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155.ヒメ 隣国へ行く


 「ガルムザフト王国に移り住んで、13歳になり、ハンターとして登録したわたしでしたが、所詮は子ども。ハンター崩れの盗賊に奴隷として捕まりそうになりました。その時出会ったユイに助けられましたが、その際に、わたし盗賊をこの手で・・・」

 アリアンヌの言葉に誰も声を出せない。

 『それ、問題ある?』

 そう、悪党の人権を認めていないわたしたちにすれば、そのくらいいつものことで、何を悩んでるんだろうくらいの感想でしかない。

 (ヒメみたいに誰彼構わずヤっちゃってるならともかく、悪党でしょ。)

 (誰彼構わずはやってないよ!悪党だけだよ!わたし基準だけど。)

 (ミヤはヒメ様に色目を使うやつは、善人悪人関係なく切り刻んで構わないと思う。)

 (要するに悪党ならいいですよね。)

 (いいんじゃないですか。お姉様の場合、たまに無関係な人も犠牲になりかけてますけど。)

 「あれ、なんかここじゃ人の命って軽そうですね・・・」

 いろいろ振り絞って告白していたアリアンヌが拍子抜けしたよう。

 「わたしたちも善人ではないからね。人より自分が大事だよ。わたしたち正義の味方じゃないし。」

 これは本音だ。悪党のために死んでやる命はないよ、わたしには。


 「だよな。目的のためのあらゆる手段は正当化されるべきだよな。」

 いや、ユイ。目的の内容にもよるよ、それは。

 「そうかな。」

 「そうだよ。例えば、ケーキが1つあります。食べたい人が2人いたとして、ケーキを食べたいがために相手をヤってしまった。たかだかケーキで、これはどうなのよってことでしょ。」

 「仕方ない事だと思いますよ。なにせケーキがかかっているのですから。」

 あれ、例えが悪かったかな?話した相手が悪かったかな?

 「リリーサに話す例えではない。」

 「ミヤさんの言う通りですね。お姉様はケーキのためなら国1つ滅ぼしますよ。」

 だめだな。こいつらにはたとえ話ができないわ。


 「ハンターや護衛をやっていれば、いつかは辿り着く問題だけどね。守るべきもののために戦えないなら今からでも生き方変えた方がいいよ。少なくともハンターは無理。」

 「でも、今のわたしにはこれ以外に道はないのです・・・」

 「どこかの貴族に嫁ぐとか。」

 「いまや平民のわたしが、ですか?それ以前に父が罪人の娘など・・・」

 他人の生きざまには興味ないんだけどなぁ。聞くんじゃなかった。あぁめんどくさい。

 「なら、覚悟を決めるしかないでしょう。幸いユイがついていてくれるんでしょ。」

 「もちろんだ。お嬢に夢はあたしの夢だからな。」

 こいつの事情もわけわからないな。人の夢に人生賭けるってどういうつもりなんだろう。

 「ごめんなさい。覚悟は決めたつもりだったのです。ただ、いきなり昔を思い出させるような事が起きて、気が動転してしまいました。ヒメさん、わたしの事はフレイラにはどうか内密に。お願いします。」

 「フレイラがそれでも会いたいと言っても?」

 「会えません。わたしの覚悟を貫くためには会いたくありません。会ったら、きっとまた覚悟が揺らぎます・・・」

 アリアンヌの瞳から1筋、涙がこぼれる・・・

 12,3歳の子どもがそこまで覚悟をしなきゃいけないって、おかしいよね。


 「では、落ち着いたところで、どこに何を狩りにいきますか?」

 唐突だな。落ち着いてもいないし。ちょっと悲壮感のあった雰囲気が瞬時で粉々なんだけど。

 「さっき決めました。みんなで何か狩りに行くと。有言実行です。どこがいいですかね。思い切ってガルムザフトに行って、ギャラルーナ帝国との国境線近くを攻めるのはどうでしょう。」

 「近づくなって言われてるんだよね。」

 「ですが、魔人族との戦争が近いなら、逆に言えば魔人族の先兵が魔獣をつれてウロチョロしてる可能性が高そうじゃありませんか?」

 「戦闘準備中の魔人族にケンカ売るんじゃありません。」

 ファリナがたしなめる。

 「そうですよ。お姉様が発端で開戦になったなんてことになったら、大笑いですよ。」

 いや、リルフィーナ、笑えないって。

 「でも、ここエルリオーラはダメ、ガルムザフトもダメとなると・・・じゃ逆方向で、バイエルフェルンなんてどうでしょう。」

 「バイエルフェルン王国ですか?」

 泣き顔から一変、なぜか食いつくアリアンヌ。

 「行ったことあるの?」

 「いえ、ありません。ただ、バイエルフェルン王国やその隣のイラリアーサ共和国の海岸線では『虹の鱗』がたまに見つかるというお話を聞いた事があって、1度行ってみたいと思ってました。」

 あぁ、また知らない国名がでてきたよ。

 「だからバイエルフェルンの向こうよ。」

 いいよ、覚えなくても。どうせ行くことないんだろうから。

 「問題は1つ。イラリアーサ共和国は行ったことないもので、<あちこち扉>が開けません。」

 あぁなるほど。

 「じゃ、バイエルフェルン王国でいいんじゃないかな。海岸線か。魚捕れるかな。」

 「魚の捕り方って知ってる?」

 え・・・燃やせばいいんじゃないかな・・・

 「何を燃やすんですか。」

 リリーサ、うるさい!基本、物事は燃やせば何とかなるんだよ。

 「ユイは知ってますか?」

 「え?や・・・その、船に乗れば海の中からぴょんと出てくるんじゃないかな。」

 アリアンヌとユイの掛け合いが面白すぎる。

 「ヒメ様も程度が変わらない。」

 海なんて見た事しかないし、船だって遠目でしか見たことないよ。あれのどこに武器がついているんだろう。

 「ほんと、揃いも揃ってものを知りませんね。」

 リリーサがため息1つ。

 「じゃリリーサは知ってるの?」

 「知りません。海には魔獣いませんから、興味ありません。」

 「いや、魚や海獣だって売り物になるでしょう。」

 「市場で買った干し魚しか売ったことないのでわかりません。海獣は売ってるところ見たことないですよ。売れるんですか?というか、そもそも船がないとどうしようもないと思いますよ。」

 まぁ泳いでまで魚を獲ろうとは思わないけど。


 「問題はその『虹の鱗』というものは聞いた事ないのですが、高く売れるものなんでしょうか。売れないなら、わたしとしては山に行きたいです。また灰色狼やブラッドメタルベア・・・は、いりませんけど・・・あれ?山もおいしくないなぁ・・・」

 皮算用を始めたリリーサだけど、なんか計算がうまく合わないみたい。灰色狼はともかく、これ以上ベアが増えても売る伝手がないのでは邪魔以外の何物でもない。

 「売れるんでしょうか?鱗。売っていたという話を聞いた事ありません。滅多に見つからないとかで、言ってしまえば都市伝説みたいなものなんですよね。」

 言い出したアリアンヌがすでに首をかしげてる。

 「鱗が?」

 「はい、鱗がです。」

 要するに実在するかどうかも怪しいわけね。

 「面白そうじゃない。わたしに対する挑戦よね。」

 俄然興味がわいてきた。

 「誰も挑んできてないから。時期を考えてよ。もう11の月だからね。山でさえあれだけ寒かったのに、海?凍死するわよ。」

 ファリナが露骨に嫌そう。いや、泳ぐわけじゃないからね。

 「海風はさすがに冷たそうですね。」

 アリアンヌがちょっと残念そう。

 「ここでウダウダ話していても埒があきません。現地に行ってギルドで聞いてみましょう。海と山、どちらが売れるものが捕れるのか。その前にお茶にしませんか?」

 あれ、今すぐ出かけるんじゃないの?


 お茶とお菓子で1時間無駄にして、わたしたちはリリーサに、この間行ったバイエルフェルン王国国境近くの町、バリトーラ近くに空間移動の門を開いてもらう。

 「いつぶりだろう。」

 ハンターギルドの扉を開ける。

 ザワッ!わたしたちを見た瞬間、ギルドの中がざわつき、その後一瞬で静かになった。

 (お、おい・・・)

 (目をあわせるな!殺されるぞ。)

 ヒソヒソとろくでもない会話が聞こえる。

 「何をやったんだ?お前ら。」

 「何も。」

 なぜ、わたしたちが何かやった前提で話をするかな、ユイは。

 「あら、エルリオーラ王国とガルムザフト王国のハンターさんね。久しぶり。先に言っておくけど、テーブル壊さないでね。」

 壊さないよ。燃やすだけだよ。

 「あぁ、なるほどな。」

 何納得してるのよ、ユイ。あんたも燃やすよ。


 「虹の鱗?あの数年に何枚か見つかるかどうかっていう逸品を探すと。」

 「探すわけじゃなくて・・・いや、探すのかな。ただ、噂程度のものなら探す時間の無駄じゃない。だから現地の人に聞いてみようと思って。って、何年かに数枚でも見つかるんだ?!」

 流れで話をしてたから、いきなり実在するって言われてビックリ。

 「たまに。逆に言えば、ほぼ見つかることはありませんけどね。」

 「ていうか、虹の鱗って何なの?」

 ここまで来てなんだけど、ふと思った疑問を尋ねてみる。

 「さぁ。虹色に光る大人の手のひらくらいの鱗、らしいですよ。見つかったら国で買ってしまうので、実物を見たことないんですよね。漁師の方は見たことある人いるんじゃないかな。一説では海の神の鱗だとか。」

 海の神?似たようなのを最近聞いたような・・・

 「海の主のことか?」

 ミヤがわたしたちだけに聞こえるように言う。あぁ、ログルスがエアに何か話してたとか言うあれか。

 主だの神だの。まぁここにも1柱神様いるけど。

 「国で買うって高く売れるんですか?」

 リリーサが食いついた。あぁ、これは海行きで決まりそうだな。

 「じゃないですか?ただ、ギルドには入荷することもありませんし、実際売っているところを見たこともありませんから、いくらで売れるのかまではわかりませんけど。この町は内陸ですので、詳しい話は海に近い町のギルドで聞いた方がもう少しはっきりしたことが聞けるかもしれません。」

 グワリと髪を振り乱して、リリーサがホールにいたハンターたちの方を向く。

 「今の話聞いていましたよね。盗み聞きはお得意ですものね。」

 酷い言われ様だが、前科持ちのハンターたちからは反論の声が出ない。

 「何か知っている人はいませんか?あ、ただし嘘をついたらこの建物ごと燃やします。そこの燃やすことに全人生を賭けている方が。」

 こっちを指さすな、こら。

 「生きて家に帰りたかったら、知ってることを言いなさい。チャンスタイムです。今なら燃えても死ななければ何とかしてあげます。」

 全然チャンスじゃないよね。

 「き、去年の夏にジャブラーラの町近くの海岸で見つかったって言う話を聞いた事がある。ただし、本当かどうかまではわからない。ゆ、許してくれ。家には3歳になる子どもが待っているんだ。」

 あれ、何だろう、こっちが悪人みたいになってきたんだけど・・・

 「俺もその話は聞いた。だが、真偽までは・・・」

 「使えません。仕方ありません、その町に行ってみましょうか・・・って、なぜみんな離れているんですか?」

 「え?誰?あんた。」

 「知らない人です。」

 「他人。」

 「うぅ、お姉様お許しを・・・でも、人としてどうかと・・・」

 「いつもこうなんだろうか。」

 「諦めなさい、ユイ。毒を食らわばお皿までです。」

 「何でしょう?わたしの評価がおかしいです!」

 いや、正当な扱いだと思うよ。

 「どうでもいいですけど、テーブル、燃やさないでくださいね。」

 受付のお姉さんが1番強そうだな・・・

 「あ、観光で登録お願いします。見つからない可能性の方が高そうなんで。」

 さらに平然と告げるリリーサ。面の皮厚いな、あんた。






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