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133.ヒメ 王都の街へ 2


 住宅街を抜け、街の中心へ向かうにつれ人通りが多くなる。

 「そういえば、中央広場ってこの街の真ん中にあるの?真ん中ってお城じゃないの。」

 まぁ、街のつくりにもよるんだろうけど、東西南北に門があるなら、お城が偏った位置にあったら、いざって時にその方向から攻められやすいんじゃないのかな。あ、それとも中央という名前だけで、広場の場所は違うのかな。

 「街の中心はギルバーナ城ですよ。」

 あ、お城と街の名前一緒なんだ。

 「で、お城を囲むように官庁街がありまして、それを囲むのが中央広場です。ですから、広場の形としてはドーナツ型なんです。」

 なんかイメージと違うなぁ。広場っていうくらいだから、真ん中に池なんかがあってその周りに芝生があって、さらにその周りに屋台が立ち並んでとか考えていたのに。

 「幅十数メートルの広場が一辺3キロの長さで続きます。それが四方ですから下手をすると1日じゃ回れません。」

 「待ってください、それって広場を1周するには12キロ歩かなくてはいけないということですか。」

 リリーサの顔色が変わる。や、わたしも変わってるんじゃないかな。というか、それただの通路だよね。広場と呼んでいいの?

 「こんな夕方近くから出歩くところじゃないのでは。」

 リルフィーナが困り切った顔。

 「さぁタイムトライアルです。今日はどこまで行けるかな?」

 リーア、笑ってる場合じゃないよ。あんただって明日学校あるんでしょ。

 「明日は3週目の6の日だからお休みです。」

 あれ、そうだっけ。


 この世界の1ヶ月は30日。1週間は6日。それが5週で1ヶ月となる。ちなみに1年は12ヶ月、360日だ。

日付は何週目の1の日から6の日と呼んで、6の日は休日と決まっている。


 「ミヤは一晩中歩いても構わない。」

 「残念ながら、屋台は日没で閉めちゃいますけど。」

 リーアの言葉にミヤ愕然。

 「では、何もない真っ暗な広場をただ歩かなければいけないのか?」

 いや、何で歩き続けるの前提なの。帰ろうよ。

 「街灯はありますよ。」

 何の慰めにもなってないよ、リーア。


 南側から広場に入る。広場と街の道路の間には木が植えられていて、それが境になっている。広場の通路を挟んで反対側には芝生があり、その奥にも木が植えられ官庁街との境になっている。

 さすがにこれだけ広い、いや長いと一面に屋台が並ぶこともなく、飛び飛びに屋台が存在しているようだ。

 「さて、どう回ろうか。」

 昼過ぎに王都に到着、パーソンズ王都邸でお茶やらなにやらで、もう1,2時間で日も暮れる。

 「リーアの家の方向から縦方向に広場を上がって行ったら、時間的に、同じ広場の通りを同じ距離だけ戻らなくちゃいけないのよね。」

 さすがファリナ。細かい事を言わせたらこの世界一。いた!頭をげんこつでコンコン叩くのやめて。

 「この南広場をグルーっと回ってみましょうか。」

 「なるべく歩かない方向でお願いします。」

 リリーサが最初の勢いはどこへやら。すでにやる気がない。

 王宮や官庁街から市内へ延びる道路が広場を横断していて、そこは馬車が走るから安全のため、広場は道路の周りで地下に穴を掘って階段を造り、その道路を回避している。つまり、数百メートルおきに階段を上り下りしなければ広場を回ることができない。

 「いくら王都とはいえ、こんな変な形で広い広場なんて信じられません。街がこの配置なら、普通はどこか適当な場所に適度な大きさの広場をつくるものです。これではエンドレスです。ずーっと回り続けなければいけません。終わらないです。きっと途中で、どこから見回り始めたのか忘れてしまってずっと回り続ける羽目になります。もう消してしまいましょうか。」

 消すんじゃない。大体どこかの角、たとえば南の角から歩き始めれば、どこから始めてどこまで回ったのかわかるでしょう・・・忘れちゃうかな。12キロだもんな。

 「こうしていても仕方ないし、適当に歩いてみようよ。変わった食べ物ないかな。」

 気を取り直す、というか嫌な事は忘れよう。

 「変わったものがいいなら、北側に食用虫専門店があるとか。」

 「ごめん、そういった変わったものじゃない方がいいな。普通の食材で変わった調理法や食べ方のものでお願いします。」

 食欲が2割減ったよ。みんなも顔をしかめているし。さすが王都、なんでもありだな。

 「夕食前だからお腹いっぱいになるようなものは避けた方がいいわよね。」

 リーアが人差し指を顎に当て、ウーンとうなり出す。時間もないから、見て回るだけでいいよ。とりあえず、どんな屋台があるのか歩いてみようよ。

 「わたしはお店に並べられそうなものが見たいです。」

 リリーサがいくつかの屋台を覗き見る。

 「そういえばお店をやっているのでしたね。何のお店なんですか?」

 リーアは知らないのか。エミリアも話でしか知らないよね。

 「獣の肉や毛皮、素材。それに薬草とかですね。最近は歩けば魔獣に当たる方のおかげで、魔獣も取り扱ってます。」

 「あぁそういえば、わたしもいるはずのないだろうパープルウルフに2日目で出会っちゃう異常な運の持ち主知ってますよ。」

 リーアとリリーサがジトッとこちらを見る。問題があるのならともかく、みんなそれでハッピーなんだから、わたしがとやかく言われる覚えはないんだけど。


 屋台で買ったお肉の串焼きを片手にいろんな屋台を見て歩く。

 屋台は、焼いた肉、小さく切ったパン、カットした果物など手に持って歩けるものが多いね。持ち帰りじゃなく、歩きながら食べられるもの。

 「パンのような軽食はいいですね。お店の中で商品を見て回ったり、待っている間にちょっと食べる物はあってもいいかもしれません。」

 リリーサが串焼きを片手に・・・数本ずつ両手に持ってうんうん頷いてるけど、ご飯前だってわかってる?

 「人生何があるかわかりません。食べられる時に食べておかないと、いざという時に動けません。」

 いざという時には、手に持った串を急いで食べきろうと懸命に頬張っている隙に、敵にやられるリリーサの姿しか思い浮かばない。

 「偶然ね、わたしもだわ。」

 そうでしょ、ファリナ。

 「否定できないのが辛いです。」

 リルフィーナがうなだれる。

 そういえば、エミリア静かだな。そう思って振り向いたら、緊張気味に周りを見回す姿が見えた。

 リリーサの串を1本もらう。

 「ヒメさん、いやしいですよ。人の物を。」

 両手に抱えてがっついてるやつのセリフですか。

 「エミリアも食べなよ。みんなと一緒にさ。」

 「ご厚意は感謝しますが、わたしはリーアお嬢様の護衛中です。気を緩めることはできません。」

 今までそんな気を張っていたことなかったでしょ。

 「領地では勝手知ったるです。異変はすぐにわかります。ここは普段とは違う場所。何が起こってもすぐに動けるようでなくては。それに、聞いた話では、最近は身代金目的で、貴族の子女を狙った誘拐が増えているそうです。いつどこで狙われるかわかりません。」

 「ミヤがいるから大丈夫だよ。おかしなやつはすぐ見つけてくれる。大体この面子だよ。襲い掛かってこようなんて考えるやつがいたとしても、燃やされるは、消されるは、斬られて、切り刻まれちゃうんだよ。」

 「相手が悲惨ですね。」

 だよね、リルフィーナ。

 呆れた顔のエミリア。ため息を吐くと、わたしの手から串焼きを受け取る。

 「真面目に考えてる自分がバカみたいです。」

 串を口に運ぶ。

 「エミリア、いつの間にヒメさんと仲良くなったの?さては、わたしが王都に行ってから何かあったんですね。それはいかがわしい事じゃないでしょうね。わたしだってなにもないのに・・・これは今晩何かあってしかるべきですね、ヒメさんと。」

 黙れ、リーア!この母娘は、そのうち何とかしなくちゃいけないかな。

 「斬る?」

 「切り刻む。」

 ファリナとミヤが怖い顔だ。

 「身内の中にいましたね。リーアさんに危害加えそうな人。」

 「灯台下暗し、でした。」

 リリーサとリルフィーナがさもありなんと頷いている。

 「ちなみに、『とうだいもとくらし』というのは、昔々のトーダ・イモトという貴族の日々の暮らしを描いた小説から来てるんですよ。」

 「「「違う!」」」

 わたしやファリナだけでなく、リーアにまでツッコまれてリリーサビックリ。

 「ツッコミが多すぎないか?」

 うん、ミヤ、最近お笑いに厳しいな。


 「そろそろ帰りましょうか。」

 南側の広場、中央の入口から入って、東方向に進んでみたけど、半分つまり1.5キロも行かないうちに日が傾こうとしていた。

 「あまり参考になるものはありませんでした。」

 リリーサがカットされた果物が入った袋を両手に、なんだかガッカリしてるけど、もう思う存分食べたんだから満足でしょ。

 「パーソンズさんではありませんか。」

 広場の外側の街の道路側から声がかかる。見ると男女8人がこちらに向かって来ていた。女性3人、男性5人。といっても、リーアと同じくらいの歳の子は女の子3人の男の子1人。あとの4人の男は2,30代。この4人の男たちは護衛なんだろう。

 「ガリアウスさん、こんにちは。お散歩ですか。」

 リーアがかすかに笑みを浮かべて挨拶する。呼び合っているのが名前とは思えないから家名だよね。貴族の嬢ちゃん坊ちゃんたちか。

 「面白そうな方々とご一緒ですのね。」

 わたしたちを半ばバカにしたような目で眺める。

 どうしよう、燃やしたいけどリーアの立場もあるしな。ファリナたちが怒ってないか横目で見ると、みんな愚か者を見る目で嬢ちゃんたちを見ていた。みんな、貴族のバカなお子様がバカなこと言ってるという認識みたい。

 「領地のハンターとガルムザフト王国のハンターの方々です。父が用があり招きました。」

 「王都でハンターに用って、何をする気なんでしょうね、あなたのお父様。最近国王様に覚えよろしくて調子に乗っているのかしら。」

 「父の仕事はわたしにはわかりません。」

 どう見ても、この娘リーアを下に見ようと突っ張ってる感じで、リーアは相手にしてないって雰囲気だよね。貴族は子女でも権力闘争有りなの?めんどくさい、燃やしちゃう?

 「あぁ、ヒメさん、燃やさないであげてくださいね。悪い子ではないんですよ。」

 「な!?あなたのその上からの態度が気に入らないのよ!たかだか町4つの領主の娘のくせに!」


 この国、というかこの世界の貴族には位がない。すべて貴族でひとくくりだ。

 それでも貴族間の順位らしきものはあり、領地を持っている貴族が上位の貴族になる。その中では領地の中に町をいくつ持っているかで上下が決まる。町が多い領地の貴族ほど偉い・・・というか、国王に認められた貴族ということになる。というのは、町を増やすには国王の許可が必要だからだ。


 「気を悪くされたのなら申し訳ありません。そんなつもりはないのですが。」

 リーアが頭を下げる。恐縮して、ではなく形式上なのが透けて見えるから、相手の女の子の顔が怒りでさらに赤くなる。

 「パーソンズさん、サリーさんにお許しをいただきなさい。サリーさんはお優しい方です。まだお友達になることを許してくださいます。」

 リーアに話しかけてきた娘の後ろにいた女の子が、説き伏せるようにリーアに話しかける。サリーは名前か。名前で呼べるほど仲がいいのかと思ったけど、どう見ても進言してきた娘はサリーの腰ぎんちゃくっぽいな。

 「構うなよ、サリー。お前が気にすることもないだろう、パーソンズなど。」

 唯一の男子が口を挟むけど、サリーはその男の子を睨みつける。

 男の子は慌てて顔をそむける。ボーイフレンドかな。恋人?それとも貴族だから婚約者とか。愛憎渦巻いてそう。さすが貴族界。ふと見たリーアがなんかうれしそうだから、何らかの愛憎劇がありそう。

 「まぁいいですわ。もう日も暮れますし帰りませんと。それではごきげんよう、パーソンズさん。」

 「はい、ごきげんよう。ガリアウスさん。」

 リーアが頭を下げる。それを見て、『フン』と鼻を鳴らし去っていくサリーとその取り巻き。最後尾にいた男の子が、ニヤニヤした笑みを浮かべながらリーアに手をヒラヒラと振る。

 何だろう、あんたそっちのサリーとかいう娘のボーイフレンドじゃないのかい。軽薄そうで燃やしたくなる。

 「あぁ鬱陶しい。どこかで毒薬手に入らないかしら。」

 小声でリーアがとんでもないことを言い出す。待ちなさい、そんなこと言っちゃダメ。なにせここには・・・

 「ありますよ。うちの店に。」

 ほら、持ってるやつがいるんだから。

 リーア、なに嬉しそうにしてますか。冗談だよね。






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