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164.調査


 「平地とはいえ川沿いは結構冷えるね。」

 河原を離れ、近くの草原で草を円形に軽く燃やして、土の広場をつくり焚き火を始める。河原で焚いてもよかったんだけど、水中からさらに魔獣でも出てきたら面倒そうなので、こちらに移動したわけ。

 「現状を確認するよ。」

 火に当たる面々を見回しながら、そう切り出す。視界の端でリリーサがお茶を淹れだしたけど無視だ。

 「とりあえずゲーターを頭のないものを含めて8匹手に入れました。この近辺では、水場にゲーターがいたためだと思うけど、他に獣や魔獣がいそうもありません。だから、今日の収穫はこれだけだと思われます。その場合、最大の問題は・・・ゲーターって売れるの?」

 「聞かれても誰も知らない事には答えようがありません。」

 うん、リリーサ、その通りだよ。難儀だなぁ。

 「何かわからない?ミヤ。」

 「ミヤには生命個体の通称的総称はわかるが、どう利用できるかまでは不明。」

 だよね。名前がわかるだけでもすごいよ・・・ってあれ?だったらわたしの<ポケット>に入ってる謎のウルフの名前もわかるんじゃ・・・

 (あれがなんだかわかるの?)

 (メイルウルフ。)

 (どうして教えてくれなかったのよ?ズールスさんやユイに聞いた時も黙ってたよね?)

 (ミヤは聞かれなかった。)

 融通って知ってる?

 「無論。語彙はヒメ様よりある。」

 「ウッキー!」

 ミヤの髪の毛をぼさぼさにかき乱す。


 「何をこそこそ話していますか?」

 「お茶が待ち遠しいなぁって話してたの。」

 リリーサには言えない。珍しいウルフを持っているなんて。

 「ズールスさん・・・はウルフの時もあてにならなかったし・・・ユイかな、ここは。」

 「ユイは今、魔獣退治で忙しそうだけど。」

 そうなんだよね、ファリナ。

 「領主が自分の領地の勇者やハンターに声をかけたのに、他の領地のハンターとか、さらには他の国のハンターがヒョコヒョコ顔出すわけにはいかないよね。」

 「顔を見られるのがまずいなら、全員を黙らせるという手もある。」

 うん、ミヤはちょーっと黙っててね。どうやって全員を黙らせるかは聞かないからね。

 「どうやって全員を黙らせるんですか?」

 聞くんじゃない!リルフィーナ!

 「ヒメ様に全員燃やしてもらえばいい。」

 「ユイさんも黙っちゃいますけど・・・」

 「大事の前には些末な事。」

 あのね。もう目的がどこかにいっちゃってるよね、それ。ミヤの髪をさらにワチャクチャにする。

 「むぅ。」

 何かミヤが拗ねてる。


 「わたしが全員消して、この際最大限の融通を利かせて、ユイさんだけ再生しましょうか?」

 だから消すんじゃない。あ、なんか、ロイドさんの気持ちがわかってきた・・・


 「ゴボルさんは、ズールスさんより長生きだそうだから何か知りませんかね。」

 「天人族が魔獣の事知ってるかな。ズールスさんも危うかったしね。パス。」

 リルフィーナの言葉に首を横にふるわたし。

 「エアさんは?」

 あいつこそ神出鬼没だから見つからないよ。

 「ヒメが大声で呼べば、どこにでも現れそうだけどね。」

 そこまで便利じゃないだろうし、本当に出てきたら本格的に気持ち悪いよ、ファリナ。もうそれって、ただのストーカーだよね。

 「呼んでみたらどうです?」

 お茶を淹れたカップをみんなに廻しながら、嫌な笑いでこちらを見るリリーサ。こいつおもしろがってるな。

 やむを得ない。まずは、ズールスさんだ。

 「お茶、冷めますよ。」

 あぁごめん。いただくよ。


 「で、来ました。」

 というわけで、やってきました、ズールスさんのお店。

 「何が、で、なんだ?」

 察してよ、それくらい。

 「説明しろ。まずそれからだ。」

 「ゲーターとかいうのを拾っちゃったんだけどね・・・」

 「そんなのはうちじゃ飼えないぞ。」

 意外とノリいいなぁ。


 「ゲーター?どのゲーターだ?」

 「ブロンズ。」

 「ブロンズか・・・」

 額に指を当て考え込むズールスさん。

 「・・・思い出せん。確か食えるやつと泥臭くてダメなやつがいたはずだが。」

 ハードルが上がった。

 「まずいですね。お客さんに試させるわけにはいかないから、誰かに試食してもらわなければいけないかもしれません。」

 「いや、まずいだけならいいけど、毒があるとか言わないよね。」

 聞かれたズールスさんが視線を逸らす。だめじゃん。

 「毒は・・・ない・・・はずだ。確か・・・多分・・・おそらく・・・」

 その言い方を信用しろと。

 「皮はいろいろ使えるはずだな。トカゲより上質扱いだ。それは憶えてるんだが、食えるかどうかまでは・・・なにせ食べた事はないからな。昔、魔人族の領地で遠目に見たくらいの記憶しかないな。」

 「魔人族の領地に行ったことあるの?」

 「俺は人族の領地生まれだが、かつて天人族は、山の向こうに魔人族と領地を分け合って住んでいたんだ。今となっては、すべて魔人族が支配しているが、まだ聖地と呼ばれている場所が残っていて、そこは魔人族でも不可侵とされている。」

 「聖地?神殿でもあるんですか?」

 リルフィーナの言葉にリリーサの目の色が変わる。

 「よもや宝の山とか。」

 「そんないいものじゃない。昔からの墓地があるんだ。さすがに墓まで新世界に持っていけなかったのでな。それで年に1度、こちらに残った天人族の代表が墓参りをしている。俺も一時期代表として墓参りに行って、その時にゲーターを見た事がある。何色かまでは憶えてないが。」

 「なるほど、使えません。」

 リリーサが辛辣だ。もう少しいたわってあげなさいよ。


 「こうなれば、ユイさんの住む領地に行ってみるしかないですね。ウォルナード領でしたよね。」

 ズールスさんから大した情報は得られず、お店を出たとたんリリーサが騒ぎ出す。

 「いや、だから邪魔になるって言ってたじゃん。」

 「お姉様、人のお邪魔になるような事は・・・」

 わたしとリルフィーナをギロリと睨む。

 「では、何かいい考えでも?」

 「もう投げておけばいいじゃない。」

 「<ポケット>に入れておけばいい。」

 ファリナとミヤが、すでにどうでもよくなっているようだ。

 「ポケットなんて知りませーん。」

 そして、リリーサは意地になっているようだ・・・めんどくさい。

 「ギルドに情報ないですかね。」

 リルフィーナがボソッと言う。ハンターギルドか。確かに魔獣については、わたしたちより詳しいかな。

 「ギルドに相談すると、ゲーターを狩った事がばれてしまいます。売ってしまった後ならどうとでも言い訳できますが、現状での相談はわたしにとって不利益しかもたらさない様な気がします。」

 あれもダメ、これもダメじゃどうしようもないじゃない。

 「わたしたちがリリーサのギルドに行って聞いてくるのはどう?」

 「わたしたち密入国中だからね。狩りをしましたなんて言ったら大変な事になるわよ。」

 そうでした・・・<ゲート>で移動すると、町に入ることがほとんどなくなるから、めんどうで入国許可もらってないんだったね。

 「じゃ、マイムの町のギルドは?」

 「マイムじゃ魔獣の資料すらあるかどうかあやしいわよ。」

 ファリナ、厳しいな。一応わたしたちの所属してる町なんだから、もう少しこう、なんというか・・・優しく言おうよ。

 「ゴルグさんならゲーターくらい解体したことあるんじゃないですかね?」

 「「「おぉ!」」」

 リルフィーナの一言にミヤ以外の一同がポンと手を打つ。盲点だったよ。


 「ゲーター?今まで見たことないぞ。」

 頼りのゴルグさんにあっさり言われてしまい、力なく跪くわたしたち。

 「解体してみたいから1匹置いていけ。解体料は取らない。」

 「それは構わないんだけど、はっきりとした情報がないと。万が一にも、体のどこかに毒でもあったら大変な事になるから。」

 「なるほどな。だが、ゲーターに毒はないはずだぞ。」

 「じゃ、どの道使えるなら解体お願いしなきゃいけないでしょうから、わたしの1匹を置いていきます。無理はしないでくださいね。」

 リリーサがちょっと心配そうにしながら、作業場に頭のないゲーターを1匹出す。

 「皮はトカゲより良質だって、ズールスさん言ってたじゃん。皮だけでも使えるはずだよ。」

 「そうだな。触った感じ、防具にしても装飾にしても、革製品としてはトカゲのものよりしっかりしたものが作れそうだ。」

 ゴボルさんはなんだかうれしそうだけど、さてどうしよう。


 「ハンターギルドで聞くのがダメなら、商業ギルドで過去にゲーターの皮なり肉なりを扱った記録はありませんかね。」

 さらなるリルフィーナの案で、リリーサの住むソイルの村の商業ギルドに行ってみる。

 「ここは領地でも僻地と言っていい場所ですから、あまり魔獣の取り扱いはないです。ましてや、げーたーってなんでしょう?」

 そうきたか。リリーサの商品も、王都か大きな領地の貴族御用達の商人が買ってるっていう話だもの、地方の商業ギルドじゃ珍しい商品は入ってこないか。

 「ワニは?」

 ミヤが受付のお姉さんに聞く。

 「ワニですか。イラリアーサ共和国のどこかにいるという獣ですよね。王都に行けば取り扱ったことくらいはあると思うんですけど・・・」

 うーん、ここでも収穫なしか。


 「というわけで決定です。ユイさんを見つけ出して、叩きのめして尋問です。」

 いや、叩きのめしたらダメでしょ。

 「大体、それでユイも知らなかったらどうすんのよ。」

 「その時は最後の手段です。みんなで押さえつけてヒメさんに肉を食べさせてみます。あぁ、さようなら、ヒメさん。」

 死ぬの前提の話はやめてもらえないかな!

 「しかし、ヒメ様だと町1つが全滅するほどの毒でも死なない可能性もある。なにせヒメ様なのだから。」

 「なるほど。」

 何言ってるのかな?あんたたちは・・・

 「つまり人族代表として、ファリナさんをみんなで押さえつけて、って痛い、痛いです。有無を言わさずに攻撃する癖を何とかしてください!」

 「もう黙って売ってしまえばいいよ。後は買った人の自己責任ということにして。」

 「なるほど。さすが悪辣の名をほしいままにするヒメさん。考え方が邪悪です、って、あっ、ヒメさんまで!痛いです!頭を叩くのやめてください!」

 なぜかどさまぎでミヤまで参加して、リリーサをボコボコにする。

 「とは言え、ユイやアリアンヌのいる町に行ったとして、2人はどこで討伐してるのかわかるのかな。」

 「ギルドじゃ教えてくれませんかね。」

 まったくこたえた様子もなくリリーサが会話に混ざる。

 もうこれはあれかな、エルリオーラ王国の黒の森をウロチョロして、エアを探すべきかな・・・

 「前にズールスにウルフの事を聞いた時、ゴボルなら詳しいと言っていた。」

 え?それ最初にあきらめたよね。今更そういう情報を出すの?ミヤ。

 「ヒメ様がそれを否定した。だからミヤはそれに従っていた。」

 わたしが悪いの?それ・・・うぅ、なんか納得いかない。






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