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173.特殊商品販売日 3


 ユイが何やらうれしそうに戻ってくる。

 「いやー、みんなわかってるな。お嬢がかわいいって。」

 何を語り合ってたのかな、こいつは。

 「変な話をするのはやめてください。もしも依頼の最中にあの人たちと出くわしたら面倒な事になります。」

 そういえば、アリアンヌたちは来月からアリアンヌの住む領地の領主の娘さんの護衛やるんだっけ。

 「お嬢様がご結婚なさる来年の3の月までですけどね。」

 「短期間だが、領主様の依頼で領主様の身内を護衛したとなればギルドの貢献度も上がる。ヒメたちより先にBランクも夢じゃないぞ。」

 ユイが得意げに言うけど、わたしたちはBランクを目指してないからなぁ。

 「何の話ですか?」

 洗ったカップをトレーに乗せてリリーサが戻ってくる。

 「ハンターのランクの話。ユイたちがBランクも夢じゃないって。」

 「あぁ、なるほど。熊さんも倒せるんですからそれくらいは当たり前ですよね。」

 リリーサは特に興味なさそう。

 「あれ、じゃ何でヒメさんたちはCランクなんですか?ベアだって倒せますよね。」

 アリアンヌが純真な目で見るから答えづらい。

 「勇者になりたくないからだよ。」

 「なんでですか?」

 「面倒だから。」

 「あぁ、なるほど。」

 あれ?あっさり納得されちゃったけど、なんか納得いかない。けど、説明するのも嫌だ。どうしよう……

 「まぁどうでもいい話は置いておいて、ゲーターの味はどうだった?アリアンヌ。」

 ファリナが話を逸らす。

 「さっきも言いましたけど、本体の見た目を気にしなければ食べられますけど、どうしても食べたいかと言えばそれほどでも、という感じです。なので、買ってまで食べたいかと言われればいりません、が正直な感想です。」

 「だよね。特別おいしいわけでもないのに、あの見た目だもんね。お金出してまで手に入れたいとは考えないよね。」

 「そんなあっさり。今までの苦労は何だったの?」

 ファリナがガッカリ。味付けとか苦労してたもんね。

 「後はわたしたちで処分するしかないんだから、食べ方がある程度わかっただけいいじゃん。」

 「では残りそうなゲーターの肉は3等分ですか。」

 「あの……ごめんなさい。わたしとユイは料理できないので遠慮します。」

 「え?ユイって料理できないの?」

 「お前が言えることか?」

 ムキになって怒られた。ユイも気にしてるようだ。

 「ヒメさんは料理で人を亡き者にできます。」

 人聞きの悪いこと言わないで!まだ誰もあの世に送った事ないからね!

 「フン、あたしはそれなりにはできるぞ。ただ手の込んだ料理は苦手なので、手間のかかりそうなゲーターはちょっと手が出しづらいというだけだ。やれというならできないことはないからな。」

 「よし、アリアンヌ。ユイにやれと言ってやるんだ。」

 「言われたところでやる気もないからな。」

 できないくせに何勝ち誇った顔してるかな、こいつ。こいつに料理ができないと言われるのは納得できない。

 「よし、後で料理勝負だ、ユイ。」

 「この世から消えていただくなら燃やした方が早いですよ。」

 それじゃダメなんだよ、リリーサ。勝負をした上で、料理を食べてのたうち回ってるところを燃やしてやる。

 「待て、それはすでにお前の負けだろう。あたしの料理は少なくとも、食べてのたうち回ることはないぞ。たまにしか。」

 たまにはあるんだ。目が合ったアリアンヌが視線をずらす。


 「そろそろお客さんの話し合いも終わった頃でしょうか。では、ミヤさん、アリアンヌさん出番です。」

 「え、まだやるんですか?ていうか、わたしたち何かの役にたってます?」

 「言われてみれば……まぁでも、すでに定例行事となっていますのでやむを得ないでしょう。」

 「定例とか言われても、来月は来れませんからね、わたしたち。仕事がありますから。」

 「それはまずいですね。仕方ありません。ヒメさん、ちょっと燃やしていただきたい方々がいるのですが。」

 アリアンヌの依頼先のお嬢様なら燃やさないよ。

 「わたしが消せという事ですね。」

 「消すんじゃない!客寄せが必要ならそうだな……」

 脳裏に何かが浮かぶ。

 「……リルフィーナに犬かなんかの着ぐるみでも着せて立ってもらったら。」

 「なぜわたしが着ぐるみを着なきゃいけないんですか!しかもなぜに犬?」

 急に話を振られたうえ、その内容があまりだったようで、リルフィーナが怒ってる。リルフィーナは犬が似合ってる気がするんだけど、なんでだったかな……

 「なるほど。それはかわいいかも。」

 「お、お姉様……」

 リリーサに褒められ、怒るに怒れず顔を赤らめるリルフィーナ。

 「客を待たせ過ぎではないのか?」

 ミヤが入口で構えるための剣をファリナから借りて、準備はできているようだ。嫌がってるわりに、なんだかんだと最近ノリがいいなぁ、ミヤ。

 「そうでした。行きましょう。」

 ため息を吐き、ミヤと並ぶアリアンヌ。

 そして、2人が出ていくと表で歓声が響き渡る……あいつら、何しに来てるんだろ……


 「では、オークションを開始します。」

 リリーサが宣言する。すぐに集まっていたお客さんの代表らしき男が数人、手をあげる。

 「すまない。話はついている。この通りの数量をこの値でどうだろうか。」

 すでに談合したことを隠そうともしない男たちが差し出す紙を受け取り、うろんげな表情でそれを見るリリーサ。

 「店員の皆さん、しゅーごー。」

 そう声をかけられるけど、リルフィーナ以外誰も動かない。

 「全員集合です!急ぎなさい!」

 リリーサが怒ってるけど、わたしたち店員じゃないからね。

 「融通って知ってますか?さっきは理解してましたよね。」

 「言葉は正確に伝えるべき。甘えは許されない。2度目はない。」

 ミヤが厳しい。

 「で、談合の結果はどうだったの?」

 「それなりの金額で買うつもりのようです。しかもゲーターの肉も全部。」

 「え?ゲテモノ屋もいるの?」

 「ちょっと待ってくれ!私の店はイラリアーサ共和国のザイラリック州と取引がある。あそこはワニ食の店もある。ゲテモノではないぞ。誤解を招く発言は控えてもらいたい。」

 あ、声が大きくて聞こえちゃったみたい。ごめんなさい。っていうか、イラリアーサじゃほんとに食べるんだ。

 「問題は相場がわからないので、この値段でいいものかどうか。」

 「オークションをやったって、お客さんはこの値段を提示するんだろうからいいんじゃないの。相場もわからなければ、今後手に入るかすら不明なんだから、買ってもらえるなら問題なしでしょ。」

 ファリナが値段の書かれた紙を見ながら言う。そうだよね。もう手に入らない確率の方が高そう。

 「みんながそれでいいならそうします。」

 「在庫を抱えるよりはいいんじゃないか。」

 ユイが珍しく聞くに値する意見を言う。雨降らなきゃいいな。

 「よーし、後で料理対決だ。のたうち回らせる料理ならあたしだって。」

 「食材を無駄にしたら許しませんよ、ユイ。」

 アリアンヌに睨まれ体をすくめるユイ。

 「だ、大丈夫。ヒメに全部食べさせる。押さえつけてでも。」

 勝負というからにはあんたもわたしの料理を食べるんだけど、わたしの料理を食べた後でそんな悠長なまねができるかな。

 「最底辺の戦いですね。」

 リルフィーナの一言に膝をついてしまうわたしとユイ。最底辺なんだ……


 「わかりました。この通りに販売します。では、呼ばれた商店の方からお店の中へ。シープ毛をお買い上げの方はお店の横で商品をお渡しします。」

 羊毛は荷馬車じゃなきゃ運べないことはわかっていたのだろう。毛皮や縫製の業者さんは、近くに停めてあったんだろう馬車をお店の前に持ってくる。

 まずは肉から、次にゲーターの皮、そして羊毛の順にお客さんに商品を売っていく。みんなで手分けしながらやったけど、けっこう大騒ぎだった。


 「終わったー。」

 すべて売り終わり、お客さんの帰ったお店の床に座り込む。

 「肉はともかく、シープの毛が入った袋は大きすぎて大変でした。」

 アリアンヌがグッタリしてる。1袋に1キロの毛だからそれほど重たくはないけど、何せ袋が大きいから10とか20の袋を馬車に乗せるのは大変だった。お客さんが自分で積んでいたけど、放っておくわけにもいかないので当然手伝うことになる。体の小さなアリアンヌはさぞ大変だったろう。

 「ミヤも体が小さい。ねぎらうべき。」

 あんたは片手で10袋とか平気で持ってたじゃん。というか、10も重ねたら高さが1メートルを超える袋を、崩さないで持ち運ぶあのバランス感覚はすごいよ。

 「褒められた。」

 「うん、すごい、すごい。」

 頭を撫でる。

 「てれてれ。」

 いや、ファリナ。実際凄いんだから、褒めてあげてもいいじゃない。睨まないでよ。

 「ジーっ。」

 「わかったよ。ファリナもがんばりました。えらい、えらい。」

 差し出された頭を撫でる。

 「よろしい。」

 あれ、バカにしてるのかって怒られるかと思ったけど、よろこんでるならいいか。リリーサはこっち見ててもなんにも出ません。

 「ひいきです!卑怯です!同一労働同一ご褒美を要求します!」

 リルフィーナにやってもらいなさい。

 「お嬢はあんな異常性癖者にはなるなよ。」

 「その件ですけど、あなたがわたしを庇うでもなく男たちと奇声を上げていた事に関して、後でゆっくりお説教します。」

 「そ、そんな!お嬢のかわいらしさは人種性別を越えて万人に認められる事。仕方ないと思うのだが。」

 「この異常性癖者め。」

 「お前にだけは言われたくない!」

 「どっちもどっちですけどね。」

 リルフィーナ、ちょっと座りなさい。説教です。


 「売り上げの清算をします。」

 リリーサがお金の入った革袋をテーブルに乗せる。

 「いきます。シープのシープ毛が、1袋金貨3枚で売れました。全部で536袋あったので金貨1.608枚。肉が金貨1枚で売り上げは金貨400枚。ゲーターは買いたたかれました。肉は1人前で銀貨10枚。なので結局銀貨1.100枚、金貨になおすと55枚でした。皮は全部で金貨20枚で売れました。総売り上げが金貨2.083枚となりました。」

 ユイとアリアンヌが大喜びしてるけど、最近の額が異常すぎて多いんだか少ないんだかわかんないや。この前は5桁いってたよね。

 「これを3等分して、1パーティー金貨694枚であまり1です。」

 「あ、わたしたちはゲーターには関わってないのでその分は引いてもらわないと。」

 「いろいろ教えてもらったし、いいんじゃないの。余った1枚はリリーサの手数料ということで。」

 「でも。」

 あいかわらずまじめだな、アリアンヌは。

 「せっかくみんなで狩りから販売まで一緒にやったのです。喜びも分け合いましょう。」

 リリーサが何かまともなこと言ってる。って、だから誰もかれも人を睨むのやめてもらいたい。


 「では、いずれどこかで。」

 アリアンヌとユイがお店の入口で頭を下げて帰る。

 「今回も無事終わりました。問題はありましたが。」

 「え?なんか問題あった?」

 「ゲーターに気をとられて、レビウルフを出すのを今回も忘れてました。ついでにどさくさで売ってしまおうと思っていた体に悪い薬草も。」

 あぁ、そういえばあったね。そんなものも。


 「じゃ、わたしたちも帰るよ。またね。」

 「はい、また明日。」

 「いや、明日は勘弁してくれないかな。少しゆっくり休もうよ。」

 「そうですか?では明後日。」

 あぁもう構ってられないよ。


 リリーサの住む村を出て森の中へ。そこからわたしたちの家の近くの森まで<ゲート>を開く。

 「明後日は朝から留守にしないとね。」

 町中に入り家に向かう。角を曲がり家の方を見ると……わたしたちの姿を見つけ走ってくる女の子。ファリナに向かうと思っていた女の子、フレイラが、わたしに飛びついてくる。見るとその目に涙が浮かんでいる。

 「ヒメさん!ヒメさん!」

 「ど、どうしたの?フレイラ?」

 「お願いします。お父様を、お父様を助けてください!」

 面倒の予感……ゆっくり休めせてよ……






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