142.ヒメ 王城へ行く
パーソンズ邸に戻ると、ロイドさんはすでに戻っていた。
「話があるんだけどいいかな。」
わたしたちを見て、大きくため息を吐く。
「リーアは部屋に戻っていなさい。お前が知るべきことではない。」
「わたしには聞かせられないと?」
「お前が知っていることがフレイラを傷つけてしまうかもしれない。素直に言うことを聞いてくれ。」
「フレイラが?」
やや考えこむリーア。
「・・・わかりました。そういうことならわたしは聞きません。」
ちょっと悲し気に部屋を出るリーア。
「いいの?」
「さっきの話なのだろう。エミリア、すまん。席をはずしてくれ。」
廊下で感じていたエミリアの気配が消える。
ロイドさんが再度大きくため息を吐く。
「やはりそういうことなのだな。」
「なんか言える雰囲気じゃなかったから黙ってたけど。隊長さんの顔色も変わっていたし、そんなにまずい話なの?」
「いや。よくある話だ。だが、もしもその少女が我々の知っている少女なら、サムザス様の耳に入れないわけにもいかなくなる。ごまかしてくれて助かったよ。」
サムザス。名前を聞いただけで顔が厳しくなっているのが自分でもわかる。
「お前たちの言うアリアンヌの姿形の特徴を教えてくれ。」
「歳は13歳。長い金髪で目の色は青。かわいい娘だよ。」
ファリナとミヤがギロリと睨む。いや、特徴っていうから言っただけで、他意はないよ。ほんとだよ。
「で、元貴族らしい。絶対じゃないけどね。そこまでは教えてくれないから。」
机の上で両手を組み合わせ、額に当てて聞いていたロイドさんがそのままの体勢で口を開く。
「私の知っている少女と同じ少女なら、彼女の以前の名は、アリアンヌ・ゴリューン。サムザス領の町領主の1人だったアルナムド・ゴリューンの1人娘だ。そして、フレイラの友人でもある。」
「フレイラの?」
「年に2回、町領主を含め領主が王都に集まり開催される会議がある。数年前からフレイラを連れて行くようになった時に出会って、その会議の間に遊んだり、手紙をやり取りする間柄だった・・・1年前までは。」
誰も声を出す者はいない。ただ、ロイドさんの話を聞いていた。
「8か月前。サムザス領で魔人族との大規模な戦闘があった。領主のサムザス様は、領地の町に対し、各々の町の勇者を街道の防衛に出すよう命令した、らしい。詳しい事は伏せられていてな。で、アリアンヌの父であるゴリューン様は、その命令に対して従わなかったと言われている。そのために領地の被害が大きくなったとして、サムザス様は戦闘後に裁判を開き、ゴリューン様は貴族籍を剥奪され死刑。奥方はすでに死去されていたが、娘のアリアンヌは、平民となり領地から放逐され行方不明・・・と聞いている。」
イライラがおさまらない。あの戦争のサムザスの罪を知っているわたしにすれば、サムザスが何かの責任を押し付けてアリアンヌの父親を死刑にしたんじゃないかって疑いたくなる。とはいえ、本当にサムザスに罪があったのかは証拠がないから、わたしの個人的感情にすぎないこともわかっている。だから、誰にも当たり散らすこともできずに、さらにイライラしてしまうんだけどね。
「このことはフレイラには黙っていてくれないか。アリアンヌが行方不明と聞いてあの子も傷ついている。半年前の会議にはついてこなかった。さらにその後すぐに、マリアの怪我と病気だ。この上、アリアンヌがハンターとなっているなんて聞いたら、フレイラは助けたいと思うかもしれないが、たぶんアリアンヌはそれを望まないだろう。今、2人が会っても傷を深めるだけだ。だからリーアにも知られたくない。万が一にもフレイラに知られてしまうかもしれないからな。」
「アリアンヌは・・・騎士になりたいって言ってたよ。」
「あぁ、そうか。騎士になって国に貢献できれば貴族籍をいただけるかもしれない。父親の無念を晴らしたいのかもしれないな。」
「無念だと思う何かがあるんだ。」
わたしのセリフにロイドさんがしまったという顔をする。
「死刑になったんだ。無念だと思うだろう。」
睨みつけてくるから睨み返す。視線はロイドさんの方が先に外した。
「私にはわからん。確証がないことは言えない。」
顔を背けたままこちらを見ようとしない。
「そうだね。はっきりわからないことは言えないか。」
俯くわたしを意外そうに見るロイドさん。問い詰められると思ったかな。まぁ、わたしも言えない事いっぱいあるしね。
「晩ご飯まで休むよ。明日の話はその後でいいかな。」
「あ、あぁ。そうしてくれ。」
わたしたちはロイドさんの執務室を出て、自分たちの部屋に戻る。他人の過去なんて聞いても仕方ないんだから聞くんじゃなかった。あぁ、めんどくさい。
「で、何の話だったんでしょうね、今の。」
リリーサが首をひねっている。
「誰にでもいろいろあるって話かな。あ、あまりあちこちで話さないでね。」
「まさか。他人の過去をベラベラ話す趣味はありません。フフーン、ヒメさんと2人きりの秘密ですね。」
「わたしも知ってますけどね。」
リルフィーナが呆れた顔。
「消しますよ。」
「浮気者浮気者うわ・・・」
2人が毎度の肘鉄合戦を始めたので無視する。なんだかんだで仲いいよね、この2人。
晩ご飯を食べ、明日の打ち合わせ。
「午前中に王城へ入らなければいけない。面会の後、昼食会を行うことになっている。国王様からマナーは気にしなくてもよいと言われているが、最低限は守ってくれ。」
「マナー?」
ご飯を食べるのにマナー?いや、基本は知ってるけど、あえて言われるとありていに言ってめんどくさい。拒否して帰ってもいいかな。もしくは、気にしなくていいと言ってくれてるんだから、すべて手掴みで食べてみようか。
「変な目立ち方するのやめてよね。明日は気配を消してやり過ごすんだからね。」
ファリナが小声でお小言。わかってるよ。
そして朝が来る。太陽燃やせば朝は来ないかな・・・
「有り得ないこと言ってないで起きなさい。ほら、リルフィーナももうリリーサを起こしていいわよ。あぁ、ヒメ、リリーサのほっぺた引っ張ろうとしないの。いつまでもやってるからエンドレスになっちゃうんだから。」
いや、わたしがここでやめても、明日こいつはやるよ、きっと。
「というか、今日はファリナが起こしてくれたんだ。」
リリーサへの攻撃をあきらめ、起き上がって大きく伸びをする。
「朝ご飯の支度、ここじゃしなくても済むからね。時間あるのよ。」
あぁ、そういえばここってパーソンズの王都邸か。4日目にもなろうっていうのに慣れないなぁ。
リーアは、昨夜は一緒に寝るとは言わず、晩ご飯の後自分の部屋から出てこなかった。
「そういえば、いつまで王都に滞在するのですか?」
リーアがパンを頬張りながら尋ねる。いつも通りのリーアだ。
「ヒメたちが今日問題をおこさなければ、明日までいる予定だが、昼には逃げ出さなければならないかもしれん。」
ロイドさんが、当日になってなんかもう開き直ってる。
「そうなったら、わたしも逃げないといけないので、もしもの時は連絡くださいね。」
リーアも何やら楽しそう。
この親子、燃やしてもいいよね。だから、大人しくしてるって。さすがに他人に迷惑かけてまで暴れるようなことはしないよ。たぶん・・・
学校へ行くリーアを見送って間もなく、王宮からの迎えの馬車が来る。
「大丈夫、はいはい言ってればいいんだから、大丈夫。」
自分に言い聞かせる。緊張はしないけど、ただひたすらめんどくさい。
そして、わたしたちを乗せ、馬車は王宮へ・・・
「申し訳ありません。武器はこちらでお預かりさせていただきます。」
控室に入るなり、そこにいた執事風の男にそう言われ、わたしたちは剣を渡す。まぁ帯剣したまま国王の前に行けるはずないよね。
わたしとミヤはどうということもないけど、ファリナがちょっと不安そう。失敗したなぁ。最初から<ポケット>にみんなの剣をしまっておけばよかった。
見るとリルフィーナも何となく落ち着きがない。
「いえ、わたしはこんな場にいていいものかと不安なだけで。何かあったらお姉様が守ってくれますし、その辺の危険は感じていません。」
「何かあるという考え自体不要だろう。」
そう言うロイドさんの顔色も優れない。
さすが王城。控室にもかかわらず、部屋の装飾が悪趣味かってくらいきらびやかだ。
「あの壺くらいなら<なんでもボックス>に入れて持って帰ってもばれないのではないでしょうか。こんなにいっぱいあるんだし。」
確かに高そうな壺だな。この国で売ったらばれそうだけど、ガルムザフトで売ればばれないかな。
「本気なら最低だが、冗談にしても笑えないからやめてくれ。」
ロイドさんが頭を抱える。今、この部屋にはわたしたちしかいないから大丈夫だよ。ミヤに周囲を確認してもらったけど、入り口の外に警備の騎士が1人立っているだけ。ドアや壁の厚さから、中の会話は外には聞こえないと思われる。だからといって、大声で『王様のバカ』と叫ぶ気もないけど。
コンコン。
ドアがノックされる。開くとさっきの執事風の人と騎士団長が入ってくる。
「ご案内します。こちらへ。」
ロイドさんが緊張の面持ちで席を立つ。顔色が少し青い。
わたしたちも少なからず緊張してる。ここからは敵陣だ。いつでも魔法を発動できる準備。ファリナからは<豪火>までは使っていいと言われている。室内なのでそれ以上だと炎が拡散しなくてミヤが防御魔法張るのが大変だとか。
リリーサも軽く右手を振ってウォーミングアップ。さぁ、戦闘準備はできた。
無駄に豪華な装飾が施された廊下を、ひたすら歩かされる。控室をもっと国王の謁見室に近いところにつくりなさいよ。すぐに謁見できなくて何のための控室なのよ。
目前には無駄に装飾された無駄に大きなドア。謁見の間の入口だ。いや、どこもかしこも金キラで、いる?こんなに飾り。これだから王様嫌いになるのよ。
ドアの前の警備の騎士が2人。左右からドアを開く。
中には広間の左右に貴族だか大臣だかと思われる男の人が3人ずつ。計6人立っている。玉座はまだ国王が来ていないため誰もいない。
たかだかハンターに礼の言葉を述べるためにこんな大袈裟にしなくたって、どこかの小部屋で『ごくろうさん』でいいじゃない。
わたしたちは広間の中央へ。ロイドさんと灰色狼やパープルウルフを中心になって狩ったことになっているリリーサたちが前列。それを補助したことになっているわたしたちが後列の2列で立つ。
執事さん風の人は退出して、騎士団の隊長さんは、多分警備のためだろう、わたしたちの後ろ、入ってきた入口の横に立つ。これで部屋の中にいるのは、わたしたち以外は7人。現状の攻撃対象だ。左右の6人は、わたしが<業火>、後ろの隊長さんはリリーサにヤってもらって・・・頭の中でシミュレーション。あとは正面の玉座に何人来るかだね。多分、国王1人だと思うけど。
玉座に向かって右側にもう1つあったドアが開く。さっきの執事さん風の人が入ってくると、大声で告げる。
「エルリオーラ王国国王、ゴードウェル・エルリオーラ陛下、ご入場。」
わたしたちは膝をつく。男性は片膝、女性は両膝。頭を下げ、右手は握りこぶしを床に置き、左手は開いて胸に当てる。控えるポーズだそうだけど、堅苦しいな、まったく。
さて、無事に終わるか、大暴れになるか・・・ちょっとワクワク。
申し訳ありません。
雪道転倒で、足を骨折してしまい、入院することになりました。(手術になります)
現在は経過観察で、数日は自宅安静ですが、21日より入院と決まりました。
次回以降の更新は、未定となります。
入院してしまうと、地域の個人病院のため、wifi等なく、病室でのパソコン等は使えない様なので更新は無理なようです。
ご理解のほどよろしくお願いします。




