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13.悩む少女たち

 

 「でも、オークとかオーガとかは、こちらの山や森にもいますよね。」

 リーアは納得いかないようだ。

 「ゴブリン、オーク、オーガ、コボルドとかは、群れを移動しながら生活してるから、どこにでも現れる。魔獣のラビットとかも巣穴を年ごとに変えるからこちらにもいるわね。でも、ウルフは縄張り意識が強いから、巣から遠い場所に移動することはあまりないはずなんだけど・・・」

 「こちら側に来ることはほとんどないということですか。」

 みんながまた俯いちゃう。


 「まぁ、可能性がゼロというわけでもないんだけどね。」

 わたしが口を開くも、誰も顔を上げようとしない。

 「あなたたちなら山向こうに行っても何とかなると?」

 エミリアが睨むようにこちらを見る。

 確かにわたしたちなら、魔人族の領地に踏み入っても戻れるだろう。ただ、見つからないかという件に関してはわからない。こればかりは運だからね。行った先に人魔級以上の魔人族がいなければよし。いればもう大騒ぎ間違いなし。そうなったら、全部燃やして証拠隠滅しなきゃいけなくなる。


 魔人族の階級は、トップにすべての魔人族を統べる<魔王>が1人。その下に各地方を収める貴族階級の<魔神>が数百。その下に一般民であり人間とほぼ同じ姿の<人魔>、これはどのくらいいるのか想像もできない。なにせ魔人族とは互いに交流がないから、その実態は謎なんだよね。そして<魔獣>これは、戦闘用に教育されたものから野生のものまでそれこそ星の数ほどいるだろう。

 <人魔>から上は人間以上の魔力と戦闘力を持ち、人の言語も理解し話すこともできる。というか、言語は魔人族も人族も同じなんだよね、これが。

 つまり、人族で言う王様が<魔王>、地方の領主クラスが<魔神>でほとんど領地を出ることはないと思われるが、<人魔>は人族の平民クラスだから魔人族の領地のどこにでもいる。バッタリ出会う可能性は高いわけ。


 「子狼に出会ったのは3ヶ月くらい前なんだよね。」

 「そうです。春の花を見に出かけましたから。」

 マリアさんが頷く。

 「あ、そうか。」

 ファリナが気付いたよう。そうなんだよ。

 「そうだとしたら、何かあるのか?」

 ロイドさんとリーア、フレイラがわずかな望みを抱いてこちらを見る。

 「その時期の子どもなら、まだ巣離れしていないはずだから、それがこちら側にいたということは、たまたまこちら側に巣を作ったパープルウルフがいるのかもしれない。ミヤ、昨日それっぽいのいた?」

 「昨日の狩場周辺には魔獣はいない。離れた場所は探知してない。」

 「そうかー。」

 残念。そんな簡単に見つからないか。

 「探せば見つかるかもしれないということか」

 ロイドさんの言葉にリーアとフレイラに笑みが戻る。

 「探すっていってもどこを探すのか、なのよね。問題は。」

 わたしの言葉に、え?となるパーソンズ一家。

 一家は浮かれているようだけど、エミリアはさすがにわかっているか。顔から笑いが消えたまま。

 「山を越えてこちらに来ているパープルウルフがそんなにいるとは思えない。となると、親子で3,4匹くらいかな。もちろん事故もなく生きていればだけど。その3、4匹を、出会った付近の森と場合によっては山までの全地域を見つかるまで探す。どれだけの広さがあるか。」

 再度言葉を失う面々。

 「結局、手はあるの?ないの?聞いていれば、人の気持ちを持ち上げては落として、持ち上げては落として。うんざりだわ。何とかならないの?いいえ、何とかしなさい!」

 エミリアがキレる。大変なことだと説明してるのになぜ怒られる。

 「行ってみなきゃわからないと言っているの。」

 エミリアを睨み返す。

 「たとえばギルドに依頼して、できるだけ多くのハンターを出動してもらってしらみつぶしに探すというのはどうですか。」

 フレイラが名案とばかりに嬉しそうに提案する。

 「100人以上は必要になるかな。それ以前に魔獣狩りとなると、Cランク以上推奨になるけど、この町にそんなにいる?Cランク以上。」

 「近隣の町からも集めればそのくらいは集まるだろう。」

 ロイドさんが答える。でも・・・

 「そんな大勢で森に入ったらいくら魔獣でも逃げます。ついでに言うと、それだけの人数が山に入ったらいくら人族側とはいえ魔人族にばれます。100人近い人数が魔人族との境界線付近に集まるんですから、向こうも臨戦態勢にはなると思います。」

 そうなんだよね。

 

 「皆さんに行ってもらうしかないですか。」

 「え?行かないよ。」

 ロイドさんに対するわたしの答えにパーソンズ家一同唖然。

 「え?わたしたち、ハンターだよ。パーソンズ家お抱えの護衛じゃない。いくら領主でも緊急時以外ハンターに命令はできないことになっているはずよ。行けと言われて従う義務も義理もないわ。」

 ハンターギルドは、領主が管理する組織ではあるけど直轄の組織ではない。そこに属するハンターは、領地の緊急事態、たとえばどこかと戦争とか、そういうこと以外で領主に縛られることはない。

 わたしの正論に反論できないロイドさん。

 「依頼をお願いすればいいんですね。」

 フレイラがわたしを正面から見つめる。

 「何日かかるかわからないよ。見つからないかもしれないよ。難易度高いから報酬高いよ。パーソンズの全財産でも足りないかもしれないよ。」

 「我が家の財力を舐めないでいただきたい。」

 ロイドさんが胸を叩く。自棄になってないよね。

 「足りなければ、わたしの体で・・・」 

 「はい、ストップ!」

 フレイラの不穏当な発言をギリギリのところで止める。これ以上、わたしの人間性を疑われるような発言はやめてもらいたい。

 「ヒメ様それ自業自得。」

 ミヤのやつ、肝心なところでは黙っているくせに、なぜこういうところだけ口を出すんだ?

 「後は、ミヤ頼みか・・・」

 「A案?B案?」

 小声でつぶやくわたしに、ファリナが耳元で囁く。

 「B以外ないでしょ。」

 Aはミヤに治癒魔法を使わせる。Bはミヤに魔獣を探させる、と決めておいた。

 しかし、治癒魔法はこの世界じゃ聖教会の大賢者レベルの御業なのだ。一介のハンターが使える魔法じゃない。使える人もいるらしいという噂レベルの話なら聞いた事があるけど。

 ミヤの治癒魔法は、なんとか軽い怪我なら治せる程度と知らせている。これは、あながち嘘ではなく、怪我なら死ななければなんとかなるけど、病気はやってみなくちゃわからない。今回の場合、失敗しましたじゃすまないだろうと思う。

 それに、以前にも言ったが、ミヤの治癒魔法が世間に知られるのもまずい。

 わたしたちは、清く慎ましく世間の片隅で、人知れずスローライフを送りたいのだ。世間の注目なんか不必要、邪魔なのだ。

 ただでさえ、今住んでいる場所の領主、ロイドさんに、Dランクなのに灰色狼を狩れるパーティーという知られたくない情報を掴まれている。これ以上のことを知られたら、別の町か国に脱出するか、領主一家が不幸にも全員この世からいなくなるという事故が起こるかの選択をしなければならなくなるかもしれない。後者の方が簡単だけど、なるべくなら避けたいかな。


 「それで、引き受けてもらえるのかな?」

 ロイドさんがすがるようにこちらを見る。

 「最初から言ってるように、何日かかるかわからないし、絶対に捕まえられるかどうかも保証できませんよ。」

 「わかっている。できる限りでいい。もちろん、捕まえることができなくとも日給分の手当は出す。」

 「先ほど言ったこと以外に条件がもう1つ。探索はわたしたち3人にまかせること。」

 「3人だけでは手が足りないのでは?100人とは言わないが、もう少し人員を割いた方がいいのではないか?」

 「何が出るかわかりません。オークなどの魔獣もそれなりにいるでしょう。人的被害があまり出るようなことは避けた方がいいかと思います。」

 「勇者クラスが必要か。クソ、こんな時勇者の村が生き残っていれば出動を頼めたものを。」

 ロイドさんが何やら言っているが無視。

 

 「ミヤさんってある程度の範囲なら獣でも魔獣でも見つけられるんですよね。」

 フレイラがミヤではなくわたしを見る。ミヤだと相手にしてもらえないとわかっているのだろう。

 「今回はその範囲が広すぎるからね。いくらミヤでもその場ですぐは無理かな。」

 裏技はあるんだけどね。今回はそれを使う予定。使いたくないなぁ。主にわたしの精神的理由で。

 「それでも、やみくもに歩いて探すよりは可能性がありますよね。」

 「なるほど、ミヤ君の探査魔法なら、一定の範囲を潰しながら探せるわけか。」

 ロイドさんがフレイラの話に頷く。

 「だから、わたしたち3人でいいと言っているんだけどね。」

 「それなりの時間を掛ければ見つかるわけですよね。」

 何の確認なんだろう。フレイラの意図がいまいち読めない。

 「わたしも行っていいですか。」

 「「「ダメ。」」」

 わたしとロイドさんとマリアさんがハモる。ファリナとミヤはもう相手にする気さえない。

 「相手は魔獣なの。その辺の獣やチンピラ盗賊とはわけが違うの。オークやオーガクラスならまだしも、ウルフとなるとあなたを庇いながら戦える相手じゃないの。」

 嘘です。なんとでもなります。余計な目撃者が邪魔なだけです。

 「マリシアがついていれば・・・」

 「マリシアを犠牲にすれば、自分は大丈夫だからってこと?」

 「え?そ、そんなつもりじゃ・・・」

 次第に、声が小さくなり黙ってしまうフレイラ。

 わざときつい言い方をした。中途半端だと、本当に危険だということがこのお嬢様にわかってもらえないかもしれないから。

 普段はいい娘なんだけど、悪い方向にも自分に正直だから、扱いにくいところもあるよね。

 「ヒメさんたちは魔獣と戦えるくらい強いんですよね。あたしがいても大丈夫なんじゃないんですか?」

 「わたしたちは勇者じゃないから。オークやオーガくらいならなんとかなるかなという程度だよ。」

 「魔獣のウルフって強いんですよね。勇者じゃないヒメさんたちが平気な顔で依頼を受けるってことは、勇者並みに強いということですよね。」

 「フレイラ、いい加減にしなさい。」

 ロイドさんがフレイラを諫めてくれる。

 「無理な依頼を頼んでいるんだ。これ以上負担を増やすような真似はやめなさい。」

 「わ、わたし、負担になんてなりません。」

 「あなたに、何ができるの?フレイラ。」

 リーアまでもがフレイラを嗜める。

 「お姉様・・・」

 「じっとしていられない気持ちはわかるわ。わたしだって・・・でも、わたしたちじゃ何の手助けもできない。邪魔になるだけだわ。」

 「で、でも・・・」

 フレイラは引き下がりたくないようだ。でも、こちらも引くつもりはない。なにせ、かかっているのは人の命なんだから。



 


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