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42.ごまかすのはズルいです


 「負けそうになったからといって、ごまかすのはズルいです。」

 リリーサがしつこい。

 「ごまかすとかじゃなくてね、話をあっちこっちに投げ飛ばすの何とかならないの?」

 「そのくらいのことで怒っていたら、お姉様とは付き合えないです。」

 これがデフォなの。

 「とりあえず、ヒメが負けを認めれば話が進むんじゃないかな。」

 ファリナ、黙ってて。あんたはミヤに謝ってなさい。第一、なぜわたしが負けを認めなくちゃいけないの。

 「ヒメ様の方が寝坊だから。」

 ミヤまで・・・誰もわたしの味方がいない・・・

 「可哀想ではありませんか。大丈夫です、ヒメさん。わたしはあなたの味方ですよ。」

 「あ、ありがとう、リリーサ。って、違うわ!あんたが諸悪の根源でしょうが!」

 「むぅ、負けそうになったからって、ズルいです。」

 やっぱりエンドレス。


 「でも、少しだけリルフィーナの気持ちがわかってきました。」

 「本当ですか?お姉様。」

 何か言い出した。嫌な予感しかしない。

 「わたしの話を寝ないで最後まで聞いてくれたのは、あなたが初めてです、ヒメさん。ポッ。」

 聞けって脅してきたのはあなただよね!

 「しまった!いつも寝ちゃいましたぁ!わたしのバカ、バカ!」

 地面を殴るリルフィーナ。


 「待って!じゃ、とりあえず話は終わったのね。」

 「はい、序章は終わりました。」

 どこの大河小説よ、あんたの話は・・・

 「で、となりの国に行くんだったよね。」

 「そのつもりでしたが、今日はヒメさんのところでお世話になって、明日向かおうかと思います。」

 「・・・・・・はい?今何て?」

 「ヒメさんのところでお世話になって、明日向かおうかと思います。もう一度いいますか?ヒメさんの・・・」

 「あぁ、もういい。なんで?」

 わたしのセリフにキョトンとするリリーサ。

 「恋する少女の行動に理由はありませんわ。」

 「いや、あんたの行動に理由があったためしがないんだけど。ここ30分しか知らないけど。後、自分のこと少女って言うのやめなさい。」

 「まぁ、たった30分でわたしを理解してくれるなんて、素敵です、ヒメさん。」

 えらいポジティブだね。あ、ファリナとミヤの視線がすごく痛い。わたしのせいじゃないんだよ。リルフィーナまでもかい。


 「あ、誤解されては困りますけど、リルフィーナのような、やましい気持ちではないですよ。そう、わたしは教会では、ほぼ隔離された生活を送ってきましたので、友人というものがいないのです。」

 「そう、わたしは愛人なので友人にはなれないのです。」

 え?リルフィーナは無視するとして、まさかまた語り始める気じゃないでしょうね?

 「待った!この話は何分かかりますか?」

 「リルフィーナがたわけた事を言い出さなければすぐ終わります。ちなみに今たわけた事を言い出しましたね。誰が愛人ですか。」

 「ミヤ、リルフィーナを確保。会話に参加させたらダメよ。縛ってその辺の木に縛り付けておいて。」

 「わかった。けど、いいのか?」

 「何が?」

 「猿が来てる。岩投げる気満々。」

 「え?」

 少し離れた木の上を見る。

 岩投げ猿が岩を持ってこちらを向いて歯を剥き出していた。

 「あぁ、絶滅危惧種が・・・」 

 「え?岩投げ猿なんてどこにでもいるでしょう。」

 リリーサがスッと指さす。

 「<バラバラ>。」

 一本の木の先にしがみ付いて岩を構えていた数匹の猿が、塵となって消える。ついでに木の先も消えた。要するに、木のてっぺんから2メートル四方くらいの範囲のものが全部消えた。

 「あの・・・えらい大雑把ですね・・・」

 木ごと消しちゃうのかい!

 「あ、大丈夫です。」

 今度は手のひらを向ける。

 「<モトドーリ>。」

 木の先端が元に戻る。

 「わたし、自然に優しい女ですから。」

 

 すごい事が起こったはずなのに、魔法の名称のせいでなんか手品っぽい。しかも、想像してたのとなんか違う。

 「え?<モトドーリ>って治癒魔法じゃないの?それとも、木でも治せるの?」

 ポカンとわたしを見るリリーサ。

 「<モトドーリ>は再生魔法です。治癒魔法じゃありませんよ。」

 何が違うの、それ・・・


 「治癒魔法というのは、怪我とか、体の一部の欠損した部分とかを治す魔法ですよね。再生魔法は・・・やってみた方が早いです。」

 違う木の上で、怯えてこちらを見ている岩投げ猿を指さす。

 「<バラバラ>。」

 猿が塵になって消える。

 「これってもう虐待よね。」

 ファリナが顔をしかめる。

 「あらあら、罪もない獣や魔獣を虐待するのがハンターの仕事じゃないですか。」

 ファリナに満面の笑みを向けるリリーサ。

 グゥの音も出ないファリナ。

「あ、時間がありませんわ。<モトドーリ>。」

 手のひらを自分の目の前の地面に向ける。

 え?何やってるの?それって、まさか・・・


 そこに、先ほど消された猿が現れる。猿はボケっと周りを見回すと、人間に囲まれていることに気づき、悲鳴をあげながら転げるように近くの木に駆け寄り、登って行った。

 「ウソでしょ・・・塵レベルまで分解したよね・・・なんで元に戻るの・・・?」

 「このように、治すのではなく、失われたものを元の形にするのが再生魔法です。」

 「じゃ、たとえば、あそこで木に縛られてるリルフィーナを分解して、目の前に再生することもできるんだ。」

 猿が怯えて攻撃をやめたので、律儀にもミヤはリルフィーナを木の幹に縛り付けている。

 「おかしなこと言わないでください!お姉様なら『やってみましょうか』とか言い出しかねませんから!」

 リルフィーナが何か叫んでるけど、聞こえないふり。

 「できますよ。やりませんけど。」

 「その辺は常識あるんだ。」

 リリーサはちょっと困った顔をする。

 「今の猿ですけど、ヒメさんは目の前に再生された猿は、木の上で分解された猿と同じものだと思いますか?」

 「え?」

 違うの?

 「リルフィーナを分解して、再生します。それって分解される前のリルフィーナと同じリルフィーナだと思いますか?記憶も行動もまったく同じでも、本人が間違いなく自分だと言っても、それが元のリルフィーナだと言い切れますか?」

 「え?や・・・それは・・・わからないよ・・・」

 「そうなんです。<モトドーリ>は<バラバラ>で分解した物質をそのまま使って再生してるはずなんです。理論上は同じもののはずなんです。でも、絶対同じものだと証明できません。だから、人間には<モトドーリ>は怪我とか部分の欠損以外は使いません。万が一違うものだったとしても、そのくらいなら納得できるかな、くらいのものにしか使わない様にしています。もちろん、わたしにケンカ売ってきた愚か者たちや悪人には<バラバラ>はガンガン使いますけどね。再生しなきゃOKです。」

 いっそ潔いよね。まぁ、人の事は言えないけど。わたしも燃やすし。

 

 そうか。ファリナやミヤが分解されて、また再生されたとする。自分たちは分解される前の本物のファリナやミヤだよと言われて、わたしはそのファリナやミヤと今までと同じように向き合えるんだろうか。正直わからない。


 「どうします、怖くなりましたか?この魔法を習うのはやめますか?わたしも火と水の魔法を教われないのは残念ですけど、ヒメさんの魔法陣で使えるようになるかどうかわからないですし、また次の機会もあるでしょうしね。今回はお互い見送りで構いませんよ。」

 どうしよう・・・

 (見送りよ。見送りなさい。というか、魔法なんかどうでもいいから、このおかしな連中から離れるの。)

 ファリナが耳元で囁く。ミヤは・・・木の上で、怯えてこちらを見てる猿たちを厳しい目で見てる。おいおい。

 「ミヤ、絶滅させちゃダメよ。」

 恨めしそうにこちらを見る。

 「この国では、岩投げ猿の殲滅命令でも出ているんですか?」

 「個人的な事だから忘れて。」

 「個人的なことで種が絶滅するんですか。怖い国ですね。」

 日常茶飯事だよ。あ、ここはいつも、日常ご飯時とボケてるんだった。


 「いいよ。今日はわたしたちの家に来たいんだっけね。行こう。」

 「ヒメ!」

 「大丈夫だよ。リリーサがおかしなまねするようなら燃やしちゃうから。町が全滅するくらいマジで燃やしちゃうから。」

 「え?町って何ですか?家が全焼って言ったんですよね。」

 リリーサが一筋冷や汗を流す。

 「何にもしなきゃ何も起きないから。お互い生きて明日の朝日が見たいよね。」

 「違う。何か違う。思っていたお友達のお家でお泊りと何かが違うの。何で明日の朝日の心配しなきゃいけないの?」

 「じゃ、やめる?」

 「う、夢にまで見たお友達のお家でお泊り。友達いなかったし、リルフィーナだといつも一緒だったからお泊りにならないし・・・うー、行く!行きます!」

 今度はリリーサが考え出す。

 ちょっと、もとい、かなりおかしいけど、彼女も彼女なりに大変だったのかなぁ。おかしなまねしないのなら、他愛のない夢の1つや2つ叶えてあげてもいいんじゃないかな。

 「仕方ないわね。」

 ファリナがため息を吐く。


 「わたし、ロクローサの町の近くまででしたら、<あちこち扉>で送れますよ。」

 それはありがたいかな。わたしが<ゲート>を使えるのは内緒にしておきたい。けど、わたしたちが住んでいるのは・・・

 「違いますよ。ヒメさんたちはマイムの町です。というか移動するならそろそろロープをほどいてくれませんか。」

 木の根元でジタバタしながらリルフィーナが騒いでる。

 「何で知ってるの?」

 「ご自分でさっき言ってたじゃないですか。マイムの町のハンターだって。」

 え、言った?

 「リルフィーナはバカですけど記憶能力はすごいんです。」

 「会った時から今までの会話再現して見せましょうか?あぁ、でも、お姉様とヒメさんの会話の途中で寝てしまいました。そこは覚えてません。」

 おバカなのか、凄いのかわからない。けど。

 (迂闊な事言えなくなったわね。だから追い返せと言ったのに。)

 ファリナが背中をつねる。

 「大丈夫。よけいな事を聞いたようなら燃やしてしまえばいいし。」

 「待ってください。今のセリフの対象はわたしじゃないですよね。」

 リルフィーナが青ざめてこちらを見る。

 「心配しなくても大丈夫。リリーサの<バラバラ>と同じぐらい跡形もなく燃やせるから。証拠になるものは残らないからね。」

 「なら、安心ですね。」

 リリーサがにこやかに言う。

 「どこに安心がありましたか?」

 「リルフィーナがいなくなっても、同じ秘密を共有するお友達として、わたしとヒメさんは幸せになりますから心配しないでね。」

 「なんです?そのわたしが消される前程の話は。こうなったら後悔のないよう、今夜の寝床はお姉様と同じ部屋でお願いします。」

 「ダメです。今夜はわたし、ヒメさんの部屋で寝ます。夜通しで“ぱじゃまぱーてぃ”です。“がーるずとーく”です。」

 「疲れてるでしょうから早めに寝た方がいいですよ。」

 ファリナが顔は笑ってるのに、なぜか迫力を感じる話し方でリリーサに詰め寄る。

 「大丈夫です。ついさっきキャンプから出発してきたばかりです。まったく疲れてません。」

 ファリナからの圧を無視して、にこやかに返すリリーサ。

 「わたしも参加します!」

 「ミヤもやる。トークは得意。」

 駄洒落じゃないよね。ミヤも本気とボケの境界線がかすれててわかりにくい。ついでに言うけど、あんたにコミュ能力があった覚えはないんだけど。

 「まぁいいや。行こう。」

 「では、マイムの町の近くに<あちこち扉>を開けますね。」

 わたしたちは、その場を移動する。

 「お姉様!無視しないでください。なんでわたしを置いていくんですか?いいかげんロープをほどいてください。」

 あ、忘れてた。

 振り向いたわたしたちの目に、木の根元では縛られたリルフィーナ。木の上では、岩を構えつつも、投げたら酷い目にあわされるため、どうしていいかわからず、わたしたちを睨む岩投げ猿の姿があった。

 けっこうカオスだわ。





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