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159.ヒメ そして明日へ・・・


 リリーサやユイたちを町の外まで歩いて送る。空間移動魔法をどこでも使わせたくないから。

 アリアンヌがフレイラ恐怖症なので、ミヤに周囲を警戒させる意味でわたしたちもついて行く。

 「じゃ、わたしたちは、明日の朝ヒメさんの家に行きますね。泊まっていく方が早いのですが、明日も狩りに行くことになるとは思ってなかったので、ミロロミに説明しておかないと。まぁ、急にいなくなるのはいつもの事なので、説明なしでもあの2人なら平気でしょうけど。一応念のため。」

 相変わらず雑だよね、リリーサのお店は。

 「では、わたしたちは朝の10時すぎにズールスさんのお店でお待ちしています。今日はお世話になりました。」

 アリアンヌがピョンと頭をさげる。

 「じゃ、また明日。」

 挨拶すると、2組がそれぞれの目的地に空間魔法の門を開き消えていった。

 「さて、出てきたついでだし、晩ご飯の食材でも買って帰ろうか。」

 「そうね。何が食べたい?」

 「肉を希望する。」

 2人がわたしの左右から腕にぶら下がる。

 明日も天気は良さそうだ。


 翌日。朝ご飯を食べていたら、リリーサがやって来た。

 「いいですね、のんきにご飯を食べる時間があって。こっちは起きるなり来たというのに。」

 いや、それあんたが朝起きられなかっただけだよね。

 「何か食べる?」

 「いえ。起きたばかりであまり食欲がありません。」

 「お姉様、言いづらいのですが、朝食は食べましたから。お腹がいっぱいなのはそのせいです。」

 「え?そんな記憶はありませんよ!」

 あのね・・・ボケてるの?

 「まぁ、半分寝ながら食べてましたからね。しかもご自分が作られたご飯を。」

 自分で作って、自分で食べて、その記憶がない?

 「作りましたか?」

 「作りましたね。しかもわたしの分も、しっかりと。」

 腕を組んで考え込む。

 「記憶がないのに食べたというのは何だか損した気分です。許されることではありません。ファリナさん、何か貰えますか。やっぱり食べます。」

 図々しいな、こいつ。

 「パンとスープでいいかな。」

 ファリナのこめかみが引きつっている。

 「ありがとうございます。お礼にこの茶葉を差し上げます。わたしの最近のお気に入りです。あ、食後にこれでお茶を淹れてください。」

 茶葉の入った缶をテーブルの上に置く。それはくれるというのか?自分が飲みたいだけじゃないの?ファリナの顔がさらに引きつってるよ。

 「リルフィーナは?何か食べる?」

 「いえ。後でお茶だけいただけますか。」

 さすがにこちらは恐縮してるようだ。


 ご飯を食べて、家を出る。とりあえずは、鱗の話がどうなったのかをゴボルさんに確認しに行く。

 「売れないようでしたら、どこかの洞窟に木箱にでも入れて置いてきましょうか。で、その位置を描いた地図をそれとなく古道具屋に置いてもらいます。」

 宝探しごっこかい。

 「それ、お姉様とヒメさんが別々に隠して、お互いのを探すというのもおもしろいかもしれませんね。」

 リルフィーナが楽しそうに言ってるけど、面倒なだけでしょ、それ。

 「ダンジョン探索。ワクワク。」

 まずい、ミヤが食いついた。

 「う、売れなかったらでしょ。売れちゃうよ、きっと。」

 「ガッカリ。」

 ミヤの失望感が半端ない。

 「い、いや、もう寒いから。春になって暖かくなったら別の何かを使ってやろうか。」

 「やる!」

 あ、生き返った。

 「そうです。それどころではなかったのです。」

 リリーサがわたしをジッと見つめる。何事だ?

 「後4日後には次の特殊商品販売日の日なのです。この頃忙しかったのですっかり忘れてました。」

 それは大変だね。今回はわたしたちは売るものないから、がんばってね。

 「毎月やらないことにするんじゃなかったの?」

 ファリナ、ツッコむんじゃない。ここは聞き流した方がいいって。

 「ウルフがまだ残っていますからね。これを売ってしまいます。来月以降はどうするかその時の在庫状況で考えます。」

 「まぁがんばってね。」

 「何を言っているのですか。少なくともお客様はミヤさんを待っています。最悪ミヤさんだけでも来ていただかないと。」

 ミヤがすごい嫌な顔。

 「こうなったらおかしな奴全員捌く。」

 「それ見てまたファンが増えるかもです。」

 リルフィーナのセリフで、ミヤがガックリと地面に跪く。

 「ヒメ様、全部燃やして。」

 「わかった、わかった。リリーサのお店ごと全部燃やしちゃおう。」

 「なので、ヒメさんたちも来てください。協力してくれたら、おいしいお茶の葉を差し上げます。」

 手伝い料はお茶かい。しかもお店を燃やすと言ったのはスルーされたし。

 「こうなったらわたしもブラッドメタルベアの毛皮と鱗売っちゃおうかな。」

 「わたしのお店が営業停止になります。消しますよ!」

 あぁ、めんどくさい・・・


 そして、ゴボルさんのお店へ。

 「話をつけてきた。ただし、お前らが直接ギャラルーナ帝国に行っても、売れないから気をつけろ。俺の伝手で頼んであるからな。」

 「じゃ今後は売りたかったら、正規のルートであるバイエルフェルン王国に届け出ろってことだね。」

 まぁ儲けは減るけど、身の安全・・・というか、面倒事を避けるためには仕方ないか。

 「で、鱗1枚は金貨1.200枚で買うそうだがどうする。」

 どうするも何も、持っていてもバイエルフェルン王国でしか売れないうえに、うまく売れても金貨数十枚になるかならないか、っていうならそれで売るよ。

 「リリーサ、アリアンヌの鱗預かってる?」

 「はい、ですのでわたしの分と2枚です。」

 鱗を2枚、収納から出す。

 「で、わたしが1枚。」

 ゴボルさんに3枚の鱗を渡す。

 「あ、アリアンヌに見せる証拠として一筆書いてくれないかな。」

 「あの嬢ちゃんらは来てないのか?」

 「いろいろあるんだよ。世の中面倒ばかりだよね。」

 「証拠は残したくないんだが。」

 「品代、金貨1.200枚だけでいいよ。詳しく書かなくていいから。わたしたちがごまかしてるって思われるのは嫌なんだよ。」

 「信用無いんだな。」

 いや、きっとアリアンヌは信用してくれるだろうけど、お金に関してははっきりさせておきたいんだよね。欲が絡むと何が起こるかわからないじゃない。

 「わかった。物の名前と俺の名前を入れなくていいなら書こう。」

 「お願い。」

 

 「いえ、ヒメさんがいう事なら信用しますよ。」


 鱗を渡したら、ゴボルさんがその場でお金をくれた。もうわたしたちが売る前提で話が進んでいたようだ。で、そのままガルムザフト王国に行く。

 ズールスさんのお店で待ち合わせてたアリアンヌと会い、そこを出て、道すがら鱗の事を説明する。

 ズールスさんは、『ここは待ち合わせ場所じゃない。』とかなんとかブツブツ言っていたけど無視する。その分リリーサに文句言われてたみたいだけど。

 で、話はお店を出てから。ズールスさんに聞かれて心配されても困るからね。

 「品物はゴボルさんに渡してきたから。で、お金すぐくれたんだよ。これアリアンヌたちの分。ユイに渡せばいいのかな。」

 「話が早いな。まぁ手間がかからないならそれに越したことはないが。」

 ユイが金貨の入った袋を受け取る。

 「じゃ、この件に関してはおしまい。他言無用ということと、残りをどうするかは各自の自己責任で。」

 「わかりました。」

 「はい。わかりました。」

 リリーサとアリアンヌが返事する。何かミヤが服のポケットを気にしているようだけどどうしたんだろう。


 「で、ガルムザフト王国で狩りはいいけど、国境には近づかない方がいいだろうし、どうする?」

 「王国の真ん中あたりを、黒の森から山のふもとに向けて歩いてみましょう。」

 リリーサが山を指さす。

 「この辺は春先ごろに灰色狼を探して以来来てないんですよ。夏に灰色狼が狩りすぎで狩猟厳禁になりましたし。何か珍しいものが出てきませんかね。」

 とはいえ、珍しい獣や魔獣なんて、そうそういるはずもなく、出てくるのはオークやホーンラビットくらい。そして、山のふもとに近づいた時・・・


 「なんですか?あれ・・・」

 リリーサが素っ頓狂な声を上げる。

 「ヤギ?」

 「ヒツジでしょ。」

 あれ、そうだっけ。

 山のふもとのなだらかな斜面の草むらに、そのヒツジ・・・の魔獣がいた。しかも10匹くらいが集まっている。

 「ヒツジ、ということは、シルバーウールというんでしたっけ?」

 「それは狩った後の素材。シルバーシープよ、あれ。」

 さすが、魔獣博士と呼ばれるだけあるよ、ファリナ。よく知ってるね。

 「あなたも教わったはずなんだけどね。」

 だから、わたしは過去を振り返らない女なの。もう忘れたわ。

 「かわいいですね。」

 うん、アリアンヌ、とりあえずこいつの頭の位置がわたしの身長を越えてる時点でその感想はないかな。ヒツジと名乗るならせめて私のお腹くらいの大きさじゃなきゃね。尻尾まで入れたら3メートル近いよね、こいつ。しかも魔獣の御多分に漏れず頭の左右の他に、てっぺんにもまっすぐに伸びた角が生えてるし・・・

 「けっこう近づきましたけど穏やかなものですね。」

 リリーサの言う通り、シープたちとの距離は十数メートル。気性の荒い魔獣なら襲ってくるし、気の弱い魔獣なら逃げ出してる距離だ。

 「あれの毛って売れるはずですよね。」

 「肉も売れるはずよ。クセがあるから好みがわかれるけど。ただ、そう聞いただけで、エルリオーラでは売ってるの見た事ないけど。」

 「ガルムザフトでも聞いた事ありません。」

 リリーサとファリナが相談してるけど、この大きさで毛と肉が売れるとか言われると、燃やしたいわたしに出番はないじゃん。火はダメだよね。ユイがいるから、分解魔法も使いたくない。あれは教えてくれと言われても教えるのは難しそうだ。


 「わっ!」

 ウズウズとシープを見ていたアリアンヌがいきなり叫び声をあげる。え?何やってんの?

 驚いたシープがこちらに向かってくる。あいつら大人しそうでも魔獣なんだから、やるときはやるよ。

 「何やってんの!?」

 「ごめんなさい!ごめんなさい!つい、何となく!」

 ええい、これだからお子様は・・・

 「大きすぎて消せません!」

 リリーサがワタワタしながら叫ぶ。

 「足!足を斬るか消して!倒れたところで心臓か腹を切り裂いて!正面からまともに当たっちゃダメよ!大きすぎるから!」

 ファリナが叫ぶ。あぁ、もうグダグダだよ・・・


 ファリナが剣で、ユイは風魔法で足を斬り落として、倒れたところを心臓や首筋に剣を突き立てる。リリーサが足を消して、リルフィーナが倒れたシープに剣を突き刺す。ミヤはいつものごとく軽業のようにピョンと跳ねると、シープの顔に飛び乗り、額に鉤爪を突き立てる。体毛を刈ればいいので、足や体の一部がなくても構わないから復元はしない。

 アリアンヌはその様子を、ワタワタしながら見ていたし、わたしは<ポケット>から果樹水を取り出して、飲みながらボーッと見ていた。

 「何やってんのよ!」

 あ、ファリナに怒られた・・・


 「いや、燃やせないとなると、わたしに出番はないよ。」

 「剣で斬りなさいよ!」

 シープが倒れ、血と砂が舞う草原で、わたしはなぜか正座していた。目の前に腕を組んでわたしを睨むファリナ。

 「いや、わたし剣士じゃなく一応魔術師なんだけど・・・」

 「で?」

 え・・・と・・・

 「ごめんなさい。」


 「わたしとファリナさん、それにユイさんが2匹ずつ。ミヤさんが4匹ですか。相変わらずミヤさんすごいですね。」

 リリーサが倒れてるシープを数えながら感嘆の声を漏らす。まぁミヤは、鉤爪で額一撃だからね。転ばせてからとどめをさしていたみんなよりは早いかな。

 「どうやって分けます?狩った頭数ごとでいいですか?」

 「これってどこかで売れるものでしょうか?」

 アリアンヌがシープを呆然と見つめてる。そうだよね。売れなきゃただのお荷物だよね。

 「リリーサ、特売会やるっていってたよね。これ売れないかな。」

 「羊毛は毛皮商が買ってくれると思いますけど。ちょっといくらで売れるかわかりませんね。それでもかまわないのでしたら、いいですよ、お店に並べましょう。」

 「いくらででも売れるのならお願いします。」

 アリアンヌが頭を下げる。

 「じゃ、まとめて売って3等分にしよう。いいかな。」

 一応戦ったファリナとミヤに確認。

 「いいわよ。」

 「ヒメ様がいいのなら。」

 「では決まりです。というわけで、ヒメさんたちはもちろん、ユイさんやアリアンヌさんも手伝っていただけますね。」

 「え?何を?」

 アリアンヌがビックリ。あぁ、これは捕まってしまったな・・・


 ファリナがちょっと不安な顔でシープを見てる。

 「どうしたの?」

 「うん、最近こちら側に来ないはずの魔獣が増えたな、って思って。」

 「そういえばそうだ。」

 ミヤがトコトコやってきて、わたしの腰にしがみつく。

 「魔人族の領地で何か起こってるのかな・・・」

 ファリナが呟くように言う。ギャラルーナ帝国との戦争準備で、魔獣が追われてるのかな・・・

 一抹の不安はあるけど、だからといってわたしたちにどうこうできるわけじゃない。


 わたしたちは、今日を精一杯、好き勝手に生きるくらいしかできることはないんだよ。


 わたしたちはこうやって生きていく。今日も、明日も、これからずっと・・・







「三聖女遁走 編」終了です。

まったく話が途切れていませんが、次回から新章です。何度も言いますが、あくまで作者の頭の中でのことですので、お気になさらずに。


そして、次回から 最終章「激闘 編」開始です。

激闘というくらいですから、戦いまくりです・・・たまに・・・


これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

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