39.困りました
「困りました、困りました。」
眼鏡女がオロオロしてる。
リルフィーナと呼ばれた少女はミヤに抑えられ、こちらもオロオロ。
「質問します。ここで降参したら、わたしどうなるのでしょうか。1.殺される。2.牢屋行き。3.犯される。4.その他。さぁどれでしょう。」
なんだろう、緊迫感が全く感じられないから、つい1番って言いたくなる。
「わたしたちは役人じゃないからね。話さえきちんとしてくれて、納得できるのなら、見逃すって選択肢もありだよ。」
「本当ですか?じゃ、なんて言えば納得してくれますか?納得できる話を今から考えます。」
おい。せめて、わたしに聞くな。
ファリナも疲れた顔で2人を見る。ミヤだけが2人の動きを油断なく見張ってる。
分解魔法って初めて見た。あれって生き物も塵に分解しちゃうんだよね。
「指さしたものを分解するよう。魔法を発動させないためには両手を切り落とせばいい。」
「ヒィ!なんて恐ろしいことを・・・」
ミヤのセリフに眼鏡女が青ざめる。
「大丈夫です。お姉様には<モトドーリ>があります。切られても元に戻ります。」
「そうでした。ってリルフィーナ、バラしちゃったら油断してくれません。」
「あぁ!しまった!仕方ありません。降参しましょう、お姉様。そして、そちらの方々、できれば殺す以外の選択肢でお願いします。で、3番の、あんなことするなら、その役はわたしにお願いします。責任をもってやり遂げて見せます。あぁ、でもあんなことされて失意のお姉様を慰めてあげるかたちでこんなことするのもいいかも・・・どっちがいいかな・・・悩みます・・・」
1人延々と頭のおかしい事をしゃべり続けるリルフィーナに呆然のわたしたち。眼鏡女が、後ろから攻撃してくる危険性さえなけりゃ投げ捨てて帰りたい。ちなみに治癒魔法も使えるんだ。っていうか、何、その魔法のネーミング。
魔法は発動の仕方が個人のイメージで変わるので、同じ魔法でも同じ魔法陣を使う人はそうはいない場合が多い。基本の魔法陣を使う場合は基本の名称があるけど、オリジナルの魔法陣を使う魔術師は、自分の魔法にオリジナルの名前をつけることがある。
わたしの、魔人族を燃やせる壊滅級の<豪火><豪炎><豪爆>はわたしのオリジナルだ。その上にわたしたちが殲滅級と呼んでいる<爆火><爆炎>が続く。ここまでくると、町一つ以上消せる威力になり滅多に使うことはない。滅多にだから、使うよ、たまに。ファリナに怒られるけど。
「リルフィーナを引き渡します。処遇はそちらの自由にどうぞ。で、わたしは見逃してください。」
「お姉様、それはズルいです。仮にも“白聖女”と呼ばれる方がそれでいいんですか?」
「聖女なんて呼んでほしいわけじゃないです。皆さんが勝手に呼んでる名称のイメージを押し付けられるのはじょーだんではないです。」
「うん。わかる。」
「いっそ清々しいわね。」
「聖女と呼ばれる人間はみんなどこか変。」
納得するわたし。冷めた目で見るファリナ。そしてミヤ、なぜわたしとあいつを見比べる。
「それに、心配しないでリルフィーナ。殺されても死ななければ元通りにしてあげます。犯されるくらいなら御の字です。」
「殺されたら死にます。犯されるのも嫌です。そう仰るのなら一緒に捕まって同じ目にあってください。」
「うー、捕まるかどうかは、わたしたちの処分の内容を聞いてから決めます。で、捕まったら殺されるのですか?犯されるのですか?」
涙目に決意を込めてわたしたちを見る眼鏡女。
「ついに2択になったね。」
「それも自分たちで勝手に決めてるしね。」
わたしとファリナが疲れた顔で2人を見る。油断はしてないけど、ミヤも段々しびれを切らしてきたようだ。
「だから、正直に話をしてくれて、納得できたら何もしないってば。」
「納得できなかったら?」
「つまり悪い事してる自覚があるんだ。」
「無いですけど、あなた方が言いがかりをつけそうな顔をしてることだけはわかります。」
「お姉様!そこは穏便に。そこまで正直にならなくてもいいのでは。」
「正直に話せと言われました。胡散臭い連中ですが、そう言われている以上話せる範囲で正直に話します。ただ正直に話せそうなのはこの連中の悪口くらいです。」
「要は話す気無いってことよね。」
こめかみに青筋を浮かべるファリナ。
めんどくさい。
眼鏡女のすぐ前の地面に小規模の炎魔法を発動させる。
目の前の地面から顔の高さまでを炎が立ち上る。
「キャ!」
眼鏡女がしりもちをつく。
「か、火炎魔法・・・」
「いい加減にしようよ。ね?」
「は、はい・・・」
眼鏡女がガックリとうなだれる。
「指さすものを分解できるなら、悪いけど手を後ろで縛らせてもらうわよ。」
ミアが眼鏡女の手を後ろに廻す。素直に縛られる眼鏡女。
「お姉様を身動きとれないようにして、何をする気なんですか?」
リルフィーナが目を血走らせてこっち見てる。
「うぅ、おかあさーん・・・」
眼鏡女が涙を浮かべて俯く。
わたしたちの命の危険があるからやってるんだけど、なんだろう、この罪悪感。
「ミヤ、魔法の発動を感じたらかまわないからヤっちゃって。」
「わかった。」
「やっちゃうんですか?何をやっちゃうんですか?」
「あの娘うるさい。」
「すいません。バカな娘なので・・・」
素直に謝られると怒れなくなるんだけど。
「名前は?」
「リリーサです。」
「お姉様ってことはあのリルフィーナとかいう娘と姉妹なんだよね。」
「赤の他人です。」
「酷いです、お姉様。赤の他人だなんて。正直に恋人だと仰ってください。」
あぁ、そっちのお姉様か。
視線を感じてそちらを見ると、物欲しそうにこちらを見てるファリナ。
「呼ばないからね。」
「チェッ。」
向こうの話が脱線しまくって、どこに向かうかわからなくなってる時に、こっちまで脱線するのはやめてほしい。
「恋人ではありません。すでにストーカーの域を超えています。」
「ヒドっ、でも、なるほど。言葉攻めというやつですね。さすがお姉様。」
「ごめん、その辺はどうでもいいかな。後で2人きりの時にやって。」
お願いだから、ファリナとミヤに悪い影響を与えませんように・・・
「で、どこから来たの?」
「隣の・・・ガルムザフト王国から。」
「目的は?」
「・・・・・・」
「言えないくらい悪い事なんだ。」
「言えます。ガルムザフトでは狩れなくなった獣や魔獣を探しに来たんです。」
リリーサの代わりにリルフィーナが叫ぶ。
「むこうで数が少なくなって、狩りに出ても見つからなくて、それで、エルリオーラやその向こうのバイエルフェルン王国ならいるんじゃないかと思ったんです。でも、正式に入国すると、獣や魔獣の国を越えての持ち出しには税がかかります。それで、つい出来心で・・・」
なるほどね。
「ということは、あなた方ハンターなの?」
ファリナがリリーサを上から下まで眺める。聖教会の制服みたいな恰好で、足元が見えるくらいのロングスカート、とてもハンターには見えない。
「はい。一応ガルムザフトではCクラスです。」
あきらめたように、リリーサが語り出す。
「そのくらいのことならいいんじゃないの。まぁ大した金額じゃない税金をごまかす程度でしょ。」
「そうね。これで国王様を暗殺に来たとかなら話は別だけど。」
「それならもっと見逃しちゃうよ。どんどんやって。」
ファリナは呆れた顔でわたしを見るけど、内心は否定してないよね。
「え?見逃していただけるんですか?」
リリーサの縄をほどいてやる。
「もうほどいちゃうんですか?あんなことやこんなことしないんですか?」
「いや、わたしたちはいいや。」
リルフィーナが残念そうにしてる。あんた、恋人だと思ってる人が酷いことされてもいいのか。だめだ、変態の考えることはわからん。
「ありがとうございます。あなたがたは命の恩人です。お礼と言ってはなんですが、リルフィーナを置いていきますので、馬車馬のように使ってください。」
「ヒドッ!お姉様酷いです。」
「油断したら夜這いをかけてくるような変態さんは、少しこき使われて真っ当な人間になるべきです。そのうちまたこの辺を通りますので、気が向いたらその時引き取ってあげます。それまでがんばるのですよ。」
なんだろう、すでにこの娘が置いて行かれる前程の話が進んでいるような気がする。いらないからね、身内から変態呼ばわりされるようなおかしいやつは。
「お願いですから置いて行かないで。わたし、お姉様がいないと生きていけません。」
「仕方ない娘。ということですので、この娘は返していただけないでしょうか。」
「いや、なんか勝手に話してたようだけど、いらないよ、こんな変な娘。」
「そう言われるとなんか悔しいので、残ってやろうかです。」
「残ったら死ぬほどこき使ってやるからね。」
「ごめんなさい。」
土下座するリルフィーナ。
「ガルムザフトで狩れない獣って何なの?あそこって、この国と気候大して変わらないから、棲んでる獣はそんなに変化ないとおもったけど。」
「目的は灰色狼です。今年の初めから、ガルムザフトじゃ、灰色狼料理の大ブームなんです。なので、灰色狼は高額取引されてるんです。ただ、元が少ない上に狩りすぎて国内じゃもう絶滅してしまうからと規制されて。なので違う国に行ってみようと。」
リリーサが収納魔法からみんなが座れる大きさのビニールシートを取り出す。
「お座りください。お茶いれますね。」
「収納魔法が使えるんだ。そういえば、さっき<ゲート>で空間移動してたよね。」
「はい。<なんでもボックス>と、移動というのは<あちこち扉>のことですね。」
だから、そのネーミングセンスなんとかならないの?
大きな水筒と火打石、鍋が、その<なんでもボックス>から出てくる。
「わたし、<バラバラ>と<モトドーリ>以外は役に立つ魔法使えなくて。あなたのように火炎魔法が使えたらいいのにな。見ての通り、持って歩く道具だけでも大変で。まぁ<なんでもボックス>があるからまだましなんですけど。」
「火と水は得意な方だから見てあげようか?」
「本当ですか?でも、今までいろいろやってみたんですけど、使えなかったんですよね。」
「まぁ見るだけしかできないけど。教えられることがあれば教えてあげる。そのかわり、<バラバラ>と<モトドーリ>っていうの教えてくれない?わたしも使えるかどうかはわからないけど、面白そう。」
「面白くない。世界滅亡の確率が増える。」
「あぶないよね。」
ミヤとファリナがなにか言ってるようだけど無視。
「いいですよ。できる範囲でお教えします。使えるかは別ですけど。」
「ところで、さっきの話だけど、灰色狼はこの国でも今はあまりいないみたいなんだ。」
「ええ、知ってます。一応様子を見てから、隣のバイエルフェルンに行こうと思ってたんです。」
「あぁ、知ってたんだ。」
「はい、この国の灰色狼は、今年の春に大方わたしが狩っちゃいましたから。」
「「・・・・・・」」
待って。聞いた言葉が頭に入ってこない。今なんて言った?ファリナもわたしと同じ顔してる。
リリーサが・・・灰色狼を・・・狩りました・・・大方の・・・
「お前かい!犯人は?!わたしたちが灰色狼狩るのにどんだけ迷惑被ったと思ってるのよ!!」
森にわたしの叫びが響き渡った。
「白 編」=「白聖女 編」
前回の「白 編」9話目にして、ようやく登場しました、2人目の聖女様です。
企画時は、もう少しまともな性格だったのに・・・(というか聖女sの中で唯一まともな方のはずだったのに)
ミヤの言ではないですが、この世界の聖女様って人格破綻者、もとい、性格が特殊な方が多いようです。
それでは、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。




