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41.教会で面倒みてくれていました


 「その教会は、孤児の面倒をみてくれることで町の支持を得ていました。確かに、9歳までは衣食住を教会で面倒みてくれていました。ですが、10歳を越えたら、男の子は土木や建設などの肉体労働を、女の子はお店で売り子や食堂などの給仕などをしてお金を稼ぐことを強要してきました。」

 どうなんだろ。無理やりっていうのはいただけないけど、教会を運営するためには孤児たちの労働力を使うことが悪いとは言い切れないんだけど。

 「えぇ、教会をやっていくためのお金がないのなら、子どもたちが働いて協力することは悪い事ではありません。でも・・・」

 ちょっと躊躇してリリーサが続ける。

 「わたしは、父に、6歳の時教会に預けられました。世間知らずの父には聖教会とその胡散臭い教会の区別がつかなかったようで、とりあえず孤児を集めてる教会なら安心できると思ったようです。そこには、リルフィーナもいました。そこで育てられたわたしはある日、人の怪我を治す魔法を使ってしまいました。父には人には見せるなと言われていましたが、わたしは人助けになるならと思ったのです。」

 話は真っ当に進んでるけど長くなりそうだな。というか、なんで身の上話が始まってるわけ?

 「それを知った、教会の責任者だったシスターカレンは、わたしを使ってお金儲けを思いつきました。そう、怪我を治す代わりに高額な治療費を要求したのです。どんなに高額でも、治してほしい人が絶えることはありませんでした。毎日、毎日何十人、何百人もの人が、教会を訪れたのです。教会の儲けは莫大なものだったでしょう。なのに、孤児たちに働かせることをやめようとはしませんでした。」

 あっ、ミヤが寝てる。ファリナまでウトウトしてる。よく、こんな何をしでかすかわからない女の前で油断できるね、あんたたち。

 「そこにいるリルフィーナは見かけは普通の女の子のようですけど、敏捷性には優れていました。ただ、中身はグダグダで、よくドジでおバカな猫と呼ばれていました。」

 「猫言うな!殺すぞ!」

 「ヒャイ!ごめんなさい!」

 突然ミヤが叫びだし、ファリナが飛び上がって謝る。いや、ミヤに言ったわけじゃないし、なぜファリナが謝る。2人とも寝ぼけてる?

 久々に聞いたな、そのセリフ。


 「えーと・・・続けていいですか?」

 「まだ続きますか?」

 恐る恐る尋ねる。

 「もーちょっとです。」

 「手短にお願いします。」

 脇を見ると、再びミヤとファリナはコックリコックリしてる。さらに、リルフィーナまでシートの上に横になって寝てる。え?起きてるのわたしたちだけ?

 「聞いているのはヒメさんだけになりました。わたしとしてもまた最初からというのは勘弁してほしいです。ちゃんと聞いてくださいね。」

 有無を言わさぬ笑みでわたしににじり寄るリリーサ。首をコクコクうなずかせるしかないわたし。くそー、話が終わった瞬間に全員燃やしてやる。


 「リルフィーナは不出来な娘です。魔法も使えず、できる事は剣とナイフだけ。そう戦闘に関しては教会内で1,2を争っていましたが、他にとりえもなく、給仕をやらせればお皿を割りまくる。お店の店員をやらせればお釣りを間違いまくる。それはそれは酷い有様でした。」

 眠っちゃダメ、眠っちゃダメ・・・

 「シスターカレンはリルフィーナに言いました。13歳になったら成人よ。あなたの能力では教会のためになりません。ハンターになるか体を売りなさい、と。」

 「はぁ?」

 急展開の内容に怒りに燃えるわたし。

 「何そのシスター。殴っちゃっていいよ、そんな奴。」

 「はい。それを聞いた次の日、わたしは怪我を治す力を失いました。シスターは何やら言いましたが、わたしは徹底的に脅しをかけて・・・間違いました・・・じっくりと話し合って、教会の役に立たなくなったわたしとリルフィーナが教会を出ていくことを納得していただきました。いくばくかのお金を頂き、わたしたち2人はそのお金を元に、ガムルザフトの片田舎でお店を持つことにしたのです。」

 あぁ、治癒魔法が使えなくなったってそういうことか。

 「じゃ、本当はまだ怪我を治せるんだ。」

 「神がお許しになればその時は。」

 「この娘のために教会を出たんだ。」

 「元より、教会のやり方には不信を抱いてましたし、それがきっかけになったと言えばそうなんでしょうね。先ほどこの娘が言っていた通り、わたし、教会の中では白聖女と呼ばれ、世間のことは知らされず、それはそれは大事に育てられました。金づるのわたしが教会に対して反抗しないようにと考えてのことでしょう。ですから、わたしには本当の善悪などわからないのかもしれません。わたしが教会を出たことは実は間違いだったのかもしれません。それでも、わたしにはこの娘が、命を危険にさらすハンターにならなくてはいけないとか、ましてや体を売れなどと強要するような教会のやり方は納得できなかったのです。」

 わたしも正しいと言い切れる自信はないけど、リリーサは間違ってはいなかったと思うよ。


 「ただ一つ間違ってしまったかもと思うのは、この娘を連れてきてしまったことでしょうか。」

 「はい?」

 あれ、リルフィーナを助けたいって思ったんだよね。

 「言いました通りこの娘、お店での店員の仕事ができません。お釣りを間違える。大事な瓶を割る。数えればきりがありません。なので、リルフィーナは店員ではありません。仕事ができないので。その上、たまにですけど、夜中に・・・その・・・わたしの寝室に忍び込んで来ようとしますし・・・わたし、判断を誤ったのかもしれません。」

 「そ、それは・・・大変だね・・・」

 迂闊な事が言えない状況になってきた。リリーサがリルフィーナを助けて、いい話で終わると思ってたのに。

 「先ほどはリルフィーナをここに残していくいいチャンスでした。ヒメさんが面倒見てくれると言ってくだされば・・・」

 押し付けるな。犬猫でも困るのに、人間を押し付けようとするんじゃない。

 「リリーサはリルフィーナを助けたいって思ったんだよね。なのに、リルフィーナのこと好きじゃないの?」

 「その好きというのは、どちらに向かっているものなのでしょうか?友情ですか?愛情ですか?」

 「それはリリーサの気持ちであって、わたしにはわからないよ。」

 「実はわたしにもわかりません。ヒメさん的にはどう思われますか?」

 ど真ん中直球の質問キター。まぁ、会ったばかりの人に正直に答える必要はないでしょ。

 「うーん、わたしは・・・」

 言かけて視線を感じる。

 ファリナとミヤが、薄目を開け、真剣な目でこっち見てる。それはそれは、くいるように・・・ごまかそうと思ったのに。あぁ、なんて答えよう。

 「人を好きになるのに性別は関係ないと思う。後は自分にとってその相手は友達なのか、それ以上なのかは自分の心に聞くしかないと思うし。それに、今すぐ決めなきゃならない事でもないでしょ。しばらく一緒にいて、自分の気持ちをしっかり確認することが大事だと思うよ。」

 だから、リルフィーナを置いていかないでよ。

 とりあえず、当たり障りのない答えを返しておく。いや、はっきり言うけど、そんなの知らないよ。会ったばかりの人の恋愛相談なんて答えようがないでしょうが。

 「そうですか。ところで、なぜわたしは会ったばかりのあなたに身の上相談をしているのでしょうか?」

 「知らないわよ。正直こっちはいい迷惑よ。で?魔法を教えあうのはいつがいいかって話だったよね。あなたは、灰色狼を狩った後がいいって言ってたわけだけど。」

 「あぁ、そうでした。わたしたちはこれからバイエルフェルン王国まで行ってきますので、戻るのは4,5日かかると思うんですけど、それからでもいいですか?」

 4,5日か。丁度家の改修が始まる頃だね。

 「構わないけど、どうやって待ち合わせる?戻る日が正確にわからないと、わたしたちも毎日ここで待ってるわけにはいかないよ。」

 「家までお伺いしてもいいですか?この辺りにお住まいなんでしょう?」

 「あ、もう少し真ん中のパーソンズ領なんだ、住んでる場所は。といってもわからないか。」

 他国の領地名なんてわかるわけないよね。わたしなんて、この間まで自分が住んでる領地名知らなかったし。

 「パーソンズ領ですか。では、ロクローサにお住まいですか。」

 「知ってるの?」

 「はい。ガルムザフトを挟む、エルリオーラ王国とギャラルーナ帝国にはしょっちゅう行ってますので、宿の関係もあり領地や町にはくわしいですよ。」

 うーん、すごいというべきか、そんなしょっちゅう密入国してていいのかとツッコむべきか・・・


 (ちょっと、ヒメ。密入国の上、密猟者よ。迂闊に関わらない方がいいって。)

 ファリナが耳打ちしてくる。

 そうなんだよね。正直犯罪者なんだよね。

 「その件なんですが、悔い改めようと思います。これから向かうバイエルフェルンに入国する時から正式にハンターとして入国許可をもらい、ギルドにも届け出ようと思います。」

 いきなりだな。今までの流れで悔い改める要素があったかな?

 というか、今までの会話につながりがあったかな?

 『魔法を教わりたい』『身の上話』『恋愛相談』といった事柄が、なんの脈絡もなく突然始まって突然話題が変わるという、会話で理解しあう気のない、人としてはあるまじき流れだった気がするんだけど・・・

 「あなたがたのような胡散臭い人間に、犯罪者呼ばわりは非常に苦痛です。そのような仕打ちは人として耐えられません。これでも白聖女と呼ばれた身。今日、今から清く正しい生活を始めます。まずは、朝ちゃんと起きます。」

 え?朝起きれないって、そこから始めるってどこのお子様なんだよ。

 「お姉様は朝弱いのです。わたしが起こさないと昼まで寝ています。」

 リルフィーナが恥ずかしそうにする。いつ起きた?

 「いや、それもうリルフィーナなしじゃまともな生活送れないじゃない。」

 わたしは呆れた顔でリリーサを見る。

 「ちなみにヒメ様もミヤが起こさないと晩まで寝てる。」

 よけいな事は言わんでいい。

 「ほらごらんなさい。わたしの勝ちです。」

 勝ち誇るリリーサ。

 くそー、なんか悔しい。じゃなくて、また話がブレだしたんだけど。

 「待った!ここで違う話になんかさせないよ。リリーサはこれから真っ当に生きていくんだね。で、4,5日後にこの国に戻ってくると。その時にあたしたちの家に来るってことだったよね。」

 「待ってください。誤魔化す気ですか?わたしとヒメさんのどちらがだらしないかというお話でしたよね。」

 違うから!断じて違うから!

 ここは譲っちゃだめだ。また話が長くなる。

 負けるな、わたし!

 「残念だけどヒメ様の方がだらしない。」

 蒸し返すんじゃない!!





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