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40.苦労なさったんですね


 「お話はわかりました。苦労なさったんですね。」

 「誰のせいよ、誰の!?」

 他人事のようにしみじみと言うリリーサの襟を掴み、前後に揺さぶる。

 「誰って・・・自業自得?」

 ヤっちゃってもいいよね、こいつ。

 「え?でも、この世は所詮競争社会。早い者勝ちです。勝った者が勝者です。」

 「まずい。ヒメ様なみに言ってることが理解不能。」

 ミヤが、不審者を見る目でリリーサを見る。

 え?わたしと同レベル?

 「フっ、舐めないでください。お姉様以上に意味不明な事言える者なんてこの世に存在しませんわ。」

 リルフィーナが胸を張る。

 それ褒めてるの?貶してるの?


 「灰色狼が必要ならわたしのお店に来てくれればよかったのに。」

 「いや、あんたの店なんて知らないし。って、お店やってるの?」

 「ご存じないですか?『ヴァイス・ゼーゲン』というアイテムショップです。わたしの村ではけっこう有名なんですけど・・・」

 いや、地域限定すぎるな。第一、ガルムザフトには行ったことないよ。

 「あの情報に疎い村はずれのエミールさんでさえ知っているから世界中のみんなが知っていると思ってたのに・・・」

 そんな隣三軒の価値観で世界を語られても・・・

 「すいません。お姉様はつい数年前まで、高級紙で包まれたうえに化粧箱に入れられたような人生を送っておりまして、常識がお猿さん並みなんです。」

 どれだけ箱入りなの、それ。

 「常識など、所詮世間の価値観の一部。臆することなどありません。」

 「とまぁ、最近ではすっかり開き直ってしまわれて。」

 「表に出していいの?これ。」

 「人の事をこれとはなんですか、これとは。あなたの方がよっぽど常識がありませんわ。」

 「あなた、さっきわたしのことを命の恩人と言ってたよね。その恩人に向かってその口の利き方は何?」

 「グッ、なんて恩着せがましい方でしょう。こうなったら、この世から消してしまうしかありませんわ。」

 指先をわたしに向けようとする。

 「あぁ、お姉様!」

 ミヤが、再びリルフィーナの首を絞め、鉤爪を押し付けている。

 「リルフィーナ!あぁ、困りました、困りました。」

 「これ、永遠に続くわけじゃないでしょうね。」

 ファリナがうんざりした顔でこの喜劇を見ていた。


 「お騒がせいたしました。これからは態度を改め、たとえどんな理不尽に対しても謙虚に当たらせていただく所存でございます。」

 まったく反省の色が見えないけど、このままだと、永遠に終わりそうもないので、お互い手打ちにする。


 「ところで、あなたのお店じゃ灰色狼の肝の煎じ薬って売ってるの?」

 ファリナが尋ねる。

 あぁ、店やってるって言ってたね。

 「なぜ、わたしが店をやっているとご存じなのですか?」

 「あなたが言いました。まずいわ。こちらのペースに持ち込まないと神経戦で負けてしまう。」

 ファリナが冷や汗を流す。わたしも焦り始める。唯一ミヤだけが、淡々とリルフィーナの首を押さえている。

 「フッ、ボケボケでお姉様が負けるはずがありません。」

 いやな戦いだなぁ。


 「お答えですが、売ってますよ。1週間分で金貨5枚です。」

 「たっか!」

 思わず声が出る。 

 「わたしのお店は多利薄売なのです。ですから高いのです。」

 ですからって、今の説明になっていた?

 「悪徳商人ってわけなんだ。」

 「そうではないのです。仕方ないのです。」

 急に悲しそうになるリリーサ。

 「わたしのお店は、店長のわたしと居候のリルフィーナしかいません。」

 「え?居候?店員でしょ。」

 「店の手伝いはしますが、店員ではありません。なぜなら、お給料をもらっていないからです。」

 胸を張るリルフィーナ。

 「無給なの?」

 「お小遣いはもらってます。居候なので。」

 違いがわからない。もういいや。そういうものだと割り切ろう。

 「で?どうして商品が高いのが仕方ないの?」

 「わたしたちは商品をこうやって旅をして自分で仕入れてます。自国内はおろか他国まで行くことも多いです。」

 「で?」

 「今回は灰色狼を探しに来ました。即ち、商品が手に入るまで帰れないのです。」

 「え?帰れないって、売る商品が手に入るまで、自分の国には帰らないってこと?」

 「はい。ですから、わたしのお店は一月に一週間も開けてないわけです。今回は2週間前に店を出て、一応来週から開店できたらいいなぁ、という張り紙をしてきました。」

 なんか、いろいろと唖然。頭がついて行かない。

 「なので、その店を開けている数日間のうちに1か月分の利益を上げなければなりません。必然的に高く売れる商品だけを取り扱うようになったのです。」

 「よくそれでお店やっていけるわね。」

 ファリナあきれ顔。

 「高額ですが、レア物ばかりです。王国の隠れ家ショップとして貴族や商人に大人気です。もちろん、誰でも買えるような薬草とかも置いてます。仕入れがうまく回るようになればそういう商品も増やしたいのですが。」

 「お姉様の目標は、阿漕な金持ちからガッツリむしり取って、お店を大きくすることなんです。そうして、誰でも来ることができるアイテムショップにするんです。」

 「まだ資金が足りません。もっと貴族たちからむしり取ってやらないと。」

 いい人なのか悪人なのか。バカなのか利口なのか。判断がつかない。


 「でも、空間移動の魔法使えたよね。あれで毎日帰ればいいんじゃないの?さっき、それでわたしたちの前に現れたのよね。」

 「あぁ<あちこち扉>ですか。」

 そんな名前だっけ。何とかならないの、そのネーミング。

 「以前は帰っていたのですが、わたしのお店はいつ開店するかわからないため、常に人がお店の周りで待っています。今では、地方から来る方のために、お店の前に簡易宿泊所まで作られました。さらに、わたしは見た事ありませんが、なんでもわたしのお店がいつ開くかで賭け事が成立しているとかで賭場まであるそうで、警吏の方になぜかわたしが怒られました。」

 ごめん、なんかすごいことになってるのはわかるけど、質問の答えになってないよね。

 「で、わたしたちが帰って、夜、灯りなどを灯しますとお客の皆さんが、翌日には開店するのではと、前の夜から並ばれたりするのです。でも、翌日また<あちこち扉>で旅に出てしまって、結局お店が開かないとわかると結構な騒ぎになるとかで。まぁ、わたしたちは現地にいないからどうでもいいんですけど。それで、村長さんや商業ギルドのマスターさんからもっとお店を開けろと怒られました。けど売るものがないのにお店を開ける事なんてできません。なら、せめて商品を用意できるまでお店にいないでほしいと言われました。わたしの家なのに帰れません。おかしいですけど仕方ないです。」

 「・・・あ、終わった?」

 「聞いてました?」

 「聞いてたけど長いよ。」

 「説明しろと言われたから説明したのに、説明したら長いと言われる。どうしろというんでしょう。やはり、この世から消えてもらうしか・・・」

 「あぁ!お姉様!刺されます!」

 「あぁ!困りました。困りました。」

 エンドレスかい。


 「まぁ、それで売るものが手に入るまでは家に帰れないんだ。」

 「はい。おかげさまで宿半分、野宿半分の生活です。毎日宿に泊まるのはお金がかかりますから。」

 何度目かのドタバタも終わり、再度シートに座り、お茶を啜る。

 「大変なんだね。自業自得だけど。」

 「同情するなら何かくれ。」

 何かの物語の1フレーズだったかな。だが、無視する。

 「うぅ、渾身の一発芸だったのに・・・」

 リリーサがガックリとうなだれる。

 ツッコむとこだった?この娘の場合、ネタかマジかの区別がつかないからツッコミどころがわからない。

 「ヒメ様がツッコめない・・・」

 「リリーサ、恐ろしい娘。」

 あなたたちがツッコんでくれませんか。


 「それで、先ほどのお話に戻りますが、わたしの魔法を教わる代わりに、魔法を教えてくださる話だったのですが。」

 「うん、いいよ。今からにする?」

 「そうしたいのは山々なんですが、わたしたちは灰色狼を探さねばなりません。みなさんのお話では、この国では見つかりそうもありませんので、お隣のバイエルフェルン王国まで足を伸ばさねばならないようです。まずは、灰色狼を確保したいです。」

 まぁ、商品の確保が第一だよね。

 「ですが、水と火の魔法はできれば覚えたいです。できるかどうかはわかりませんけど。水と火が使えれば、旅の途中大変助かります。料理や飲料に水の心配をしなくてよくなりますし、なにより野宿の時、体を洗えます。今までは川とか湖で洗っていましたけど、いつも誰か来ないか気になっていましたが、魔法が使えれば人目につかない場所なら、どこでも体が洗えます。」

 「まぁ、女の子ですものね。」

 「冬はさすがに野宿はしませんが、春や秋でも日が暮れると結構寒いです。火も使えるようになれば、温水が使えます。なので、できれば使えるようになりたいです。」

 「わかってると思うけど。使えるようになりたいからって、使えるようになるとは限らないからね。」

 魔法陣は使う本人が思い描けなきゃ使えない。陣を見たからと言って使えるものじゃない。

 「わかっています。あなたが教えてくださる魔法陣がわたしに合えばいいのですが。前に教わったものはわたしでは術が発動しませんでしたし。ところで・・・」

 「ん?」

 「あなた誰ですか?」

 よし、殴ろう。ヤっちゃえないなら、そのくらいいいよね。

 「違います、違います。わたし、あなた方の名前聞いてません。」

 あれ?そうだっけ。

 「人には名乗らせておいて失礼ですよね。」

 「悪かったわよ。今までの話が強烈すぎて、そんなことすっかり忘れてた。わたしはヒメ。で・・・」

 「ファリナです。」

 「ミヤ。ミヤはミヤであってそれ以外のものではない。」

 「わたしたちは、この近くのマイムの町に所属する“三重奏の乙女”という名前のハンターパーティーなの。」

 「あ、わたしたち2人は“白聖女の舞”と名乗っています。」

 そういえば、聖女扱いなんだっけ。

 「以前までは、です。今は聖女の力が使えませんから。ですから名前だけですね。」

 「使えない?」

 「はい。前まではどんな怪我も治せたんですよ、わたし。病気は無理でしたけど。それを聞きつけた国内外から怪我人がわたしのところに集まりました。毎日、100人以上治し続けました。何年も、何年も・・・でも、ある日、その力がなくなってしまい、聖女失格となって、店を飛び出してきたんです。」

 「店?」

 え?聖教会とかじゃなくて?

 「聖教会ではありません。『ガナープラ』という名の神様を信じる異教の教会でわたしは聖女をやっていたのですが、所詮異教。教会とは名ばかりのお金儲けの商店のような場所でした。」


 この世界で神様と言えば、聖教会の教えに出てくる神様のことで、ほぼすべての人がそれを信じてる。まれに、他の神様を信仰する人もいるけど、全人口の数パーセントにも満たないだろう。

 で、聖教会の教えに出てくる神様は何人もいるけど、それぞれに名前はない。神様は神様という名前なのだ。

 なので、名前のある神様を祀った教会というのは珍しいわけ。


 「神の名を騙ったお金儲け目当ての集団でした。」

 リリーサが苦々しい顔をする。

 お気楽そうなのに、そうでもない人生を送ってきたのかな・・・






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