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148.ヒメ 王都を去る


 「という風に言われても、デリカシーのないヒメさんならいざ知らず、わたしには王女様を友達扱いなんて無理です。」

 それは大変だったねぇ。で、誰がデリカシーないって?

 「あまり迷惑をかけるようなことはしないって言ってくださってるんですけど。」

 あいつの『あまり』は、一般人の『かなり』に相当するよ。まぁリーア相手ならそれほどひどい事はしないか。

 「本当なんですか?ライザリア様ったら、ヒメさんを池に突き落としたとか、顔にカブトムシ乗せたとか、落とし穴に落としたとか・・・」

 「あぁ、それは全部事実だね。」

 思い出したらなんか腹が立ってきた。あいつどうやってあんな大きな落とし穴掘ったんだろうって思ったけど、今思えば警備についてきた騎士団にやらせたんだろうなぁ。村の大人は仕事で忙しくてそれどころじゃないだろうし・・・村長がやったなら笑えるかな。

 「そんなことしておいて、よく生きてますね、あのお姫様。」

 「昔はわたしもお淑やかだったんだよ。」

 「またまたー。」

 「冗談を。」

 「笑っちゃいますよね。」

 リーア、リリーサ、リルフィーナ、そこ座りなさい。

 あの頃は、ファリナとの生活を守る事しか考えてなかったから、村を出るっていう発想にならなくて、ただただ大人しくしてたんだよね。今だったら王女でも構わず燃やしちゃうな。

 「あいつの性格からすれば、2,3日で飽きると思うから、それまでの我慢だよ。ライザリアってリーアと同じクラスなの?」

 「1歳年上ですので、上級生です。最悪あと半年で卒業してくれます。」

 「まぁあまりに酷いようだったら、わたしに相談するって言ってやって。少しは考えると思うから。」

 わたしたちを利用したいなら、わたしの機嫌を損ねるようなことはしないでしょう。


 「時間が無くなります。行きましょう。今まではどの辺を回っていたんですか?」

 リーアがベンチから立ち上がり歩き出す。お店巡りの再開だ。

 宝飾品のお店のウインドウを覘いたり、洋服を見たりもしたけど、あたしたちのメインはどうしても食べ物になってしまう。

 「オークの肉ってあんな味付けでもいけるんでしょうか。」

 「塩かソースでしか調理したことないのよね。今度やってみようかしら。」

 お店に並ぶ商品を見ながら、リリーサとファリナが論評を述べている。食べてみればもっとはっきりとした感想が言えるのだろうけど、正直ここまでに十分と言えるくらい食べまくってしまっていたので見るのが精一杯。いや、食べろと言うならがんばるよ。

 「晩ご飯が食べられなくなる。大問題。」

 晩ご飯もがんばるよ、ミヤ。

 「やめなさい。」

 ファリナに怒られた。


 夕刻。屋台も片付けを始めている中、わたしたちはベンチで休む。日が傾くともう風が冷たく感じられる。もう秋も終わって、間もなく冬か。

 「再来週には11の月です。今年もあと二月で終わりです。」

 リリーサがしみじみと言う。

 「12の月になれば冬季の休暇です。2ヶ月近く休めます。すぐに領地に帰りますから、ヒメさん待っていてくださいね。」

 「休み長いんだね。」

 「地方からの子もけっこういます。帰省するのにも時間かかりますからね。」

 パーソンズ領まで3日かかるもんね。正確には2日半だけど。

 「また寒い季節ですね。朝起きられなくなります。」

 リリーサ、今も起きてないでしょ。

 「お姉様はさらに起きなくなります。もう冬眠です。」

 熊かい!

 「ほんとに寒くなってきたね。帰ろうか。」

 わたしたちは家路を急ぐ。


 戻ったパーソンズ家の屋敷では、ロイドさんが放心していた。

 「事務方の役人と最後の打ち合わせの席に、国王様がお見えになられたのだ。」

 え?何をしに?


 聞けば、今回の功績の報奨として、港の設置の許可と資金の協力してくれるという。

 「街道の整備を先にお願いしたのだが、わたしの領地は、ガルムザフト王国との国境線が近い、言うなれば僻地なので、万が一の他国からの侵攻にそなえて、敵軍の進行を抑えるため多少荒れた道にしているらしい。きれいな道だと馬でも馬車でも走らせやすいからな。なので、街道の整備は、申し訳ないができないと言われた。」

 住んでる人間には納得できない理由だけど、国としてはそうなるのかな。

 「というか、功績はお前たちにあって、その報奨もいただいたのだ。受けていいものか悩んだのだが、国王様のお気遣いを断わることなどできるはずもない。」

 (そっちからもからめ手できたね。)

 ファリナが耳元で囁く。うん、言うなればパーソンズ家を人質にされた感じかな。

 (まぁ、わたしたちが見捨てないと思われてるなら甘いけどね。)

 (・・・そうね。)

 ファリナがなんかそっけない・・・なんだろ・・・





 王城の1室。国王と王女がそこにいた。

 「パーソンズ領の港の設置許可はやりすぎではなかったのか?国費からそれなりに出さねばならん。予算の見直しが必要になる。」

 「お父様のお酒を少し減らせば出るでしょう、それくらい。」

 「お前なぁ。それに、あれは『爆炎』なのだろう。この国最強の勇者だぞ。それを・・・」

 「生きていた事を明らかにすれば、今度は他国にでも逃げますよ。それに、おっしゃられた通り、あれは最強の戦力です。勇者の村で管理されていた時はこちらから口出しできませんでしたが、国で管理できるようになるのです。」

 「貴族連中だって生存を知れば、現状の勇者不足のよる士気の低下を抑えることもできよう。」

 「で、かつてのように貴族たちの思惑で彼女たちをこき使うのですか?言ったでしょう、逃げますよ。彼女たちはいざといった時のために温存します。貴族たちになど無駄に使わせません。」

 「それで、パーソンズ領の港が役に立つのか?無理を言えばどの道逃げるだろう。」

 「あの娘は・・・ああ見えて優しい娘ですからね。見捨てると言いつつも、そんな真似はできません。それに・・・」

 「なんだ?」

 「いえ、なんでも。この国のためですよ、お父様。」

 立ち上がるとライザリアは窓の外の景色に目をやる。

 (それに、パーソンズ卿はヒメに再会させてくれました。このくらいの恩赦を与えてもいいでしょう。ヒメたちが逃げるのならそれでもかまいませんしね。生きていることがわかったのです。たとえ逃げたとしても探し出しますよ。絶対。)

 ヒメたちは信じないだろうが、あのヒメたちと遊んだ数日間、ライザリアは楽しかったのだ。それは本当に。生まれてからずっと、お姫様として扱われてきたライザリアにとって一番思い出に残る日々。だから、ライザリアは思っていた。ヒメたちといれば、もっと面白い日々が送れる。

 父にばれないようほくそ笑むライザリアであった。





 なんかいろんな思惑に乗せられてるような気もするけど、気がするだけだから、現状どうすることもできない。

 なので、今できる事をするしかない。今できる事・・・

 「この晩ご飯は絶対食べきるよ。」

 「無理しないで食べられる分だけにしなさい。」

 子どもを諭すように言わないで、ファリナ。これは意地なの。夕刻までかなり買い食いをしてしまったからお腹がきついけど、この戦いは負けられない。

 「ヒメ様おバカ。」

 食べる事にはうるさいくせに量にこだわりのないミヤは、すでに戦線を離脱して優雅にお茶を飲んでいる。ファリナとリルフィーナもがんばってはいたけど、こいつらも無理はしないタイプなので、わたしとリリーサの意地の張り合いを、半分心配、半分あきれた目で見ている。

 「どちらが先に倒れるか、ですね。」

 フッ、リリーサ・・・そこまでやる気はないよ。


 「今度こそダブルノックダウンで、なかなかやるなエンドのはずでしたのに・・・」

 晩ご飯でやる事ではないです。さすがにそれはバカです。

 「立派になって・・・」

 いや、ファリナ、それバカにしてるよね。

 などと言いつつも、部屋に帰って布団に倒れ込んだら動けない。あぁやっぱりおバカだったかなぁ。

 「お風呂行くわよ。」

 ファリナとミヤに引きずられながらお風呂場へ。途中、廊下ですれ違ったメイドさんに驚きの目で見られたような気がしたけど、明日には帰るんだ、いいか。


 「朝には出発すると言ってました。お見送りできないかもしれないので、今夜はそれ込みでここで寝ます。」

 リーアが今夜もここに泊まる気のようだ。

 

 昨夜のように話し込んで、そして朝。朝ご飯食べたら、パーソンズ領に向けて出発する。

 リーアが馬車をお見送り。

 「1時間だけ遅刻します。学校には父を見送ると言っておきます。いざとなったらライザリア様に頼みます。問題は存在しません。」

 いや、あいつに借りをつくる時点で問題なんだけどね。

 お父さんのお見送りと言われて、ロイドさんも仕方ないなぁなどと言ってるし。もうどうでもいいや。

 「お父様、お母様とフレイラへの手紙なくさないでくださいね。」

 「わかっている。落としたら困るからケースに入れて鍵をかけた。盗賊にでも盗まれない限りは大丈夫だ。」

 「変なフラグ立てないでください。」

 リーアに睨まれ、ロイドさんショボーン。

 「冬には帰ります。待っていてくださいね。」

 「いや・・・う、うん、待ってるよ・・・」

 何を待つんだろうと思うけど、嫌とは言えないし・・・ファリナとミヤがすっごく睨んでるし・・・わたしにどうしろと・・・


 手を振るリーアを残し馬車は出発した。ロイドさんの不吉なフラグに、みんな胸に一抹の不安を覚えつつも・・・


 そして、何事もなくパーソンズ領についた。

 「盗賊が襲ってくるんじゃなかったんですか!?」

 いや、リリーサ、ロイドさんに言ってよ。わたしは知らないよ。

 わたしたちだけ先に空間移動で帰ろうかという話がなかったわけではない。でも、出がけにロイドさんが、えらいフラグを立ててしまったので、下手したら帰りの道中、盗賊に襲われるのでは、と全員が不安になってしまった。

 わたしたちが帰ってきていて、ロイドさんが帰ってこなかったら、マリアさんに言い訳できないだろうということ。一応護衛はいるけど、2人だけじゃ盗賊が大人数だったら対処できないだろうということなどを考えて、わたしたちは、帰りもダラダラ馬車の旅をすることになった。

 で、何事もなかったから、リリーサの機嫌が悪い。王都以来のストレス解消に盗賊を消したかったようだ。

 「でもわたしはリリーサと旅ができて楽しかったよ。」

 機嫌を取っておく。このままでは、家に着くなり何かを狩りに行くと言いかねない。疲れてるんだから、今日はゆっくり休みたい。まだ昼なんだから。

 「そ、そうですか?まぁそう言われればそうですね。」

 リリーサもまんざらではなさそう。ファリナもミヤもわかっているのだろう、何も言わずに窓からの景色を楽しんでいる。リルフィーナだけがジットリとした目でこちらを睨んでいる。

 「やっと家で羽を伸ばせる。これで当面の面倒事は片付いた。明日からしばらくは何もしないからね。」

 「だから余計なフラグ立てるのやめて。」

 「これは絶対面倒が起きる。」

 黙ってスルーしておいてよ。あんたたちの方が嫌なフラグだよ。もう、何があっても何もしない。明日世界が滅んでも知るもんか!






当面、水曜・土曜で更新する予定です。

次回は3月21日(土)午前2時に更新を予定しています。


これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

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