30.戦いが終わってあくる日
新章です。(あくまで、作者の頭の中でのことなので、気にしなくてもいいです。)
章立てはしないので、サブタイトルの雰囲気が変わったら、章が変わったんだな、と思ってください。
章が変わっても、内容は、ひたすらおしゃべりですけど・・・
パープルウルフと人魔との戦いが終わってあくる日。
目が覚める。体が重い。昨日の疲れが残っているみたい。
うつ伏せから起き上がってみる。わたしの背中にミヤが乗って寝ていた。うん、重いはずだ。
横にはファリナまで寝てるし。シングルのベッドに3人は洒落にならないから。
ミヤを引きずり降ろして、ベッドから抜け出る。脱ぎ捨ててあった服を集めて、身につけると、部屋の窓際に行きカーテンを開ける。
えー、これいい時間なんじゃない?疲れていたとはいえ寝坊でしょ。
「んー、おはよ・・・」
ベッドから声。窓からの光でファリナが目を覚ましたようだ。
「え?何時?昼近いんじゃない?」
ガバっと飛び起きる。
「ロイドさんには夕方行くって言ってあるから平気だよ。みんな疲れてたみたいだね。」
ミヤものそのそ起き出して、2人は服を着る。
「ミヤはご飯を要求する。」
「これから支度するから待ってて。」
「いいよ。外で食べよう。今日はゆっくり休もうよ。」
「昨夜も外食でしょ。うーん、まぁいいか。」
これから支度してたら食べ終わるのは何時になるか。わたしたちは外に食べに行くことにする。
玄関に鍵をかけると、家にミヤの特殊結界の魔法をかけてもらう。泥棒避け。
これは、家の壁に魔法陣を刻み込んでおいて発動させ、後は自然界に存在する魔力で術を永続させる。これで誰も入れない。なんでも、宝物とかを守るための魔法で、留守にしてても盗まれないようにするものなんだって。
噂の『外道資金』もだから大丈夫だと、家の床下にしまってある・・・らしい。見た事ないもん。興味ないし。
ただ、問題が一つ。ミヤがいないと解呪できないから家に入れないってことかな。
ご飯食べたらロクローサの町に向かう。夕方行くとは言ってあるけど、ギルドに行く時間も必要なのであまり遅くはできない。
パーソンズの屋敷に着く。今日は門番さんいるね。なんでも昨日は、パープルウルフを馬車から降ろすのに男手が総動員だったとかでいなかったんだって。
「こんにちは。領主様に取り次いでもらえる。」
「わかった。ちょっと待っててくれ。」
門番さんが屋敷の中へ報告に行く。
奥からバタバタと騒々しい音が聞こえる。
ファリナの頬を汗が流れる。
「ファリナお姉様!」
フレイラがお日様みたいな笑顔で飛び出してきた。
「いらっしゃいませ、ファリナお姉様。今日はゆっくりしていけるのですか?泊まっていきますか?わたしの部屋でもかまいませんよ。」
「あ、えーと、き、今日は無理かな。また今度ね・・・」
こちらに救いの目を向けるファリナ。だがすまん。わたしにその娘を止める力はない。わたしの話聞いてくれないし。
「いつまでも入ってこないと思ったら。フレイラ、いいかげんにしなさい。」
ロイドさんが顔を出す。
「まずはお茶でもと思っていたが、このままギルドに行っても構わないか?」
「そうしましょう。それがいいわ。」
くっついて離れないフレイラをそれとなく引き剥がそうとしながらファリナが同意する。
「わたしも・・・」
「だめだ。家にいなさい。これは仕事の話なんだ。聞き分けなさい。」
ロイドさんに怒られ、シュンとなる。
「ごめんね、フレイラ。家で待っててね。」
「わかりました。終わったら必ず家に寄ってくださいね。」
「そうね、時間があれば・・・」
微妙に視線を逸らすファリナ。フレイラにこやかに。
「もし来てくださらなければ今晩わたしがファリナお姉様のお家に行きますね。そうなると遅くなりそうですから、お泊りになりますね。わたし、お布団はファリナお姉様とご一緒でかまいませんよ。」
「寄ります。絶対寄らせていただきます!」
フレイラ、恐ろしい娘。ファリナが手玉にとられてる。
ロクローサのギルドに行く。領主の特殊案件ということで、ギルドマスターの部屋で話をすることになった。
ちなみに、パープルウルフは昨日のうちにギルドの解体場に運び込まれていて、もう解体も終わって、マリアさんのための薬も作られているはず。薬は煎じ薬ではなく、パープルウルフの内臓の体液から作られるので、早ければ今日の朝方にはできてるんじゃないかな。
ファリナにまかせて、わたしとミヤはホールの椅子に座って待機。
そして、当然のように向かいにはエミリア。
「リーアの護衛はいいの?」
「リーアお嬢様が、こちらにおられる時はわたしが護衛なのですが、お嬢様は本来なら王都の学校におられるはずなのです。ただ、旦那様が奥様の薬のために王都へ向かわれたので、奥様の面倒を見るために入れ替わりでお戻りになられていました。なので、奥様の容体が落ち着き次第王都へお戻りになられます。王都の学校では、個人の護衛は認められていませんので、わたしはついていけません。お嬢様が卒業されこちらに戻られるまではわたしの仕事は旦那様と奥様の護衛ということになります。」
学校か。貴族の学校ね。高貴な方々って大変だね。
とか話してたら、ファリナの気配がする。早すぎるよね。
ギルドマスターの部屋がある方からファリナがやってくる。
「終わったの?早すぎない?」
「ちょっと相談。魔石はどうするって。」
「魔石?パープルウルフって魔石持ってたっけ?」
「氷の魔石を持ってるのよ。魔石は原則狩ったハンターに所有権があるけど、パーソンズ家としては売ってくれないかって。」
「1匹丸ごと売る約束だもの、魔石も持っていっていいわよ。」
「本来なら、依頼の際に魔石の所有をどうするか依頼書に書くものですけど、決めてなかったのですか?」
エミリアが尋ねる。
「魔石持ちの魔獣なんて久々だったから忘れちゃった。テヘ。」
ファリナが舌を出して笑う。
高位の魔獣は、体の中に魔石という石を持っている。名前の通り魔力を持った石だ。わたしたちの普段の生活で重要な役割を持っている。たとえば水の魔石なら、魔力を通せば水が出るから水道に、火の魔石なら火が出るから暖炉や炊事場に、といったように使えるのでわたしたちの生活の道具として欠かせないものなわけ。
ただし、魔獣から取れる魔石なんて数がしれてるから、貴族、王族用だ。わたしたち庶民は、鉱石としてとれるピューリー鉱という石を使う。これは別名『無垢の石』と呼ばれて、それぞれの属性の魔法陣を彫ってやると、その属性の効果が現れる。専用の属性ではなく、後付けする石なので、魔獣の魔石と比べると効果が小さい。水の出が少ないとか、火が小さいとかいうふうに。ただ、個人が描く魔法陣ではないので、魔力さえ少なからず持っていれば誰でも使える。
ちなみにわたしたちの家では、わたしが水でも火でも、出したい放題なので、ピューリーの魔石はあちこちに設置はしてあるけどほとんど使わない。夜の灯りのための『光の石』くらいかな、ピューリーの魔石を使っているのは。
高位の魔獣と言ったけど、実はどれが高位なんだかなんてわからない。人族が魔石を持っている魔獣を高位としているだけで、実際の位なんてわからない。
ゴブリン、オーク、オーガあたりは持っていない。パープルウルフは氷の魔石を持っている、と今ファリナが言ってた。
氷か。欲しいけど・・・
「うん、約束だから渡してやって。お金は依頼料でいいわ。決めなかったのはこちらの責任でもあるし。」
「ごめん。わたしのミス。」
ファリナが、両手を顔の前で合わせる。
「後からとはいえ、依頼書はわたしも確認したもの。ファリナの責任じゃないよ。それに・・・」
わたしは、自分のお腹の辺を軽く叩く。
ファリナが頷く。わかってくれたみたい。実は、パープルウルフはもう1匹、<ポケット>の中に入ってる。
後から魔石以外を他のギルドで売ればいい。氷の魔石は貯蔵庫で使えそう。いつもは、<ポケット>に食材も入れてあるけど、貯蔵庫で冷やせるならそれに越したことはない。
「わかった。そうする。」
ファリナはギルドマスターの部屋に戻っていく。
「決めるのがあなたなら同席した方がいいのではないですか?」
ふと気づいたけど、エミリア、話し方が他人行儀だな。昨日の一件で線を引かれたかな。まぁ、馴れ馴れしいよりいいか。
「うちのパーティーのやり方だから。気にしなくていいよ。」
「失礼。出すぎました。」
うわ、話しづらい・・・
依頼や成功報酬の話はファリナにまかせてある。というか、ファリナがわたし抜きでやりたがるんだ。
どうも、貰ったお金の金額を少なくわたしに教えて、差額をちょろまかしてる、じゃなかった、貯めこんでるみたい。
ファリナがそうするにはなにか訳があるんだろうし、なんとなく理由もわかる気がする上に、ミヤも一枚かんでるみたい。ミヤがわたしに何も言わないってことは、わたしには知られたくない事なんだろうな。隠し事ができずに、なんでもわたしには話す娘だから。
どうせ、何かあった時、わたしに残そうとか考えてるんでしょ。
何かなんてないのに。だって、その何かは、わたしが全力でぶっ潰すから。いざとなったら、国一つくらい燃やし尽くしちゃうよ。
「終わったわよ。家に帰ってから報告するわね。」
ファリナとロイドさんがやってくる。
「じゃ、帰ろうか。」
わたしは椅子から立ち上がる。
「待って・・・パーソンズさんの屋敷で休んでいきましょう。お願い。」
ファリナがすがる目でわたしを見る。
「でないと、フレイラが来ちゃうの。」
そんな話もあったね。ファリナだけって言おうかと思ったけど、泣きそうな顔でしがみついてくるファリナを見捨てることはできなかった。
結局、パーソンズ家に夕方までお邪魔することになった。
ファリナはフレイラに纏わりつかれ、口から魂が抜けだしそうになっていた。
昼に完成した治療薬を飲んで、気のせいかもしれないけど、気分がいいと言って、寝間着姿で現れたマリアさんは、ミヤを抱きしめて離さない。普段と変わらない表情のミヤだけど、わたしの見立てではかなり不機嫌だ。
わたしには、ロイドさんがわたしたちのことをそれとなく探り出そうオーラ全開の上、万が一に備えて、エミリアがロイドさんの後ろから睨みつけてくるという暴挙に、屋敷を燃やすのを我慢するのが精一杯という悪夢のような時間だった。
「疲れた。昨日より疲れた。魔人族と戦うより疲れた。」
マイムの自宅に戻り、居間の椅子にドッカと腰を下ろす。
「忘れないうちに報告ね。今回の依頼であるパープルウルフの確保、それに加え魔人族との戦闘とフレイラの迷惑料を含めて、金貨100枚頂きました。」
金貨100枚か。お金の話はいつもファリナに任せてるから、多いのか少ないのかわかんないや。まぁ、ファリナが納得してるんだから、そんなものでしょう。
「50枚を当面の生活資金として、わたしが預かります。2人には、今月のお小遣いとして金貨2枚渡すから。」
「いや、せめてお給料って言ってよ。なに?お小遣いって。子どもじゃないんだから。」
「じゃ、お給料ね。残りは外道資金に入れておくけど、他に何か欲しいものある?」
ちょっと考えていたことがあった。
「部屋広くしたい。わたしの部屋の隣の物置にしてる部屋とつなげて広くしたいかな。」
「何わがまま言ってるの。みんな同じ広さなんだから我慢しなさい。」
「で、ベッド大きくしたい。今のベッドに3人は狭い。」
「え?それって・・・」
「どうせ、週の半分は一緒に寝てるんだから、最初から1つのベッドでいいじゃん。」
ミヤがピクっと反応する。
ファリナは何やら考えているようで、目が泳いでる。
「ヒメがどうしてもって言うなら考えないことも・・・」
「あまりお金がかかるようならやらなくていいよ。」
「大丈夫!お金は大丈夫!」
「ミヤも一日2食で我慢する。」
「そこまで節約しなくても大丈夫だから。そこそこお金はあるから。」
壮絶な決意に、目に涙を浮かべてるミヤをファリナが慰める。
ミヤがめずらしく自室に戻ったので、わたしも自室に戻る。ミヤは、いつもなら居間でゴロゴロか、わたしの部屋でゴロゴロなんだけど。
たぶんわたしがいなくなったら、ファリナはミヤのところへ行って、2人で悪だくみしてるだろう。わたしは見ないふり。
大丈夫。2人はわたしが絶対守るから・・・わたしのこの力はそのためにあるんだから・・・
で、前回ラストにつながります。
本当はここまでが「登場 編」だったんですけど、29話とつながるのでこっちに持ってきました。




