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199.再潜入 5


 周囲に人影が無い事を確かめて、わたしたちは街道から草原に向かう。

 「少しはましだけど、結構寒いね。」

 防寒着を着ているはずなのに、寒さが身に染みる。

 「そこそこ距離があるとはいえ、最北端の国との国境近くですからね。ガルムザフト王国やエルリオーラ王国に比べれば寒いでしょう。」

 「もうこの辺じゃ、いつ雪が降ってもおかしくないですしね。」

 リリーサとリルフィーナの説明を聞いたら、さらに寒くなったような気がする。


 他の町から来て、ガルムザフト王国方面に向かうという設定にしてしまったので、一度町から外に出てしまうと、もう戻れなくなってしまった。

 とりあえず、はっきりとした建物の位置はわからないけど、目的の将軍の別荘がある地域はわかったからよしとする。

 「1キロ四方の土地のどこに建物があるかわからないって、はっきり言ってまったくわからないと同じ事だと思うんだけど。」

 「だ、大丈夫だよ。1キロくらいなら、ミヤが人のいる場所わかるはずだから……多分だけど……」

 「門を開かないと絶対とは言えない広さなのだが。」

 ミヤがちょっと考え込む。あれ、これマジそうだな。

 「まぁ何とかする。人以外でも人造物などでも判断できる。」

 あれ、だから門を開けって言い出すかと思ったのに。

 「他人がいる前で能力は見せたくない。ヒメ様との生活が大事。」

 ありがとね、ミヤ。


 「夜が更けたら鉄条網のこちらから、別荘の壁まで空間移動する。ミヤに壁の向こうを確認してもらった後、リリーサに壁に穴を開けてもらって、別荘の土地に潜入。壁を修理したら後は家を探す。」

 わたしの提案に気がのらなさそうなファリナ。

 「それ、真っ暗な中でやるのよね。明かりなんかつけたら見つかるでしょうし。ついでに言えば、どのくらい警備がいるのかもわからないのよね。壁の中と外に。」

 「警備に関してはミヤ頼みになるかな。お願いね、ミヤ。」

 「任せろ。全部斬り裂く。」

 いや、そうじゃなくてね……

 「居場所を探知してほしいの。」

 「それだけでいいのか?どうせ女帝とやらがここにいるのは秘密。ならば、そこにいる兵士も秘密のはず。いなくなっても、気がつくまでにはそれなりの時間が必要なはず。ヤるならヤるぞ。」

 警備だって交代制だろうから、明日の朝にはばれちゃうよ。それに、あまりやりすぎたら、女帝がわたしたちを敵として認識するんじゃないかって思うんだよね。

 「捕まってる時点で周りの兵士は敵だと認識すると思います。なら、そいつらやっつけたら、わたしたち英雄と呼ばれるべきですよね。」

 「いえ、お姉様。例えば、いきなり知らない人間が、まわりの兵士を皆殺しにして、いきなり自分の前に現れたら……」

 「あぁ、それは自分を殺しに来たと考えそうね。」

 リルフィーナに言われファリナも頷く。が、リリーサだけは不審な顔。

 「周りの兵士がみんなで殺すんですか?」

 「あぁ、全殺しだったね。」

 リリーサの皆殺しは意味が違うんだっけ。言葉の不自由なやつはめんどくさいな。

 「つまり、見張りの兵士に気づかれることなく屋敷に潜入して、女帝様と弟君を助け出すかもしくは攫う、と。考えるだけでめんどくさいです。」

 めんどくさいんだよ。わかってるんだよ、リリーサ。せめて口に出さないくらいの優しさが欲しかったよ。

 「とりあえず、帰らない?」

 え?ファリナ、それってアリなの?家に帰っちゃったらわたし、戻ってこれる自信ないよ。

 「戻りたくなかったらやめちゃえばいいじゃない。ぶっちゃけ、今ここでできる事ないのよね。潜入の方法を考えるのなら、ここじゃなくてもいいと思うんだけど。寒いし。」

 「言われてみればそうですね。もう町に戻れないなら、夜までどこにいても同じです。ここで夜までずっと火にあたってるか、家でのんびり時間潰すか、どちらでもいいわけです。」

 うん、そうなんだけど、だから戻れる自信が……

 「では、こうしましょう。ヒメさんたち3人はここで焚き火をしていてください。わたしとリルフィーナは家に戻ってヌクヌクしてきます。」

 ファリナとミヤが情けない目でわたしを見る。

 「わかったよ。帰ろう。でもどこに帰る?リリーサたちの家?わたしたちの家?」

 「わたしの家の方が床でゴロゴロできるのですが、今の状況を考えるとご飯を作ってる余裕なさそうなので外食になりそうですよね。そうなると、わたしたちの家だと、お薦めのお店が例の……」

 「ヒメさんが食い逃げしたお店になりますよね。」

 言いづらそうなリリーサの言葉を、リルフィーナが引き継ぐけど、食い逃げなんてしてないからね!

 「でも、リリーサの村の方が何かと情報入ってくるんじゃないの?」

 「といっても、いつ宣戦布告されたかくらいしか入ってくる情報はないと思いますし、それが国境からわたしの村に伝わるには、次の日か場合によっては2日後くらいになるかもしれません。今夜までに入ってくる情報なんかないと思いますよ。なら、どこでも同じです。ご飯だけなら、エルリオーラ王国の王都でもいいくらいですよ。」

 ファリナの疑問にリリーサが笑って答える。

なるほどね、でも、王都は却下だ。下手したら、ライザリアがウロチョロしてる可能性がある。

 「あぁ、ありそうね。」

 頷くファリナといきなり手甲から鉤爪を出すミヤ。落ち着きなさい、ここにはいないから。

 「疲れて王都に戻られたのが昨日です。今日1日くらい大人しくしているんじゃないですか。」

 甘いわ、リルフィーナ!あいつがそんなタマなわけないじゃない!

 「間違いなく、もう王宮を抜け出して遊びまくってるわね。」

 ファリナもわたしと同じ考えのようだ。

 「そんなことはどうでもいい。事は、晩ご飯という重大局面を左右しかねない問題。どちらの家に行く?」

 ミヤが真剣な目でわたしに迫る。

 「そ、そうだね。だったら、わたしたちの家に行こうか。マイムの町以外でもロルローサの町に行くってこともできるし。」

 「なら、わたしたちの家だって、ドンクやバーグラーの町に行くという方法もありますよ。」

 「お姉様、ドンクの町はまずいかと。ズールスさんに見つかったら監禁される可能性があります。」

 そういえば、リリーサ、お父さんであるズールスさんと、今回の1件について話をしたの?

 「時間がなかったので投げっぱなしです。ハンター全員に王国から声がかかったことを聞いている可能性があります。今、会うのはわたしの行動の自由に支障をきたす可能性があるので、基本無視です。」

 「いいの?」

 「わたしがいないと、ヒメさんたち3人が、ギャラルーナ数万の兵に向かっていく全滅エンドしか浮かびません。感謝してください。」

 うん、全滅するのは向こうだけどね。

 「いざとなったらミヤがやる。国1つならすぐだ。世界全部の場合は大変なので、亀と鳥に手伝いを頼む。ミヤが頼めば2人は手伝ってくれる。龍は文句ばかりで鬱陶しいので無視する。」

 「誰です?それ?」

 「気にしなくていいよ。リリーサは知らないだろうから。」

 わたしとファリナも知らないけどね。冷や汗がとまらないや……

 「ズールスさんと顔を合わせたくないなら、エルリオーラ王国に行こうか。急がないと暗くなっちゃうから。」

 ファリナが引きつった笑みで話を必死に戻してごまかそうと試みる。でも、まだ昼過ぎだよ。

 「そうですね。明るいうちにお店を探しておきたいですね。今晩のご飯は、お茶とケーキ、どちらを主に選びましょう。両方がおいしいなら言うことないのですが。」

 いいかげん、ご飯の美味しさで選ぼうよ。


 昼は過ぎたけど、晩にはまだ間がある時間。

 「もう目新しいお店もないよね。ロクローサの町まで足を伸ばしてみる?」

 「ロクローサというのは、この領地の領都でしたよね。そういえば、何度か行ってるのに、あの、妖怪若作り女の家以外は見て回ったことなかったですね。」

 リリーサがいきなり興味を示し始める。

 「問題は、向こうの生存圏なんだから、遭遇する可能性があるってことなのよね。フレイラに。」

 難しい事言ってるけど、要はフレイラに出会っちゃうかもしれないってことだよね、ファリナ。うん、フレイラに出会ってしまったら、一緒にご飯を食べるって言い出しそうだな。

 「その時はわたしが消しますから安心していいですよ。」

 「お姉様、いきなり消すのはいけません。向こうにも言い分があるんですから。」

 何の話をしてたんだっけ。晩ご飯の話だと思ってたんだけど、敵襲への対応についての話だったっけ。

 「というか、王都には女王様がいるし、領都には小娘がいるとか、敵多すぎじゃないですか?ヒメさん。」

 いや、敵じゃないよ……あれ、敵なのかな?

 「まぁ一歩表に出れば7.000人の敵ありとか言うらしいですから、1人や2人くらいいてもいいんじゃないですか。あれ、70.000だったかな。」

 敵多いな。一国の騎士団くらいいない?それ。

 

 「ロクローサの町にしましょう。フレイラはいたら……あきらめるわ。」

 ファリナが首をガックリと垂れる。

 「まぁ、向こうの方が行ったことないお店多いもんね。」

 「というか、マイムじゃ、行ったことないお店を探す方が大変だけど。」

 さすがに1年近く住んでいると、食堂はそれなりに行きつくした感がある。

 「食堂以外は全く行ったことないお店ばかりだけどね。」

 八百屋さんはよく行くよ、ファリナが。

 「じゃ、時間はまだあるから、わたしたちの家に行くよ。」

 寒さをしのいでいた木の陰から立ち上がって、わたしはマイムの町に空間移動の門を開く。


 「ですから、町の中に門を開ける場所を確保すべきです。いちいち、町の外から歩くのは面倒です。」

 いつものマイムの町近くの森にある、開けた場所に門を開いて出てくるなりリリーサがうるさい。だから町中で門を開くつもりはないからね。

 「もしくは、わたしが門を開きますから、ヒメさんの家の封印何とかしてください。」

 いや、あんたが勝手に入るからできないようにしたんだけどね。

 「本末転倒、というやつだな。」

 ミヤ、それ誰に言ってるの?リリーサにだよね。わたしじゃないよね。







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