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122.ヒメ 王都行きの相談をする


 「忙しいの。早くして。」

 パーソンズ邸、ロイドさんの執務室。一同がそろう中わたしが切り出す。

 「国王様からの返事が届いたんだ。まさかこんなに早く届くとは思わなかった。」

 凝った印で封蝋された手紙が机の上にある。ロイドさんが国王に手紙を出すと言ってから1週間になるかならないかだよね。

 「リリーサ、食べちゃって。」

 「なぜわたしが?ヒメさん食べてくださいよ。」

 「わたしはダメよ。国王様からの手紙を食べたらお腹壊しちゃうの。」

 「誰からの手紙だろうと、食べたらお腹を壊します。それに見てください。あの、誰かを殺してその血で作ったみたいな色の封蝋を。あんなの食べたら呪われます。」

 確かに異様な色の赤だよね。

 「殺してないから心配するな。後、食べるな。」

 ロイドさんが頭を抱える。

 「え?じゃ、燃やすの?」

 「消しましょうか?」

 「ヒメとリリーサはしゃべるな。」

 だったら呼ばなきゃいいのに・・・


 「まだ封を開けてないんだ。」

 机の上の手紙をいやいやながら再度見る。覚悟はしてたのに、いざ来ると決心が鈍って、なかった事にしてしまいたい。燃やすか。

 「目の前で開けて見せないと、お前たちが手紙を偽造したとか言いかねないからな。」

 「読まれてるわね。」

 いや、ファリナ、さすがにそこまでは言わないよ。

 「なんにせよ、ここでこうして封筒を眺めていても始まりません。開けて中を確認してください。」

 リリーサが至極真っ当な事を言う。こいつ偽物だ。

 「うるさいです。ヒメさんと違い理知的なわたしはきちんとしなければいけない場面ではきちんとします。」

 ウソつけ。

 「では、開けるぞ。」

 ロイドさんが緊張の面持ちで封筒に手を伸ばす。

 小さなナイフで封を解き、手紙を読む。

 「国王ロードウェル・エルリオーラの名において、ガルムザフト王国籍のハンターパーティー『白聖女の舞』および国内籍の『三重奏の乙女』、そして領主ロイド・パーソンズを10の月4の週の2の日に王宮へ招待するものとする。前日までに王都に到着し、以下の要綱で訪問の受付をされたし・・・か。後は向こうに着いてから何時までにどこへ行き、どこに報告しろという細かい指示だな。」

 「9日後じゃん。1ヶ月以上先って言ってなかった?」

 「ここから、この国の王都までは普通どのくらいかかるものなのですか?」

 ワタワタしてるわたしを差し置いてリリーサがなんか冷静だ。

 「決まった事にゴタゴタ言っても仕方ありません。後は粛々とやるべきことをなすだけです。消せばいいんですよね。」

 「消すな!ここからだと王都まで馬車で3日だ。」

 「3日ですか。事を成し遂げた後の逃亡経路を確認してルートを確保しないといけませんから、面会日の5日前には王都に入りたいですね。」

 「だから、何を成し遂げるんだ?」

 「そうだよリリーサ。何言ってるのかな?」

 わたしの発言にみんなが驚愕の目。失礼だな。

 「空間移動魔法を使えば、その場から逃走できるんだから、そんなに早く王都に行く必要ないよ。」

 「「「そっちかい!」」」

 リルフィーナ、ファリナ、そしてロイドさんが叫ぶ。うるさいな。

 「まだまだダメダメですね、ヒメさんは。趣ってご存知ですか?逃走経路を使う使わないじゃないんです。暗殺者の雰囲気を楽しむのが大切なんです。」

 「でも、わたし暗殺者じゃないし。」

 「ですから雰囲気を楽しむのが・・・」

 いきなり、ドアが『ダンッ』と殴られる。

 ドアの外にいるのはエミリアだよね。何だろう、怒ってるのかな?

 「くだらない話はそのくらいにしろ。現地でいろいろと準備もある。面会の3日前には王都に入りたい。」

 ロイドさんが険しい目つきでわたしたちを睨む。国王をヤっちゃうなんて、いつもの戯言なのに何怒ってるんだろう。

 「リリーサの移動魔法で行けばあっという間だよね。」

 「そうですね。わたしたち5人の他はロイドさんだけですか?行くのは。」

 「その魔法は馬車ごと行けるのか?」

 「馬車・・・は無理ですね。大きすぎます。」

 「王都は領地と違って入口には検問がある。そこを無視して魔法で王都内に入ることは問題になる。だからと言って、歩いて王都に入るわけにもいくまい。一応私も貴族なのでな。」

 「黒の森から入りましたって言ってごまかすとか。」

 ミヤを除くほぼ全員の呆れた目。

 「あのね、ヒメ。あぁ、ヒメは生まれてこのかた森にしか行ったことないから知らなかったのね。王都はこの国の真ん中にあるの。周りは貴族の領地しかないの。つまり、黒以前に白の森にすら接してないの。だから王都だけはこの国で唯一城壁があるの。」

 頭の中が混乱。言われた内容に理解が追い付かない。

 「城壁に囲まれていて、入るには東西南北の検問のある門からしか入れない。」

 ロイドさんが補足する。

 「え?それじゃ忍び込めないじゃん。」

 「忍び込むな。なぜ発想が犯罪行為前程なんだ、お前は。」

 ロイドさんが頭を押さえる。見慣れたいつもの光景。

 「<バラバラ>で壁破って入れますよ。」

 「お前も黙れ。」

 最初の頃の白聖女の威光はすでにロイドさんには見えなくなってしまったようだ。


 「馬車を使わなきゃいけないなら移動魔法はダメか。え、じゃここから馬車でてくてく行くの?」

 「そうなるわね。」

 ファリナがあきらめたように言う。あぁ、めんどくさい。やっぱり燃やすか。王都がなくなっちゃえばいいんだよね。

 「その辺は解決済みだったんじゃないのか?」

 「乙女の悩みは日進月歩なのよ。」

 「1ミリも進んでない。」

 ミヤ、うっさい。

 「そうなると、4日後の朝にここを出発したい。構わないか?」

 「ダメっていったら中止にしてくれる?」

 「マリアを使ってでも捕縛する。」

 捕縛って何よ?犯罪者扱い?それ以前にマリアさんを出すのは反則だ!

 「ここからの経路で、王都に一番近い町までわたしたちだけ先に行ってロイドさんを待つ、という方法もありますよ。それなら、馬車に乗るのも1日くらいで済むでしょう。」

 「なるほど。で、王都に一番近い町ってどこ?」

 「サムザス領の領都ゴルババだな。」

 「却下。」

 何でよりにもよってサムザス領なのよ。しかも領都?無理。

 わたしたちはサムザスに会った記憶はないけど、向こうはこちらを知っているかもしれない。なにせ、こんなかわいい女の子3人組。一度見たら忘れられないに決まってる。

 「何かおバカなこと考えてる顔してますけど、間違っていると思いますよ。」

 間違ってないやい!リリーサうっさい!

 「何か問題でもあるのか?」

 ロイドさんが不思議そうにわたしを見る。こいつ、わたしたちが先に行って、いない方が気が楽だと思っているな。

 「サムザス領なんてハンターからしたら呪われた土地じゃない。わたしたちはよく知らないけどさ。」

 言い切れた。動揺が出て、言い方に違和感が出るかと思ったけど、がんばったぞ、わたし。えらいぞ、わたし。

 「どう思おうと自由だが、一応この国では1,2を争う大きさの領地だからな。国王様からの信頼も厚いし、それ故王都に一番近い土地を領地として賜っている。」

 そっちこそどう思おうが勝手だけど、領地がでかいからって良い領主ってわけじゃないからね。まぁ悪いかどうかもわからないけど。

 疑惑の元は勇者の村の村長が持っていた怪文書。サムザスが勇者やハンターを引き連れて、魔人族の領地を侵略したって内容。でも信ぴょう性はゼロ。なにせ、そういう覚書があると言うだけで、証拠は何もない。けど、怪しい奴は信用できない。燃やすのが一番なんだけどなぁ。


 「馬車で旅か。まぁ3日なら我慢できるか。」

 「たまにはゆっくりした旅もいいかもしれませんね。ここから王都に向かうとなると何にもありませんし。」

 リリーサが収納からカップを出し始める。こいつは話が長くなりそうだとお茶を出す癖何とかならないんだろうか。

 「あぁ、待て。今用意させる。エミリア、すまん、ライラにお茶に用意を。」

 ドアに向かいちょっと大きめの声で叫ぶ。

 ドアの向こうの気配が廊下の奥に消えてゆく。

 「構いませんのに。実は珍しい茶葉を手に入れまして・・・」

 「こんなところでお茶を淹れるのは勘弁してくれ。」

 「西方諸国のお茶ですよ。グリーンティーというらしいです。」

 「今用意させている。それは次回頼む。」

 渋々出したものを片付けるリリーサ。

 (珍しいものですのに・・・)

 小声だが、聞こえるように言ってるのか丸聞こえなんだけど。ロイドさんがあえて聞こえないふりしてるけど。


 わたしたちの住むこの大陸は、たとえるなら穴の開いたドーナツのようなものだ。

 真ん中の穴に沿って黒の山脈がそびえたつ。ドーナツの穴の部分が魔人族の領地だ。そして、お菓子の部分が人族の領地になる。

 その南北に線を引いて、東側が東方諸国、西側を西方諸国と呼んでいる。

ここエルリオーラ王国は東方諸国に属し、ここから西方諸国に行こうと思うと、北回りで4つ、南回りだと3つの国を越えないといけない。


 やや間があって、ドアがノックされる。メイド長のライラさんとエミリアがトレーにお茶をのせて入ってくる。

 「普通の茶ですまないが。」

 「いえ。お茶はどれでもおいしいですよ。」

 すました顔のリリーサ。猫をかぶっているようだけどそれなりの理由がある。

 なんかエミリアがピリピリして、わたしとリリーサを見てる。さっき、部屋の外で怒っていた事と何か関係あるのかな。リリーサも気づいていて軽く臨戦態勢だ。戦いだすことはないだろうけど。

 「では、みんな馬車で行くことでいいのかな?」

 ライラさんとエミリアが部屋を出たのを見計らって、ロイドさんが話を再開する。

 「別行動ってとれるの?わたしたちも同じ日に王都に入るようにするから、わたしたちは歩いて行っちゃダメかな。」

 「歩くのは構いませんが、王都への経路上に狩りができる場所はありませんよ。いてもせいぜい角ウサギくらいですし。」

 いや、狩りがしたいわけじゃないんだけど。

 「わたしは一緒に行った方がいいと思う。」

 ファリナが額にしわを寄せて考えている。

 「返事が早すぎると思うの。たかだかそこいらのハンターにお礼を一言述べるだけだもの、1ヶ月先でも早いくらいなのに1週間で返事が来て、その上10日以内に来いとか。」

 罠?罠なの?

 「まぁ暇なだけかもしれないけど、一応何があってもロイドさんに責任を押し付けられるように、一緒に行動した方がいいと思うの。」

 「おい!」

 ファリナの提案に怒るロイドさん。冗談だよ。

 「そうですね。一緒にいれば問題があっても、その問題を消しちゃえばいいんですから簡単ですよね。」

 つまりリリーサの言いたいことは、何かしらの問題が起こった時、別々だとロイドさん側がどうなっているのか考えなきゃいけないけど、一緒なら邪魔になる原因をあれこれ考えることなく燃やせばいいから気楽ってことか。

 「問題があると思うのか?」

 ロイドさんが不安げに尋ねる。

 「ないと思いますよ。でも、わたしは、国が一つなくなる可能性からヒメが引きこもる可能性まであらゆる可能性を考えなくちゃいけないの。何もない旅路から最悪国王直轄の暗殺部隊が、街道の木の上から黒装束でいっぱい降ってくる可能性まであらゆる可能性を考えておかないといけないの。」

 いや・・・黒装束の暗殺部隊って、ファリナも絵物語見すぎ。ミヤのこと言えないからね。

 「黒装束が木の上から降ってくるんですか?それ見たいです。」

 ごめん、リリーサ。多分無理。

 「ワクワク。」

 「ないから、ミヤ。ありえないから。」

 「わからない。権謀渦巻く王宮。何が出てきてもおかしくない。王宮には、仮面の騎士とか暗黒魔術師とかいるかも。」

 あぁ、ミヤが絵物語の読み過ぎだ。基本、面白いことなんてないからね、たぶん。






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