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157.ヒメ ゴボルに会いに行く


 エアが造った人目につきそうな壁を壊して、寒さに震えながら焚き火の近くに戻ってくる。ミヤとエアは波打ちぎわに残って、ボーっと海を眺めてる。あの2人一緒にしておいて大丈夫かな。






 「鱗が海の主のものだと知っていたようだが、海の主の事を知っているのか?」

 エアがミヤの方を見ないで話しかける。

 「お前たちが話しているのを聞いただけ。ユイからクラーケンという海獣だと聞いた。」

 「お前か、聞いていたのは。もっと距離をとらんといけないらしいな。」

 「主が死ぬと問題があるのか。」

 「・・・ヒメに関係することはない。詳しく話すつもりもない。」

 「ヒメ様の面倒にならないのであればミヤは興味がない。」

 しばらく沖を眺める2人。

 「鱗は向こうの方まで行けばまだ見つかっただろう。なぜ黙っていた。」

 チラとミヤに視線をやるエア。

 「魔力をめたモノならまだいいが、魔力がこもったモノはあまりよくない。鱗程度なら問題はあるまいが、ヒメ様に危険をもたらす恐れのあるものは、わずかでも排除する。ただ今回はヒメ様が欲した。だから許した。」

 「慎重だな。確かに数枚なら問題あるまい。」

 ミヤが鉤爪を出し砂に突き立てる。やや間があって引き抜くと、爪の先が曲がった鉤爪に引っかかるように虹色の鱗が2枚姿を現す。

 「それはかなり深いところにあったはずだが・・・」

 「問題ない。これで4枚。」

 「排除するのではなかったのか?」

 「ミヤは興味ないが、売れるとヒメ様とファリナが喜ぶ。」

 笑みを浮かべるミヤに、あのエアが言いづらそうに視線を泳がせる。やがて、意を決したように口を開く。

 「お前は・・・何者だ?」

 「ミヤはミヤ。それ以上でもそれ以外でもない。ヒメ様のつがい。」

 「・・・そうか。」

 

 「ミヤー。」

 焚き火の方からヒメがミヤを呼ぶ。

 「ヒメ様が呼んでる。行く。」

 ミヤはトコトコと駆けだした。それをエアが見送る。

 「敵ではないならいいか・・・」

 エアは視線を海に戻した。






 いつまでもミヤが戻ってこないのでちょっと心配になる。いきなりあの2人戦いだしたりしないよね。

 「なんで?」

 なんでってファリナ・・・あの2人たまに何考えてるかわからないから。いきなり何をしでかすものやら。

 「ミヤー。」

 声をかけてみる。すぐこちらにやってくるミヤ。考えすぎか。

 そばまで来ると、わたしの膝の上にちょこんと座る。

 「もう膝から降りてもいいんじゃないかな。」

 ファリナが苦々しい顔。

 「しかし、ヒメ様から望まれて膝に乗った。継続するのはミヤの務め。」

 「じゃわたしが代わるわよ。」

 「ファリナの自重ではヒメ様かわいそう。」

 「ぬゎんですってー!」

 あぁ、あっちでやって。めんどくさいから。


 「さて問題は、この鱗って売れるんでしょうか。」

 リリーサがジッと鱗を凝視する。

 「売れないの?」

 「アリアンヌさんやこの国のギルドからは、見つかったという情報はありますが、個人で売った売れたという情報がないのです。そこの町のギルドならわかりませんかね。」

 そういえば、エアがつれてきてくれたから、ギルドで情報集めもしないでここに来ちゃったんだっけね。

 「実物見せた方が話早いかな。」

 「ダメです。情報が無さすぎます。さっきの話じゃ国で買っていると言ってました。他国のわたしたちじゃその辺はどういう扱いになるか。それに、鱗を見せたら売ってくれならいいですけど、欲しがっている者に襲われる可能性もあります。なにせ、この辺の人はヒメさんの恐ろしさを知りませんから平気でケンカを売ってくる可能性もあります。」

 「それは大惨事になりそうね。」

 リリーサとファリナが何か言っている。

 「そのケンカは買っていいのか?神の御許に送ればいいんだな。」

 送るんじゃない、ユイ。

 「町に行くならここでお別れだな。」

 エアがゆっくりこちらに歩いてくる。

 「人が多いところは苦手だ。減らしたくなる。」

 こんな奴しかいないのか、わたしの周りって・・・

 「類友だ。」

 「類友ですよね。」

 ミヤとリルフィーナ、黙れ。

 「鱗を売りたいならギャラルーナ帝国の商人に頼めばいいかもな。」

 「ギャラルーナ?」

 いきなりの話だな。何でギャラルーナが鱗を買うんだ?

 「知らんが集めてると聞いた。海流の関係で、鱗はこの国から南にしか流れてこない。手に入らんのだろう。何に使うのかは知らん。飾りか何かに使うのではないかな。」

 まぁきれいだもんね。

 「ゴボルさんに聞けば何かわかるかな。」

 「ゴボル?」

 エアがギロリとこちらを見る。

 「知ってるの?」

 「い、いや。知らん。誰だ?それは?」

 「わたしの町でアイテムショップをやってるおじさん。ギャラルーナ帝国から来たらしいよ。」

 右手で顔を覆うエア。

 (あのクソジジイ、何をやっている?いや、それ以前に知っているのか?)

 鋭い目でわたしを見ると、肩を掴む。

 「近づくな。ロクな事がない。」

 「え?やっぱり知り合い?」

 「知らん。だが、よくわからん男をお前に近づけるわけにはいかん。」

 結構なおじさんだから、心配はないと思うけど・・・

 「とにかく、そいつには近づくな。あ、後ギャラルーナ帝国にもあまり近づくな。ちょっときな臭くなってきたからな。」

 そう言い残すと、エアが空間移動の門に消える。

 「あいつ、いったい何者だ?」

 ユイが不審そうに言う。

 「空間魔法を使うにはかなりの魔法力が必要だと言っていたよな、ミヤ先生。」

 待て、何その先生呼びは・・・

 「簡単に空間魔法を使う。あいつ、ただの人間じゃないのか?」

 わたしたちの同類だよ、とは言えないか。人に教える事じゃないしね。

 同類、だよね。そういえば、エアからはっきり言われたことないな。


 「ジャブラーラの町に行って話をするのはいろいろ面倒そうです。ゴボルさんが何かしらの情報を持っているのなら、まずそちらをあたってみましょうか。」

 ユイの助言は全く無視ですか。

 「でも、そうするとまたパーソンズ領に行かないといけないんですよね。」

 アリアンヌが怯えたように俯く。

 「マイムの町だから大丈夫だと思うよ。領都じゃないし。」

 「でも、さっき来ましたよね。」

 まぁ神出鬼没だからね、あの娘。

 「わかった。万が一出会ったらあたしが首を落としてやる。」

 「そんなことしたら絶交です!」

 「ぜ、ぜ、絶交?」

 ユイがガックリと跪く。

 「死にます・・・」

 地だと思われるモードに戻ったユイがボソッと呟く。

 「え?いや、だから、やったらですよ!」

 慌てて言い繕うアリアンヌ。何やってんだか。


 「アリアンヌは鱗どうしたいの?」

 「1枚はお守り代わりに持っていたいですね。もう1枚は売れるなら売ってしまいたいです。少しでもお金稼がないと。」

 「まだウルフ、何匹か持ってるんだよね。」

 「パープルとレッドが1匹ずつ残っている。そのうちどちらかを雇い主のウォルナード様に献上しようかとは思っているから売るわけにはいかない。つまり金にはならない。鱗が売れるのならうれしいかな。」

 ユイが復活して立ち上がる。

 「じゃ、ゴボルさんのところに行ってみるしかないかな。さっきの鱗でもわかるように、ミヤはそれなりに周囲を調べることができるんだ。フレイラが近くにいればわかると思うから心配することないよ。」

 不安げなアリアンヌに安心するよう話しかける。

 「わかりました。虎穴に入らざれば虎子を得ず、ですね。」

 「虎の巣穴に入ってみたら子どもの虎なんかいなくて、虎に酷い目にあわされた、というやつですね。」

 「「「違う!」」」

 これも形式美になってきたなぁ・・・


 「問題は・・・」

 ファリナがため息を吐きながら肩を落とす。そう、問題は・・・

 「・・・いるのかな、あの人・・・」

 過去4回お店に行って、出会えたのは2回。確率5割。この数字を高いと見るか低いと見るか。

 「店主がいない店などありえるのか?やる気があるとは思えないぞ。」

 あぁユイ、そのくらいにしてあげて。リリーサが死にそうだよ。

 「行ってみるしかないよね。ここで焚き火に当たっていても、何の進展もないし。」

 「ですね。なんにせよ、まずお茶飲みませんか?休憩です。」

 あれ、会話がつながってないような気が・・・


 お茶を飲んで、わたしの<ゲート>でマイムの町近くの森に帰ってくる。

 アリアンヌを真ん中に囲むように町を歩いてゴボルさんのお店に。

 「いらっしゃっせー。お客さん、この店は初めてっすね。」

 えーと、あぁ、この間よりユイとアリアンヌの2人多いのか。

 「ちょっと離れてくれる?」

 「な、なんだよ。」

 ユイとアリアンヌをお店の端に押しやる。

 「これならわかるかな?」

 「あっれー、姉さんたちじゃないっすか。いやだなー、久しぶりっすね。」

 うん、いい加減顔で覚えなさい。

 「大丈夫なのか?こいつ?」

 ユイがリーラーを胡散臭そうに見る。

 「やだなー、会うなりそれは失礼っすよ。で、今日は何事っすか?」

 「店長いる?」

 「うちの店長っすか?あれに会いたいなら1年前に予約入れておかないと無理っすよ。ちなみに今開店1ヶ月ちょいっすけどね。」

 言いながら笑ってるけど、どうしよう、笑いどころがわからない。燃やしておこうか。

 「いるぞ。このバカ娘が。」

 店の奥からゴボルさんが出てくる。

 こちらを見るなりちょっと嫌な顔。

 「来るたびに人数が増えるな。もう少し広い店を借りるんだったかな。」

 「すよねー。毎回人数変わるから、誰が来たのか迷うっす。」

 だから、人数で人を認識するんじゃない。

 「で、何の用だ?話し相手にしては多すぎるんだが。何か買い物か?」

 「ギャラルーナ帝国で鱗買ってくれるって聞いてきたんだけれども、ほんと?」

 「鱗?サバか?サケか?」

 あれ、世の鱗ってサバかサケなわけ?

 「これです。」

 リリーサが収納から1枚出す。それを見て顔をしかめるゴボルさん。

 「主の鱗か。よくそんなものを。で、誰がそんなことを言った?」

 「あ、っと、エアっていってね。」

 「エア?」

 ため息交じりに手で顔を覆う。

 「知ってるの?」

 「あ?・・・いや、知らん。誰だ?」

 変な間と、自身の身の回りを見回す。似たような光景をさっきも見たような気もするけどまぁいいや。

 「誰と言われるのが一番困るんだよ。誰なんだろうね。」

 「変なやつと付き合うな、まったく。で、そいつがなんだって?」

 「ギャラルーナ帝国なら飾りに使うのに買ってくれるかもしれないって、エアが言うんだ。最初はこの国かガルムザフトの貴族に売ろうかと思ったんだけど、なんか珍しいものだっていうことで、相場がわからないうえに、枚数も少ないからどうしようって言ってたら、エアがそう言いだしたわけ。で、ギャラルーナならゴボルさんが何か知らないかなって思ったのよ。」

 「どこでみつけたんだ?」

 「バイエルフェルン王国の海岸。」

 「それ、密猟だからな。バイエルフェルンは公式には、国を通さないと他の国には売らないことになっている。」

 え?ギルドのお姉さん、そんなこと言ってなかったよ。

 「見つかるはずないと思われたんでしょうね。」

 リリーサは涼しい顔。

 「まずいわね。何かしらのアリバイ工作しておかないと後々面倒になりそう。」

 ファリナが腕を組む。

 「ゴボルさん、後でまた来る。一度バイエルフェルンに戻ろう。」

 めんどくさい。海岸に投げてこようかな・・・







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