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124.ヒメ 指輪を選ぶ


 「青がきれいよね。」

 「緑がきれいだ。」

 ファリナとミヤが指輪を見比べる。

 「どれどれ、この指輪ですね。いろんな色があるんですね。これで全部ですか?」

 リリーサが仲間に加わる。

 「基本はこの色だが、後は付与する魔法によって多少色が変わる。俺を待っていたということは魔法を付与したいんだろう。物理防御か?魔法防御か?」

 「両方ってできないの?」

 ゴボルさんの質問に無茶振りしてみる。できないなら仕方ないけど、聞くだけいいよね。

 「わがままな奴だな。」

 ゴボルさんが苦笑い。

 「できないこともない。が、面倒だからな、値も張るぞ。」

 「できるの?」

 「防御の付与といっても、所詮は指輪の大きさだからな。大した効果はないんだ。ないよりましってとこだ。だから重ね掛けもできる。」

 「どのくらいの効果?」

 「剣戟なら数発。魔法なら、そうだな、火球2,3発ってとこか。重ねるとその半分くらいになる。」

 わたしがちょっと本気になったら防御できないじゃん。つまり保険くらいにはなればいいかな、ってことか。まぁ、その辺の貴族が身を守るには充分なのかな。

 「付与の仕方で指輪の色が変わるって言ってたよね。紫ってできない?」

 「物理7の魔法3くらいにして、青の指輪を使えば紫色になるが、なんで紫なんだ?」

 「いやー、別に理由はないけど・・・笑わないでよ。わたしの目がね、黒色なんだけど、鏡で見ている時に、お日様の光の当たり方でたまーに紫に見えるのよ。自画自賛じゃないけど、それがね、きれいなんだ・・・なんか懐かしいような・・・わたしの好きな色、なんだよ・・・ごめん、変なこと言った。違う色でいいよ。」

 「ミヤは紫がいい。」

 「そうね、わたしもそれがいいわ。ヒメが好きな色ならそれがいい。」

 「2人の好きな色も教えてよ。それで考えようよ。」

 「ミヤは紫。」

 「わたしも。」

 「ズルいよ2人とも。」

 「わたしも紫好きですよ。」

 リリーサが話に入ってくる。

 「リリーサは血の色、赤が似合ってる。」

 「ミヤさん、失礼です!消しますよ!」

 「わたしはピンクですかね。」

 「リルフィーナは能天気だからピンクが似合ってるよ。」

 「どういう意味ですか?ヒメさん!そういうことを言ってると、今度ヒメさんの家に行った時、ご飯の支度手伝っちゃいますからね。」

 やめて!食器が無くなるからやめて!

 ひとしきり騒ぐわたしたちを、ゴボルさんが不思議な目で見ていた。辛いような、懐かしむような、うれしいような・・・


 「わたしたち3人が紫、こっちの2人はピンクでお願いします。」

 「勝手に決めないでください。でも、紫とピンクならちょっと見には似てるからいいですか。うーん、でも・・・」

 リリーサが頭を抱えて悩んでいる。

 「ピンクは物理6の魔法が4といったところかな。使うのは同じ青の指輪。見てのとおりうっすらと色がつく程度だから、そんなにはっきりとした色は出ないぞ。」

 「いいよ。ド紫とかドピンクの指輪はさすがに遠慮したい。」

 「そうよね。薄く色がついてるからいいのであって、もろその色じゃ神経疑うわよね。」

 ファリナも頭に思い浮かべて、ちょっと嫌そうな顔になる。

 「付与を重ねたら高くなるって言ってたけど、いくらになるの?」

 「本当なら付与の重ね掛けは金貨3枚だが、まけてやる約束だったな。そのまま金貨1枚でいいぞ。」

 「え?いいの?なんか大変だって言ってなかった?」

 「大サービスだな。そのかわり、また顔を出してくれ。」

 「なんか買って、ってことだね。わかったよ、また来るよ。」

 一見偏屈そうに見えるけど、けっこう好々爺としてるよね、この人。

 「買い物しなくてもいい。年寄りの話し相手をつきあってくれ。」

 「いいけど、ゴボルさんって暇なし出かけてるってリーラーが言ってたよ。」

 「そうなんだよな。俺忙しすぎるだろ。年寄りをもっと労われってーの。」

 大変そうだね。何やってるのか知らないけど。


 「で、サイズを測るが、どの指にするんだ?」

 全員が一瞬だけ自分の左手を見る。ピクリと動く薬指を・・・

 「あ、やー、ここは右手かな。」

 「そ、そ、そうね。右手の薬指でいいんじゃないかな・・・」

 ファリナの目が泳ぎまくり。ミヤはあきらめてるのか黙ってこちらを見てる。

 「わたしとリルフィーナも右手でいいです。あれ?じゃ、左手が空いてますね。ヒメさん、2人でお揃いの、って、何しますか?お店の中で剣は無作法ですよ、ファリナさん!ミヤさんも!」

 「痴れ者が。あの世で反省するがいい。」

 「斬るからね、斬るからね。」

 お店で暴れないでよ、恥ずかしい。


 「4日後からしばらくいないのよ。いつまでにできそう?」

 わがままばかりで申し訳ないけど、予定ではその場で買えるつもりだったから、完成に日数がかかると言われてちょっと慌てる。

 エルリオーラ王国の王都に4日後に出発。9日後に国王に会わなきゃいけなくて、帰ってくるのはいつになるものやらわからないときたものだ。

 国王と会ったらすぐに帰りたいけど、帰れる確証はないし、ロイドさんだって、久しぶりにリーアに会うのだ。ゆっくりしたいだろう・・・逆だな。ロイドさんはどうでもいいや。リーアが久々にお父さんに会えるんだ。ちょっとは甘えたいよね。

 「急いでもあさってだな。なにせ5個だからな。それなりの時間がかかるのは仕方ないだろう。」

 あさってでいいの?もっとかかると思っていたよ。そのくらいなら全然O・Kだよ。


 「じゃ、お願いしますね。」

 店を出るわたしたちをゴボルさんが出口まで見送ってくれる。

 「あさっての昼くらいには完成している。その頃に来てくれ。あぁ、ハンターもいいが女の子なんだ。気をつけて働けよ。ケガなんかしたら大変だからな。」

 心配性だね。わたしたちは大丈夫だから。

 通りを歩いて家へ。さすがに同じ町だから<ゲート>を使うまでもない。というか、町中では使わないからね、わたしは。

 「なんか下心がありそうでしたけど。」

 リリーサが後ろを振り返る。

 「ゴボルさん?そうかな?」

 「男は信用できません。」

 (何かあったの?過去に。)

 リルフィーナにそっと耳打ち。

 (何もないから男嫌いなんです。相手にされませんでした。)

 黒ぶちの眼鏡がアレだけど、リリーサけっこうかわいいのにね。

 (まぁまぁ気になる人はいたみたいですけど、お姉様、男の人と話そうとすると、大抵は照れ隠しでいきなり消そうとするんで、それをやられた男たちは、お姉様の前から逃げました。愛より命です。)

 そりゃ、命あっての物種だよね。





 ヒメたちが帰った後、ゴボルは店に中に戻る。昼休憩に出たリーラーはまだ戻らないだろう。

 客は来ないだろうと、奥の休憩室へ。

 「指輪か・・・」

 嬉しいような、それでいて困ったような薄い笑いを浮かべるゴボル。

 「ただいまっすー。」

 ちょうどリーラーも帰ってきたようだ。

 「店番を頼む。俺は工房に籠る。」

 「あれ、珍しくやる気っすね。わかったっす。いい仕事してくださいっすよ。」

 店員に発破をかけられ苦笑いする。

 「どれ、一世一代の仕事ってやつを見せてやるか。」

 そう言うと、ゴボルは店の奥にある作業場へと向かった。





 「それでは、王都への旅行に際し必要と思われるものをあげてください!」

 家に帰ってきて会議。ロイドさんに言われていた、今回の旅に持っていくものをみんなで考える。

 「基本することないですよね。カードゲームは必須ですよね。」

 「お布団持ち込めますかね。」

 リルフィーナそしてリリーサ、ここにエミリアがいたらキレられてるからね。だが、布団はいいな。

 「何人行くのかしらね。リーアに会いたいからってマリアさんやフレイラも行く可能性もあるし。そうなると、行くと言っていたエミリアの他にマリシアも行くでしょうし、執事さんやメイドさんもつれていくのかな。」

 あのねファリナ。

 「家中総出?さすがにそれはないでしょう。領地の管理、誰がやるのよ。」

 ファリナの言うことにも一理あるとは思いつつも、さすがにその人数はないでしょう。

 「そうか、行って帰ってくるだけで1週間。向こうに何日滞在するかもわからない。その間ずっと領主の家は誰もいないなんてことになったら大変よね。」

 「帰ってきたころにはならず者が暴れて、この辺無法地帯よ、多分。」

 「ヒメさん、ファリナさんも考えすぎです。毎日の生活で、領主様に用事のある人間なんてそんなにいません。領主様なんていなくても領地には何の問題もありませんよ。うちの村もそうですけど、領主様の名前は知ってるけど顔は知らないって領民は結構いますよ。」

 まぁ現実はそうなんだろうけど、それじゃ夢がないじゃない。

 「領主がちょっと留守にしたくらいで、ならず者が暴れるような世界にどんな夢があるんですか?」

 「何言ってるのリルフィーナ。そんなことになれば、毎日黒の森まで行かなくても燃やし放題なのよ。楽でしょ、楽。」

 「ごめんなさい。根本的に何言ってるのかわかりません。」

 ええい、わからない奴だな。

 「ストレス解消に何でも燃やすのやめなさい。」

 たまにならいいじゃない。


 「ところで、なぜ話がまっすぐ進まないんでしょう?」

 リリーサが収納からカップを出し始める。

 「始まっちゃったか。お湯は用意するから、リリーサ、カップとポットだけお願い。」

 「それだと茶葉がないので白湯ということになりますけど。」

 それくらいわかりなさいよ!

 「あぁ、そうね!茶葉も出して!お願い!」

 「なぜ怒られるのでしょう?困りました、困りました。」

 わたしがね!


 「苦!これ砂糖いるの?」

 リリーサの淹れたグリーンティーとか言うお茶は、ほんとに緑色してる上に苦い。

 「この苦さを楽しむものらしいです・・・けど、ほんとに苦いですね。砂糖いれてみます?」

 「わたしハチミツがいいです。」

 ええい、リルフィーナ、贅沢者め。

 「甘!これなにかが違うよ。」

 砂糖を入れたら飲めたものではなかった。

 「おかしいですね。飲み方が間違っているのかなぁ?今度調べておきますね。」

 リリーサが、顔をしかめてお茶を飲む。

 「淹れた以上飲みます。お茶飲みの意地です。」

 そう言われたら、淹れてもらった以上、わたしたちも飲まないわけにはいかない。

 大ガマン大会だった・・・


 「とりあえずこのお茶は持っていかない方がいいようですね。」

 そういえば、王都への旅行で持っていくもの考えてたんだっけ。何で毎回脱線するんだろう?

 「必要な物は布団とお菓子だね。あと、カップだと馬車の振動でこぼしそうだから、飲み物を入れる水筒がいるかな。」

 「カードゲーム忘れないでくださいね。」

 リルフィーナのカードゲームの押しが強い。

 「宿ならボードゲームでもいけますけど、馬車の中じゃ場所をとらないので一番です。」

 遊ぶ前提ならそうなるかな。もう、何をしに行くのかわからなくなってきたね。

 「王都・・・おいしいもの・・・」

 ミヤが何やら幸せそう。うん、いいんじゃないかな。日程に余裕はあるはずだから、おいしいもの食べに行こうか。


 そして、次の日。

 持っていきたいものは、布団とお菓子とゲームと言ったら、ロイドさんに怒られた。なんで?






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