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161.特殊商品販売日


 「シルバーシープの羊毛?シープって手にはいるものなのか?」

 お客の間から、ざわめきが発せられる。

 「それに肉までもか。シープの肉ってどんな味なんだ?」

 「家畜のヒツジと変わらないんじゃないのか?正直見たことないから何とも言えん。」

 ざわめきというより悲鳴に近い。


 「さて、では・・・」

 リリーサが今回は、レビウルフは前回の相場通りの値段でくじ引き、シルバーシープ関連はオークションにすると説明、オークションを始めようとした時だった。

 「ま、待ってくれ!」

 お客たちの中の1人が手を上げる。

 「シルバーシープと言われても、この国でシープが市場に出た事なんて、俺の記憶にはない。へたしたら初めてかもしれん。まず、それが本物かどうか確認できる証拠みたいなものはないか?」

 もっともだよね。そう言われると思ったから、リリーサは狩ったシルバーシープを1匹解体せずに収納にしまってある。

 「ありますよ。そこ、場所を空けてください。」

 お客がお店の前を広く空ける

 「じゃ、出しますね。」

 リリーサがシープをポンと出す。

 「「「おぉぉー!」」」

 お客から歓声が上がる。初めて見るシルバーシープに驚いたのだろう。

 「収納が使えるのか?しかもこの大きさの魔獣が入る?」

 あれ、そっちに食いつくんだ・・・さすが商人・・・


 「ギャー!」

 販売会は、この村で月に一度の騒ぎ。大人たちから近づかないよう言われても、子どもたちは言う事を聞かない。遠巻きに眺めていた子どもたちが、突然現れた巨大な魔獣に悲鳴を上げる。なにせ、頭高長2メートル超え、全長も3メートルを超える大きな魔獣が、横倒しとはいえヌッと現れたんだ。驚かないわけがない。

 「な、なんだ!?何事だ?ギャー!」

 お店の隣の警吏の派出所から4,5人の警吏が子どもたちの悲鳴を聞いて飛び出してくる・・・が、目の前の魔獣を見て、自分らも悲鳴を上げる。


 「リリーサさん、いくら死んでいるとはいえ町中で魔獣を出すのは勘弁してください。」

 警吏さんが困り果てた顔でリリーサにお願いする。リリーサはこの地の領主に顔が利くからきつくは言えないよね。


 で、お客はみんなシープに群がって細かく見ている。

 「これが、シルバーシープか・・・」

 「でかいな。形は確かにヒツジに似ているが。」

 「毛はヒツジより細かそうだな。糸にするとどうなるんだ?」

 「肉はこれだけ大きいと大味になりそうだな。家畜のヒツジも好みがわかれるからどうなんだろうな。」

 羊毛に興味のありそうな毛皮業者と肉業者とに分かれていろいろ相談しているようだ。まぁ聞こえる範囲じゃ、みんなどうしていいかわからない、ってのが正直な感想みたい。


 「なんでしょう?どうなってるんでしょう?」

 お店の入口で、デンと構えてるミヤとアリアンヌだったけど、アリアンヌがお客の注目が外れて、ホッとしたように成り行きを見ている。ミヤも見た目は変わらないけど、注目が外れた事には同様にホッとしているようだ。

 「なんだ?どいつの首を落とせばいいんだ?」

 ユイもどうしていいのかわからず、キョロキョロしてる。落とさなくていいの。まだ。

 とはいえ、これ収拾つくの?


 「リルフィーナ、お客さんがシープを傷つけないよう見張っていてください。店員のみなさん、一度集まってください。」

 リリーサがわたしたちを呼ぶ。わたしたちだよね。店員になった覚えないんだけど。


 リルフィーナが見張る横に集まる。

 「つまり、みんな燃やせばいいのね。」

 「・・・なぜそうなりますか?」

 あれ、リリーサが呆れているように見えるけど、気のせいだよね。

 「収拾がつきそうもないから、みんな燃やしてなかったことにしようって話じゃないの?」

 「わかった、半分はあたしが首を落とす。それでいいか?」

 ユイが力強く頷く。

 「ファリナさんとアリアンヌさんはこのおバカどもを羽交い絞めにしていてください。」

 じゃ、リルフィーナも呼んでリリーサを羽交い絞めにしなきゃ。


 「ここまでシープが知られていないとは思いませんでした。お客さんも買うかどうか悩んでいます。なので、見本のような形で少しずつ持っていってもらって、1ヶ月後に売ることにしたいと思います。」

 「1ヶ月ってなんで?」

 「羊毛は糸にしたりして、編み上げるのに時間がかかります。そのくらいあれば、この羊毛が買うに値するかどうか判断できると思います。肉は食べればわかるので、明日にも売ってもいいのですが、そこは足並みをそろえるという事で。」

 「ユイはどう思う?」

 「あたしはお嬢が決めた通りでいいぞ。」

 「うーん、じゃ、おまかせします。先日のうろ・・・アレを売ったお金もありますし、急ぐこともありませんので。」

 「わたしたちもいいよ。焦らせてお客の心証を悪くすることもないしね。」

 全員が驚きの目でわたしを見る。

 「ヒメが人を思いやるなんて・・・」

 ファリナ、なぜ泣く?え、うれし涙?え、ミヤも?

 「明日は吹雪ですね。」

 降らないよ、リリーサ!

 「というか、これ本物ですか?」

 あんたはちゃんと見張ってなさい、リルフィーナ!

 「普段どんな扱い受けてるんだ?」

 ユイ、うっさいです。何頷いてるの?アリアンヌ。

 「やっぱり燃やしとくべきかな。」

 どいつもこいつも・・・


 「みなさーん、注目ー。」

 気の抜けたリリーサの声がお店の前に響く。

 「シープがこれほど認知度が低いとは思いませんでした。なので、羊毛1袋を半分にしたものを金貨2枚でとりあえず売ります。1人1個限り。肉も1人につき1人前だけを金貨1枚で売ります。お試しでの販売です。その程度の出費なら今回の商品が不要だとしてもちょっと損したな、くらいで済むでしょう。1度お持ち帰りの上、商品を確認してみてください。羊毛は糸にして、染色、編み上げなどに時間もかかるでしょうから、1か月後に再度販売の機会を設けます。肉をお求めの方には申し訳ありませんが、何度も販売日を設けるのはめんど・・・いえ、当店の都合もありますので、それに合わせていただきます。」

 今、めんどうって言いかけたよね・・・いや、いいんだけどさ。

 で、また場がざわつく。お客が同業者同士集まって相談してるみたい。

 「食肉業者の方の手を煩わせるわけにもいきません。1週間後に再度販売の機会を設けていただけないでしょうか。」

 毛皮業者の代表だと思われる男が手をあげ発言する。

 リリーサが腕を組みうーんとうなりだす。

 (来月の方が、次の販売日の商品を考えなくてすむので楽なんですが・・・今月は、鱗の売り上げでもう十分ですし・・・)

 ブツブツ言っている。まぁそうだよね。

 「どうしましょう。」

 そう言いながらこちらを見る。

 「ら、来月がいいと思います。そしたら、その頃には、わたしたち仕事が入っているのでこんな恥ずかしいことをしなくても・・・あ・・・」

 アリアンヌ、最後まで正直に言いすぎ。

 「来週にしましょう。」

 「リリーサさーん!」

 手伝いを断ればいいじゃん、とは教えない。おもしろそうだし。

 「ヒメ様外道。」

 いや、わたしが黙っていてもユイが教えるって。

 「どうする・・・お嬢のためには断れば・・・だが、黙っていれば、またあの愛らしいお嬢の姿が見れる・・・あぁ、どうしよう・・・」

 うんうんと身悶えるユイ。うん、こいつも大概だな。


 「今日はお疲れさまでした。商品の販売は来週となりましたが、ご足労いただいた事もあり、簡単な夕食を用意させていただきました。」

 販売会は試供品の販売後解散となり、リリーサの家に帰ってきて、今、目の前にはシープの肉が並ぶ。

 「要はわたしたちも味見してみようってことだよね。」

 お客は23人いて、8人が毛皮業者、15人が食肉業者だった。その人たちに今回売ったのは、羊毛が2人で1袋なので4袋、計金貨8枚。肉は15人分で金貨15枚だった。ちなみに、レビウルフはシープの騒ぎに紛れて忘れていたので、これも来週にまわすそうだ。

 「とりあえずですからこんなものでしょう。」

 こんなものはいいけど、みんながいらないと言って、売れなかったら大変だよ。

 あの大きさのシープは、羊毛をわたしが一抱えしそうな袋に詰めても、1匹で54袋。肉は1匹から42人分とれた。それが9匹分。羊毛486袋。肉は378人分あり、しかも1匹まだ解体していないという状態なのだ。あれだけ大きいとすごいものだね。

 「売れなかったら3か月以上、毎日ヒツジの肉がご飯だね。」

 「待ちなさい、その計算だと1日10人前食べなきゃいけないんだけど。」

 うわ、ファリナ、あいかわらず計算早いな。適当に言っただけなのに。

 「わたしたちのパーティーだと3人だから、1日3食、一回に1人前で何とかなりそうかな。」

 「え、じゃわたしとユイは1食1.5人分ずつですか?それを毎食?太りそう・・・」

 アリアンヌの感想がよくわからない。食べ飽きるということじゃなく、太るという問題になるの?

 「売れないという判断がわかりません。売れるに決まっています。」

 肉を卓上の石釜にのせながらリリーサが当然だと言わんばかりだ。

 肉は言われているほど癖はなく、食べやすかった。お店で売っているヒツジの肉は滅多に食べないけど、あれよりは食べやすいかな。たぶん。

 「魔獣はウルフもそうだけど、食べやすい味なのかしらね。」

 ファリナの言う通り、魔獣の肉ってどれも食べやすいよね。しかもおいしいし。


 「では、1週間後の朝にこの家に集合、その後、『ヴァイス・ゼーゲン・ツヴァイ』に移動します。遅れたり来なかったりしたら、分け前は無しです。」

 「うぅ、お金と羞恥心のどちらをとるべきでしょうか・・・」

 アリアンヌが、がっくりとうなだれる。

 「というか、ユイもメイド服なんだから、目立ちそうなものなんだけどね。」

 ファリナの疑問ももっともだよ。この服装なら頭のおかしいお客なら喜びそうなんだけど。

 「ユイはエプロンも黒いので、メイド服っぽく見えないんです。」

 アリアンヌがジトッとユイを見る。

 「それに、特殊商品販売日に来るようなお客さんなら、メイドくらいいる商人ばかりです。珍しくないんでしょう。」

 なるほど、リリーサの言う通り見慣れてるわけか。

 「いいことだとは思うが、なんか納得できないな。」

 ユイが首をかしげる。

 「なに、ユイもキャアキャア言われたいの?」

 「んなわけあるか!だが、無視されるのもなんだかなぁ。」

 「代わります。今度はユイとファリナさんが門番すればいいんです。」

 「わたし?遠慮します。」

 ファリナが首をブンブン横に振る。

 「じゃ、ヒメさん・・・は大惨事になりそうなのでダメです。」

 アリアンヌ、どういう意味よ?何かあったとして、頭のおかしいお客とお店がなくなるだけでしょ。それは大惨事とは言いません。むしろ浄化と言うべきです。

 「お客さんはともかく、お店を燃やすのはやめてくださいね。やったら責任は取ってもらいますからね。一生面倒見てもらいます。」

 リリーサ、お客はいいんだ・・・

 「何にせよ1週間後、それまで暇ですね。何か狩りに行きましょうか。」

 また狩りに行く?エンドレスなんだけど、リリーサ・・・






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