35.切れ味が格段に上がる
剣に魔力を通す。刃に薄い魔力が纏い、切れ味が格段に上がる。
「じゃいくよ。」
剣を走らせる。スパンと幹を切り裂いた感触。様子を見てたら・・・木がわたしに向けて倒れてくる。
「わひゃー!」
奇声を上げて横に逃げる。わたしの背中をかすめるように木が倒れた。
「死ぬかと思った。」
呆れた目の2人。死にそうになったんだよ。何?その目つき。
「なぜ、斜面の下側から木を切る。」
「そっちに倒れるってバカでもわかるよね。」
あれ?確かに麓側に立って、山頂側に剣を振ったけど。あれ・・・?
「何のつもりかと思ったけど、まさか本気だったなんて・・・」
「受け狙いと思ったのに。」
う、うるさい。ちょっと勘違いしただけだい。
「ミヤがやる。見てられない。」
木の横に立つ。こちらとは反対側に立っているから、ミヤの姿が幹に隠れて見えない。
わたしは立ち位置を麓側にずらす。ミヤが見えた。
「いく。」
光が幹を横切ったように見えた。ミヤの鉤爪が木を切ったんだろう。
「えい。」
ミヤが切った木を蹴る。こちらに向けて。
重力と蹴った勢いで、木は斜め方向、わたしが立っている方向に倒れてくる。
「わひゃー!!」
奇声を上げて逃げる。
わたしの横をかすめて木が倒れる。
「受け狙いはこうやる。」
「うっさいわ!バカ!!」
受けで殺されてたまるか。
「これ、わたしもやらなきゃいけない流れ?」
ないから。流れなんかないから。
とりあえず、その後は命の危険を感じることなく、コルド杉を10本切り、<ポケット>に収納する。
「こんなものかな。さて、猿が戻ってこないとも限らないし、さっさと引き上げるよ。」
「そのことなんだけど、見張られてる可能性があるならあまり早く帰るのはまずくないかな。こんな短時間でコルド杉10本をどこから切ってきたとか疑われかねないでしょ。」
その心配もあるのか。今回やることすべてにおいてが面倒事なんだけど。
「まずは、筋肉バカだよね。きちんと対処できなかったダラムルさんも悪いよね。目配りできないロイドさんも同罪かな。あぁ、何人燃やしたら気が済むかな・・・」
「今回は止めないけどね。」
「というかミヤもやる。」
白の森を抜けたところの草原まで出てきてテントを張る。ここで半日休憩だ。
こういう事態を想定してなかったから、お昼の用意はしていない。
<ポケット>には食材は入ってるけど、わざわざ調理するのも面倒だ。仕方ないので、<ポケット>に入れてあった買い置きのパンをかじる。
「まぁ依頼を受けた時ってこんな感じだし、いつも通りって感じよね。」
にこやかにしてるけど目が笑ってないよ、ファリナ。エミリアを思い出すからやめて。
ミヤはわたしの膝枕でただただ空中の一点を見てる。何見てるのよ・・・いや、怖いから言わなくていい。
いつもはテントの中で動きやすいように、別々に置いてあるベッドをくっつけて昼寝。
なぜ2人でわたしの腕を枕にする。う、腕が痺れて寝れない・・・
日が暮れる前には町に戻って、ギルドに顔出ししたい。このまま明日もこの問題に関わりたくない。
<ゲート>でマイムに町に戻ってくる。
最初はハンターギルドに顔出し。
「ですから、個人で依頼を受けるのはできるだけやめていただきたいです。」
受付のノエルさんが不機嫌顔でわたしを睨む。
「ギルドに依頼金が入るでもなし、みなさんのポイントになるでもなし。何一ついいことないです。というか、報告されても文句しかでませんけど。」
そりゃそうだよね。
「ご、ごめん。でさ、切ってきた材木置く場所ないかな。」
「ハンターギルドですよ。獣や魔獣ならいざ知らず、材木の依頼なんて年に1回あるかどうかのものです。置き場所なんて作ってないです。いつもは依頼があった時は裏の空き地に置いてます。使うならどうぞ。」
「空き地じゃなぁ。」
「じゃ、ありません。」
ノエルさんが冷たい。
「じゃ、商業ギルドで聞いてみようか。」
「本当に切ってきたのか?あ、いや、うちには今、材木を置ける場所はない。すまんな。」
商業ギルドマスターのアイルドが慌てた感じで両手を左右に振ると、そのままマスターの部屋に戻って行く。
「やっぱりいらいぬしのだらむるさんのしざいおきばにおいておくしかないようね。(やっぱり依頼主のダラムルさんの資材置き場に置いておくしかないようね。)」
「そのようね。」
ファリナとわざと大きな声で話す。見事な棒読み。幼児のお遊戯レベル。これで、筋肉バカか商業ギルドのマスターが動いてくれるかな。
「ヒメ様、面白かった。」
受け狙いじゃないってば。
「やっぱり預かってくれなかったわね。」
「そりゃ、燃やすにしろ盗むにしろ自分のところから無くなったら責任問題だからね。なんかする気なら預かれないでしょ。」
ここまで、すべての対応が予想した通りに進んでる。なので、予定通り丸太のままの木を、街はずれにあるダラムルさんの資材置き場に置いて一度家に帰る。
まだ日が出てる。この時間から何か仕掛けてくるとは思えない。ただ、ひょっとしたら、さっきのお遊戯に呆れて何もしてこないかもしれない。それは勘弁してほしいな。
家への帰り道。途中で人気のない路地へ入る。
後をつけてくる気配。1人か。このまま後をつけさせるか、それとも燃やしちゃう?
「そろそろいいかな。」
場所も人気のない路地裏。よし、燃やしちゃおう。そう思ったら・・・
「ちょっといいかな。」
・・・向こうから声を掛けてきたよ。
その日の夜。
ダラムルの実家に隣接する資材置き場。
店は借りていたけれど、住む所と資材置き場はダラムルのもの。ただ、丸太状態の木でも置けるようけっこうな広さの土地が必要だったから、家のある場所は街はずれ。あまり人気のないところにあった。
その近くの倉庫の陰に、10人前後の人影。
「あそこだな。」
「どうします?火をつけるのが一番早いですけど。」
「バカ野郎。コルド杉だぞ。なんとか持ち出すぞ。」
「丸太だって言ってました。持てませんよ。」
「ダラムルの野郎を始末して、馬車で運ぶ。その後火をつけりゃ、ダラムルの死因もわからないし、材木がなくなったなんて誰も気がつかないだろう。少しは頭を働かせろ。ギルドマスターだろう。」
(よし!計画通り。)
まったくだよ。テンプレ通りだよ。なんでここまで予想通りに動くかな。
(そして、ダラムルさんが刺されるのも予定通り。)
それは予定から外してあるから。
まぁ、筋肉バカだけじゃなく、商業ギルドマスターまで出てきてくれたのはラッキー。一網打尽ってやつだね。
(探知にあのお化粧バカが引っかからない。)
誰?あぁ弟とかいうやつね。いないの?肉体労働向きじゃないもんね。でも、困ったな。後から燃やしにいかなきゃダメってこと?
(あいつらも燃やしちゃダメよ。そういう約束でしょ。)
わかってるよ。それ以前にこんな材木がいっぱいのところで火なんかつけたら、この辺一帯が火の海になっちゃう・・・ないね、材木。そういえばお金がなくて買えないってダラムルさん言ってたもんね。世知辛いなぁ。
わたしは<ポケット>から鋼の剣を出す。先日、パープルウルフ狩りの前に買っておいたやつ。あの時は、緊急事態過ぎて使えなかったけど、今日こそ役に立つ時が来た。
(それでいいの?)
(商業ギルドマスターがいるからね。盗賊風情と違って、いつもの剣だと、何か感づかれるかもしれない。念には念だよ。)
男たちが塀で囲まれた資材置き場の敷地の中に入っていく。
「よし、まずはダラムルの野郎をやっちまうぞ。」
家に押し入ろうとした時。
「誰をやるって?」
丸太の陰から現れるダラムルさん。
「お前をだよ。領主様御用達の看板を俺に譲って、下請けになれと誘ってやったのに断りやがって。徹底的に潰して領地から追い出す程度でいいと思っていたが、まさかこんな土産を用意してくれるとはな。コルド杉は俺が有用に使ってやる。これ以上はお前は邪魔になる。あの世とやらに行ってもらおうか。」
一瞬ダラムルさんの声に驚いた後、筋肉バカが指をポキポキ鳴らしながら、ニヤリと笑う。
「まちなさい。」
わたしたちが入口に現れる。これで、筋肉バカたちは塀に囲まれた敷地の中でわたしたちとダラムルさんに囲まれた形になる。人数はあっちの方が多いけどね。
「そこにいるのはぎるどますたー。さては、あなたたちぐるだったのね。(そこにいるのはギルドマスター。さては、あなたたちグルだったのね。)」
「ヒメ様棒すぎ。」
うるさい。伝わればいいんだ。
「じゃ、こるどすぎをかいしめて、だらむるさんにわたらないようにしたのもあなたたちのしわざね。(じゃ、コルド杉を買い占めて、ダラムルさんに渡らないようにしたのもあなたたちの仕業ね。)」
ほら、ファリナだって大して変わらない。
「こるどすぎのどくせんはんばいはきんしされているはず。これはしょうぎょうほういはんよ。(コルド杉の独占販売は禁止されているはず。これは商業法違反よ。)」
「うるさい、小娘が。私がドリアスさんにコルド杉を売る。ドリアスさんはそれを高く売って儲けた分の一部を私に返す。みんな幸せになるんだからいいことじゃないか。」
「あんたたちにとってでしょ。けど、その夢もここまでよ。悪党はみんな、このわたしが成敗してあげる。」
ここからはお芝居じゃないから、普通に話す。
「コルド杉を運ばなければならん。時間がない。ここにいるやつら皆殺しにしろ!」
いい捨て台詞。さぁみんな切り刻んであげる。
男がナイフで斬りかかってくる。ここにいる筋肉バカの一味って、剣士ではなく大工のはずだから、剣は持ってない。女のわたしとはいえ、剣とナイフじゃ剣の方がリーチが長いわけで、ナイフが届く前にわたしは剣を横に薙ぐ。胸を切り裂く・・・はずだったけど、切った感触がない。かわりに鈍い音を立てて男が吹き飛ぶ。
「ぐゎっ!ほ、骨が・・・」
肋骨をへし折られた男は胸を押さえて転げまわる。
「え?」
剣の刃を見る。
なにこれ。安物とは思っていたけど、一回当たっただけで刃が潰れてる。これじゃ切れない。
「こ、こいつ、切り傷なら縫えば直りが速いが、殴ることで骨を粉砕して半年は病院送りにする気か。なんて残虐な奴だ。」
「あ、悪魔だ・・・」
なんか、わたしの評価がひどいんですけど。
「さすがヒメ。ヤッちゃえないなら、とことん苦しめようって魂胆ね。」
「ヒメ様本領発揮。」
身内からの評価もひどいんですけど。
「ええい、もうどうでもいい!みんな燃えちゃえばいいんだぁ!」
叫ぶわたしを飛びかかって抑え込むミヤとファリナ。
何やってるのよ。敵は向こうよ。
「これ以上は人死にが出ます!警吏のみなさんお願いしまーす!」
ファリナの呼ぶ声に呼応して、塀の陰からこの領地の警吏さんたちが突入してくる。
「全員取り押さえろ。」
隊長さんの指示に従い、そこにいた男たちを抑え込み、縄で縛る警吏のみなさん。
「ふざけるな!」
筋肉バカは、警吏さんたちを振りほどくと、こちらに走ってくる。
「小娘なんぞにバカにされてたまるか!」
振り上げた拳が、倒れていたわたしめがけて振り下ろされる。
スッとわたしと筋肉バカとの間に入ってくる人影。
ミヤだ。
ミヤは、殴りかかってくる拳に、合わせるように鉤爪を叩きこむ。
「ぎゃぁぁぁ!!」
体重差と殴りかかってきた勢いを考えればミヤが吹き飛ばされるはずなのに、ミヤは微動だにせず筋肉バカの拳を受け止めた。いや、拳に鉤爪が深々と刺さって、筋肉バカは飛びずさり、血まみれになった拳を抑えて痛みで地面を転がりまわる。
うん、あれは痛そう。
ミヤは、わたしとファリナ以外の他人に興味を持たないうえに、他人には容赦がない。特にわたしやファリナを傷つけようとするやつらには。
「ヒメ様を傷つけることはミヤが許さない。」
その場の全員が、青くなってその様子を見ていた。子どもにしか見えないミヤに大男の筋肉バカが反対に弾き飛ばされたのだ。
わたしとファリナは、やっちゃったなーと頭を抱えていた。




