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15.再度出発する少女たち


 今日はお買い物の日。

 薬局に行って、ハイポーションを数本買う。道具屋だと、安いけど効果の弱いポーションしか置いてないから、専門店頼りだ。

 「いらないでしょ。」

 この買い物が自分のためのものだってファリナはわかっているようだ。

 今までは、治癒魔法が使えるミヤがいたし、あからさまに危険な所へは行かないようにしていたからポーションは持たなかった。ただ、今回は最初から目的が魔獣つまり魔人族相手だ。ミヤだってすぐに動けるとは限らない。ポーションがあれば、ミヤがたどり着くまで生き延びる可能性が増える。

 「わたしがやられると思う?」

 「思わない。でも、心配はさせて。」

 町中にもかかわらず、ファリナに抱きつく。

 負けじとわたしに抱きつくミヤ。傍から見たら滑稽に見えるかな。

 「気にしてるの?」

 「貴族には関わらないって決めた。今回の件はわたしの我儘。」

 「違うよ。みんなの、だよ。」

 「誰も反対してない。ヒメ様が気にすることない。」

 わたしとファリナの間に無理やり割り込んできて、わたしの胸に顔を埋めるミヤ。

 「ファリナの方が抱き心地いい。返す返すも残念。」

 うるさい。なんかいい雰囲気が一気に壊滅したじゃないか。


 「ほら、武器屋行くわよ。剣買うんでしょ。どんなのがいいの?」

 「魔法に対する加護が付いたのがいいな。ちょっと高いけど。」

 「仕方ないわね。これからのこともあるし。」

 「んー、でもよく考えたら、出会う可能性はこちらにいる限り無いだろうし、見られたとしても目撃者がいなくなればいいんだよね。鋼の剣でも十分かな。」

 「それもそうか。問題がありそうなら燃やしちゃえばいいのよね。」

 今後の支障になりそうなものはずっと排除してきたから、ファリナもこの場合は燃やすことに異存はない。

 「鋼の剣買って、浮いた予算は何か食べる。」

 今まで、知らんぷりを決め込んでいたミヤが割り込んでくる。

 「はいはい、じゃ明日のためになにか体力のつくもの食べようか。」

 ファリナとミヤが手をつないで先に行く。

 剣を選ばないのなら、買い物は昨夜でもよかったかなと思ったけど、この2日間慌ただしかったから、いい休日にはなったかな。


 翌朝、目を覚ます。昨夜は食べ過ぎた。お腹がまだ重い。そう思い布団を除けると、なぜかミヤがわたしのお腹の上に乗っかって抱きつきながら寝ていた。うん、これは重いわ。

 「ヒメ様失礼。ミヤはヒメ様より軽い。」

 「そ、そりゃ、あんたの方が小さいしね。わたしだって身長からすれば、平均的な体重とそう変わらないし。」

 「言い方誤魔化すのよくない。そう変わらないじゃない。正直に平均より重いと言うべき。」

 「数キロは誤差よ!誤差!なら、たいして変わらないで間違いないでしょ!」

 「キロはもう誤差じゃない。拡大解釈に過ぎる。」


 「はいはい、朝から仲良しね。食事にするわよ。迎えが来ちゃう。」

 ミヤをお腹に乗せ、抱き合ったまま言い合うわたしたちのまぬけた絵面をちょっとふくれて見るファリナ。

 「えい。」

 ミヤの脇を掴んで投げる。器用に体を捻って着地する。ネコ科め。

 着替えて居間に行くと、2人はもう食べ始めている。慌てて顔を洗う。

 食べ終えて、皿を片付けて、食後のお茶。

 うん、平常運行だ。


 「いきなり今日見つけるのもなんだし、明日以降に引っ張ろうと思うんだけど。」

 「そうね。簡単には見つからないと言った手前、せめて2,3日はかけないといけないわね。」

 「ミヤはいつでもいい。」

 3人での事前の打ち合わせはこれが最後。後は現地で直接状況を見ながらになる。

 家を出ると、玄関先に馬車が待っていた。待っているのは御者さん1人。

 領主自ら来るわけにもいかず、奥さんは病床。フレイラはいまだ監視中。リーアはフレイラが留守番なのに来るのはフレイラが可哀想。護衛の2人も付き添い、ということで家族の者が迎えに来られなくてすまないとロイドさんからのお詫びの手紙付き。

 いらないよ。正直、直接目的地に行きたいくらいだよ。


 領主宅では、リーアが玄関先で待っていた。

 「どうぞ、こちらへ。なるべく、小さな声で話してください。フレイラに気付かれます。」

 やっぱり、直行すべきだったよ。

 「すまんな。いらないところで気を使わせてしまって。」

 「別に使ってないからかまいません。」

 「そ、そうか・・・」

 ロイドさんはどう答えたらいいのか困った顔。

 フレイラのためにマリアさんを助けたいとは思うけど、フレイラのやりたいようにさせるつもりも義務もない。わたしたちは、ハンターとしてのやるべき事をやるだけだ。


 「では、昨日の打ち合わせ通り皆さんが春に行ったという草原まで連れていってください。その後は、夕刻に合わせて連絡の方と調理の方だけ来てください。よろしくお願いします。」

 「わかった。それではよろしく頼む。」

 わたしたち3人とロイドさんだけの打ち合わせ。リーア、マリシア、エミリアはフレイラを見張っている。メイドや執事も総動員らしい。厳戒態勢だね。


 「直接現地に向かった方がよかったんじゃない?」

 玄関先で見送ってくれるロイドさんとリーアを背に、わたしは、送ってくれる馬車に向かいながらファリナに愚痴る。

 「ちゃんと出発したところを見せないとね。誰かさんが寝坊するかもしれないし。」

 「寝坊なんかしたら、起こしに来たミヤに潰されるでしょう。」

 「今日はミヤも寝てたじゃない。今度はわたしがボディアタックかけなきゃだめかな。」

 「やめて。ミヤでさえ死にそうなのに、ファリナの重量じゃ無理。」

 「無理かどうか今度絶対やってみる。」

 しまった、いらないこと言ってしまった。

 

 馬車に乗る。即、ため息が出る。

 「どうする?」

 どうするって、ファリナ、決まってるでしょ。

 馬車の後ろに積まれた荷物の陰をのぞき込む。

 金髪の小さな女の子が、ビクッとしてこちらを見る。

 涙目になりながら、両手を合わせて、声を出さずに『お願いします。お願いします。』と呟いている。

 「ダーメッ。」

 襟首をつまんで引きずり出して、馬車の外へ。唖然とするロイドさんとリーア。

 「た、大変です、旦那様!フレイラお嬢様がいらっしゃいません!」

 家の中から、大慌てのメイドさん。

 「あぁ・・・そこにいる。」

 片手で目を覆い、ロイドさんが空いている手で指さす。

 「ヒメさん、ひどいです!横暴です!」

 「今回だけはダメ。泣いてもダメ、喚いてもダメ。」

 ロイドさんに手渡す。暴れるので女性陣には手に負えそうもない。

 「負けません!わたしの自由と権利のために、いかなる権力にも暴力にも屈しません!断固戦い続けます!」

 貴族の娘がどこぞの革命家みたいなことを・・・ロイドさんが泣きそうになってるよ。

 何も聞こえないということにして、わたしたちは馬車を出してもらう。わたしたちの予定では、今日は何も見つからなかったという日程がすでに出来上がっているので、時間に関しては気にならない。

 「明日見つけようか。このままじゃいつフレイラが屋敷を脱出して、どこでわたしたちを強襲するかわからないわ。」

 フレイラ、革命家とゲリラのジョブ持ちとは。末恐ろしい娘。


 草原に着く。

 そういえば、馬車の後部に荷物が積んであったけど・・・フレイラが隠れるのにもってこいな・・・これって何?

 「皆さんの食事用の器具とか痛まない食材などです。この馬車はこれから毎日、みなさん専用として使いますので、最初から積んでおける物は積んであります。積み下ろしをするのも手間なもので。」

 なるほど。ご迷惑おかけします。

 わたしたちが探索してる間、テント等を草原に置きっぱなしにはできない。獣や盗賊に荒らされる恐れがあるから。見張りを置くにしても、ハンターでないと襲われた時対処できないけど、毎日ほぼ立っているだろうだけのためのハンターを雇うお金を掛けるのも無駄。

 なので、朝すべて撤去する方針にした。

 夕方、調理人と連絡兼護衛担当の誰か、たぶんエミリアだと思う、が来て雨が降ってもいいように簡易テントを立てて夕食、翌日の朝食、持ち運べる昼食を作ってくれる。

 わたしたちが探索から戻ったら、1日の報告を聞いてそれらを撤収して帰還。

 わたしたちは自分たちのテントを出して休む。テントもむこうで用意してくれると言っていたけど、朝には撤収しなきゃいけないから、そのために朝も町から誰かが来るのは大変なので断った。

 ロイドさんは、テントを張る時間があれば、探索に使って欲しそうだったが、10分20分増えたからと言ってどれだけ効果があるか。


 「それでは、また夕方に。」

 そう言って、御者さんは戻って行った。

 草原にはわたしたち3人だけ。天気もいい。絶好のお昼寝日和。

 「寝ちゃダメよ。」

 ファリナに釘を刺される。

 わたしって、そんなにわかりやすいかなぁ。ポーカーフェイスで通っていたはずなのに。

 「あれはポーカーフェイスじゃなく、鉄面皮っていうのよ。でもそれも昔の話ね。今じゃ顔に出すぎ。」

 「昔のヒメ様は殴られても顔色一つ変えずに黙って殴り返す感じだった。今は、殴ったら嬉々として10倍殴り返してくる感じ。」

 「さすが、ミヤ。よくヒメのこと見てるわね。」

 いや、確かに殴り返すけど、別に嬉々としてはやらないよ。あんたたち、どういう目でわたしを見てるの?


 このまま2対1の戦いを続けるのは不利だし、突っ立っていても仕方ないので森に向かう。

 「ミヤ、普通の探査でパープルウルフいそう?」

 「感じられない。このあたりにはいない。もう少し奥に行かないと黒の森の方はわからない。」

 だよね。このあたりは、パーソンズ一家がピクニックに来るっていうぐらい開けてて安全そう。その奥にある白の森も奥行きが広そうだから、さらにその奥の黒の森まではそれなりに距離があるようだ。

 「無駄に1日過ごすのもなんだし、獣でも狩りながらこの辺の地形調べようか。<ゲート>の出口に使えそうな開けた場所も確認したいし。」

 「そうね、<ゲート>使えば奥まで行っても、帰ってくるのは一瞬だしね。」

 「向こうに狼。数5。」

 「売り物にするし、この辺の地形変えたら大変だから燃やさないでよ。」

 言われなくてもわかってる。騒ぎを起こしてパープルウルフが逃げても大変だからパープルウルフを捕まえるまではおとなしくしてるよ。

 「捕まえた後も、です。」

 さっきの話じゃないけど、昔はわたしのやることに口出しなんかしなかったのに、いつからこんな小姑に。

 「お財布をわたしが預かるようになってからよ。」

 すいません、金銭感覚なくて。

 再度責められる前に、狼に向かう。

 狼なら先制とかいらないので、3人で並んで走る。やっぱり、この感じがいいなぁ。





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