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27.昔話をしよう 6


 「帰ってきた。」

 聞いたことのある声が、幼女の口から発せられる。誰だっけ。

 「ミヤ・・・さん・・・なの?」

 「ファリナ、何言ってんのよ。猫じゃないじゃない。幼女だよ。」

 「だから猫言うな。殺すぞ。」

 え?マジ?

 「ま、ま、ま、待って!訳わかんない。猫が幼女?え?物質移動じゃなくて物質変換の魔法になっちゃった?」

 あまりのことにわたしの頭が崩壊する。

 「向こうにはミヤはしばらく留守にすると伝えてきた。面白そうな世界だから、亀と鳥も来たがっていたが、みんなで来ると向こうの世界が混乱するので、今回は置いてきた。そのうち呼ぶ。」

 「神様そんなにいっぱい来たら、こっちの世界が大変なんで勘弁してください。」

 ファリナがちょっと涙目になる。わたしは気にしないけど、ファリナけっこうミヤに気を遣っていたもんね。


 「待って、待って。質問その1。どうやって来たの?次元転移魔法が使えるなら、自分で帰れたよね。」

 「さっき、転移の魔法陣見て覚えた。」

 「そんな簡単に・・・」

 「人の事言える?」

 ファリナが何か言ってるけど聞こえない。

 「質問その2。その恰好何?」

 「服は持っていない。」

 「あぁ、ごめん。その姿は何?」

 「ヒメカと同じ姿にした。この姿ならこちらにいても問題ない。」

 いかん。マジで理解が追い付かない。

 「え・・・と、姿変えられるの?」

 「ミヤはこれでも向こうの世界では神の一柱を担っている。簡単。」

 うわ、このチート野郎。

 「なぜこちらに来ようと思ったんですか?」

 ファリナが恐る恐る会話に入ってくる。

 「面白そう。」

 一言かい。いや、長生きしすぎてなんか刺激が欲しいのかもしれないけど、それをこちらの世界に求められても・・・

 

 ファリナと顔を見合わせる。

 神様レベルがその辺歩き回る?機嫌損ねて国一つ滅ぶとかありえる事態か。勘弁してほしい。

 「ミヤの力が怖いのなら、封印してもいい。ミヤは受け入れる。」

 でも、わたしの封印くらい簡単に破れるよね。ミヤが入っていた檻の封印結界も簡単に破っていたし。

 「ヒメカはミヤを元の世界に戻してくれた恩人。ミヤはヒメカの傍でヒメカと添い遂げる。だから、ヒメカがミヤの力を必要とする時やミヤがヒメカを守るために必要と感じない限り封印は解かない。約束する。ファリナはヒメカのつがいでない。なら、ミヤがヒメカのつがいになる。」

 「待ちなさい!添い遂げるとか、つがいとか、何言ってるの?!あ、あなたは神様なんだからそんなこと許されるはずないでしょう!」

 さっきまで神様にビビりがちだったファリナが急にむきになる。

 「神様関係ない。2人の問題。ファリナは黙れ。」

 ミヤを睨みつけるファリナ、の視線がこちらに向く。なんで?

 「あなたが昨夜はっきり言わないから。」

 わたしの襟を掴んで締め上げる。

 なに、この痴話げんかみたいな流れは。そして、この騒ぎの原因は素知らぬ顔でこちらを見てるだけって。


 「この世界に迷惑をかけるような力は使わない。基本、封印はわたしが許可したとき以外は自分で解除しない。いい?」

 「わかった。でも、ヒメカが危ない時はヒメカを最優先する。」

 妥協点を探す。

 帰れと言っても帰りそうもない。なにせ相手神様だからね、迂闊なことも言えない。

 部屋のカーテン外して、貫頭衣みたいのを作って着せる。幼女が裸でいるのはよくない。


 「いいわね。モテて。」

 ファリナがなんか怖い。もう視線と言動がわたしの心を抉るんだけど。


 封印魔法もここの人魔が研究として残してあったものを改良して使う。

 前よりは強化してあるけど、どう見てもミヤに通用するとは思えない。けど、ないよりましよね。


 「鍵は肉体接触にします。」

 ファリナの目つきが一段と悪くなって、わたしを睨む。

 「いや、だって、魔法陣だけの封印じゃ、他の誰かに解除される恐れがあるじゃない。わたし以外できないようにするには、これしかないのよ。」

 「キスがいい。」

 ミヤ、壊滅級魔法なみの爆弾投下するのやめて。ファリナが、わたしとミヤを殺しそうな目で見てるよ。

 「触れるだけだと何かの拍子で解除してしまうかもしれない。それに魔法を解くのはキス。お姫様の呪いを解くのはキス。」

 物語の本読ませるんじゃなかった。ファリナ、もう視線だけで人を殺せるんじゃないかな。

 

 「あぁ、めんどくさい。さっさと終わらせて帰るよ。」

 魔法陣を展開。今回も間違いのないよう魔法陣を表示して行う。

 わたしの唇に封印の鍵を、ミヤの額に封印の鍵穴を設定する。

 後はミヤの額にキスすれば・・・

 その時、今まで仏頂面しかしていなかったミヤの表情が初めて変わった。

 ニヤリと薄い笑みを浮かべる。え、笑えるの?

 ミヤの手が額の魔法陣に伸びる。指先が触れる。

 なんで?ミヤは額の魔法陣を移動させる。

 ウソでしょ。わたしの作った魔法陣をなんでミヤが動かせるの?普通、魔法陣は発動させた当人以外は干渉できないはず。


 ミヤは魔法陣を自分の唇に移動させる。

 驚きで固まっているわたしに飛びついてくると、自分の唇をわたしの唇に重ねた。

 あまりのことに、さすがのわたしも動けなかった。ファリナも口をあんぐりと開けて見ているだけ。

 わたしの首に手を廻し、唇を押し付けてくるミヤ。頭が真っ白でなすがままのわたし。

 そして、封印は完成した。


 ハッとなる。封印が完成したようなので、ミヤを押しのけようと力を入れる。

 負けじと力を入れるミヤ。いいかげんにしなさいって、ウニャ!?

 「んーーーー!んーーーーーー!!」

 ジタバタするわたしを見て我を取り戻すファリナ。

 「何して・・・あーー!あんた!何してるのよ!!」

 慌てて駆け寄り、ミヤを引き剥がそうとする。

 ミヤ、こいつ、舌入れてこようとして・・・


 「んーー!んーーー!!」

 「離れなさい!離れろ!!離れてよぉ!!!」

 ジタバタするわたしとファリナ。スッポンのように離れないミヤ。


 もう、大騒ぎだった。


 満足そうに佇むミヤの前で、息も絶え絶えに這いつくばるわたしとファリナ。

 「大事な何かがいっぱい無くなったような気がする・・・」

 呆然と呟くわたし。ファリナも涙目。

 「犬に噛まれたと思って忘れなさい・・・」

 「猫でしょ。」

 「殺すぞ。」

 お前がだよ!わたしとファリナが、ギンっと睨むけど、ミヤはどこ吹く風。

 「唇を重ねるのは愛情表現と聞いた。ミヤは恩人である主が死ぬその時までそばに居よう。」

 何か言ってるけど、耳に入らない。

 「封印を解くとき以外は、ミヤとキスしないよう気をつけないとね。」

 「関係ない。魔法陣を展開しないと封印は解けない。そんなことは万が一にもない。いくらキスしても大丈夫。」

 「あんたが万が一があるからキスにするって言い張ったんだよね!?」

 「記憶にない。主の勘違い。」

 ファリナと2人歯ぎしりをしながら睨みつけるけど、ミヤはどこ吹く風。


 「帰ろう。」

 力なく立ち上がる。


 新しい魔法の陣を発動させる。

 わたしの目の前に、黒い穴が開く。

 「何これ?」

 ファリナ、良く聞こえないよ。もう少し元気出そうよ。

 「空間移動魔法。空間魔法を改良してみました。名付けて<ゲート>。行きたい場所の位置を設定すればそこに行けます。」

 「へー、すごいわね。」

 だから、ファリナ、暗いって。一生懸命、空元気出してるわたしがバカみたいじゃない。ちゃんと聞いてる?

 「これで村の裏の森まで1秒です。」

 「ふーん・・・って、何それ!?そんなことって可能なの!?」

 あ、元気出た。しかも反応遅っ。

 「ちょっと待って。入ったら死んじゃうとか言ってなかった?」

 「それは、<ポケット>で使ってる別次元の空間の場合ね。これは、この世界の2つの場所を点と点でつなげるもの。別次元の空間に入るわけじゃないから大丈夫。」

 「なるほどね・・・全然わからないんだけど。」

 ええい、脳筋め。理屈じゃないのよ。こういうのは感性なの。何となくできるって思えばできるものなの。

 「それは異常。」

 ミヤうるさい。置いていくぞ。


 <ゲート>を通って、わたしたちは村に帰ってくる。


 村には、「魔人族が新しい魔法を研究中だった。」「白状するつもりがないため戦ってこれを倒した。」「研究してたのは1人だったため、新しい魔法の全容は不明になった。魔人族の中でもこの魔法を知る者はもういない。」と報告した。

 空間魔法を公にするのはまずいだろうと、ファリナと相談した結果だった。

 別次元から何かを呼んだりして出てきた何かが、今回はそれなりに理解のあるミヤだったからまぁいいけど、世界を破壊しちゃうような何かだったら面白すぎる。


 ミヤについては、非常に戦闘力が高い人間を、魔人族が研究用に攫って監禁していたところを救出した。身寄りがない上に、わたしに懐いているので、『爆炎の聖女』のメンバーとして迎えたいと報告した。

 試験として、村の上位ランクの勇者3人と模擬戦をやってみた。瞬殺だった。

 わたしが面倒見ると主張した上に、ミヤもわたしと離れるなら村を滅ぼしてわたしと出ていくと村長に詰め寄ったため、誰も反対できる者はいなかった。ミヤの言葉は戯言と一笑されたけど。

 ただ、ファリナだけは小声で『どっか行け。』とずっと呟いていた。

 こうして、『爆炎の聖女』は3人組のパーティーとなったのである。納得していない人もまぁ、わたしの横にいるけど。


 家に帰ってくるなり、ミヤが尋ねる。

 「別の形態をした種族はなんだ?魔人族ではないのか。」

 よくよく聞いてみたら、男の事らしかった。

 ミヤは、人族は女の形、魔人族は男の形をしていると思っていたようだ。


 「つまり、つがいっていうのは男と女の組み合わせの事をいうの。あなた、女なんだからヒメカ様のつがいにはなれないの。」

 ファリナが勝ち誇ったようにミヤに説明する。

 いや、その言い方はまずいって。

 「つまり、ミヤが男になればヒメカのつがいとして認められるのだな。」

 ほら、こいつ変身できるんだから。

 そして、ファリナ、ショックで顔面蒼白。

 「お、男になれる・・・羨ましい・・・」

 何、こっちを泣きそうな顔で見てるのよ。

 「いやいや、わたしは嫌だからね。ミヤ、あんた男になったら追い出すからね。元の世界に強制送還だからね。」

 「ふむ。ヒメカは女好きか。」

 言うに事欠いて何てこと言うかな!?

 「わたしは別に女好きじゃないからね!男が嫌いってだけだから!たぶん・・・」

 「どっちでもいい。どうせミヤとヒメカは生態系が違う。子孫は作れない。でも添い遂げることはできる。」

 それ、わたしが結婚しないのが前提だよね。それは無理かな。

 「なぜできると思う。ヒメカおかしい。」

 「うん?」

 なんて言った?で、なんでファリナ頷く?


 「そうだ。一応ヒメカのことは村の形式上、様をつけるか、聖女様って呼ぶことになってるの。できる?できなきゃ村にはいられないかな。」

 ファリナ、なぜ上から目線。

 「ヒメカ様と呼ぶ。旦那様呼ぶのと同じ。つがいのミヤはできる。」

 「生意気なのよ、生意気なのよ!ぽっと出のくせにぃ!」

 ファリナ大人げないし。え?ミヤの方が年上だから大人げなくてもいい?そうだったね。そしてミヤ、わたしが男役かい。

 先が思いやられるよ・・・


 そして、運命の日がやってくる・・・





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