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191.王都


 「そうね。もしも人質にするなら、わたしのところにつれてきて。」

 ライザリアがあごに手を当て考え事。多分悪い事だろう。

 「酷い事しない?」

 「あのね!相手は仮にも1国の最高責任者よ。わが国の品位が疑われるようなことはしないわよ。」

 まぁそうか。

 「逆にガルムザフト王国になんて渡したら、敵国のお姫様よ。それこそ何されるかわからないわよ。最悪、国民の前で公開処刑ね。」

 え、そこまでする?

 「戦争が始まったらね。交渉に使えるならいいけど、ギャラルーナ帝国が交渉を断わったりしたら、そうなる可能性もあるってこと。迂闊に人質になんて渡せないの。」

 「やはり消すべきですかね。」

 「それでもいいわ。女帝様が戦争を止める気がないなら、いない方が問題がスッキリしていいかも。」

 「ふーむ。」

 ライザリアとリリーサ、それにファリナの3人で相談させない方がいいかも。物騒すぎる。

 

 「まぁ、見つけられなかったらそれはそれでいいから、無理はしないでね。嫁入り前なんだから、ケガでもされたら大変。その時はわたしが責任とるからね。」

 「お前に責任は求めない。ヒメ様にはミヤがいる。」

 ライザリアと睨みあうミヤ。

 「ついでに言っておくと、ケガしなくてもわたしが責任とるからね。行き遅れの。」

 誰が行き遅れるのよ、ライザリア!と言いたいけど、いや、うん、ありえそうだな……

 「だから責任は求めない。聞いているのか?」

 「フーン、フーン、聞こえませ-ん。」

 「この痴れ者が。」

 さらにバリバリと睨みあう。

 ミヤ、この前までライザリアの前では大人しかったのに。

 「こんなに頻繁に会うことになるとは思わなかった。王女というから気を0.75グラム使ってやったが、こいつ調子に乗りすぎる。抹殺すべき。」

 それってどれくらい気を使ってるの?わかりづらい話はやめて。

 「ちなみにヒメ様には、1.800トンは気を使っている。」

 あまり気を使われたような記憶がないけど。ところで……

 「『とん』ってどれくらいだっけ?1とんってブタさん1匹のこと?ファリナより重いの?」

 「ぬぁんですってー!!」

 ふ、ファリナ、首絞めるのやめて……死ぬ、死ぬから……

 「おバカですね、まったく。」

 なんでリリーサが呆れてるのよ。

 「ヒメらしくてステキ。あぁ、池に突き落としたい。」

 あんたも道連れにするからね、ライザリア。


 「これを持っていきなさい。」

 ライザリアが手帳くらいの本を渡してくれる。

 「ポケットサイズの地図よ。ギャラルーナ帝国の。」

 実際、地図があるからといって行きつけるか自信はないんだけどね。未開の大地だからね、相手は。

 「ヒメさんの住む町より開発されてますよ。」

 うるさい、リリーサ。村に住んでるあんたにだけは言われたくありません!そもそもがそう言う意味じゃない。行ったことも見たこともない土地だって言ってるの。

 「プッ。」

 ライザリアが噴き出す。

 「元、村暮らしの人が偉そーに。」

 「お黙り!」

 睨むわたし。すました顔で視線を逸らすライザリア。






 ヒメたちがライザリアの私室を出ていく。

 それを見送るなり、ソファーに倒れ込むライザリア。

 「ライザリア様!?」

 「もう限界。いい、今度こそわたしを起こしたら、明日の朝日は見ることがかなわないと全員に伝えなさい。」

 「あ、あの……」

 「何?」

 「また来たらどうしましょう……」

 「あぅ……と、通していいわ。その時は難癖つけていいから、ヒメだけ通して。1人なら……えへへへ。」

 (またこの方は……)

 フラフラと寝室に戻るライザリアを見送り、そっとため息を吐くキャナリー。

 「似ているのかもしれませんね。ライザリア様とあのヒメという少女。」

 (主に自分勝手な所が……)

 万が一にも聞かれることがあったら、ただでは済まない。心の中でキャナリーは呟いた。






 「話は終わりました。王女殿下はもう少し休むと言われ、寝室に戻りました。」

 「うむ。正門まで案内させる。ご苦労だった。」

 立派な背広姿の男が慇懃無礼に、ファリナの説明に頷く。

 (彼女らがガイルバルド大臣の言っていた少女たちか。『猛牛ドードー』を、1撃で無力化したという……)

 その人が、わたしたちを値踏みするような目で見る。失礼だなー、とは思うけど、勝手に押しかけてきたのはこっちだから文句も言えない。

 「私は王国宰相のアルドナルド・ゴーウィルだ。今後、何度か会うこともあるやもしれん。お見知りおきを。」

 「わたしはハンター<三重奏の乙女>のヒメ……です。」

 「ファリナです。」

 「ミヤ。」

 あー……まぁいいか。ミヤに腹芸は無理だよね。

 「ガルムザフト王国ハンター<白聖女の舞>のリリーサと申します。」

 「同じくリルフィーナです。」

 何か言われる前にリリーサが自己紹介を重ねる。あぁ、ありがたいけど、何、そのドヤ顔は。何、恩売ったみたいな目で見てるのよ。

 「ガルムザフト王国関係の情報元は君たちかね。」

 あれ、これ答えていいやつかな?っていうか、どこまで秘密にしておくんだ?

 迂闊にウンなんて言ったら、そのうち良いように使われそうだしなぁ。

 「その件は王女殿下よりお伺いください。わたしたちには答えることは許されておりません。」

 リリーサが、柔らかい笑顔で頭を下げる。

 「そうか。わかった。」

 王女の名前を出されたら何も言えないよね。ナイスだ、リリーサ。

 「この者たちを正門まで送ってやってくれ。」

 騎士の鎧を着た人に、宰相さんが声をかける。

 わたしたちは、その騎士さんにつれられて、王城を出た。



 「このまま続ける気なら、偉そうなやつのあしらい方を少しは覚えた方がいいですよ、ヒメさん。」

 「え?燃やせばいいんでしょ。」

 「そのすべてを燃やして解決しようとする癖、何とかしてください!」

 リルフィーナが泣きそうになる。

 「最近お姉様が一段とヒメさんに似てきました。何でもかんでも消して問題を解決しようとします。困ったものです。」

 あれ、昔は違ったの?

 「昔は『困った、困った』と言ってわたしに相談してくれたものでした。なのに、今となっては……」

 「よく言いますよね。朱に交われば真っ赤っ赤と。」

 よくは言わないかな……たぶん。


 「どうする。いろいろあってもうすぐお昼だけど、王都で食べていこうか。」

 「うむ。たまには違う町のご飯もいい。」

 ミヤは乗り気だ。

 「そうね。ライザリアもあの調子なら今日は出没しないだろうし。」

 いや、ファリナ。ライザリアは猛獣じゃないから。

 「猛獣の方がマシよ。斬っても問題にならない分。」

 「確かに。あいつを切り刻むと、もれなく国1つ滅ぼさねばならん。面倒。」

 国の方がオマケかい。

 「まぁどうでもいいです。で、どこがいいでしょうかね。前にあのお姫様に連れて行ってもらったところもいいですけど、どうせなら新規開拓したいです。そう、お茶のおいしいお店を探すのです。」

 「ご飯のおいしい、にしようよ。」

 「ちなみにケーキのおいしいでも可です。」

 「いいわね。」

 ファリナが話に乗ったみたい。


 「ヒメさーん!」

 遠くから呼ぶ声が聞こえる……ような気がする。幻聴かな。

 「呼んでる。パーソンズの大きい方の娘だ。」

 ミヤが後ろを振り向く。

 リーアが走ってくる。よく気がついたね。わたしたちが王都にいるなんて知らないだろうに。

 「やっぱりヒメさんだ。あんなに遠くからでも気がついてしまうなんてわたしってすごい!これってやっぱり愛ですね!愛!」

 うん、何言ってるのかわからないよ。

 「どうしたんですか?何かあったんですか?」

 「いや、ちょっとね。」

 「あ、ライザリア様に会いに来たんですか?残念、今お出かけのようですよ。おかげでここ数日、毎日が平和なんです。あぁ、生きてるって素晴らしい。」

 「や、あ、その……今日帰ってきてるよ……ライザリア。」

 踊りだしそうなほどうれしそうな顔だったリーアの表情が一瞬で絶望に打ちひしがれたものに変わる。

 「もう少しで冬季休暇なのに……あぁ、11の月なんてなくなってしまえばいいのに。」

 そこまで?

 「よくお声をかけてくださいます。えぇ、それはもう、よく。」

 「嫌なら嫌って言えばいいのに。」

 「誰に?誰に言うんですか?」

 あぁごめん。目が笑ってない笑顔はやめて。怖いから。

 「言っておいてくれれば、さっきファリナさんかミヤさんが、こうポンとあの世に送ってくれましたのに。」

 あのね、リリーサ、ポンとはいかないでしょ、ポンとは。いいとこザックリかな。

 「あいかわらず恐れ知らずですね、みなさん。あれ、という事は、ずっと一緒だったんですか?ライザリア様と。」

 「用があってね。会いに行ったらちょうど帰ってきたところだったんだよ。」

 「そうなんですか……そうか、帰ってきてるのか……」

 元気出してよリーア。今度会った時には、一応注意しておくよ。

 「まぁ、あいつも一応王女様だからさ、本当に仲良くできる友達がいなくて寂しいんだよ。少しでいいから仲良くしてあげて。」

 「少しって、どこまでなら許されるのかわかりません。」

 そうだな。剣を突きつけたり、髪の毛引っ張ったりしなきゃいいんじゃないかな。

 「そんなことしません!というか、そんなことしてるんですか?」

 「「し、してないよー!」」

 わたしとファリナが慌てて否定する。相手は仮にも王女。そんなことしてるなんて世間に知られたら、ライザリアは許すだろうけど世間が許してくれないだろう。

 慌てるわたしとファリナをしり目に、ミヤはライザリアに関しての会話には一切かかわる気がないようだ。雲を眺めていた。


 「今日の授業は半日だったんです。で、ヒメさんたちはどこに行くところだったんですか?」

 「マイムの町に帰るところだったんだけど、その前に王都でご飯食べていこうかなって言ってたところ。リーアも行く?」

 「いいんですか?あ、でも制服じゃ……」

 「いいよ。一度帰って着替えておいで。この辺の広場のベンチに座っているから。」

 「はい!」

 慌てて駆けだすリーア。

 「急がなくてもいいよ。転んだら危ないから。」

 とりあえず今日は、帰って休むだけ。急ぐ用はない。

 「あれ、今夜どこだかの町に忍び込むんじゃないんですか?」

 リリーサが首をかしげる。

 「夜中に女の子がうろついていたら目立つでしょ。女帝様のいる家に忍び込むのは夜でも調査は明るいうちじゃないと。第一、夜に行ったことない町を地図だけで探せる?」

 「そうですね。明るいうちに町の場所を探して、さらに女帝様のいる家を特定しておいて、夜中に潜入するのが確実ですね。となれば、出発は明日の朝ですか。」

 話が早い娘は好きだよ、リルフィーナ。

 「あれ、ヒメさんに好きって言ってもらいました。」

 「なんですって!?」

 「切り刻む!」

 「リルフィーナのくせに!」

 よけいな事を……いや、褒め言葉であって、好意じゃないからね。って、聞いてるかな?

 とりあえず、リルフィーナを3人がかりで叩くのやめてあげなさい。


 リーアはすぐに来た。馬車で。

 「馬車はここまでです。歩くより早かったので。」

 まぁ助かったよ。リリーサがカップを出そうとしてたから。

 「もっとゆっくりでもよかったのに。」

 「いや、ご飯の後にもお茶飲むんでしょ。ガマンした方がきっとおいしいよ。」

 というか、広場の真ん中で火を焚こうとするのはやめなさい。


 「それで、リーアはおいしいお店知らないかな。」

 「申し訳ないのですが、こちらには家族が来ていないので、外食はあまりしないんですよね。あ、でもお友達から聞いたおすすめのお店なら何軒か知ってますけど……」

 そこでいいか。どの道、王都のお店なんか知らないわたしたちにすれば、どこに入っても賭けみたいなものだしね。






申し訳ありません。

体調不良のため、少し休みます。


6月28日再開を目指しますが、更新されなかったら、まだ調子が悪いのだなと思ってください。


これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

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