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196.再潜入 2


 「問題は普通に町に入っても大丈夫かってことですよね。」

 一旦、白の森の中に入って作戦会議。人目についちゃまずいから。

 町に入るとして、普段ならともかく、今、ハンターはガルムザフト王国側の国境近くに集められているはず。見知らぬわたしたちが町に入って『わたしたち隣町のハンターだよ』と言って通用するものかどうか。

 「補軍って言うそうだから、ハンターじゃ通用しないでしょうね。でも、これから行く町の名前を確認しないと、女帝様がいる町の方向を確かめられないのも確かだし。」

 そう。ファリナの言う通り、今現在どの辺にいるのか皆目見当がつかない。目の前にある町の名前がわかれば、地図で現在地が確認できて、女帝のいる町の方向も調べることができる。とにかく今いる場所がどこなのか知ることが最優先なのだ。

 「雑ね。」

 「雑だ。」

 ファリナとミヤが冷たい。仕方ないじゃない。成り行き任せで進んで来たら、こんなところに出ちゃったんだから。

 「いいかげんですね。」

 「あんたが黒狼狩るって言い出したから道をそれたんだからね、リリーサ。少しは責任を感じなさい。」

 「狩りをしなくてもどこに出るかわかりませんでしたけどね。ちなみにヒメさんのせいではなく、誰もわからなかったわけですが。」

 「「グッ。」」

 リルフィーナのツッコミにグゥの音もでないファリナとリリーサ。ミヤはすでに我関せずを決め込んでいる。

 そういうわけで。町に向かうしかないんだけれど、さっきも言った通り、スッと入って行って、いらっしゃいと迎え入れてくれるものなのか。

 「こうなったら最後の手段ですね。町を壊滅させながら進みましょう。」

 いや、なんで?なんでそうなるのかな?リリーサ……

 「町の人間を尋問しながら進むしかありません。ですが、わたしたちの行動を他の町や軍の人間に知られるわけにはいきません。なら、情報を得たら全殺しです。全員殺すから全殺しです。」

 あぁ、あんたの中じゃ、みんなで寄ってたかって殺すのが皆殺しなんだっけ。

 「うぅ、発想が不穏当すぎてドン引きです。」

 リルフィーナ、仕方ないの。悲しいけどこれって戦争なの。


 「あのな。もう少し大人しい発想にならないものかな。」

 いきなり声が、わたしたちのいる近くの木の陰から発せられる。

 「誰!?」

 木の陰から現れたのはゴボルさんだった。

 「ゴボルさん……なんでこんなところにいるの?」

 いつでも魔法を発動できるようにして、ジットリと睨む。

 「まったく、リーラーのやつ、面倒ばかり引き起こしやがって。とはいえ、まさか本当に来るとは思わなかったよ。」

 困った顔でわたしたちを見る。

 「うん。で、なんでこんなところにいるの?」

 「今はギャラルーナ帝国で働いているからな。この国にいてもおかしくないだろう。」

 そういう事じゃなくてね。わたしたちが侵入してきたこの日この場所にどうして都合よくいるのかなって聞いてるの。

 「この国で働いているとはいえ、宣戦布告まではすることがなくてな。」

 「だから、そんな事を聞いてるわけじゃ……」

 「話は最後まで聞け。お前たちが本当に来るとしたら北側からだろうなと思ったんだ。南はガルムザフト王国との国境。リリーサの分解を使えば壁を壊して入ってこれるとはいえ、どこにギャラルーナ帝国の見張りがいるかわからないだろうから、安全に侵入するには多分こちらだろうと。」

 壁を壊す発想はなかったな。兵士が集められてるんだから、そこにいる人の数は多いだろうとは思ったけど。

 「だったらこの辺で待っていればいいと思ったわけだ。」

 「え?ずっと待ってたの?」

 「2日くらいかな。どうせ暇だしな。」

 いや、本当に暇なんだね。

 「謙遜って知っているか?」

 憐れむような私の視線に、嫌そうな顔でゴボルさんが答える。

 「それで何の用でしょう。暇だからストーカーしてました、という事ではないのでしょう?」

 リリーサが会話に加わる。ちょっと警戒しているよう。

 「いらない騒ぎを起こされたら困るんだ。」

 「わたしたちを止めに来た、と。」

 全員が臨戦態勢。

 「女帝のいる町の近くまで連れて行ってやる。」

 「「「「は?」」」」

 全員呆気にとられた。


 「言ったろう。いらない騒ぎは困ると。最悪、町1つくらいで収まるなら良しとすべきかと思ったわけだ。」

 何を言ってるのかな?いやいや、町1つ巻き込むような騒ぎをおこすつもりはないんだけど。

 「なるほど。ヒメさんへの生贄を最小限に抑えよう、というわけですね。」

 黙りなさい、リリーサ。生贄って何よ?

 「まぁそう思ってくれていい。」

 肯定したね、ゴボルさん。憶えておきなさいよ。


 「とはいえ、町の中に行けるわけじゃない。近くの草原か森という事になるんだが。」

 とはいえ、はこっちのセリフだよ。信用していいのかな。

 「空間移動の門を出たら、奴隷市場の檻の中で、いきなりわたしたちの競りが始まるとかないでしょうね。」

 うん、リルフィーナ、そうなったらもうその一帯が焼け野原になるけどね。

 「どういうことだ?」

 「ヒメをお金で売ろうとしてるんじゃないかって言ってるの。」

 ミヤの疑問にファリナが答えるけど、わたし1人で売られるわけじゃないからね。

 「お金を出せばヒメ様が買えるのか?」

 ミヤが大慌てで服のポケットから財布を出す。

 「情操教育に悪いから、そんなつもりだったらただじゃすまさないからね。」

 「するか!そもそもお前ら、自分の商品価値、高く見積もりすぎじゃないのか?」

 言ったね、このオヤジ。燃やすね、燃やしてもいいよね。


 「ちゃんと送る!安心しろ!」

 ミヤ以外の全員からの冷たい視線に耐え切れず、手をあたふたと振るゴボルさん。

 「普段の行いが悪いから。」

 「お前らが普段の俺をどれだけ知っているっていうんだ……」

 「何か言った?」

 「言わない!とにかく動くぞ。いつまでもここにいても埒があかん。」

 それもそうか。

 「しぶしぶ。」

 ミヤが財布をしまう。

 「いい、ミヤ。人をお金で売り買いするのは、人としてやってはいけない事なの。わかる?」

 「なるほど。つまりこいつはミヤを悪の道に引きずり込もうとしたのだな。許すまじ。」

 「だから、そんなつもりはない!」

 ミヤにまで責められて、冷や汗を流す。


 「門を開く。」

 わたしたちの目の目に空間移動の門が開かれる。

 「ミヤ、どう?」

 「向こうに問題となるものは何もない。行き先は海岸線。方角はわかるが距離までは不明。詳しく調べるなら門を開くか?」

 この場合の門とは、ミヤの結界の門だ。ミヤの能力はいくつかの結界で封印されている。封印してるのはわたしなんだけどね。前にフレイラを探すのに開いたのは第1門だった。

 「向こうに問題がないなら大丈夫。行きましょう。」

 「むぅ。」

 ちょっとむくれた顔、の横でファリナがホッとした顔をしている。なんだかなぁ。

 「何なんだ?そいつは?」

 「あぁ、気にしないで。わたしの大事な家族だから。」

 ミヤを抱きしめる。

 「てれてれ。」

 抱き返してくるミヤ。

 「あぁそうかい。」

 ムスッとした顔で横を向くゴボルさん。

 「それより門が閉じてしまう。早く移動するぞ。」

 あぁそうだった。門はずっと開いてるわけじゃない。魔力の強さにもよるけど、数秒から数分で閉じてしまう。もちろん、それはずっと開き続けた場合の話で、移動が終われば、門を開いた者が任意に閉じるんだけどね。

 わたしたちは、慌てて門に入った。


 目の前には海。雲は低くたれこめ、波が白く打ち寄せる。つまり……

 「寒っ!」

 防寒着を着てても打ち付ける風は冷たい。

 「あれが女帝のいるファーリバルの町だ。」

 ゴボルさんがあごで指し示す。その先には、遠くにいくつもの建物が見える。

 あごで説明するなんて態度が悪いなと思ったら、両手はズボンのポケットに入っていた。やっぱり寒いのか。

 「城壁はないんですね。」

 リルフィーナの言う通り、町を囲む壁はない。ギャラルーナ帝国じゃ、どこもかしこも壁で囲まれてるような話だったから、ちょっとビックリ。

 「国境と帝都、それに帝都周辺の大きな領地の一部の町くらいだ、城壁があるのは。地方の小さな町にまで壁を造るのは金がかかりすぎる。」

 そういうものですか。

 「建物ってのは造るのはもちろんだが、維持するのにも金がかかるんだよ。」

 「まぁわたしたちからすれば助かったけどね。あれならどこからでも忍び込めそうだし。」

 ファリナが背伸びをして町の方を見る。

 「将軍様の別荘があるという割には、警備が薄そうですね。」

 「こんな僻地の町に城壁を造っていたら、何かがあるって言ってるようなものだろう。わからないように壁は造ってないんだ。だが、警備はそこそこ厳重だぞ。しかも今は町の人間には秘密ながら、女帝様までいらっしゃるんだ。近衛兵くらい配備してるんじゃないのか。」

 リリーサの疑問にゴボルさんが答えるけど、このえへい、って何?

 「皇帝直属の兵士の事だ。」

 「え?自分の直属の兵士に自分が見張られてるの?」

 「そうなるな。まぁ人族のやることだからな。無駄の塊だよ。」

 「ゴボルさんのこの行動は合理的なの?」

 「損害は少ない方がいい。まぁ、多少の私情はしかたなかろう。人間なんだ。」

 顔をこちらからそむける。わたしはチラとリリーサを見てしまう。私情ね。ゴボルさんはリリーサのお父さんであるズールスさんとは知り合いなんだっけ。さらにその流れで見たミヤは、感情のない目でゴボルさんを見つめていた。ちょっと怖いんだけど。


 「これを持っていけ。」

 革袋を投げ渡される。

 ジャリッと言う金属音からしてお金みたい。

 袋を開いてみると、銀貨と銅貨がそれぞれ数十枚ずつ入っていた。お金の刻印は見たことないから、ギャラルーナ帝国のお金かな、これ。

 「ケチくさいです。金貨の数枚でも入れておいてください。」

 袋を覗き見たリリーサがゴボルさんを睨みつける。

 「一応言っておくがな、その辺のハンターなんて普通に生きていくのがやっとなんだ。財布には銀貨が数枚、それが普通なんだよ。それなのにお前らときたら、金貨ガチャガチャさせて歩いて。普通じゃないって自分から言ってるようなものだ。普段はともかく、こういう危険が伴う行動の時は細かい事に気を配れ。どんな些細な事が原因で、自分や仲間が危ない目にあうかわからないんだぞ。」

 うぅ、言い返したいけど、その通りなんで言い返すことができない。叱りつけるんじゃなくて言い聞かせるような言い方だから尚更だよ。

 「うぅ、あんたはわたしのお父さんか!」

 「歳から行けばおじいちゃんだろう。」

 ミヤ、それは失礼じゃないかな。ほら、ゴボルさんがミヤを睨んでるよ。

 「あ、あぁ。それで、金もギャラルーナ帝国のものだ。この時期、他国の金を持ったやつがウロチョロしているはずないからな。」

 「気を使ってくれてありがとう。でも、お金使う事ってあるのかな。」

 「お店に入って怪しまれないかしら。ハンター、じゃなくて、補軍の人たちってみんなガルムザフトの国境に行ってるはずでしょ。」

 わたしの疑問に頷くファリナ。そのはずだよね。

 「都合があって、遅れて国境に向かうと言えば怪しまれることはない。後は、そうだなこの番号を全員憶えておけ。」

 ゴボルさんがポケットから紙を出し、何かを書いている。番号って何?

 『0309093隊』と書かれた紙を手渡される。

 「この国じゃ、パーティー名なんてものはない。補軍のパーティーは番号で管理されている。この番号なら怪しまれることもなかろう。」

 「何この番号?」

 「頭2つが所属する領地の番号。その次の2つがその中での町の番号。そして最後の3つがパーティーに割り振られた番号だ。これはさっきお前らが行こうとしていたオリオルトの町の番号になる。」

 へー、と思いつつも面倒なこと考えるな、と言うのが正直な感想。

 「正規軍は前線に集合している。町を守っているのはあの町の守備の兵士が数名と、あの町に所属する補軍の何人か。それに女帝を見張る近衛兵。隣町の補軍の詳しい情報は知らないだろうから、余程のバカをしない限りはばれないだろう。」

 何から何まで世話になってる気がするけど……ま、いいか。

 「ありがと。一応お礼は言っておくね。」

 「なるべく穏便に。俺の仕事の邪魔になるような事をしなきゃいい。」

 「いや、だから、ゴボルさんの目的がわからないから、邪魔してるかどうかもわからないよ。」

 「まぁいい、どうせお前たちの好きなようにやるんだろう。まったく……どいつもこいつも人の話なんか聞きやしない……」

 空を見上げてそうつぶやく。誰の事を言ってるんだ?わたしたちは……確かに聞かないかな……


 「じゃ行くね。」

 「あぁ、気をつけろ……というのもおかしいな。ケガはするなよ。」

 ゴボルさんが門を開いてその中に消える。

 「当てにしていいんでしょうか?」

 「確かにね、リリーサ。でも当てにするしかないでしょ。なにせ、わたしたちノープランなんだから。」

 「行き当たりばったりよね。」

 言わなくてもわかってるよ、ファリナ。






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