これがマリアさんのためなら無理しちゃうかな。フレイラはもう知りません。

 そして、戻らなかったら工事延期という言葉を聞いてムッとした顔のファリナとミヤ。仕方ないじゃない。

 

 ギルドを出て、わたしの家に向かう。ついてこようとしたフレイラは、ロイドさんに拿捕された。

 「では、ヒメさんの家でがーるずとーくしましょうか。朝まで、朝までですよね。さっきはああ言いましたけど、心配なく。国境までは<あちこち扉>使えますから、あっという間です。明日の昼には、国境近くの町で入国の手続きを終わらせて、狩りに出られます。なので、今夜は寝なくても大丈夫です。ふふ、寝かせませんよ。」

 なんだろう、背筋に冷たいものが走るんだけど。

 朝まであなたのお話を聞くのですか?しかも寝ないで?そりゃ無理。昼にあのミヤですら眠らせる恐るべきリリーサのお話を、わたしに、しかも夜に耐えろと。

 「ファリナとミヤとリルフィーナと交代で話を聞こう。なーに、キャンプの見張りだと思えば問題ないよ。」

 「ありすぎよ。見張りなら気が張って眠くならないけど、リリーサの場合あっという間よ。催眠魔法じゃないのかしら。」

 「そんな魔法、知りませんし使えません。でも、リルフィーナも参加するんですか?リルフィーナはいつも一緒だから新鮮味がないのですけど。」

 「お姉様、ヒメさんと出会ってから、なんか私の扱いがぞんざいです。」

 「仕方ありません。お友達と居候の差です。諦めてください。」

 わたしをジトッとした目で見るリルフィーナ。

 「だから、愛人とか言ってないで、お友達ですって言えばいいと思うよ。」

 「お姉様に救っていただきました。お友達ではわたしの想いは伝えられません。」

 愛人の方がもっと伝わってない気がするけどね。


 「そうですね。リルフィーナもがーるなんですから、一緒にお話ししましょう。ただし、邪魔になるような事をした場合、表に放り出します。野宿です。」

 「しません。こう見えても、場の空気は読める方です。ちゃんとがーるずとーくを勤め上げて見せましょう。まぁ、これもヒメさんがいるここ数日のこと。みなさんと別れてしまったら、寂しくなったお姉様がわたしに甘えてきちゃったりするんじゃないかとか、なんとか、あぁ、楽しみです。」

 声に出して言うな。言われたら絶対やらないだろう。

 「そうですね。まぁ、お友達ですから毎日<あちこち扉>を使えば遊びに来れますけど。」

 何言ってるかな?フレイラだけでもいっぱいいっぱいなのに、あんたまで来たら、もう誰も知らないところに引っ越すしかないよね。

 「そうだ、ヒメさんたちが、ガルムザフトに移籍して来たらいいんです。来ませんか?来ましょうよ。」

 「行きません。とりあえず今は。家買ったばかりだし。」

 「それは残念です。では、わたしが毎日遊びに来る方向で。」

 「わたしたち、ハンターとして忙しいので無理です。せいぜい年に1回くらいならなんとかできるかな。」

 「お手伝いしますよ。せっかくお友達になったことですし。」

 くそー、ああ言えばこう言うし、まずい、燃やしたいけど、燃やそうとしたら分解されちゃうよね。いや、防御魔法でかわせると思うけど、火炎と分解でこの辺一帯何もなくなるかな。ロイドさんが怒るかな。怖くないけど・・・

 「やるならわたしとミヤは巻き込まないでね。ところで、ヒメって分解されても治るのかな。」

 さすがに全身分解されたら、治らないと思うよ。っていうか、森でのわたしとリリーサの話聞いてた?その分解から戻ったわたしが、今までのわたしかって話してたよね。

 「なるほど、つまり『お前が池に落としたヒメはこの性根が腐ったヒメか?それともこちらの頭がいかれたヒメか?』ってことよね。難しいわ。」

 全然違うわ!しかも何、その2択?それ以前に池に落とすな!

 「そういうのって普通、片方はまともなヒメさんなんじゃないですか?」

 リリーサが話に入ってくる。ややこしくなるから黙っててほしい。

 「まともなヒメ・・・?」

 ファリナとミヤが顔を見合わせる。2人がその視線をこちらに向ける。

 「それは偽物だ。」

 「それは偽物ね。」

 2人とも黙れ。

 微妙な空気の中、夕暮れの道をわたしたちはトボトボ歩いた。


 食事も終わり、お風呂にも入り、わたしの部屋にじゅうたんを敷き布団を人数分並べる。ベッドはさすがに人数分は入らないから床に布団を敷く。

 お菓子と飲み物も用意した。さぁ、ガールズトークとやらをどうぞ。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 普段仲間内でしか会話しないコミュ症が5人集まっても、会話は盛り上がらなかった。

 ミヤ以外の4人はみんなの出方を窺って膠着状態。そしてミヤ、帰って来てからも空中の見えない何かを目で追ってるんですけど、もう許して。


 結局、あちこちの地方の獣や魔獣情報を話して、1時間も持たずに、みんな布団にもぐりこんだ。なんだろう、ちょっとだけなにかしらの期待があったんだけど、わたしたちってガールじゃないのかな・・・

 翌朝、半ばやけ気味になったわたしたちは、出発した。

 目標はバイエルフェルン王国。国外に出るのは、わたしたちは初めてだ。


 リリーサの<あちこち扉>で、エルリオーラとバイエルフェルンの国境近くに出る。

 歩いて国境を越え、一番近くの町に入る。

 「バリトーラの町です。国境近くですので、商人が多いです。」

 「リリーサは来たことあるの?バイエルフェルン。」

 「滅多には来ません。大抵はエルリオーラで事済ませます。」

 ハンターギルドを探して、入国手続きをする。

 「わたしたち『白聖女の舞』は灰色狼7匹が入国目的の獲物です。こちらの『三重奏の乙女』も同じくです。」

 わたしたちは勝手がわからないので、リリーサにおまかせ。リリーサって密入国ばっかりしてるんじゃなかったっけ。ちゃんと手続きできるとは思わなかった。

 「ガルムザフトとエルリオーラのハンターですか。ご関係は?」

 「旅の途中で出会いまして、獲物が同じなので協力しあおうってことになりました。女の子ばかりなので、人数も多いほうがいいかなって。」

 「そうですね。わかりました。入国を受け入れます。万が一、獲物が狩れなくても、出国の際は届け出を忘れないでくださいね。」

 「はい、ありがとうございます。」


 受付からリリーサがこちらに来る。

 「はい、終了です。じゃ、時間もありますし、森に行ってみましょうか。」

 「目的の灰色狼の届け出7匹でいいの?」

 「はい、以前も申しましたけど、収納魔法持ちは調べようがありませんけど、正直に2つのパーティーで35匹と言ったら、税金が結構かかるのと、量が多いので受け付けてもらえないかもしれません。ほどほどに数を申告しておけばいいんです。」

 なるほどね。確認しない約20匹は収納魔法に隠したままにしておくってことか。

 「少なく言いすぎると、国境を越えてくる理由が疑われます。2,3匹のために税を払って国境を越えるなんて経費だけで赤字です。なので税を払っても黒字になる程度の数を申告しておけばいいんです。」

 密入国ばかりしてるのに、良く知ってるね。

 「毎回黙っているわけではありません。町などで特産品を買い付けることもあります。ちゃんと手続きすることもありますよ。」

 まぁ、なんにせよ勉強になるわ。今後わたしたちも国外に出ることもあるかもしれないから、ちゃんと憶えておかないと。頼んだわよ。ファリナ。

 「はいはい。」

 あきらめきった顔のファリナ。わたしに憶えておけってそれは無理よ。


 出口に向かおうとするわたしたちの後ろから声がかかる。

 「彼女たち、灰色狼を狩りに行くのかい?」

 見ると4人の男がにこやか・・・ニヤニヤだな・・・にわたしたちを見ていた。

 面倒な予感。ナンパだよね、これ。燃やしちゃってもいいよね。




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