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125.ヒメ 王都行きについて話し合う


 「布団というのは何だ?」

 え?ロイドさん布団知らないの?

 「そのくらい知っている!何のために持っていくのかと聞いている?」

 「旅の間、馬車の床に敷いてゴロゴロするの。あ、ロイドさん、乙女の布団に入ってこないでよ。」

 「入るか!家の者もいるんだ。そんな姿見せられるか。」

 「そうだ。誰が行くの?人数がはっきりしないからちゃんと決めきれなかったんだよ。」

 「布団が何組いるかがね。」

 ファリナ、そこ大事だよ。マリアさんやフレイラもいるかもしれないんだよ。エミリアは御者と一緒に表に出しておくとしても。

 壁がダンッと叩かれる。ちゃんと聞いてるな。

 「パーソンズ家からは、私1人だ。後、護衛にエミリアとバイル。バイルはいつも表にいるから会ったことないだろうが、昔からパーソンズ家を守ってくれている護衛だ。一緒に行くのはそんなものだな。」

 え?そんなに少ないの?

 「遊びに行くわけではない。国王様との面談だ。それでも、お前たちが5人いるから、馬車は2台に分ける。10人近くも乗れるような大型の馬車はうちにはないんだ。普段使うことがないからな。うちは貧乏貴族だし。」

 ちょっぴり卑屈そうに言う。

 「いらないものにお金かけるより、よっぽど立派だと思うけど。貴族ってよくわからないけど、もっと胸張っていいと思うよ。」

 わたしの言葉に意外そうな顔をする。

 「お前に褒められると気持ち悪い。」

 褒めてないし!照れ隠しにしても、なに?その言いぐさ。


 「マリアさんたちも行くのかと思ってた。」

 「数日ならともかく、1週間以上も家の者が誰もいないままにはできない。領地に何もないとは思うが、念のためにな。」

 「ならず者が徘徊するんですね。」

 「わかるように言ってくれ。」

 リリーサのセリフにロイドさんが頭を抱える。

 「気にしなくていいよ。じゃ、基本はロイドさんと護衛の2人。それにわたしたち5人ということなんだね。」

 「おかしいです。言い始めはヒメさんなのに。」

 リリーサが愚痴ってるけど無視だ。

 「仕事だからな。観光じゃないんだ。最低限の人員で行く。」

 「観光じゃない?王都のおいしいご飯が食べられない。」

 ミヤがガッカリ。

 「い、いや、私たちはいろいろ準備があるが、お前たちには多少は自由にできる時間はあるだろう。王都を見て回って食事をするのは構わんぞ。」

 ミヤが復活。

 「ただし、問題は起こすな。もめ事には首を突っこむな。燃やすな、消すな。斬るのもだめだからな!」

 「何もできないじゃん。」

 「観光に今言ったものが必要か?」

 「わかってませんね。騒ぎが起きるんじゃありません。騒ぎを起こすんです。さすヒメです。」

 リリーサ、自慢げに言ってるけど、それわたしをバカにしてるよね。誰が好き好んで騒ぎを起こすのよ。

 「自覚がない。」

 「困ったものね。」

 あれ、ミヤもファリナもそっち側か?

 「ちゃんと聞いてた?今の禁止事項には、リリーサもファリナも入ってたからね。あんたたちも同類認定されてるんだからね。」

 「ヒメと一緒・・・」

 「てれてれ、ですね・・・」

 「ミヤも混ぜろ!」

 頬を赤らめモジモジするファリナとリリーサにロイドさんを脅すミヤ。最近あんたたちの考えてることがよくわからないよ・・・


 「先ほど言った通り、馬車は2台。パーソンズ家で1台。お前たちで1台の予定だ。だから、何をしようと構わないが、馬車に布団を持ち込むのはやめてもらいたい。毛布くらいでダメなのか?」

 十分です。

 「他に何か必要な物はないか?」

 「順を追って考えよう。馬車に乗る。出発する。景色を見る。飽きる。お菓子を食べて寝る。お昼ご飯・・・」

 「待て!いいから待て!食事の話か?」

 ロイドさんが慌ててわたしの話を止める。

 「そうですよ、ヒメさん。食べて寝てばかりじゃありませんか。」

 「じゃ、リリーサはどうなのよ。」

 「そうですね・・・出発する。寝る。お菓子を・・・」

 「黙れ!」

 ロイドさんが何でかわからないけど怒ってる。

 「食べるのやめなさい。太るから。」

 ファリナがお腹の辺に手をやりながらそう言うけど、じゃファリナはどうなのよ。

 「出発する。街道を進む。あ、盗賊だ。あ、ヒメが燃やしてる。あ、ロイドさんが斬られてる・・・」

 「お前ら、もう帰れ・・・」

 呼んだのはロイドさんだよね。


 「朝から人を呼びつけておいて、何なんでしょう、あの態度。」

 ロクローサの町を歩きながらリリーサがプンプン。

 「あら、ヒメちゃん。もう話し合いは終わったの?」

 前からマリアさんと嬉しそうにマリアさんにしがみついてるフレイラ。

 「ロイドさんが斬られたところで追い出されました。」

 「まぁ、それは大変。」

 微笑みながら答えるからどこまで本気なのかわからないな、この人も。

 「ファリナお姉様。しばらくお会いできなくて寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。」

 「いいのよ。お母様を大切にね。まだまだ病み上がりなんだから、フレイラがしっかりついていてあげないと。」

 抱きついてきたフレイラを、マリアさんの方に押しやりながら答えるファリナ。


 「わたしも行きたいのに、お父様は横暴です。わたしの自由と権利のための戦いに終わりはないようです!負けません!」

 拳を高く振り上げるフレイラ。もう、あんた革命家になりなさい。

 「お仕事なのよ。邪魔しちゃだめよ。」

 諭すようにフレイラに言うマリアさん。

 「ですが、お母様だってお姉様に会いたくないですか?」

 「リーアも勉学に忙しいのです。わたしたちが行って邪魔をしてはいけません。それに、もうすぐ冬季のお休み。リーアもひと月はこちらにいられるでしょう。その時までのお楽しみですよ。」

 「うぅ、納得できません。けど、お母様がそう言うなら我慢します。」

 「いい子ね。2人でお留守番ね。お母さん、体もよくなったから、その間はフレイラと一緒に眠りたいな。」

 「わたし、もう子どもじゃありません!でも、お母様のお望みなら仕方ありません・・・って、何ですか?みなさん!何かおかしいですか?」

 お茶屋さんの片隅。マリアさんとフレイラのやり取りを見ていたわたしたちのニヤニヤが止まらない。あぁ、微笑ましい。

 「いや、見ていて安心するなって。仲いいねフレイラ。」

 「母と仲がいいのは当たり前です!みなさんだって昔はそうだったのでしょう?」

 こちらサイドのニヤニヤが苦笑いに変わる。ここにいる5人のうち4人はお母さんを知らない。知っているファリナでさえ8歳までの記憶しかない。

 「あ、あの、わたしいけない事言いました?」

 振り上げた手を静々と下ろしたフレイラが、居心地悪そうにこちらを見る。

 「何でもないよ。ここのお茶もおいしいね。」

 がんばってるけど、会話が白々しくなる。

 「ロイドにはリーアへの荷物を頼まなきゃね。フレイラはリーアに何か渡すものないの?」

 マリアさんがさりげなく話の流れを変えようとしてくれる。

 「お手紙を書きます。あ、でも冬のお休みになって、すぐに帰ってきちゃうのかな。」

 「構わないわ。リーアもきっと喜ぶでしょう。」

 笑いあう2人を見て色々考えてしまう。

 家族か・・・わたしにはファリナとミアがいてくれるから寂しいと思ったことはないけど・・・それとはやっぱり違うのかな・・・

 「・・・というわけでヒメさん!」

 「・・・え?」

 考えこんでいたから話を聞いてなかった。

 「ご、ごめん、フレイラ。何の話だっけ?」

 「寝てなかったでしょうね。ですから、3日後からしばらく父をお願いします。しっかりしているように見えて、実は頼りないです。なので、父を守ってあげてください。」

 「あ、うん。でも、わたしでいいんだ。」

 「荒事だけは信用できますからね。人格には疑問符がつきますけど。」

 あれ?信用されてるのかな?されてないのかな?

 「ま、そちらからも頼りになるっていう護衛が2人つくそうだからわたしの出番はないでしょうけどね。」

 それ以前に王都への街道に盗賊が出るなんて話は聞いた事ない。

 「魔獣はでないですよね。あぁ、途中でなんかレアキャラでないですかね。この際、獣でもいいです。」

 リリーサ、それはめんどくさいんで勘弁してください。

 「言っておくけど、何かでたら、わたし燃やすからね。」

 「燃やしたら消しますけどね。」

 私とリリーサを見て不安げなフレイラ。

 「お父様帰ってこれますかね。」

 「大丈夫でしょ。なにかあったらヒメちゃんが責任とってくれるだろうし。その時はちゃんとヒメちゃんをお義父さんって呼ぶのよ。」

 「そ、それは・・・」

 「じゃ、ファリナちゃんにする?」

 「ファリナお姉様はダメです。わかりましたヒメお義父様と呼びます。」

 「「「呼ぶな!」」」

 ファリナとミヤがわたしとハモる。何を考えてるんだ、この母娘は・・・

 そう言いながらも、お茶とケーキをマリアさんご馳走になり、わたしたちは別れる。


 「まだ昼なんだけど。」

 リリーサたちが昨夜泊まっていったので、居間に敷きっぱなしの布団に横になって喚く。

 「そうね、お昼何にする?」

 ファリナ、そういうことじゃなくてね・・・まぁ、言われてみたらそうか。

 「ケーキ食べたばかりですよね。」

 リルフィーナ、それは別腹というでしょ。あれって真実なんだよ。

 「<ポケット>に買い置きのパンが入ってるから、後は・・・リリーサ、収納になんか入ってない?」

 「この間買っておいたお魚なら。」

 パンに魚?パン職人と漁師さんに謝れ。

 「こだわりどころがわかりません。」

 「仕方ないな。野菜と果物買ってこようか。サラダと果汁水でいいよね。」

 「え?ヒメが行くの?自分からお使いに行くだなんて、明日の天気が大変な事になりそうなんだけど。」

 「失礼だな。」

 「お昼ご飯は食べたいけど、さっきケーキ食べてお腹がきつい。腹ごなしの買い物。」

 ミヤ、お願いだから完璧にわたしの心の中を読み切らないで。

 「別腹じゃなかったんですか。」

 リルフィーナ、うるさい。

 「そこまでしてお昼いる?」

 「朝、昼、晩、夜の食事は人間として基本だよ。」

 「1個多かったですよね。」

 リルフィーナ、黙れ。

 「仕方ないわね。わたしも行くわ」

 「じゃ、わたしも行きますね。」

 ファリナとリリーサが立ち上がる。

 「2人ともヒメ様と同。」

 「違います!わたしはそこまでいやしくありません。間食後の軽い運動です!」

 「そうよミヤ!人を疑るような事言わないで!」

 白々しいまでの言い訳だった・・・必死な分見苦しいぞ。

 「1食抜こうという考えはないのでしょうか。」

 「だから、リルフィーナ。朝、昼、晩、夜、深夜の食事は人間として基本なの。」

 「増えてます。」

 「体重も。」

 ミヤ、それはここにいる半数を敵に回す発言だよ。

 「それじゃ、体重の心配のないミヤはお留守番お願いね。」

 ファリナの一言に絶望的な顔をするミヤ。

 「申し訳ありません。ミヤもつれていってください。」

 いきなり頭を下げる。ミヤにとって、わたしから離れるなんてことはありえないことで、それを逆手に取ったファリナの非人道的嫌がらせであった。鬼だね、ファリナ。

 「体重の話をするからです。今度したら、猫の話するからね。」

 「猫言うな!」

 ほのぼのとしてるなぁ。

 「どこがですか?」

 リリーサ、まだまだだね。

 わたしは、ファリナとミヤの肩に手を廻す。

 「じゃ、みんなで行こうか。あ、ブロッコリーは買わないよ。」

 「ヒメ様の発育不良箇所のために買う。」

 うっさい!お前なんか留守番だ!

 「これがほのぼのなんですね。」

 どこがよ!






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