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3.森で話す少女たち


 わたしたちは、戦闘場所から少し離れた街道に出てきた。

 もちろん、ここも中級ランク以上のエリアだが、街道の片側が丈の短い、ウサギでも動けばわかるような草原になっていて、その向こうにまた森があるという開けた地形になっている。森側に気をつけていれば敵に囲まれることもない。キャンプとなると気をつけないといけないが、話をするくらいならまあまあ安全かなという場所だ。

 

 「あらためまして、助けていただいてありがとうございました。わたしはマリシア。こちらは・・・」

 「フレイラ・パーソンズ。助けていただきありがとうございました。」

 「わたしは、ランクCのハンターですが、こちらのフレイラ様の専属護衛として雇われております。」


 お嬢様は家名持ちかぁ。貴族ってことだよね。やっぱり。

 この世界じゃ、家名、つまり名字を持っているのは、貴族か名のある勇者くらい。他人が聞いてどこの誰かわかるためのものだ。

 もちろん、貴族なんて、全員有名ってわけじゃないけど、家名があるってことは偉い人だってことはわかる。

 名のある勇者なら功績で国内外に名前が知られている。


 「わたしはヒメ。ハンター“三重唱の乙女”のリーダー。」

 「え?」

 「あなたがリーダー?」

 うわ、なにこの失礼なやつら・・・

 「まぁ、名目上は。わたしはファリナ。」

 「ミヤ。ミヤはミヤであってそれ以外ではない。」

 2人は、ファリナのあいさつには納得の目を、ミヤのあいさつにはうへぃといった目を向ける。

 「それにしても、ヒメって名前だったんですね。どこかの国の王女様かと一瞬思いましたが、そんなはずないですよね。だって・・・」

 「フ、フレイラ様・・・」

 フレイラの軽口をマリシアがあわてて止める。

 「だって?」

 わたしは、微笑みながらフレイラに尋ねる。そう、微笑みながら聞いたはずなのに、2人の顔が青ざめる。

 「だ、だって・・・・・・そ、そう、あまりにお強いので。王女というより勇者と思えたので・・・」

 あわてて、フレイラが言いつくろう。

 「そう。」

 あまりいじめるのもあれなので、それ以上はやめておく。

 勇者という呼び方に興をそがれたというのが本音だ。なのに・・・

 「あまりよけいなことは言わないほうがいい。ヒメ様マジ外道。裸にひん剥いて縛り上げた上で盗賊のアジトに放り込むくらい平気でやる。」

 いや、ミヤさん、何を言ってるのかな。するわけないじゃん。

 「ま、まさか・・・」

 2人は引きつった笑いで、そっとこちらを見る。

 わたしは笑ってあげる。そんなことしないよ。

 「申し訳ありませんでしたぁ!!」

 なぜ、2人で土下座?わたし、笑って許したよね?それより、貴族のお嬢様が土下座しちゃあかんでしょ。


 「そちらの発言とその後の行動は、お互いなかった、見なかったということで。そう、何もありませんでした。」

 ファリナがそう言って、うやむやにもっていく。

 いくら貴族とはいえ、この場で相手の気分を害するような言葉は憚られるだろうし、貴族が土下座をした、させたとなるといろいろ問題が大きすぎる。貴族の名誉のためにわたしたちの命をとるくらいの話になるだろうけど、命の恩人にあだで返すというのも、貴族の名誉にかかわるだろう。逆に証拠隠滅のためわたしたちに消される可能性だってある。

 なので、ここは何もなかったことにするしか手はない。

 向こうもそれはわかっているから、すぐさま了承してくれた。


 「場所を移したけど、よくよく考えたらここにいる必要はないでしょう。町に帰りましょう。あなたたちはどこの町から来たの?」

 わたしが2人に尋ねると、ファリナがあきれたように言う。

 「聞いてなかったの?家名がパーソンズと言っていたでしょう。」

 「それで?」

 ファリナが大きくため息をつく。なにかおかしなことわたし言った?だって、ミヤだってわかってない顔しているじゃない。

 「ここはなんて領地でしょうか?」

 「あぁ!」

 「わかった?」

 「知らない。どこ?」

 「パーソンズ領よ!パーソンズ領!!」

 ファリナがわたしの顔の間近でどなる。近いよ・・・

 「え?マイムの町じゃないの?」

 「それは、わたしたちが今住んでいる町の名前。パーソンズ領のマイムの町。」

 そうなんだ。町名はさすがに覚えてるけど、領地名まではねぇ、あまり遠くに行かないし。聞くことも聞かれることもなかったし。

 「じゃ、領主のお嬢様なんだ・・・で、領主ってどこに住んでいるの?」

 3人がため息をつく。むろん、ミヤはわたしの味方で、我関せずって顔してる。え?それは味方じゃない?

 「パーソンズ領の領都はロクローサの町になります。マイムとは隣町ですね。」

 マリシアが苦笑いで教えてくれる。

 「じゃ、とりあえず近いほうの町に行こう。こんなとこじゃ、いつまた魔獣とか出てくるかわからないし。」

 ファリナとミヤが頷く。だが・・・

 フレイラがうつむいたまま泣きそうな顔をしている。それをマリシアが困ったような目で見つめる。

 やがて、意を決したように顔をあげると

 「お願いがあります。手を貸していただけませんか?」

 うわー、面倒事の予感。とはいえ、こんな子どもにすがるような目をされると・・・イジワルして断ってみたいような気がするイ・ケ・ナ・イわたし。

 「ヒメ様最低。」

 え?なにも言ってないよね、わたし?こいつ、人の心を読んだ?


 「なにがしたいの?」

 いろいろ、ぶち壊してるわたしとミヤを放っておいて、ファリナがフレイラに尋ねる。

 「・・・・・・」

 ここまで言っておいて、いざとなるとフレイラは困ったようにうつむいて、黙ってしまう。

 そんなに言いにくいのかな。

 「実は、わたしたちは灰色狼を狩りに来たのです。」

 マリシアが代わりに答える。

 灰色狼って・・・野生の獣で、普通の狼より1、2まわり大きい。その名のとおり、濃い灰色の毛皮で非常に敏捷性にとんでいる。要するにメチャクチャ速いのだ。ハンターランクC以上推奨の獣。マリシアはたしかにランクCだけど・・・

 「倒せるの?」

 ファリナがマリシアに尋ねる。

 「1匹なら・・・なんとか・・・」

 さすが、ランクC・・・と言いたいけど。

 「灰色狼は基本つがいで行動してる。つまり2匹いる。」

 ミヤが言い放つ。

 そうなのだ。もちろん、親離れしたばかりなら単独行動なのだが、すぐにペアを見つけるようで、1匹の灰色狼に出会える確率はあまり大きくない。出会えるとしたら、つがいで2匹または、子連れで3、4匹のほうが可能性が高い。

 さらに、灰色狼自体があまり出会うことのないレアものなのだ。

 つまり、滅多に見つからない。見つかったとしても2匹以上を相手にしなければならない。1人のハンターには、けっこう荷が重い相手なのだ。


 「それで、わたしたちに手を貸してほしいと。」

 「ランクDのあなたたちには厳しい相手なのは重々承知しています。でも、マリシア1人に押し付けることはできません。わたしが、強ければ・・・」

 悔しそうにギュっと両手を握りしめるフレイラ。

 「でも、2人だけでここまで来たんでしょう?」

 「いえ、先ほどの男たちの中の2人が灰色狼の居場所を知っているということで、案内と現地での応援にその2人を雇ったのです。2人なら、たとえよくない考えを持っていたとしても、わたし1人で相手できると思ったのです。でも、結局お嬢様を森まで連れ出す罠だったようで、森に着いたとたん他の男たちが現れて、さっきのようなざまになったわけなんです。」

 「え、じゃ、あいつらハンターなの?」

 「はい、ランクDのハンターギルドのカードを持っていました。」

 ギルドカードは身分証明書だ。偽造はできないし、盗んだって、ギルド間の連絡ですぐばれる。

 まぁ、本人が知られていない土地でなら身元を偽って、またランクFから始めることはできるんだけどね。だから、犯罪者が名前を変えて、知らない土地でハンターになることは可能だ。仕事をやっていけるかは別問題だけどね。ハンターの仕事が務まるのなら、そもそも犯罪者にはならない。

 それを、Dランクまでなれたのに、犯罪に手を染めるって・・・バカだよね。


 「話を戻すよ。」

 どうでもいい方向に話が向かいかけたので、わたしは修正する。人生の無駄は許せるが時間の無駄は許せない。

 ファリナはその違いが理解できないという。ミヤはどうでもいいという。フッ、俗人どもめ。

 「灰色狼をどうするの?」

 言ってみたものの、大体決まっている。

 灰色狼の肝は病気や怪我の痛み止めの薬とされている。

 「お母さまが・・・病気なの。ずっと寝たきりで・・・今まで飲んだ薬の中で灰色狼の肝が一番効いたみたいだって、お父様が・・・」

 だよねー。やっぱりか。

 「でも、領主様なら、灰色狼の肝くらい簡単に手に入るんじゃないの?」

 ファリナの疑問はもっともだ。こんな小さな子どもが危険を冒してまで森の奥まで取りにくるものじゃない。まして、貴族のお嬢様が。

 フレイラが首を左右に振る。

 「この頃、灰色狼が捕れないのだそうです。領内では見つからなくて、お父様は王都まで行っています。」

 「ご自身で?」

 ファリナがなかば呆れたというように尋ねる。領主の仕事はどうした。

 「使える伝手と特権を行使するには自分で動いたほうがいいと。」

 「はっきりとしたお父様ね。好きなタイプだわ。」

 うん、目的のためには手段を選ばないファリナ好みだよね、領主様。

 「でも、もう2週間戻ってきません。王都でも見つからないらしくて・・・」

 「それで、お嬢様自ら出てきたと。」

 「はい。お家の私事に巻き込んで、マリシアには申し訳なく思っています。でも、わたしが、灰色狼を狩るにはマリシアに頼るしかなくて・・・」

 「かまいません。マリシアはフレイラ様をお助けするためにいるのです。むしろ、頼っていただいてうれしく思っています。」


 いい話だなー。おねいさん感動しちゃったよ。うん、じゃ、これで・・・とは冗談でも言える雰囲気じゃない。

 雰囲気ブレイカーと呼ばれるわたしだが・・・主にファリナとミヤに・・・さすがに見捨てるわけにはいかないだろうと、チラリとファリナとミヤを見る。

 ファリナは手伝う気満々だ。ミヤはどうでもいいとばかりに地平線を見てる。うん、さすがミヤ。ぶれないなぁ。


 灰色狼って食べられるよね。少し多めに狩れば、あしたのご飯もちょっと豪勢になるはず。

 2割フレイラのために。そして、8割はわたしのご飯のために。しかたない、やりますか。

 「ヒメ様外道。」

 だから、なんであたしの心の中がわかるのよ!え?声に出てた?



  


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